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:2008:11/17/09:45 ++ 【正論】米新政権を占う 京都大学大学院教授・中西寛
アメリカ大統領選はオバマ民主党候補が大勝を収めた。大統領選の終盤になって急浮上した経済危機への対応が最後に勝敗を分けたとはいえ、基本的にはオバマ候補の選挙運動家としての資質が勝利したと言える。共和党よりも結束力が弱いとされる民主党にあって、陣営内でのスキャンダルをほぼ完全に回避して若者、無党派層に着実に支持を広げ、大本命だったヒラリー・クリントンを破り、更にはマケイン共和党候補を引き離した。
最大の武器は衆目の一致する高い弁舌能力で、2年近くの異例の長期戦の節目節目で人々を感動させる演説を行って選挙活動の勢いを持続させた。中でも今年3月、自らが師と仰いできた黒人牧師の白人攻撃発言を取り沙汰(ざた)されたとき行った「さらに完全な結束に向けて」演説と、7月にベルリンを訪問した際の「ベルリン演説」は、名文句で彩られ、演説のお手本ともいうべき内容であった。
前者では旧師の発言を批判しつつ、人種対立の克服がアメリカの残された課題であるとして、「過去に関して人々は異なる物語を持つけれども、アメリカ人は共通の希望を抱いている」と述べた。後者ではベルリンの壁になぞらえ、ブッシュ政権期に生じた米欧間の亀裂を克服し、アフガニスタンでのテロとの戦いに向けた結束を訴えた。いずれも、対立よりも融和を訴える基本的立場を守りつつ、微妙な問題から逃げない姿勢を示した点で、すぐれた政治感覚を表現することに成功した演説だったと言える。
≪対東アジアは未知数だが≫
しかし演説能力だけでこなせるほどアメリカの大統領の職はたやすくないし、とりわけ今は困難が山積している。金融危機への対応は選択肢が限られている点で、不良債権処理や景気対策などできることをする他ないが、医療、年金、雇用、移民といった社会経済問題はクリントン、ブッシュ政権が共に解決できなかった難問に取り組むことが期待される。
外交的には、イラクからの撤退とアフガニスタン作戦への注力は方針として出されているが、核拡散、テロ支援、エネルギー問題などが重層的に関(かか)わるイラン問題や、グルジア紛争をめぐって対立が激化したロシアとの関係など、外交政策では厳しい交渉が控えている。
こうした状況の中でオバマ政権の対東アジア政策はそれほど優先度が高そうではないし、その具体的内容もまだ見えてはいない。この点では日本を含めた東アジア諸国にとっては共和党政権の方が与(くみ)しやすかったことは否定できない。伝統的に共和党政権はアジア太平洋を重視し、安保関係を基軸としながら自由貿易体制を主導してきたからである。安保人脈を中心に共和党政権と親密な関係を築いてきた日本に限らず、中国にとっても、共和党の政策は予測可能性が高い点で対応がしやすかった面はある。
オバマ民主党政権は相対的に中国重視となるとの観測がある一方で、貿易、環境、人権などで摩擦が起きる可能性も共和党政権の時よりも高い。
≪政権の国内基盤の強化を≫
日本に対してはアジア最大の同盟国として重視する姿勢は共和党政権と共通するが、同盟の「実(じつ)」を求めてくるであろう。ブッシュ・小泉政権下でまとめられた同盟再編政策について、普天間基地移転、海兵隊グアム移動問題などが懸案として残されているし、ミサイル防衛構想についても技術および予算面から一定の見直しがなされる可能性がある。
アフガン重視の観点からして、日本の貢献はインド洋での海上給油にとどまらず、アフガンや隣国パキスタンの政治安定化支援が期待されるかも知れない。他方、北朝鮮についてはブッシュ政権の対北対話路線を自ら変更することはせず、金正日総書記の動静を含め、相手の出方を窺いながら慎重に進めていく姿勢をとるのではないか。
経済面ではクリントン政権のような貿易摩擦再燃の可能性は低い。それほど日米両国の経済体質は変わった。むしろ金融面で、円高と内需中心の成長を求めると共に、東アジアの貿易秩序の構築を働きかけてくるのではないか。また、環境政策重視を看板にしている点から、ポスト京都議定書に向けて大胆な提案をしてくる可能性もある。
ただ、現時点では日本は慌てず、新政権との信頼関係の構築を目指すべきである。そのためには日本が世界、とりわけアジアにおいて責任を果たす姿勢を示し、また政権が国内で安定した政治基盤をもつことが前提となろう。(なかにし ひろし)
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