(2007/08/19 05:01)
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:2007:08/20/11:22 ++ 【正論】青山学院大学教授・袴田茂樹 マスコミと電力会社は悪循環断て
≪冷静さ欠いた対応ぶり≫
新潟県中越沖地震の震源地は柏崎刈羽原発の至近距離だったが、幸い原子炉本体に深刻なダメージはなかった。しかし関連設備のトラブルは地元住民に大きな不安を与え、深刻な風評被害も生んだ。新潟県内の旅館、ホテルのキャンセルは地震後5万件にもなるという。イタリアの有名サッカーチームも、放射能漏れを理由に訪日を中止した。今回の事故で海水、空中に放出された放射能は自然界から人が浴びる量の12億分の1、胸部レントゲンの25万分の1。国際原子力機関(IAEA)や新潟県の調査でも、放出量は微量で健康への影響はまったくないとした。何か冷静さを欠いた異常さがある。
1986年にチェルノブイリ原発事故が起きる前、ソ連科学アカデミー総裁A・アレクサンドロフは原発の絶対安全性を強調した。一方ノーベル物理学賞を受けたソ連のP・カピツァは、ソ連での原発に慎重論を唱え、原発を安心して任せられるのは几帳面(きちょうめん)な日本人とドイツ人だけだと述べた。事故の後、ソ連の原発のずさんな建設や管理が明らかにされた。日本では考えられないひどさで、当時私もそれを新聞で伝えた。
チェルノブイリの事故と1979年の米国スリーマイル原発事故の後、米カーター政権や独、英、北欧諸国は脱原発の方向に向かった。しかし、2、3年前から流れは変わり、昨年のG8首脳会議で、先進国は核エネルギーの積極利用に方向転換した。地球温暖化への対策、また中国などの工業発展で逼迫(ひっぱく)する世界のエネルギー危機に対応するためだ。米政権は昨年2月、高速増殖炉と核燃料リサイクル(使用済み核燃料の再利用)計画を打ち出した。その事業に日本とフランスの企業が連携して応募し、採用が有望視されている。この分野では、フランスと日本が世界で最高の技術を保有しているのである。意外かもしれないが原発の安全性でも、日本は世界最高技術を有しており、各国から引き合いがある。
≪過剰な反応と隠蔽体質≫
問題は、マスコミや世論の過剰反応と電力会社の隠蔽(いんぺい)体質が、悪循環に陥っていることだ。高速増殖炉「もんじゅ」の事故、東海村の臨界事故その他さまざまな原子力関連の事故が発生した。マスコミや世論の過剰反応を恐れて電力会社はデータを改竄(かいざん)し事故を隠蔽してきた。国の原子力政策や電力業界への不信感を強めたマスコミは、原発の些細(ささい)な事故もしばしばセンセーショナルに報じた。一部のマスコミは事故を反原発キャンペーンに利用し、これがさらに隠蔽体質を強めるという悪循環が生じた。風評被害は「マスコミ被害」でもある。今最も必要なことは、問題の直視と冷静かつ客観的な報道であり、悪循環を断って風評被害を防ぐこと、今回の事故を生かし、今後の事故防止のため最善を尽くすことだ。
≪事故評価する2つの立場≫
原発の間近でマグニチュード6・8の大地震が起きたのは、世界で初めての経験だ。今回の柏崎原発の揺れは205から680ガルで(ガル=建物に加わる力。原子炉や、揺れの方向で異なる)、これは想定の最高3・6倍(2号機)である。事故は、重要度As、A、Bに指定されている原子炉格納容器や制御棒と駆動装置、タービン建屋などには生じておらず、すべて重要度C、つまり一般の建築基準法に基づいて建設された施設、機器である。
これをどう評価するか、2つの立場がある。ひとつは、想定を大幅に超える地震にもかかわらず、原子炉本体に深刻なダメージがなかったのは、日本の原発安全技術の優秀さを示す、というもの。もうひとつは、揺れの想定や断層調査の甘さを深刻に受け止め、この面を抜本的に再検討して、今後安全性を高めるため真剣な対策を講ずべきだ、というもの。前者にも一理あるが、今とるべきアプローチは当然後者だ。すでに中部電力は1000ガル対応の耐震補強工事を自主的に実施しているが、今回の事故は世界に貴重な経験を与えた。
安全性に関しては、原発関連の設備すべてに完全を求めるのは非現実的だ。自動車や航空機も、絶対の安全性を求めるとしたら、使用を禁止する以外にない。地球温暖化対策や世界のエネルギー戦略の動向を見ると、わが国でも風力、太陽熱、バイオなど新エネルギー開発と並んで、核エネルギーの利用は不可欠だ。今後は、原発に対する冷静かつ客観的な報道と、電力会社の公開性向上の好循環により、また原発の安全性向上の努力により、国のエネルギー政策や電力業界への国民の信頼を高めることが緊要だ。(はかまだ しげき)
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