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:2011:05/02/12:00 ++ 第1部危機からの再出発(1)政官民、甘かった備え(新しい日本へ)
巨大地震、大津波、そして原発事故――。東日本大震災は想像を絶する被害をもたらし、危機は今なお進行中だ。それでも、少しずつ、復興への営みが始まった。元どおりにするのではない。教訓を生かして創り上げるのは、新しい国、新しい日本だ。(敬称略、「新しい日本へ」取材班)
津波の被害が深刻だった岩手県山田町の船越地区。地元の主婦、竹内伸子(48)は思い出す。「子どものころ、防波堤のあたりには家を建てちゃいけないって先生から教えられた。津波は戦争より恐ろしい、と」
同地区は1896年の明治三陸地震で津波被害を受け、当時の助役が住民を高台に移住させた。水産養殖業の山崎冨美男(63)は言う。「みんなね、昔のことは忘れちゃうんだよ」。いつしか便利な海辺近くに再び町営住宅がたち、住居が集まった。その大半が今回の津波にのみ込まれた。
同県宮古市の姉吉地区。明治、昭和に大津波で2度全滅した集落には、海から数十メートルの高さにある細道に石碑がたつ。「想へ惨禍の大津浪/此処より下に家を建てるな/(中略)/幾歳経るとも要心あれ」
刻まれた先人の教えを住民は守り、今回の津波で住宅被害はなかった。ただ、姉吉のように教訓が生きる例は少ない。誰しもが「まさかここまでは来るまい」と考える。
指摘された危険
日本は安全な国、とみなが思っている。「安全神話にすぎない」と戒めを込めても、具体的な備えには至らない。
自民党政権時の2009年6月、経済産業省で開いた総合資源エネルギー調査会。「869年の貞観地震で、想定とは比べものにならない巨大な津波が来ている」。産業技術総合研究所の活断層・地震研究センター長、岡村行信(56)は福島第1原子力発電所の危険性を繰り返し指摘した。
東京電力の担当者の答えは「研究的な課題としてとらえるべきだ」という素っ気ない内容だった。それから2年足らず。福島第1原発事故の原因を東電は「想定外」とした。だが「想定」は間違いなくあった。直視してこなかっただけだ。
失敗学で有名な東大名誉教授の畑村洋太郎(70)は言う。「見たくないものは見ない。考えたくないことは考えない。米国は考えようと努力する国。日本は考えないままにしておく国」
訓練役に立たず
想定を厳しくすれば、対応策にコストと時間がかかる。危険性を正面から取り上げれば、地元に「絶対安全」と説明してきた建前が崩れる。資源のない日本で、国策である原発推進を担う東電にとっても、政府にとっても、これ以上「見たくないもの」はなかった。
最悪を考えない危機対策には限界がある。「福島原発が全電源を失ったらどうなるか」。昨年11月、東電は福島県でそんな想定の避難訓練をした。ただ、原子炉の冷却機能を失ってから数時間後には非常用電源が回復するというシナリオだった。住民からは「訓練なんて何の役にも立たなかった」との声がもれる。
地元が求めていた避難用道路の整備も進んでおらず、今回の避難では15分ほどで行ける道が渋滞で2時間以上かかった。
ひとたび危機が起きれば、日本各地に、世界に連鎖する。震源から距離がある首都圏も、帰宅難民や物資の買いだめなど、思わぬ混乱に悩まされた。
震災直後、東京証券取引所には投資家の換金売りが殺到。東証1部の売買高は3月15日には過去最高の約58億株に達した。処理能力を超えればシステムは突然止まる。市場機能が停止すれば混乱は世界に及ぶ。「もしシステムを更新していなかったら……」。東証幹部らは冷や汗を流した。処理能力を大幅に高めた新システムを稼働したのは1年前のことだった。
危機管理の基本は平時における危機の認識と事前の準備にある。そして想定外の事態が起きても被害を最小化する柔軟な「構え」が欠かせない。
政治家も、官僚も、企業も甘かった。次の世代へ教訓を刻むのは今しかない。
(上から)3月11日、宮城県の沿岸をのみ込む大津波/同日、歩いて都心の職場から帰宅する人たち/同24日、爆発で建屋が壊れている福島第1原発4号機=無人機で撮影、エアフォートサービス提供
福島第1原子力発電所の復旧作業に従事する東京電力の協力会社社員が、社長にあてた手紙がある。4月中旬のことだ。「免震重要棟は狭くて息苦しい。食事も立ったまま。(トイレの水が流せず)臭気もきつく、つらい……」
