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:2008:12/24/10:18 ++ 【正論】慶応大学教授・阿川尚之 米新政権への日本の意思表示
次期アメリカ大統領に決まったバラック・オバマ氏はアメリカだけでなく世界中で、ブームのような現象を引き起こした。ブッシュ政権8年間で強まった閉塞(へいそく)感のなか登場した、この比較的若く雄弁な政治家は「変化」を約束し、一つのアメリカを訴え国内外の融和を説いて、当選した。
最大の変化は、史上初の黒人大統領誕生だろう。南北戦争を機に奴隷の身分から解放されても、黒人は差別を受け続けた。1963年キング牧師が「私には夢がある。黒人と白人の子供たちが手をつないで歩く日を」と語ったとき、それは夢に過ぎない。68年大統領候補のロバート・ケネディが30~40年後の黒人大統領の可能性を語ったとき、信じたものは少ない。ある評者の述懐どおり、オバマ当選によって「初めて南北戦争が終わる」のかもしれない。
ただ変化を掲げて選挙戦を戦い、黒人の当選という大きな変化をもたらした次期大統領が、就任後に望み通り変化を実現できるかは別の話である。前政権との決別を唱えても、引き継ぐ課題は変わらない。金融経済問題はもちろん、アフガニスタン、パキスタンなど外交安全保障をめぐる情勢はむしろ厳しさを増している。国民皆保険など公約を実現しようとしても、手はしばられざるをえない。
それでも新しい大統領は新しいことをやりたがる。「変化」を掲げていれば、なおさらだ。しかし政策の継続性が欠かせない分野もある。特に東アジアの安全保障、日米同盟の視点からは、変えてほしくないことがある。
≪「世界への関与」継続を≫
第1に、アジア太平洋地域へのアメリカのコミットメント(関与)継続である。この5日、慶応大学で講演したアーミテージ元国務副長官は「アメリカは今やアジア太平洋地域に居を構える国(Resident Power)」というゲイツ国防長官の言葉を引き、従来の姿勢に変化はないと断言した。政権交代期には特に、そのことを強調してほしい。地域の諸勢力に誤解を与えると、思わぬ事態が生起しかねない。
第2は、言うまでもなく日米同盟の維持強化への強い意思表示だ。アメリカがアジアに利益を有する限り、同盟は必要不可欠である。オバマ政権で東アジア政策を担当する人たちはよく理解しているといわれるが、折に触れて何度も確認してほしい。
第3に、自由貿易へのコミットメントである。国内経済が苦境にある今、民主党の大統領には保護貿易を求める圧力がかかる。しかし、前世紀の大恐慌が世界に大打撃を与えたのは、アメリカが保護主義に走り、市場を閉じたためである。世界的にも保護主義への誘惑が強まる中で、アメリカの確固たる自由貿易維持の姿勢が最も重要である。
総括すれば、経済面でも安全保障面でも世界への力強く一貫したコミットメントを見せることだ。世界は一極構造から多極構造となり、アメリカの力が相対的に低下するとしても、平和と繁栄を確保するうえでアメリカに代わりうる国家・システムはまだ存在しない。自身の国益に照らしても、アメリカは世界の問題に関与し続ける以外ない。その認識を持ち続けてほしい。
≪何ができるかを自問せよ≫
以上は日本だけでなく、アメリカの同盟国、友好国共通の願いだろう。しかし私がオバマ政権の政策担当者なら、次のように言う。よくわかった。それで日本は、ヨーロッパは、何をしてくれるのか。
実際日本では、新政権の焦点が日本から中国へシフトするのでは、といった心配ばかり目立つ。新政権とともに何をすべきか、何ができるかという議論はほとんどない。それどころか、民主党の前原誠司前代表のように「日米同盟はできればもっとゆるやかなものにしたいが、現実的に他の選択肢がないから当面はアメリカと一緒に」といった消極的な態度が目立つ。それが、わが国次期政権の安保政策だとしたら、オバマ政権は真剣に日本と組んでこの地域や世界の繁栄と安全に寄与しようと考えるだろうか。
アーミテージ氏は講演の中で、西ヨーロッパと日本の先進民主主義諸国家が人口を減らし活力を失って指導的役割を果たさなくなる可能性を、世界が直面する大きな不確定要素の一つに挙げた。日本の意志の欠如は、同盟の実効性を損ないかねない。
アメリカの政権が代わると、日本はまず何ができないかを説明してきたが、今回は新大統領に、できることのリストを出したらどうかと、同氏は助言する。ケネディ大統領の言葉をもじれば、新政権の発足にあたって日本は、「アメリカが何をしてくれるかでなく、日本が何をできるか」を自らに問い、積極的に伝えるべきなのである。(あがわ なおゆき)
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