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:2011:01/28/10:17 ++ 日本国債を格下げ、S&P、8年ぶり、改革の実現性疑問視。
米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は27日、日本の長期国債の格付けを「ダブルA」から「ダブルAマイナス」に1段階引き下げたと発表した。同社による日本国債の格下げは2002年4月以来、8年9カ月ぶり。「財政赤字が今後数年にわたって高止まりする」ことを理由に挙げた。
(関連記事3、5面に)
S&Pの小川隆平ディレクターは電話会見で「いまの政治状況では政府が政策を実現しようとしても国会議決につながる可能性が小さい」と指摘。衆院と参院の多数派が異なる状況での財政健全化改革の実現性に疑問を投げかけた。
「ダブルAマイナス」は上から4番目。財政不安に揺れるスペインを下回り、中国、サウジアラビア、台湾などと同じ水準だ。S&Pは昨年1月に見通しを「安定的」から「引き下げ方向」に変更していた。今後の見通しは「安定的」としている。
公的債務残高の国内総生産(GDP)比率は200%超と、主要国の中では突出して高い。S&Pはこの比率が20年半ばまで悪化し続けると予想。国と地方の基礎的財政収支を20年度に黒字化するとの政府目標は「大規模な財政再建策が実施されない限り、達成できない」と分析した。
財務省の試算によると、長期金利(新発10年物国債利回り)が1%上昇した場合、利払い費を含む国債費は12年度に1兆円、13年度に2・5兆円、14年度に4・2兆円それぞれ増える。
野田佳彦財務相は格下げ発表を受け「節目、節目で財政規律を守るメッセージを出していくことが重要だ」と語った。
(関連記事3、5面に)
S&Pの小川隆平ディレクターは電話会見で「いまの政治状況では政府が政策を実現しようとしても国会議決につながる可能性が小さい」と指摘。衆院と参院の多数派が異なる状況での財政健全化改革の実現性に疑問を投げかけた。
「ダブルAマイナス」は上から4番目。財政不安に揺れるスペインを下回り、中国、サウジアラビア、台湾などと同じ水準だ。S&Pは昨年1月に見通しを「安定的」から「引き下げ方向」に変更していた。今後の見通しは「安定的」としている。
公的債務残高の国内総生産(GDP)比率は200%超と、主要国の中では突出して高い。S&Pはこの比率が20年半ばまで悪化し続けると予想。国と地方の基礎的財政収支を20年度に黒字化するとの政府目標は「大規模な財政再建策が実施されない限り、達成できない」と分析した。
財務省の試算によると、長期金利(新発10年物国債利回り)が1%上昇した場合、利払い費を含む国債費は12年度に1兆円、13年度に2・5兆円、14年度に4・2兆円それぞれ増える。
野田佳彦財務相は格下げ発表を受け「節目、節目で財政規律を守るメッセージを出していくことが重要だ」と語った。
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:2011:01/24/11:17 ++ 企業改革に“巨石”を投げよ―「責任先頭」を競い合え(核心)
「Jobs、Jobs、Jobs」。米国の経済報道、論壇ではJobsが氾濫している。「WherearetheJobs?」という見出しも。突然に病気休養の宣言をして世界を慌てさせたアップル最高経営責任者(CEO)のジョブズ氏の行方ではない。企業収益回復の中で置き去りの雇用の話だ。失業率が、長期デフレで苦しむ日本のほぼ倍で高止まるのはなぜか。犯人捜しに懸命だ。
しかし日本も雇用問題は深刻だ。昨年12月時点の今春大卒者の就職内定率は68・8%で過去最低。「何度も願書用顔写真の焼き増しを頼みに行くので、同情して激安価格にしてくれました」。用意した100枚を使い切って就活が越年した学生がこう報告してきた。
「日本経済はサドンデス状態ですよ」。計量経済モデルの専門家などからこんな脅しを聞く。例えば現状の制度のままで政府・地方の債務残高の対国内総生産(GDP)比は約180%から今後どこまで上がるか。2020年までには2倍を超え、30年には……、などと図示される。実は国債増発↓消化不調↓価格下落↓金利上昇などのルートで財政が破綻し、モデルが停止してしまうらしい。
「日本勢の3Dテレビの反響はどうです」。米家電ショーから戻った米エコノミストに聞いたら「心配はDebt(国債)、Demography(人口)、Deflation(デフレ)の3Dでしょう」と揶揄(やゆ)された。南半球の蝶(ちょう)の羽ばたきより強力で不気味な引き金。何年後には、というシミュレーションは願望に押し切られた空想でしかない。
そこは何とか政府がしのいでくれる、企業は自分の城を守るのに専念すればよい、企業が業績拡大を目指して競争すれば経済全体も浮上する……。
むろん間違いではないが、政府に催促しながら企業が危機脱出へ積極的に発言し実践することも重要だ。政府任せでは突然、黒字倒産するかもしれない。
先の新卒の雇用問題。雇用の絶対量の不足というより大企業と中堅・中小企業との間で充足のミスマッチが深刻な就職難を生んでいる。であれば希望者が殺到する大企業が説明会で、関連する取引先や協力企業の企業紹介に努めたり、合同で企業説明会を開いて情報過疎の中小企業などに日を当ててやればよい。
春季労使交渉が始まったが「リーマンショック後の回復過程への貢献を利益の還元という形で報いるなら第一に協力企業、次に非正規雇用者、最後に正規雇用者」。コマツの坂根正弘会長はこういう。逆境を共に踏ん張った中堅・中小の衰退のツケは大企業に回る。韓国・台湾や中国の企業は間違いなくM&Aの触手を伸ばす。人材確保で中小企業を支援することは産業構造の自壊を防ぎ、自らの足腰を鍛えることになる。
地域の活性化問題も企業が東京での一極集中求人を抑えて地元での採用を増やすことで貢献できる。日産自動車が九州工場を分社化してアジアの生産拠点と対抗できる競争力を持つモノ造り企業に育成しようとしている。賃金の引き下げや調達資材の低コスト化は北部九州を途上国経済化する側面もあるが活力を取り戻すきっかけにはなる。
懸案の法人税減税も、その果実のステークホルダーへの還元を視野に入れた有効活用に、決然とコミットする企業が出てきてよい。
「日本経済立て直しの答案はすべて出ている。必要なのは行動だけだ」(北城恪太郎前経済同友会代表幹事)。年始のパーティーなどで挨拶を交わした経営者は異口同音にこういう。政府に対してのことだが、その言葉はそのまま企業に跳ね返る。経済・業界団体の意思統一や政府の要請を待たずに、まず隗(かい)より始めよである。
誰が隗になるのか。毎年1月3日の本紙朝刊で有力経営者20人が今年の株価動向・有望銘柄を挙げている。有望銘柄とは好業績で株価の上昇を期待できる企業を指すが、実質的には経営者の目線で見て注視すべき企業つまりピアレビューした優良企業群だ。これらがまず「団隗」の候補である。