現場では今も約1400人が作業にあたる。環境は少しずつ、改善しているというが、被曝(ひばく)の危険と背中合わせの作業が続く。自己犠牲に頼る危機対応は本来、あるべき姿ではない。
首相の菅直人(64)は原発事故の調査委員会を5月中旬をメドに発足させる。政府の中央防災会議は地震・津波対策強化の検討に入った。甘かった想定の見直しは必要だが、あらゆる災害を防潮堤などの社会資本だけで防ぐのには限界がある。コストとの兼ね合いを直視し、非常時の訓練や法整備など、ハードとソフトを組み合わせた取り組みが、危機に強い国をつくる。
事故後指揮委員会――。原発大国、フランスにある組織だ。放射能漏れ事故などが起これば電力公社に代わって対応に当たる。各省庁や軍を指揮下に置き、住民の避難から放射性廃棄物の処理まで一元的に担う。仏原子力安全委員会副委員長のラショム(51)は「事故は必ず起きるという考え方こそが危機管理」と話す。それは原発に限らない。
米大統領のオバマ(49)は4月末、アラバマなど南部3州の知事の要請を受け、大規模災害宣言を出した。この地域を襲った竜巻の被害に対処するためだ。
宣言により、医療費やがれきの片付けなどへの連邦予算の予備費の支出が自動的に認められる。事態が悪化すれば知事は州軍による戒厳令を敷くことも可能。戒厳令下では私権は停止され、住民の強制排除、建物の事前許諾なしの取り壊しなどができる。
戦争や内乱でなく大規模な自然災害を「国家の非常事態」として、政府の強い権限行使を包括的に認める国は少なくない。しかし、日本にはそうした規定が事実上、ない。
「災害対策基本法で国が強制して生活物資を配給できないか」。大震災の被災地でガソリンや医薬品の不足が叫ばれた際、与野党内で一時、こんな案がでた。ただ同法が政令による強権発動を認めているのは国会閉会中だけ。国民の私権制限への慎重論もあって立ち消えになった。
「東海、東南海、南海の連動地震や首都直下地震が起きたとき、現行制度のままで対応できるのか」。拓殖大大学院教授の森本敏(70)は、民間から物資やタンクローリーなどの輸送手段を強制的に集めることなどができる緊急事態基本法の制定を提唱する。
新型インフルエンザの大流行や朝鮮半島有事――。想定すべき事態はほかにもある。危機への備えは社会全体で取り組むテーマだ。タブーを排して議論を進めないと、万が一の時、超法規的措置で対応せざるを得なくなる。
津波の被害が深刻だった岩手県山田町の船越地区。地元の主婦、竹内伸子(48)は思い出す。「子どものころ、防波堤のあたりには家を建てちゃいけないって先生から教えられた。津波は戦争より恐ろしい、と」
同地区は1896年の明治三陸地震で津波被害を受け、当時の助役が住民を高台に移住させた。水産養殖業の山崎冨美男(63)は言う。「みんなね、昔のことは忘れちゃうんだよ」。いつしか便利な海辺近くに再び町営住宅がたち、住居が集まった。その大半が今回の津波にのみ込まれた。
同県宮古市の姉吉地区。明治、昭和に大津波で2度全滅した集落には、海から数十メートルの高さにある細道に石碑がたつ。「想へ惨禍の大津浪/此処より下に家を建てるな/(中略)/幾歳経るとも要心あれ」
刻まれた先人の教えを住民は守り、今回の津波で住宅被害はなかった。ただ、姉吉のように教訓が生きる例は少ない。誰しもが「まさかここまでは来るまい」と考える。
指摘された危険
日本は安全な国、とみなが思っている。「安全神話にすぎない」と戒めを込めても、具体的な備えには至らない。
自民党政権時の2009年6月、経済産業省で開いた総合資源エネルギー調査会。「869年の貞観地震で、想定とは比べものにならない巨大な津波が来ている」。産業技術総合研究所の活断層・地震研究センター長、岡村行信(56)は福島第1原子力発電所の危険性を繰り返し指摘した。
東京電力の担当者の答えは「研究的な課題としてとらえるべきだ」という素っ気ない内容だった。それから2年足らず。福島第1原発事故の原因を東電は「想定外」とした。だが「想定」は間違いなくあった。直視してこなかっただけだ。
失敗学で有名な東大名誉教授の畑村洋太郎(70)は言う。「見たくないものは見ない。考えたくないことは考えない。米国は考えようと努力する国。日本は考えないままにしておく国」
訓練役に立たず
