(2007/09/05 05:05)
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:2007:09/05/11:58 ++ 【正論】新・安倍内閣発足 早稲田大学大学院教授・川本裕子
■古い常識脱却し説得性と論理力を
≪珍しくない「ねじれ現象」≫
参議院が野党過半数となり、日本の政治動向が極めて不透明になったと感じる人は多い。しかし、衆議院と参議院が異なる意思決定を行うことは現行の日本国憲法で想定外かというと決してそんなことはない。半世紀前に作られた憲法は、衆参両院間の権限配分や調整ルールを明確に規定している。米国を始め、二院制をとる国において両議院の「ねじれ現象」はそれほど珍しいことではない。
現在の不透明感は、日本でこれまでほとんどの期間、一政党がずっと政権を担ってきた歴史に起因しているのだろう。プロの政治家を始め、マスメディアや霞が関の官僚機構も、衆参両院で同一政党が多数を占めることを当たり前のこととして考えてきた。その与件が崩れ、従来の認識・行動パターンでは政策決定を行うことができなくなった。長年慣れ親しんだ認識・行動パターンの影響は当然ながら根強く、それ以外の対応をしようとしても、どこから始めたらいいかわからない-現状はそんな感じではなかろうか。
基本に立ち戻れば、二院制をとりながらも、国会は立法機能を担う国家機関として一体として意思決定を行う責任がある。どのようにしてその責任を果たすか、改めて衆参両院の国会議員の肩に課せられた格好だ。
衆議院で可決された法案が参議院で否決、あるいはその逆の事態が日常化する中、国会議員は与野党間でどこに政策上の意見の違いがあるか、その違いがどのように調整できるかを国民に示していかねばならない。政策の根拠・必要性を双方が明示し、どちらが説得的か、国民の前で見識を問われる機会は増える。あらかじめ書かれたシナリオはもうない。しかも、タイムリーに結論を出せなければ、先送りの責任は与野党双方が負わねばならない。与野党協議を束ねる議長や委員長などのポストも、これまでの名誉職的な位置づけから、説明責任のキーパーソンとしての役割が否応なく高まる。
≪求められる政策の整合性≫
今後、国会議員にはこれまで以上に説明責任が求められ、仲間内の人付き合いの良さよりも、議論の説得性や論争を明快に整理する論理力など、公的な場面での立ち居振る舞い(ステーツマンシップ)で評価されることになるはずだ。そうなれば、主張する政策の整合性への世論のチェックは厳しくなる。政党や議員が特定利益に奉仕する甘い約束をばらまくことは自殺行為となるだろう。
景気は回復しているとはいえ、現在日本経済が直面する問題は山積している。世界最速で高齢化が進行する中、社会保障負担を持続可能にしながら少子化トレンドを反転させ、明日を担う世代に十分な能力と意欲をもたせる。こうした重大な政策課題を、累積国家債務の水準をGDPの一定範囲に抑えながら解決するためには、政策間の優先順位、国民負担の分配のあり方などを明確にし、国民に納得感ある政策パッケージを提示することが不可欠だ。国際的に見て教育水準が高い日本国民の批評能力を見くびってはならない。民主党が与党批判の受け皿の役割から、実際に政権交代を担える役割に移行できるかどうかは、この点にかかっている。
≪企業の経営改革に続け≫
こうした分裂国会の展開は、バブル崩壊以降の日本の企業経営がたどってきた道と類似する点がある。かつて日本企業の株主総会は、あらかじめ書かれたシナリオ通りに進むことが常態だったが、最近では株主が積極的に意見を表明したり、M&Aの是非や株主への利益還元を巡って投資家と経営陣が相互に論陣を張るなど、議論が活発化している。そこでは企業の真の利益とは何か、自らの考え方を理路整然と客観的な証拠で説明する能力が経営者に求められている。
また、取締役会も、以前は会社内部出身者だけで固め、上がってくる提案にラバースタンプを押している傾向が強かった。しかし、それでは組織の内向きの論理が優先されがちで、社会動向を見据えた抜本的な方針転換や、着実なコンプライアンス(法令遵守)が実際には期待できないという反省が強まった。幅広い視野から経営方針を提言する社外取締役の登用を増やし、役員のチェックアンドバランスや業績評価を強化するなど、企業ガバナンス(統治)改革により経営の説明責任を強化する動きは今後とも強まる。
数々の改革を経て経営力が曲がりなりにも改善しつつある日本企業は多い。国家の経営力も同様に強化できるか-分裂国会が日本に投げかける真の課題はそこにある。
(かわもと ゆうこ)
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