この10年のベスト3の顔ぶれを見ると、2002年から07年までトヨタ自動車がトップだった。いざなぎ超え景気をけん引し、良くも悪くも産業界が「パックス・トヨタ」の時代だった。それがリーマンショックによる自動車不況で崩れた。
「責任先頭」というルールが競輪競技やスピードスケートにある。先頭走者を風よけにして体力温存するのでなく自らも先頭に立って走らなければならない。経済・業界団体の主導企業やピアレビューで評価される企業などは責任先頭を期待されている。期待に応えて企業社会の改革を先導してもらいたい。ほんの一石のつもりが産業界を巻き込む巨石になりうる。
「ノーベル賞を受賞するのは1000万人分の1人の確率」(根岸英一米パデュー大名誉教授)。ノーベル賞は大科学者に任せてこう考えてはどうか。女性活用では10社で1番、正規雇用者比率も10社でトップ、研究開発比率も同様。となれば10%の確率の積み重ねで1000社のトップに躍り出る。どんな角度からでも構わない。10社の中の責任先頭を果たす積み重ねが企業を押し上げ、産業界の課題解決にも貢献する。
しかし日本も雇用問題は深刻だ。昨年12月時点の今春大卒者の就職内定率は68・8%で過去最低。「何度も願書用顔写真の焼き増しを頼みに行くので、同情して激安価格にしてくれました」。用意した100枚を使い切って就活が越年した学生がこう報告してきた。
「日本経済はサドンデス状態ですよ」。計量経済モデルの専門家などからこんな脅しを聞く。例えば現状の制度のままで政府・地方の債務残高の対国内総生産(GDP)比は約180%から今後どこまで上がるか。2020年までには2倍を超え、30年には……、などと図示される。実は国債増発↓消化不調↓価格下落↓金利上昇などのルートで財政が破綻し、モデルが停止してしまうらしい。
「日本勢の3Dテレビの反響はどうです」。米家電ショーから戻った米エコノミストに聞いたら「心配はDebt(国債)、Demography(人口)、Deflation(デフレ)の3Dでしょう」と揶揄(やゆ)された。南半球の蝶(ちょう)の羽ばたきより強力で不気味な引き金。何年後には、というシミュレーションは願望に押し切られた空想でしかない。
そこは何とか政府がしのいでくれる、企業は自分の城を守るのに専念すればよい、企業が業績拡大を目指して競争すれば経済全体も浮上する……。
むろん間違いではないが、政府に催促しながら企業が危機脱出へ積極的に発言し実践することも重要だ。政府任せでは突然、黒字倒産するかもしれない。
先の新卒の雇用問題。雇用の絶対量の不足というより大企業と中堅・中小企業との間で充足のミスマッチが深刻な就職難を生んでいる。であれば希望者が殺到する大企業が説明会で、関連する取引先や協力企業の企業紹介に努めたり、合同で企業説明会を開いて情報過疎の中小企業などに日を当ててやればよい。
春季労使交渉が始まったが「リーマンショック後の回復過程への貢献を利益の還元という形で報いるなら第一に協力企業、次に非正規雇用者、最後に正規雇用者」。コマツの坂根正弘会長はこういう。逆境を共に踏ん張った中堅・中小の衰退のツケは大企業に回る。韓国・台湾や中国の企業は間違いなくM&Aの触手を伸ばす。人材確保で中小企業を支援することは産業構造の自壊を防ぎ、自らの足腰を鍛えることになる。
地域の活性化問題も企業が東京での一極集中求人を抑えて地元での採用を増やすことで貢献できる。日産自動車が九州工場を分社化してアジアの生産拠点と対抗できる競争力を持つモノ造り企業に育成しようとしている。賃金の引き下げや調達資材の低コスト化は北部九州を途上国経済化する側面もあるが活力を取り戻すきっかけにはなる。
懸案の法人税減税も、その果実のステークホルダーへの還元を視野に入れた有効活用に、決然とコミットする企業が出てきてよい。
「日本経済立て直しの答案はすべて出ている。必要なのは行動だけだ」(北城恪太郎前経済同友会代表幹事)。年始のパーティーなどで挨拶を交わした経営者は異口同音にこういう。政府に対してのことだが、その言葉はそのまま企業に跳ね返る。経済・業界団体の意思統一や政府の要請を待たずに、まず隗(かい)より始めよである。
誰が隗になるのか。毎年1月3日の本紙朝刊で有力経営者20人が今年の株価動向・有望銘柄を挙げている。有望銘柄とは好業績で株価の上昇を期待できる企業を指すが、実質的には経営者の目線で見て注視すべき企業つまりピアレビューした優良企業群だ。これらがまず「団隗」の候補である。
この10年のベスト3の顔ぶれを見ると、2002年から07年までトヨタ自動車がトップだった。いざなぎ超え景気をけん引し、良くも悪くも産業界が「パックス・トヨタ」の時代だった。それがリーマンショックによる自動車不況で崩れた。
「責任先頭」というルールが競輪競技やスピードスケートにある。先頭走者を風よけにして体力温存するのでなく自らも先頭に立って走らなければならない。経済・業界団体の主導企業やピアレビューで評価される企業などは責任先頭を期待されている。期待に応えて企業社会の改革を先導してもらいたい。ほんの一石のつもりが産業界を巻き込む巨石になりうる。
「ノーベル賞を受賞するのは1000万人分の1人の確率」(根岸英一米パデュー大名誉教授)。ノーベル賞は大科学者に任せてこう考えてはどうか。女性活用では10社で1番、正規雇用者比率も10社でトップ、研究開発比率も同様。となれば10%の確率の積み重ねで1000社のトップに躍り出る。どんな角度からでも構わない。10社の中の責任先頭を果たす積み重ねが企業を押し上げ、産業界の課題解決にも貢献する。
:2011:01/24/10:56 ++ 崖っぷち国会(下)マニフェスト修正どこへ――議論なく戦略場当たり。
「社会保障や農業で正しいことを言っていれば、野党は逃げられないんだ」。菅直人首相は周辺の「戦線を広げすぎない方がいいんじゃないですか」との進言を、こう退ける。次々に打ち上げる政策課題こそが最上の国会対策だ、との理屈だ。そのため衆院選マニフェスト(政権公約)は大幅に見直す。
首相は22日、公邸に福山哲郎官房副長官や西宮伸一外務審議官を呼び「平成の開国を、国際的にどう訴えたらいいかな」と問いかけた。貿易を自由化して原則関税を撤廃する環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を、首相は「農を尊び、国を開く。尊農開国だ」と呼ぶ。幕末維新の「尊皇」「開国」にひっかけた造語である。
外交は180度転換
社会保障などの超党派協議に野党が参加しないなら「歴史に対する反逆行為」だとも断じた。繰り返し歴史を持ち出して高揚する首相は「与野党だけでなく、国民の皆さんと一緒に議論する国会にしたい」と強調する。その具体策が、政治家以外の識者を加えた組織を使うことだ。
「社会保障改革に残された時間は少ない。民間からも声をあげて盛り上げてほしい」。20日夜、日銀の白川方明総裁、日本経団連の米倉弘昌会長、連合の古賀伸明会長らとの会食で首相は繰り返した。
