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:2008:12/03/17:11 ++ ビッグスリー救済問題から見えてくるもの( 08/12/1)
政府が貸し出す“サブプライムローン”
大統領選挙後に再開された米議会では、さっそく自動車業界の救済問題が協議された。上院民主党が提示したのは、ビッグスリーへの250億ドルの融資。期間10年で当初5年は金利5%、それ以降は9%というから、ほとんど政府によるサブプライムローンみたいなもの。正直なところ、これでビッグスリーが復活するとは考えにくい。
救済案に対して、共和党議員からはさっそく反対の声が飛び出した。それもアラバマ州選出のリチャード・シェルビー議員、ジェフ・セッションズ議員などが中心となっている。アラバマには、ホンダと現代自動車とダイムラーベンツの工場があり、「別に外国企業でも構わない」とのこと。この辺りに、日米通商摩擦がやかましかった1990年代との決定的な違いがあるようだ。
任期が残り少なくなったブッシュ政権も自動車業界支援には消極的で、不良債権買い取りのために用意した7000億ドルの枠組みを使うべきではないとの見解である。金融機関を救済することはあっても、製造業を救済するつもりはない。それではわれもわれもと申請が相次いで、線引きができなくなる。自動車ローンを扱う金融部門を銀行持ち株会社にして、公的資金を入れるというのがギリギリの線だということになる。
そもそも経営陣はベストを尽くしたといえるのか。公聴会の席上、ビッグスリーの最高経営責任者(CEO)たちに対して、「ワシントンに来るときに使った、プライベートジェット機をまず売り払え」という厳しい声も飛んだ。世論は明らかに彼らに対して逆風である。
議会は審議を12月2日に先送りしたが、この間にもビッグスリーの株価は低迷している。新政権発足を前に、まだまだ予断を許さない状況が続きそうだ。
「企業は救わないが労働者は救う」という視点
そもそもビッグスリーの経営状況が悪いのは、退職者に払われている膨大なレガシーコストが主な原因である。GMはかつて60年代の黄金時代に、退職者向けの医療給付制度を創設した。ところが、医療費負担はインフレの3倍の速度で増大し、退職者数は現従業員数の3倍に膨れ上がった。このハンディが、彼らの経営を苦しくしている。
幸いなことに日本では、医療や年金を公的部門が支えているから、企業はそこまで社員の面倒を見なくていい。ゆえに日米の自動車会社が競争すると、日本が有利になる。実はクルマ作りの技術だけでは、あれだけの差はつかないのである。その証拠に、北米市場が急速に冷え込んだら、トヨタ自動車が利益の1兆円下方修正をやっている。
レガシーコストを切り離すのに、一番手っ取り早いのは「チャプター11」(連邦破産法)の申請である。日本では考えにくいことだが、「倒産は経営者の権利である」というのがアメリカの常識だ。航空会社などは実際にこの手を使って、過去の退職者給付をぶった切っている。ビッグスリーがそれをやらないのは、「チャプター11と同時に、社債が全部デフォルトになってしまう」のと、「消費者は、一度つぶれたエアラインに乗ることはあっても、一度つぶれた会社のクルマは買ってくれない」という読みがあるからだ。
そこでGMなどが考えたのは、UAWとの間でVEBA(Voluntary Employee Beneficiary Association)という一種の企業信託のような制度を作り、退職者への債務を移管してしまうことだ。時間をかけた交渉の結果、ようやく労使の合意が成立した。しかるにGMは、10月の米新車販売台数がなんと45%減。しかも自社株が下落したために、VEBAへの資金拠出が覚束なくなってしまった。ということで、VEBAの合意は宙に浮いている。
ここオバマ次期政権にふさわしいのは、「企業は救わないが、労働者は救う」というアプローチではないかと筆者は考える。すなわちVEBAに政府資金を拠出して、ビッグスリーの退職者医療給付の重荷を取り除く。さらにUAWに対して、レガシーコストの軽減を説得する。それであれば、米国の自動車産業に復活の目が残る。単なる企業救済策では、それこそ「焼け石に水」となってしまう公算が大である。
ピンチの裏にチャンスあり
もうひとつの可能性は、「グリーン・ニューディール」である。もともとオバマは選挙戦中に、「向こう10年で1500億ドルの投資」「米国産ハイブリッド車の生産」「500万人のグリーンカラー雇用を創出」といったエネルギー政策を提唱した。つまり環境と雇用を一致させ、そこから米自動車産業を立て直そうという提案だ。財政苦しき折から、どれだけのことができるかは未知数なるも、これは全世界にとって望ましいシナリオといえる。
実は今年はGM発足の100周年であり、T型フォードが誕生してからも100年である。まことに不思議なことに、自動車という商品は1世紀にわたってその姿の根本を変えていない。つまりガソリンを燃やして、エンジンの上下運動を回転運動に変え、4つのタイヤを回して走らせるという構造は、T型フォードもレクサスもほとんど違いはない。自動車産業ほど技術革新のめまぐるしい業界はないし、ここ十数年でもカーナビあり、ETCあり、レクリエーションビークルありと、いろんな新製品や新機能が誕生した。けれども、商品の本質はそれほど進歩していないのである。
おそらくこれから到来するであろう自動車産業の受難の時代において、自動車は1世紀ぶりに生まれ変わるのではないだろうか。動力をガソリンから電気にかえて、環境に優しく省エネにもなるという形で。
かつて経済学者シュンペーターは、不況は次の好況の懐妊期間と喝破(かっぱ)した。不況期こそ「創造的破壊」が生じ、次なるイノベーションの種がまかれると。とすれば、この先数年でクルマに新しい可能性が誕生するかもしれない。言い古されたことではあるが、ピンチの裏にチャンスありである
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