:2025:02/11/16:58 ++ [PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
:2007:12/13/09:00 ++ 【やばいぞ日本】第5部 再生への処方箋(9)「失敗しても格好いい」
少年は宮川類。山梨県南アルプス市に住む小学4年生は、6月下旬にスペインの名門サッカーチーム、アトレチコ・マドリードのセレクションに参加した。欧州を中心に集まった約250人の中から素質が認められ、“プロ”として異例の5年契約を結んだ。
その間の滞在費、食費、授業料などすべてクラブが負担する。12歳以下のカテゴリーでチーム構成は約40人。日本人は類だけ。“金の卵”のためのエリート養成所、そして海外移籍だった。男は山梨に残った類の父、学さん(42)である。
スペインは世界のトップクラスの選手が集結するサッカー王国だ。日本ではレアル・マドリードが有名で、かつてジダン、ベッカムらが在籍していた。類を支援するスペイン留学館、マドリード事務所代表の堀田正人氏は、中田英寿の代理人でもあったから事情をよく知る。
「サッカーがうまいやつってのは、世界にゴマンといる。類だって日本なら“お山の大将”さ。けど、それでは伸びなくなっちゃう。危機感がないからソコで終わる。こっちはサッカーに命を懸けている。生き残るために必死だね」
世界標準という言葉がある。ボーダーレスの時代、「世界と戦う」ことは日常化している。陸続きの欧州では、夢を求めて国境を越える挑戦は日常だ。
そこに高度な競争が生まれ、レベルが上がる。四方を海に囲まれる日本は、いまだに孤立することが多い。
類の世界。早いうちから“世界に触れる”ことで世界標準の人間育成を目指す大きな意味を持つ。これまでになかった“移籍”である。
マドリード市郊外の新興住宅地の中にある練習場。類は往復2時間をかけて日本人学校に通いながらのサッカー漬け生活だ。「みんなうまい。こんな世界があったのかと。僕も、もっともっとうまくならなきゃ」。10歳の人生観さえ変えた。12歳以下といえ、ボールを奪うボディーコンタクトは激しく、そして類の体はアザだらけ…。
「コラッ笑うな!」。堀田氏が怒鳴った。日本人の優しさか、ボールを奪われたとき、テレ笑いした。「甘っちょろいよ。他のやつは目つきも鋭く、エゴが強い。類は目立つ意識も薄いよ。けどね、3カ月でずいぶん、たくましくなった」
言葉の壁がある。子供の脳は吸収が早い。日常会話なら問題なくこなしている。14チームで構成されるリーグ、毎週末、試合がある。40人から16人選抜されるが、類はレギュラーに成長、先月末には1試合、4点を奪った。入場料は5ユーロ(約820円)、ちゃんと“プロ”をみせている。先日、類はいまの心境を俳句でこう表現した。
赤とんぼ 飛んで幸せ おれみたい
頑張れば 失敗しても 格好いい
「サッカーをするのに最高な環境。5年後には絶対、立派な選手になります」。類の目が輝いた。スペインでは親が子の学校への送迎を義務付けている。だから母、あゆみさん(40)も同行した。「この言葉だけでも、ここに来たかいがありました」。旅に出す不安は杞憂(きゆう)に終わった。
◇
■世界で鍛える「幼き才能」
1年前の昨年12月、類は横浜で行われたFIFA世界クラブ選手権を見た。ロナウジーニョ(バルセロナ)の生のプレーに圧倒された。
「絶対にスペインに行く!」。素質に加え強い意志に加え環境…。類の叔父、元清水FC・高田修氏は、知人のスペイン留学館代表の原田康行氏に相談を持ちかけた。原田氏は島根県松江市に本拠を置き、海外に通用する人間育成の手助けをしている。
「日本の教育行政は、帰国子女の対応など国際環境の中で遅れている。世界の学校とのネットワークは日本以外では常識です。素質ある子を留学させるにも、類の場合は何とかなったが、現地邦人学校の問題が壁になったりする。でも、そんな島国根性を打ち破らなければ、日本はますます世界に遅れます」
ある意味、日本の既成教育への挑戦である。
「お金を出せば留学はできますよ。でも類はスカウトされた。そんな人間を発掘するのもわれわれの役目…」。原田氏はサッカー以外でも、あらゆるジャンルでのボーダーレス対応を訴えている。
小さな井戸の中では、その容積は結局、小さなまま。たとえば、今季、野球のメジャーで14選手が活躍した。しかし、ドミニカ共和国98人、ベネズエラ51人、プエルトリコ28人など米国外で野球が盛んな国の中では少ない。
四半世紀前、三浦知良はブラジルに単身で渡り、海外経験を糧にJリーグ発足時の日本サッカー界を隆起させた。高原直泰(フランクフルト)、稲本潤一(同)らも若い世代での国際舞台で世界へ飛び出したが、いま完全レギュラーは中村俊輔(セルティック)くらい…。盛んな割には“壁”がある。
だから組織も憂う。Jリーグでは各クラブの15歳以下世代の選抜チームで海外遠征を始めた。昨年はブラジルだけだったが、今年はドイツも加えた。
鬼武健二チェアマンは、「小さいときから海外に飛び出し、違うサッカーや文化を感じれば、外国への抵抗感やひるむ気持ちがなくなる。それが将来につながる」と話した。
さらに今年から『日中韓の交流』も始めた。17歳以下、14歳以下、12歳以下の3つの年代で大会を組織し、各国がそれぞれ1つの年代の大会を運営、国際経験をより多くの選手に積ませる試みである。「今後はさらに予算をかけて若い子が国境を越えていく環境を整えたい」。チェアマンの国際化プランである。
選手育成に定評があるメキシコ、アルゼンチンなどは、「年に50回以上遠征するチームもある」(Jリーグ・中西大介マネジャー)だけに、極東の島国のハンディはまだまだ大きいが、危機感を肌で感じ、前に進んだ意義は大きい。
「身震いします…」と静岡の加藤学園暁秀・内田将志(18)が言った。この夏のスペイン留学館経由でセレクションに参加、アトレチコとプロ契約した。来年早々の渡欧。日本の高卒ルーキーで、Jリーグを経ないで海外プロ契約するのは異例である。
いま世界で活躍するトップ選手は、幼いころから世界標準の中で鍛えられた。
今月3日付産経新聞に寄稿した石原慎太郎氏の「日本よ」の中にこんな引用があった。
「幼い頃肉体的な苦痛を味わったことのない者は長じて不幸な人間にしかならない」。動物行動学者コンラート・ローレンツの言葉であるが、類もしかり。“向上ある苦痛”を求めて飛び出そうとしている日本人も、いる。()
- +TRACKBACK URL+