社会保障と税の一体改革を任された与謝野馨経済財政担当相は早速、民間を交えた「集中検討会議」を設けた。与謝野氏は基礎年金の「税方式」を掲げたマニフェストから、社会保険方式も視野に入れる。「首相の諮問機関」で見直す戦略だ。
トップダウンも進める。20日、首相は各国大使や企業関係者を前に「日米同盟が基軸」と訴え、マニフェストの「東アジア共同体構想」と決別した。鳩山由紀夫前首相が代表として戦った衆院選で主張した外交政策は180度、転換した。
外交、消費税、社会保障、TPP……。見直す課題の方向性は間違っていない。欠けているのは実行に移すための日程表と戦略、調整役だ。
過去は周到準備
竹下内閣は国会決議や野党との交渉を重ねて消費税を導入した。行政改革に取り組んだ中曽根内閣は、自民党内の勢力図に常に気を配った。トップダウンと諮問機関をフル活用した小泉純一郎元首相でさえ、参院との決定的な対決は避けてきた。
節目は6月だ。官僚の予算カレンダーでは当年度予算と関連法案が通り、通常国会が閉幕し、次年度の概算要求づくりを始める時期だからだ。ところが、今年は予算関連法案が成立する見通しがたたない。「国会の終わり方がみえるまで新しいことはしない」と政務三役の一人は語る。
21日の食と農林漁業の再生実現会議では「TPP参加で農協が弱体化したら水田農業はできない」「参加が前提だ」と出席者で言い争いになった。玄葉光一郎国家戦略相が民主党政調会長の立場として「前提にしているわけではない」と、何とかその場をおさめた。
しかし玄葉氏は国会審議を優先せざるを得ない。野党の反発で、与謝野氏は成案づくりの役目に後退した。与党内と有識者をとりまとめる調整役も不透明だ。
野党を押し切るには強力な党内基盤と、世論の後押しが欠かせない。「公約を変えるなら信を問え」と自民党は主張する。マニフェスト修正は前途多難だ。
首相は22日、公邸に福山哲郎官房副長官や西宮伸一外務審議官を呼び「平成の開国を、国際的にどう訴えたらいいかな」と問いかけた。貿易を自由化して原則関税を撤廃する環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を、首相は「農を尊び、国を開く。尊農開国だ」と呼ぶ。幕末維新の「尊皇」「開国」にひっかけた造語である。
外交は180度転換
社会保障などの超党派協議に野党が参加しないなら「歴史に対する反逆行為」だとも断じた。繰り返し歴史を持ち出して高揚する首相は「与野党だけでなく、国民の皆さんと一緒に議論する国会にしたい」と強調する。その具体策が、政治家以外の識者を加えた組織を使うことだ。
「社会保障改革に残された時間は少ない。民間からも声をあげて盛り上げてほしい」。20日夜、日銀の白川方明総裁、日本経団連の米倉弘昌会長、連合の古賀伸明会長らとの会食で首相は繰り返した。
社会保障と税の一体改革を任された与謝野馨経済財政担当相は早速、民間を交えた「集中検討会議」を設けた。与謝野氏は基礎年金の「税方式」を掲げたマニフェストから、社会保険方式も視野に入れる。「首相の諮問機関」で見直す戦略だ。
トップダウンも進める。20日、首相は各国大使や企業関係者を前に「日米同盟が基軸」と訴え、マニフェストの「東アジア共同体構想」と決別した。鳩山由紀夫前首相が代表として戦った衆院選で主張した外交政策は180度、転換した。
外交、消費税、社会保障、TPP……。見直す課題の方向性は間違っていない。欠けているのは実行に移すための日程表と戦略、調整役だ。
過去は周到準備
竹下内閣は国会決議や野党との交渉を重ねて消費税を導入した。行政改革に取り組んだ中曽根内閣は、自民党内の勢力図に常に気を配った。トップダウンと諮問機関をフル活用した小泉純一郎元首相でさえ、参院との決定的な対決は避けてきた。
節目は6月だ。官僚の予算カレンダーでは当年度予算と関連法案が通り、通常国会が閉幕し、次年度の概算要求づくりを始める時期だからだ。ところが、今年は予算関連法案が成立する見通しがたたない。「国会の終わり方がみえるまで新しいことはしない」と政務三役の一人は語る。
21日の食と農林漁業の再生実現会議では「TPP参加で農協が弱体化したら水田農業はできない」「参加が前提だ」と出席者で言い争いになった。玄葉光一郎国家戦略相が民主党政調会長の立場として「前提にしているわけではない」と、何とかその場をおさめた。
しかし玄葉氏は国会審議を優先せざるを得ない。野党の反発で、与謝野氏は成案づくりの役目に後退した。与党内と有識者をとりまとめる調整役も不透明だ。
野党を押し切るには強力な党内基盤と、世論の後押しが欠かせない。「公約を変えるなら信を問え」と自民党は主張する。マニフェスト修正は前途多難だ。
:2011:01/24/10:51 ++ 崖っぷち国会(上)菅政権、春に重大な岐路―滞る法案、打開見えず。
150日間の通常国会が24日、始まる。参院での「逆転国会」の状況は変わらず、憲法が衆院の優越を認める2011年度予算案以外に、成立のメドがついている法案は一つもない。前例なき国会を展望する。
「国のお金は6月末か7月末には尽きる。計算上は公的サービスの停止も考えざるを得ない」。政府・与党でひそかに検討しているシミュレーションがある。予算関連の赤字国債発行法案が成立しない場合の影響分析だ。
来年度予算は税収41兆円、赤字国債38兆円を財源に見込む。地方自治体には早い時期に渡さなければならないなど、お金の消化は年度前半に偏る。税収分は3~4カ月でなくなる、というのだ。
民主党首脳は「国民生活に影響を与える責任を負えるのか」と野党に脅しをかける。
進まぬ野党対策
1996年の住専国会では、国会内でピケをはって予算成立に抵抗した野党、新進党が失速した。米国では94年の中間選挙に勝利した共和党が予算執行に待ったをかけ、民主党のクリントン政権は連邦機関を閉鎖した。批判を浴びたのは野党、共和党だった。「だから野党は関連法案に賛成せざるを得なくなる」と民主党首脳は自信を示す。
今回は状況が異なる。住専国会にあたった橋本龍太郎内閣の支持は底堅く、90年代の米国は景気が上向いていた。それに比べ今は野党だけに批判が集まる情勢にはない。
野党がもっとも警戒するはずの衆院解散カードも、効果がない。前回衆院選で大きく議席を減らした野党第1党の自民党は「今なら勝てる」と解散を待ち望む。民主党が「関連法案に賛成するはずだ」と期待する公明党も「前回落とした議席を全部、取り戻せる」と踏む。折り合う気配はない。
21日夜、首相は東京・赤坂のそば懐石料理店に参院幹部を招き「国会は参院に尽きる」と下座から呼びかけた。身内に低姿勢なのは、野党対策が進まない裏返しでもある。
国対も官僚頼み
「法案をどう通すのか知恵が必要だ。官房長、審議官に頻繁においでいただき、与野党の情報をあげてほしい」。民主党の安住淳国会対策委員長や藤井裕久官房副長官、首相補佐官らは19日、国会内に各府省の官房長らを集めて協力を要請した。「脱官僚」を唱えた民主党が、国対まで役人に頼る。