想定を厳しくすれば、対応策にコストと時間がかかる。危険性を正面から取り上げれば、地元に「絶対安全」と説明してきた建前が崩れる。資源のない日本で、国策である原発推進を担う東電にとっても、政府にとっても、これ以上「見たくないもの」はなかった。
最悪を考えない危機対策には限界がある。「福島原発が全電源を失ったらどうなるか」。昨年11月、東電は福島県でそんな想定の避難訓練をした。ただ、原子炉の冷却機能を失ってから数時間後には非常用電源が回復するというシナリオだった。住民からは「訓練なんて何の役にも立たなかった」との声がもれる。
地元が求めていた避難用道路の整備も進んでおらず、今回の避難では15分ほどで行ける道が渋滞で2時間以上かかった。
ひとたび危機が起きれば、日本各地に、世界に連鎖する。震源から距離がある首都圏も、帰宅難民や物資の買いだめなど、思わぬ混乱に悩まされた。
震災直後、東京証券取引所には投資家の換金売りが殺到。東証1部の売買高は3月15日には過去最高の約58億株に達した。処理能力を超えればシステムは突然止まる。市場機能が停止すれば混乱は世界に及ぶ。「もしシステムを更新していなかったら……」。東証幹部らは冷や汗を流した。処理能力を大幅に高めた新システムを稼働したのは1年前のことだった。
危機管理の基本は平時における危機の認識と事前の準備にある。そして想定外の事態が起きても被害を最小化する柔軟な「構え」が欠かせない。
政治家も、官僚も、企業も甘かった。次の世代へ教訓を刻むのは今しかない。
(上から)3月11日、宮城県の沿岸をのみ込む大津波/同日、歩いて都心の職場から帰宅する人たち/同24日、爆発で建屋が壊れている福島第1原発4号機=無人機で撮影、エアフォートサービス提供
福島第1原子力発電所の復旧作業に従事する東京電力の協力会社社員が、社長にあてた手紙がある。4月中旬のことだ。「免震重要棟は狭くて息苦しい。食事も立ったまま。(トイレの水が流せず)臭気もきつく、つらい……」
現場では今も約1400人が作業にあたる。環境は少しずつ、改善しているというが、被曝(ひばく)の危険と背中合わせの作業が続く。自己犠牲に頼る危機対応は本来、あるべき姿ではない。
首相の菅直人(64)は原発事故の調査委員会を5月中旬をメドに発足させる。政府の中央防災会議は地震・津波対策強化の検討に入った。甘かった想定の見直しは必要だが、あらゆる災害を防潮堤などの社会資本だけで防ぐのには限界がある。コストとの兼ね合いを直視し、非常時の訓練や法整備など、ハードとソフトを組み合わせた取り組みが、危機に強い国をつくる。
事故後指揮委員会――。原発大国、フランスにある組織だ。放射能漏れ事故などが起これば電力公社に代わって対応に当たる。各省庁や軍を指揮下に置き、住民の避難から放射性廃棄物の処理まで一元的に担う。仏原子力安全委員会副委員長のラショム(51)は「事故は必ず起きるという考え方こそが危機管理」と話す。それは原発に限らない。
米大統領のオバマ(49)は4月末、アラバマなど南部3州の知事の要請を受け、大規模災害宣言を出した。この地域を襲った竜巻の被害に対処するためだ。
宣言により、医療費やがれきの片付けなどへの連邦予算の予備費の支出が自動的に認められる。事態が悪化すれば知事は州軍による戒厳令を敷くことも可能。戒厳令下では私権は停止され、住民の強制排除、建物の事前許諾なしの取り壊しなどができる。
戦争や内乱でなく大規模な自然災害を「国家の非常事態」として、政府の強い権限行使を包括的に認める国は少なくない。しかし、日本にはそうした規定が事実上、ない。
「災害対策基本法で国が強制して生活物資を配給できないか」。大震災の被災地でガソリンや医薬品の不足が叫ばれた際、与野党内で一時、こんな案がでた。ただ同法が政令による強権発動を認めているのは国会閉会中だけ。国民の私権制限への慎重論もあって立ち消えになった。
「東海、東南海、南海の連動地震や首都直下地震が起きたとき、現行制度のままで対応できるのか」。拓殖大大学院教授の森本敏(70)は、民間から物資やタンクローリーなどの輸送手段を強制的に集めることなどができる緊急事態基本法の制定を提唱する。
新型インフルエンザの大流行や朝鮮半島有事――。想定すべき事態はほかにもある。危機への備えは社会全体で取り組むテーマだ。タブーを排して議論を進めないと、万が一の時、超法規的措置で対応せざるを得なくなる。
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