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:2007:11/01/11:52 ++ 【正論】拓殖大学学長・渡辺利夫 「胡報告」に見る中国の相克
≪“まっとう”にはなったが≫
第17回中国共産党全国代表大会が閉幕した。大会冒頭の胡錦濤党総書記による政治報告は、過去5年の党活動を総括し今後5年間の党の基本方針を明示する、共産党独裁国家・中国における最重要の文献である。
2時間半にわたって読み上げられた報告は、政治、経済、社会、文化、国防、国際関係のあらゆる分野に及ぶ厖大(ぼうだい)なものであり、論点はきわめて多岐にわたった。
しかし今回の報告の成文を一読すれば、その焦点がトウ小平氏、江沢民氏、さらには胡氏の第1期5年の間に一段と加速した成長率の「調整」にあったことは明瞭(めいりょう)である。
高成長を最優先してきたために生じた格差拡大、環境汚染や資源不足、党員の汚職などの諸課題の解消に全力をあげねば共産党自体が崩壊しかねないという強い危機感が随所に表明された。その意味で胡報告は過去の同報告に比較して現実を直視したまっとうなものであったと評価していい。
胡報告のキーワードは「科学的発展観」である。環境破壊、資源不足、格差拡大などに対処すべく人間本位の調和的な発展の重要性を説く胡氏の政治指導原理である。これが党規約に書き込まれ、ほどなく憲法にも明記されて胡氏の権威を印象づける理念となろう。
成長率がある上限を超えれば、大気汚染、水不足、水質汚濁、固形破棄物問題の深刻化を招き、エネルギー資源を求め世界中に利権の拡大を図ることによって各国の中国脅威論を高め、所得格差の拡大により貧困層の鬱屈(うっくつ)を暴発させかねない。そうなれば共産党の権威と統治力は維持できなくなるという自省が胡報告の趣旨だとみていい。しかし課題解消のための具体的政策や工程表が提示されたわけではない。きわめて抽象的な物言いが巧みにちりばめられているのみである。
≪コントロールが機能せず≫
10年余にわたってつづいた10%を超える成長率の抑制が果たして可能なのかと問えば、容易なことではないと答えざるを得ない。現在の中国の超高成長と経済過熱を招いているのは固定資産投資の持続的増加である。過熱の危機が叫ばれたのは2003年であった。同年の固定資産投資増加率は31・5%に達し、鉄鋼、アルミ、セメント、不動産などでは実に100%超であった。
公定歩合や銀行預金準備率の相次ぐ引き上げも功を奏さず、銀行融資枠設定、建設プロジェクト再検討、土地管理強化、関係者処罰などの直接介入に打って出たものの、翌2004年の固定資産投資増加率は27・6%とわずかな減少にとどまった。2005年24・5%、2006年24・5%、2007年(1~8月)26・7%となお高い増加率がつづいている。
なぜ中央政府のコントロールが機能しないのかといえば、地方が中央の指令に聞く耳をもっていないからである。地方の党幹部はみずからのステイタスの向上を求めて高成長の追求に躍起であり、地方政府は傘下の国有企業に同じく地方政府傘下の商業銀行に融資を強要する。さらに農民の土地をわずかな補償費で買い上げこれを高値で開発業者に転売し、開発業者は造成した開発区への外資の導入に懸命である。
≪農村との所得格差が構造化≫
しかも固定資産投資総額のうち中央政府のコントロールが可能な部分は1割に満たず、9割強が地方政府傘下の建設プロジェクトなのである。1割を制御できても9割が野放図であれば投資の抑制はかなわない。中央と地方の権力関係の調整が胡政権下で果たして可能かどうかがポイントである。
都市農村間の所得格差は、現在の中国においてはすでに「構造化」されており、その是正は生半可な政策をもってしては無理である。近年の家計調査によれば農村の最下位20%の所得階層の家計貯蓄率はマイナスであり、最下位40%でほとんどゼロ、最下位60%でようやくプラスである。農民の約半数の家計貯蓄率はマイナスもしくはゼロなのである。都市の最下位20%所得階層の家計貯蓄率もマイナスである。貯蓄率がマイナスであれば経済的地位の上昇努力を引き出すことは困難である。
中国の農村においても核家族化の進行が著しく、相互扶助的な共同体慣行は崩壊しつつある。食いつめた農民は「民工」として都市での出稼ぎのために村を去らねばならない。民工はすでにして1億1800万人に達するというのが国務院による報告数値である。
胡政権は容易ならざる課題を背負うて第2期に入ったといわざるを得ない。(わたなべ としお)
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