法案成立率は昨年の通常国会で55・4%、昨秋の臨時国会は37・8%にすぎない。「下働きはするが、責任を押しつけられても……」と、官僚たちは半身の構えを崩さない。
民主党も、一枚岩とはいえない。小沢一郎元代表の国会招致問題を執行部は詰め切れず、党内主流の「脱小沢」派に失望が広がった。小沢氏を支持する議員との亀裂も深まるばかり。首相と枝野幸男官房長官、仙谷由人代表代行、岡田克也幹事長の「4人組」への不満は強まる。
昨秋、首相が「熟議」の例にあげた金融国会で小渕恵三元首相は野党案を丸のみ、100%言い分を聞いた。小渕氏ほどではないにせよ、与野党伯仲時代は「野党の言い分を7割聞く」のが、国対の要諦だった。
首相自ら「内閣以上に日本が崖っぷちにある」と認める状況なのに、与党は「野党は最後は関連法案に賛成する」と楽観し、野党は「菅内閣はもたないだろう」と自滅を期待する。
政府内では「予算を執行する法案の不成立は、内閣不信任と同じだ」との見方が広がる。不信任は内閣総辞職か衆院解散を意味する。統一地方選後の4月末にも、菅政権は重大な岐路を迎える。
「国のお金は6月末か7月末には尽きる。計算上は公的サービスの停止も考えざるを得ない」。政府・与党でひそかに検討しているシミュレーションがある。予算関連の赤字国債発行法案が成立しない場合の影響分析だ。
来年度予算は税収41兆円、赤字国債38兆円を財源に見込む。地方自治体には早い時期に渡さなければならないなど、お金の消化は年度前半に偏る。税収分は3~4カ月でなくなる、というのだ。
民主党首脳は「国民生活に影響を与える責任を負えるのか」と野党に脅しをかける。
進まぬ野党対策
1996年の住専国会では、国会内でピケをはって予算成立に抵抗した野党、新進党が失速した。米国では94年の中間選挙に勝利した共和党が予算執行に待ったをかけ、民主党のクリントン政権は連邦機関を閉鎖した。批判を浴びたのは野党、共和党だった。「だから野党は関連法案に賛成せざるを得なくなる」と民主党首脳は自信を示す。
今回は状況が異なる。住専国会にあたった橋本龍太郎内閣の支持は底堅く、90年代の米国は景気が上向いていた。それに比べ今は野党だけに批判が集まる情勢にはない。
野党がもっとも警戒するはずの衆院解散カードも、効果がない。前回衆院選で大きく議席を減らした野党第1党の自民党は「今なら勝てる」と解散を待ち望む。民主党が「関連法案に賛成するはずだ」と期待する公明党も「前回落とした議席を全部、取り戻せる」と踏む。折り合う気配はない。
21日夜、首相は東京・赤坂のそば懐石料理店に参院幹部を招き「国会は参院に尽きる」と下座から呼びかけた。身内に低姿勢なのは、野党対策が進まない裏返しでもある。
国対も官僚頼み
「法案をどう通すのか知恵が必要だ。官房長、審議官に頻繁においでいただき、与野党の情報をあげてほしい」。民主党の安住淳国会対策委員長や藤井裕久官房副長官、首相補佐官らは19日、国会内に各府省の官房長らを集めて協力を要請した。「脱官僚」を唱えた民主党が、国対まで役人に頼る。
法案成立率は昨年の通常国会で55・4%、昨秋の臨時国会は37・8%にすぎない。「下働きはするが、責任を押しつけられても……」と、官僚たちは半身の構えを崩さない。
民主党も、一枚岩とはいえない。小沢一郎元代表の国会招致問題を執行部は詰め切れず、党内主流の「脱小沢」派に失望が広がった。小沢氏を支持する議員との亀裂も深まるばかり。首相と枝野幸男官房長官、仙谷由人代表代行、岡田克也幹事長の「4人組」への不満は強まる。
昨秋、首相が「熟議」の例にあげた金融国会で小渕恵三元首相は野党案を丸のみ、100%言い分を聞いた。小渕氏ほどではないにせよ、与野党伯仲時代は「野党の言い分を7割聞く」のが、国対の要諦だった。
首相自ら「内閣以上に日本が崖っぷちにある」と認める状況なのに、与党は「野党は最後は関連法案に賛成する」と楽観し、野党は「菅内閣はもたないだろう」と自滅を期待する。
政府内では「予算を執行する法案の不成立は、内閣不信任と同じだ」との見方が広がる。不信任は内閣総辞職か衆院解散を意味する。統一地方選後の4月末にも、菅政権は重大な岐路を迎える。
:2011:01/21/09:52 ++ 新局面の米中関係が問う日本外交(社説)
世界2位の経済大国になったとみられる中国は、国際社会でどんな役割を担っていくのか。世界が抱く疑問だ。訪米した中国の胡錦濤国家主席にオバマ米大統領が投げかけたのも、突き詰めればこの問いだったろう。そして明快な答えは得られなかったという印象を受ける。
個別の具体的な問題で食い違いの目立つ首脳会談だった。経済では人民元をめぐる溝。安全保障では、挑発的な行動を繰り返す北朝鮮を抑制する具体的な対応を打ち出せなかった。劉暁波氏のノーベル平和賞受賞で改めて注目を集めた人権問題では対立が際立った。
互いに無視できぬ国に
浮かび上がるのは、自らの利益を優先し、大国にふさわしい役割を果たすことに消極的な中国共産党政権の姿である。
それでもオバマ大統領は、会談後の共同記者会見で「我々が協力するのは世界に良いことだ」と語り、共同声明では世界の諸問題に連携して取り組む方針を打ち出した。ブッシュ前政権が提供しなかった国賓の待遇で、胡主席をもてなした。様々な対立を踏まえながら、世界の中で急速に増す中国の重みを考えた、戦略的な判断だろう。
中国政府は20日、2010年の国内総生産(GDP)が前年比実質10・3%増え、名目で39兆7983億元に達したと発表した。日本の10年のGDPはまだ確定していないが、米ドルに換算した場合に中国の経済規模が日本を上回り、米国に次ぐ世界2位になったのは確実だ。
温暖化ガスの排出量でも、軍事費でも米中は世界の上位2位を占める。グローバルな課題はなんであれ、米中を抜きにしては語れない時代が到来した。米中間の問題はもとより世界の諸問題の解決にあたっても、両国は互いを無視できない局面を迎えたのだといえよう。
オバマ大統領は共同記者会見で「中国を封じ込めることはしない」と語った。冷戦時代に旧ソ連に対したような政策を中国には適用しないとの表明である。
旧ソ連と違い、中国は世界の工場としてグローバルな経済相互依存関係の要となっている。米国債の最大の保有国で、世界最大の外貨準備も有する。封じ込めは米国経済にも世界経済にも深刻な打撃を与えるし、そもそも不可能だろう。
米国と中国が互いの利害にかかわる問題や環境など世界の課題について対話を深めた場合に、両国の国益を優先する形で議論が進んでいく可能性も否定できない。こうした事態が日本や他の国々の国益にかなうとは限らない。
だからこそ、対中政策をはじめとして日本の外交も問われる。菅直人首相は今回の会談結果に敏感でなければならない。中国が経済、安全保障の両面で責任ある行動をとるよう、日本としても効果的に働きかけていく必要がある。
