:2025:02/05/11:40 ++ [PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
:2007:08/24/09:40 ++ 【やばいぞ日本】第2部 資源ウオーズ(6)温暖化が生んだ新たな競争
忍び寄る温暖化の陰で、かつては存在さえ意識されたことがなかった権利が、新たな“資産”として日増しに存在感を増している。
温室効果ガスの排出権。文字通り二酸化炭素(CO2)を排出できる権利だ。すでに排出権は欧州を中心に活発に取引されており、新たな資源とでもいうような存在になりつつある。
「いい排出権があるけど、購入しないか」。ある日本の商社マンは今年に入り、旧知の欧州企業ビジネスマンからこう持ちかけられた。驚いたことに欧州企業の提示した排出権は、ライバルの日本商社が中国での温室効果ガスの排出削減事業にかかわって得たものだった。その際の獲得価格は1トン当たり900円程度。にもかかわらず欧州企業の提示価格は1トン当たり15ユーロ(約2400円)。わずか1年半ほどの間に3倍近くにも値上がりしていた。
排出権がなぜそこまでの価値を持つのか。それは排出権が、エネルギーを消費する権利でもあるからだ。より鮮明にするのは、温室効果ガスの排出量上限を定め、上限に満たなければ排出権を売却でき、上限を超えれば排出権を購入する必要がある「キャップ・アンド・トレード」という仕組みだ。これは身近なゴミ問題に置き換えると理解しやすい。
一般家庭は年間100キロまでゴミを捨てることが認められているとしよう。無駄を極力省いて暮らしているAさんの家は90キロしかゴミが出ない。Bさんの家は110キロのゴミが出る。上限に満たないAさんは10キロ分のゴミの排出権をBさんに売ることができ、排出権を購入したBさんは認められている以上のゴミを捨てることができる。
一見、理にかなった仕組みと思えるが、誰がどのようにして割り当ての上限を決めるかが問題だ。当初の割り当てで上限の排出量を多く獲得できれば、より多くのエネルギーを消費でき、経済活動を活発に行える。
だが、排出量を思うように獲得できなければ、本来は設備投資や研究開発投資に回るべき資金が排出権購入に費やされる。最悪の場合、企業は生産を停止して排出上限を守る必要さえある。
他方、ここ数年の景気回復で日本のCO2排出量は増える一方だ。2005年度には1990年比で、逆に7.8%も増えてしまった。しかも世界屈指のエネルギー利用効率を誇る日本企業はすでに国内での削減余地は乏しい。このため、排出権をこれまで以上に購入する以外に有力な手段は見当たらない。
例えば鉄鋼業界では2800万トンもの排出権の購入を決めている。産業界への削減量上乗せは企業に過大な負担を強い、国際競争力の低下につながりかねない。中国などでの排出権獲得事業では日本の省エネ技術の流出も懸念される。
2005年に日本政府が策定した目標達成計画でも、6%のうちの1.6%分は排出権1億トンを購入することを盛り込んだ。そのために3000億円程度の税金が投入される計算だ。最新の見通しでは、排出権の購入費用はさらに1000億円規模で拡大する可能性さえある。日本が払う代償は膨れ上がる一方だ。
押しつけられた不利なルール
CO2排出権は国の経済成長力を大きく左右する力を持つ。国益にも大きな影響を与える。それだけに自国に有利な制度にしようと大国は、虚々実々のパワーゲームを繰り広げる。
97年12月に開かれた地球温暖化防止京都会議で採択された京都議定書は、まさに大国間のパワーゲームの末に生まれた。京都議定書で、日本は2008~12年の温室効果ガス排出量を90年に比べて6%削減することを義務付けられた。
だが、2度にわたる石油危機を経験して省エネを進めてきた日本にとって、そもそもCO2排出量を削減できる余地は乏しかった。なのに議長国の日本は1%上乗せをのんだ。「途上国を温室効果ガス削減の枠組みに取り込むため」と、米国などが説得したからだ。
ところが、日本に譲歩を促した米国は、自国経済への影響が大きいといって途中で京都議定書から離脱した。
米国と並ぶ2大排出国である中国も途上国を理由に削減目標は課されていない。
その結果、いま、日本企業は最新の省エネ技術や、環境技術を中国などの途上国に導入し、それによって削減したCO2を排出権として獲得することに躍起になっている。古い設備でエネルギーを大量に消費している中国は、何もしなくてもCO2を削減できる技術を得られる。
「あまりに理不尽」。日本企業の多くは強い不満を抱いている。
当時、通産省(現・経済産業省)審議官として温室効果ガス削減の目標策定の責任者だった住友商事の岡本巌専務は「あそこまで譲歩しながら、途上国を枠組みに取り込めなかったのは大きな取りこぼし」と悔やむ。
京都議定書の採択から約10年。いま、2013年以降の「ポスト京都議定書」をにらんだ動きが世界に一気に広がっている。その最初の表舞台が、6月にドイツ東部ハイリゲンダムで開かれた主要国首脳会議(サミット)だった。
議長総括には「2050年までに温室効果ガスを少なくとも半減させることを真剣に検討する」との文言を盛り込むことでブッシュ米大統領も合意した。合意内容は、安倍晋三首相が5月に公表した「美しい星へのいざない」のなかで示した長期目標に合致する。
首相は議長総括が発表された後、記者団に「日本の主張が受け入れられた」と自賛したが、喜ぶのはまだ早い。サミットでの合意は、ポスト京都のルールづくりに向けたスタートラインにすぎない。日本の課題は、京都議定書のような不利なルールや義務を回避することにあるからだ。
日本とは対照的にサミット後、米国はポスト京都の主導権を握ろうと急ピッチで動き始めている。7月11日には、米上院に、米国内で排出される温室効果ガスを2030年までに20%削減させる超党派法案が提出された。
「環境技術を後押ししながら、温室効果ガスを劇的に削減できる」。法案作成を主導した民主党のジェフ・ビンガーマン議員は胸を張った。
法案の柱は、「キャップ・アンド・トレード」。欧米が本気になって手を組めば、「キャップ・アンド・トレード」導入に消極的な日本だけが取り残されかねない。受け身のままの日本では大国のパワーゲームの結果をまた押しつけられてしまう.
- +TRACKBACK URL+