米中首脳会談で焦点となった人民元や知的財産権保護など通商課題、環境問題は日本にとっても重要なテーマ。米中対立の主因である中国の急速な軍備増強は、隣国である日本の安保に直結する。
では、何をすべきか。まず不可欠なのは、今回の米中首脳会談を踏まえて、米国とこれからの対中政策を緊密に擦り合わせることだ。
日米は今春に予定される首相訪米の際に、今後の同盟のあり方をうたった日米共同安保宣言を採択する。これに合わせ、両国の共通戦略目標も新たに策定する方向だ。両国に仕切らせぬ気概
その準備作業で中心となるべきは、対中戦略の進め方だ。中国の責任大国化を促すために日米がどのように協力するのか具体的な方向を決め、宣言に明記すべきだ。
日本が果たすべき役割は多い。中国軍の海洋進出をめぐっては、自衛隊による情報収集や警戒・監視の強化など、米軍に協力できる余地が大きい。温暖化ガス削減では消極的な米中の説得に努める必要がある。
もっとも、中国の台頭に日米だけで対応するには限界がある。東南アジア諸国や韓国、インドなど中国の風圧を強く感じている国々にも連携を呼びかけるべきだ。日米とこれらの国々が一緒に中国に関与し、責任ある行動を働きかける足場を築くためだ。
並行して、日中関係を立て直すことも急務だ。時には痛みに満ちた交流を有する隣人として、新しい時代にふさわしい中国との関係を模索しなければなるまい。尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件で傷ついた両国関係が改善しなければ、中国側の前向きな協力を得るのは難しい。
中国に抜かれ43年ぶりに世界3位の経済規模に転落したとはいえ、日本は依然としてアジアで最も豊かな国の一つ。米中主導で世界の新たな秩序作りが進まないよう、大国として汗をかく気構えが必要だ。
個別の具体的な問題で食い違いの目立つ首脳会談だった。経済では人民元をめぐる溝。安全保障では、挑発的な行動を繰り返す北朝鮮を抑制する具体的な対応を打ち出せなかった。劉暁波氏のノーベル平和賞受賞で改めて注目を集めた人権問題では対立が際立った。
互いに無視できぬ国に
浮かび上がるのは、自らの利益を優先し、大国にふさわしい役割を果たすことに消極的な中国共産党政権の姿である。
それでもオバマ大統領は、会談後の共同記者会見で「我々が協力するのは世界に良いことだ」と語り、共同声明では世界の諸問題に連携して取り組む方針を打ち出した。ブッシュ前政権が提供しなかった国賓の待遇で、胡主席をもてなした。様々な対立を踏まえながら、世界の中で急速に増す中国の重みを考えた、戦略的な判断だろう。
中国政府は20日、2010年の国内総生産(GDP)が前年比実質10・3%増え、名目で39兆7983億元に達したと発表した。日本の10年のGDPはまだ確定していないが、米ドルに換算した場合に中国の経済規模が日本を上回り、米国に次ぐ世界2位になったのは確実だ。
温暖化ガスの排出量でも、軍事費でも米中は世界の上位2位を占める。グローバルな課題はなんであれ、米中を抜きにしては語れない時代が到来した。米中間の問題はもとより世界の諸問題の解決にあたっても、両国は互いを無視できない局面を迎えたのだといえよう。
オバマ大統領は共同記者会見で「中国を封じ込めることはしない」と語った。冷戦時代に旧ソ連に対したような政策を中国には適用しないとの表明である。
旧ソ連と違い、中国は世界の工場としてグローバルな経済相互依存関係の要となっている。米国債の最大の保有国で、世界最大の外貨準備も有する。封じ込めは米国経済にも世界経済にも深刻な打撃を与えるし、そもそも不可能だろう。
米国と中国が互いの利害にかかわる問題や環境など世界の課題について対話を深めた場合に、両国の国益を優先する形で議論が進んでいく可能性も否定できない。こうした事態が日本や他の国々の国益にかなうとは限らない。
だからこそ、対中政策をはじめとして日本の外交も問われる。菅直人首相は今回の会談結果に敏感でなければならない。中国が経済、安全保障の両面で責任ある行動をとるよう、日本としても効果的に働きかけていく必要がある。
米中首脳会談で焦点となった人民元や知的財産権保護など通商課題、環境問題は日本にとっても重要なテーマ。米中対立の主因である中国の急速な軍備増強は、隣国である日本の安保に直結する。
では、何をすべきか。まず不可欠なのは、今回の米中首脳会談を踏まえて、米国とこれからの対中政策を緊密に擦り合わせることだ。
日米は今春に予定される首相訪米の際に、今後の同盟のあり方をうたった日米共同安保宣言を採択する。これに合わせ、両国の共通戦略目標も新たに策定する方向だ。両国に仕切らせぬ気概
その準備作業で中心となるべきは、対中戦略の進め方だ。中国の責任大国化を促すために日米がどのように協力するのか具体的な方向を決め、宣言に明記すべきだ。
日本が果たすべき役割は多い。中国軍の海洋進出をめぐっては、自衛隊による情報収集や警戒・監視の強化など、米軍に協力できる余地が大きい。温暖化ガス削減では消極的な米中の説得に努める必要がある。
もっとも、中国の台頭に日米だけで対応するには限界がある。東南アジア諸国や韓国、インドなど中国の風圧を強く感じている国々にも連携を呼びかけるべきだ。日米とこれらの国々が一緒に中国に関与し、責任ある行動を働きかける足場を築くためだ。
並行して、日中関係を立て直すことも急務だ。時には痛みに満ちた交流を有する隣人として、新しい時代にふさわしい中国との関係を模索しなければなるまい。尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件で傷ついた両国関係が改善しなければ、中国側の前向きな協力を得るのは難しい。
中国に抜かれ43年ぶりに世界3位の経済規模に転落したとはいえ、日本は依然としてアジアで最も豊かな国の一つ。米中主導で世界の新たな秩序作りが進まないよう、大国として汗をかく気構えが必要だ。
:2011:01/21/09:08 ++ NEC、レノボと合弁、パソコン日中連合、最終調整、過半出資受け入れ。
NECは中国のパソコン最大手レノボ・グループ(聯想集団)と合弁でパソコン事業を展開することで最終調整に入った。日本と中国市場のパソコン首位同士で連合を形成、開発や生産、資材調達を一体化し規模拡大で競争力を高める。年内にもNECのパソコン事業会社にレノボが過半を出資する方向だ。日中を代表する企業が連携し世界市場を本格的に開拓する初のケースになりそうだ。(関連記事9面に)
両社の提携は、パソコン周辺機器やそれ以外のIT(情報技術)機器・サービスでの協力関係に発展する可能性がある。パソコンの生産、販売を手掛けるNECの100%出資子会社、NECパーソナルプロダクツ(東京・品川、資本金188億円)が合弁会社の母体となり、レノボが過半を出資する方向だ。約2200人の従業員がいる同社の雇用は維持し、生産拠点である米沢事業場(山形県米沢市)を活用する。
NECは国内パソコン市場でシェア首位の約18%(2009年)を握るが、世界シェアは1%未満で12位にとどまる。一方、レノボは中国でのシェアが約27%と首位で、世界シェアも約8%と4位につける。両社が組んで世界首位の米ヒューレット・パッカード(HP)などを追撃する。
NEC全体の売上高約3兆5800億円のうちパソコンの売上高は2500億円程度とみられる。「PC98」シリーズで国内シェアの過半を占める時期もあったが、競合の台頭や価格下落で収益性が低下。国内市場の成長も見込みにくいなか、レノボ主導の事業形態に移行してパソコン事業の成長余地を確保する。
インターネット経由で様々な情報をユーザーに提供する「クラウドコンピューティング」など、情報システムサービスと通信、携帯電話機事業に経営資源を集中させる狙いもある。特にレノボのパソコンユーザー向けにこうした事業を展開できれば、世界2位の経済大国に成長した中国市場を一気に開拓できる。
合弁後もNECブランドのパソコンは存続する。アフターサービスなど国内のサポート体制も従来通り継続する。
レノボはNECの広範な販路などを活用し、約5%にとどまる日本でのシェア(8位)を高める。無線など最先端の通信技術を持つNECと手を組めば、クラウドを使った次世代端末の開発でもメリットが大きいと判断しているようだ。05年に米IBMのパソコン事業を買収して以来の大型M&A(合併・買収)となる。
IBMはITサービスに注力する一方、HPはパソコンなどハード機器とサービスを組み合わせる戦略。レノボもNECとの連携でサービスへの展開が可能になる。
IDCなどの推計によると、パソコンの世界出荷は14年に10年比約6割増の約5億5000万台に増えるのに対し、国内は同5%減の約1480万台にとどまる。日中連合の誕生を機に再編機運が高まる可能性がある。
両社の提携は、パソコン周辺機器やそれ以外のIT(情報技術)機器・サービスでの協力関係に発展する可能性がある。パソコンの生産、販売を手掛けるNECの100%出資子会社、NECパーソナルプロダクツ(東京・品川、資本金188億円)が合弁会社の母体となり、レノボが過半を出資する方向だ。約2200人の従業員がいる同社の雇用は維持し、生産拠点である米沢事業場(山形県米沢市)を活用する。
NECは国内パソコン市場でシェア首位の約18%(2009年)を握るが、世界シェアは1%未満で12位にとどまる。一方、レノボは中国でのシェアが約27%と首位で、世界シェアも約8%と4位につける。両社が組んで世界首位の米ヒューレット・パッカード(HP)などを追撃する。
NEC全体の売上高約3兆5800億円のうちパソコンの売上高は2500億円程度とみられる。「PC98」シリーズで国内シェアの過半を占める時期もあったが、競合の台頭や価格下落で収益性が低下。国内市場の成長も見込みにくいなか、レノボ主導の事業形態に移行してパソコン事業の成長余地を確保する。
インターネット経由で様々な情報をユーザーに提供する「クラウドコンピューティング」など、情報システムサービスと通信、携帯電話機事業に経営資源を集中させる狙いもある。特にレノボのパソコンユーザー向けにこうした事業を展開できれば、世界2位の経済大国に成長した中国市場を一気に開拓できる。
合弁後もNECブランドのパソコンは存続する。アフターサービスなど国内のサポート体制も従来通り継続する。
レノボはNECの広範な販路などを活用し、約5%にとどまる日本でのシェア(8位)を高める。無線など最先端の通信技術を持つNECと手を組めば、クラウドを使った次世代端末の開発でもメリットが大きいと判断しているようだ。05年に米IBMのパソコン事業を買収して以来の大型M&A(合併・買収)となる。
IBMはITサービスに注力する一方、HPはパソコンなどハード機器とサービスを組み合わせる戦略。レノボもNECとの連携でサービスへの展開が可能になる。
IDCなどの推計によると、パソコンの世界出荷は14年に10年比約6割増の約5億5000万台に増えるのに対し、国内は同5%減の約1480万台にとどまる。日中連合の誕生を機に再編機運が高まる可能性がある。
:2011:01/20/09:25 ++ TPP日本の覚悟(下)反対を叫ぶだけでは――閉塞打破への道議論を。
「小麦や豚は壊滅。農業生産額は半減し、農家は7割減……」
北海道による環太平洋経済連携協定(TPP)参加の影響試算だ。道農政課は「道経済は立ち行かなくなる」と強調する。
非現実的な悲観
全国各地から上がるTPP反対の声。農業の盛んな県ほど「TPP参加はありえない」(鹿児島県の伊藤祐一郎知事)と訴えるが、“壊滅シナリオ”の現実味は乏しい。試算は世界中で関税がゼロになり、あらゆる農産物が自由に取引されるとの極端な前提に立つ。農林水産省は国産米の9割、約760万トンが外国産に替わるというものの、「それだけの主食用米を日本へ輸出できる国はない」(本間正義東大教授)。
地方にも「国際競争力の低下は国の衰退を招く。経済連携の推進と農業振興の両立が必要」(新潟県の泉田裕彦知事)との意見もある。何より、TPPに参加しても即時にすべてが関税撤廃されるわけではない。現加盟国でも、例えばチリは小麦や砂糖、乳製品などに10~12年の猶予期間を設けている。農業強化策を講じるには十分な時間だ。
活路の一つは輸出。JA東西しらかわ(福島県白河市)は昨年11月、それまでの香港に続き、オーストラリアにコシヒカリ5トンを初めて輸出した。鈴木昭雄組合長は「品質の高い国産米は海外でも通用する」との手応えを感じている。
「農業も積極的に海を渡るべきだ」。農業組合法人、和郷園(千葉県香取市)の木内博一代表は言う。縮小していく国内市場にとどまっていては成長できないとの思いからだ。和郷園も香港に現地法人をつくって日本の野菜などを販売。2010年の年商は8億円で、前年比3割増えた。
08年の農業総産出額はピーク時の1984年から約3割減り、農業就業者の平均年齢は65歳を超えた。就業人口や耕地面積は半世紀にわたって減り続ける「失われた50年」の状態だ。それでも「戸別所得補償の対象を絞り込んだり、担い手の若返りと規模拡大を進めたりすれば、日本の農業は再生できる」(日本総合研究所の藤波匠主任研究員)との見方は多い。
そのためには一定の財政支援も必要だ。コメ市場の部分開放を決めた93年のウルグアイ・ラウンド合意では農業対策に8年間で約6兆円が使われたが、一部は26カ所の温泉施設建設に充てられるなど競争力強化につながらなかった。今度こそ、メリハリの利いた使い道が求められる。
農業だけでなく
TPPが日本に覚悟を問うのは農業だけではない。TPP拡大交渉でテーマになっているのは関税だけでなく、人やサービスなど計24分野に及ぶ。
455人中3人――。経済連携協定(EPA)に基づいて08年度から受け入れているインドネシア、フィリピン人の看護師候補者のうち、資格試験に合格した人は1%に満たない。91人のインドネシア人は2月の試験を通らなければ帰国の可能性もあったが、政府は1年間の在留延長を認める方針だ。人材受け入れでも日本の本気度が試される。
一方、「日本がルールづくりを主導できる」(経済産業省幹部)と期待されるのが環境政策。環境規制を緩めて投資を呼び込むような動きを抑えるルールを作れれば、日本の存在感は一気に高まる。
TPP参加を求める日本経団連は昨年末、反対の先頭に立つ全国農業協同組合中央会(全中)との対話を始め、農業の潜在力を引き出し、成長産業にするために協力していく考えを伝えた。必要なのは「日本の閉塞感を打ち破らなければならない」との共通認識に立った冷静な議論だ。
北海道による環太平洋経済連携協定(TPP)参加の影響試算だ。道農政課は「道経済は立ち行かなくなる」と強調する。
非現実的な悲観
全国各地から上がるTPP反対の声。農業の盛んな県ほど「TPP参加はありえない」(鹿児島県の伊藤祐一郎知事)と訴えるが、“壊滅シナリオ”の現実味は乏しい。試算は世界中で関税がゼロになり、あらゆる農産物が自由に取引されるとの極端な前提に立つ。農林水産省は国産米の9割、約760万トンが外国産に替わるというものの、「それだけの主食用米を日本へ輸出できる国はない」(本間正義東大教授)。
地方にも「国際競争力の低下は国の衰退を招く。経済連携の推進と農業振興の両立が必要」(新潟県の泉田裕彦知事)との意見もある。何より、TPPに参加しても即時にすべてが関税撤廃されるわけではない。現加盟国でも、例えばチリは小麦や砂糖、乳製品などに10~12年の猶予期間を設けている。農業強化策を講じるには十分な時間だ。
活路の一つは輸出。JA東西しらかわ(福島県白河市)は昨年11月、それまでの香港に続き、オーストラリアにコシヒカリ5トンを初めて輸出した。鈴木昭雄組合長は「品質の高い国産米は海外でも通用する」との手応えを感じている。
「農業も積極的に海を渡るべきだ」。農業組合法人、和郷園(千葉県香取市)の木内博一代表は言う。縮小していく国内市場にとどまっていては成長できないとの思いからだ。和郷園も香港に現地法人をつくって日本の野菜などを販売。2010年の年商は8億円で、前年比3割増えた。
08年の農業総産出額はピーク時の1984年から約3割減り、農業就業者の平均年齢は65歳を超えた。就業人口や耕地面積は半世紀にわたって減り続ける「失われた50年」の状態だ。それでも「戸別所得補償の対象を絞り込んだり、担い手の若返りと規模拡大を進めたりすれば、日本の農業は再生できる」(日本総合研究所の藤波匠主任研究員)との見方は多い。
そのためには一定の財政支援も必要だ。コメ市場の部分開放を決めた93年のウルグアイ・ラウンド合意では農業対策に8年間で約6兆円が使われたが、一部は26カ所の温泉施設建設に充てられるなど競争力強化につながらなかった。今度こそ、メリハリの利いた使い道が求められる。
農業だけでなく
TPPが日本に覚悟を問うのは農業だけではない。TPP拡大交渉でテーマになっているのは関税だけでなく、人やサービスなど計24分野に及ぶ。
455人中3人――。経済連携協定(EPA)に基づいて08年度から受け入れているインドネシア、フィリピン人の看護師候補者のうち、資格試験に合格した人は1%に満たない。91人のインドネシア人は2月の試験を通らなければ帰国の可能性もあったが、政府は1年間の在留延長を認める方針だ。人材受け入れでも日本の本気度が試される。
一方、「日本がルールづくりを主導できる」(経済産業省幹部)と期待されるのが環境政策。環境規制を緩めて投資を呼び込むような動きを抑えるルールを作れれば、日本の存在感は一気に高まる。
TPP参加を求める日本経団連は昨年末、反対の先頭に立つ全国農業協同組合中央会(全中)との対話を始め、農業の潜在力を引き出し、成長産業にするために協力していく考えを伝えた。必要なのは「日本の閉塞感を打ち破らなければならない」との共通認識に立った冷静な議論だ。
:2011:01/19/09:05 ++ ジョブズCEOが休養、アップル「集団指導」に、復帰のメド・病状説明なし。
【シリコンバレー=岡田信行】米アップルのスティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO、55)が病気療養のため休養する。同社の株式時価総額を世界3位(2010年末)に押し上げたカリスマ経営者の健康不安問題は、18日の株式市場でも波紋を広げた。過去2度の療養では見事なカムバックを果たしたジョブズ氏。その病状に関心が集まっている。
「ティムをはじめ経営陣を信頼している」。従業員へのメールにこう記したジョブズ氏。休養中もCEO職にとどまるが、日常業務はティム・クック最高執行責任者(COO、50)が代行する。
クック氏はパソコン大手だったコンパック(現ヒューレット・パッカード)出身。1998年にアップルに入社し、販売や海外事業などを担当してきた。同社の元幹部は「ジョブズ氏は社内で怖い存在だが独裁者ではない。アップルは集団指導体制で、実務はクックCOO主導だ」という。
米西部時間18日(日本時間19日)に発表する10年10~12月期決算は好業績が予想される。ジョブズ氏のメールに「興奮するような11年の計画」とあるように、新しい事業計画も準備万端のようだ。「ジョブズ氏不在でも11年は自動運転で大丈夫」との声もある。
過去2度の病気療養では復帰後にヒット商品を放ち、健在ぶりをアピールした。
04年に膵臓(すいぞう)がんの手術を受けた後は高機能携帯電話「iPhone(アイフォーン)」の開発に取り組み、07年に発売した。09年に肝臓移植手術を受けおよそ半年間療養したが、翌10年にはタブレット型情報端末「iPad(アイパッド)」を発売。売上高や株式時価総額で米マイクロソフトを抜き、世界最大のIT(情報技術)企業になった。
09年1月に休養する際は「6月末まで」と発表した。今回は「できるだけ早く復帰したい」と期限を示していない。病状についても説明はなく「静かに見守ってほしい」(ジョブズ氏)としている。過去5年間で売上高を3倍以上、純利益を7倍以上にしたジョブズ氏の休養期間がどれくらいになるか、市場は不安視している。
「ティムをはじめ経営陣を信頼している」。従業員へのメールにこう記したジョブズ氏。休養中もCEO職にとどまるが、日常業務はティム・クック最高執行責任者(COO、50)が代行する。
クック氏はパソコン大手だったコンパック(現ヒューレット・パッカード)出身。1998年にアップルに入社し、販売や海外事業などを担当してきた。同社の元幹部は「ジョブズ氏は社内で怖い存在だが独裁者ではない。アップルは集団指導体制で、実務はクックCOO主導だ」という。
米西部時間18日(日本時間19日)に発表する10年10~12月期決算は好業績が予想される。ジョブズ氏のメールに「興奮するような11年の計画」とあるように、新しい事業計画も準備万端のようだ。「ジョブズ氏不在でも11年は自動運転で大丈夫」との声もある。
過去2度の病気療養では復帰後にヒット商品を放ち、健在ぶりをアピールした。
04年に膵臓(すいぞう)がんの手術を受けた後は高機能携帯電話「iPhone(アイフォーン)」の開発に取り組み、07年に発売した。09年に肝臓移植手術を受けおよそ半年間療養したが、翌10年にはタブレット型情報端末「iPad(アイパッド)」を発売。売上高や株式時価総額で米マイクロソフトを抜き、世界最大のIT(情報技術)企業になった。
09年1月に休養する際は「6月末まで」と発表した。今回は「できるだけ早く復帰したい」と期限を示していない。病状についても説明はなく「静かに見守ってほしい」(ジョブズ氏)としている。過去5年間で売上高を3倍以上、純利益を7倍以上にしたジョブズ氏の休養期間がどれくらいになるか、市場は不安視している。
:2011:01/19/08:55 ++ TPP日本の覚悟(上)米の積極姿勢一段と――潮流逃せば大きな損失。
国を開き、人やモノの移動を自由にすることで経済力を高めようという動きが急ピッチで進んでいる。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉もその一つだ。世界の潮流に乗るのか、それとも取り残されるのか。日本は覚悟を問われている。
交渉加速に焦り
「関税撤廃の例外を設けないでテーブルに着いてほしい」
日米両政府がワシントンで13~14日開いた「日米貿易フォーラム」。米通商代表部(USTR)でTPP交渉を担当するワイゼル代表補らは外務省の八木毅経済局長らに、TPP交渉に入る条件をこう求めた。
米国側は牛肉の輸入規制や郵政改革法案などへの懸念を示した上で、「TPPでは過去の自由貿易協定(FTA)を上回る高い目標を掲げている」と説明。「我々も国内で議会や産業界などと調整しなければならない」との発言もあったようだ。交渉入りしている9カ国は今週、2月の正式交渉を前に関税についての意見交換に動いているとされ、「米国が参加表明してからずいぶんスピードを上げてきた」と日本政府関係者は焦りの色を隠さない。
米国のTPP参加はもはや動かない。そんな流れを決定づけた2つの出来事が昨秋起こった。
1つは11月の米中間選挙でオバマ政権を支える民主党が大敗、自由貿易を推進する共和党が勝利したことだ。それまでは政権の支持母体である労働組合や輸入拡大の影響を受ける一部の生産者団体への配慮も見られたが、中間選挙以降、TPP参加の推進力は一気に高まった。
もう1つは中国に対するけん制だ。9月下旬にレアアース(希土類)の事実上の輸出規制に踏み切ったことで、「自由貿易の相手国として信用できない」との見方が米国内には広がる。
「東アジアでは経済的な結びつきが政治や安全保障を補強する」(アメリカン・エンタープライズ研究所のクロード・バーフィールド研究員)こともあり、自由経済という共通の基盤を持つアジア各国との連携が欠かせないとの判断に傾いていった。昨年12月、韓国とのFTA交渉が合意に達したのもその一環だ。
内閣府の推計によると、世界の国内総生産(GDP)に占める中国の割合は2009年の8・3%から30年には23・9%へと拡大。米国は24・9%から17・0%へ、日本は8・8%から5・8%へとそれぞれ縮む見通しだ。日米合わせても中国にはかなわないという世界経済の構造変化。安全保障上の問題も絡み、今のうちに対中シフトを盤石にしようという米国の意思の表れがTPPだ。
交渉に参加する他の国々にも巨大化する中国への警戒感から、米国や日本と接近したいとの思惑がある。
各国に重い課題
例えばマレーシア。TPPに参加すれば多数民族であるマレー系の個人や企業を政府調達などで優遇する「ブミプトラ政策」の見直しは必至だ。憲法に沿った国策だけに「抜本見直しは困難」との声も漏れるが、これを乗り越えて交渉のテーブルに着く。
ベトナムでは中国との間で積み上がる貿易赤字が慢性的な通貨安を引き起こし、国内物価を押し上げる。米国や日本向けに輸出を増やさないと国がもたず、中国経済にのみ込まれるとの危機意識は強い。
世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンドは交渉がなかなか進まない。かといって、2国間FTAでは効果は限られる。こうした局面を打開し、重要な市場をつなげるところにTPPの意義がある。乗り遅れれば失う利益も大きい。日本は貿易・投資立国として生き抜けるかの岐路に立っている。
交渉加速に焦り
「関税撤廃の例外を設けないでテーブルに着いてほしい」
日米両政府がワシントンで13~14日開いた「日米貿易フォーラム」。米通商代表部(USTR)でTPP交渉を担当するワイゼル代表補らは外務省の八木毅経済局長らに、TPP交渉に入る条件をこう求めた。
米国側は牛肉の輸入規制や郵政改革法案などへの懸念を示した上で、「TPPでは過去の自由貿易協定(FTA)を上回る高い目標を掲げている」と説明。「我々も国内で議会や産業界などと調整しなければならない」との発言もあったようだ。交渉入りしている9カ国は今週、2月の正式交渉を前に関税についての意見交換に動いているとされ、「米国が参加表明してからずいぶんスピードを上げてきた」と日本政府関係者は焦りの色を隠さない。
米国のTPP参加はもはや動かない。そんな流れを決定づけた2つの出来事が昨秋起こった。
1つは11月の米中間選挙でオバマ政権を支える民主党が大敗、自由貿易を推進する共和党が勝利したことだ。それまでは政権の支持母体である労働組合や輸入拡大の影響を受ける一部の生産者団体への配慮も見られたが、中間選挙以降、TPP参加の推進力は一気に高まった。
もう1つは中国に対するけん制だ。9月下旬にレアアース(希土類)の事実上の輸出規制に踏み切ったことで、「自由貿易の相手国として信用できない」との見方が米国内には広がる。
「東アジアでは経済的な結びつきが政治や安全保障を補強する」(アメリカン・エンタープライズ研究所のクロード・バーフィールド研究員)こともあり、自由経済という共通の基盤を持つアジア各国との連携が欠かせないとの判断に傾いていった。昨年12月、韓国とのFTA交渉が合意に達したのもその一環だ。
内閣府の推計によると、世界の国内総生産(GDP)に占める中国の割合は2009年の8・3%から30年には23・9%へと拡大。米国は24・9%から17・0%へ、日本は8・8%から5・8%へとそれぞれ縮む見通しだ。日米合わせても中国にはかなわないという世界経済の構造変化。安全保障上の問題も絡み、今のうちに対中シフトを盤石にしようという米国の意思の表れがTPPだ。
交渉に参加する他の国々にも巨大化する中国への警戒感から、米国や日本と接近したいとの思惑がある。
各国に重い課題
例えばマレーシア。TPPに参加すれば多数民族であるマレー系の個人や企業を政府調達などで優遇する「ブミプトラ政策」の見直しは必至だ。憲法に沿った国策だけに「抜本見直しは困難」との声も漏れるが、これを乗り越えて交渉のテーブルに着く。
ベトナムでは中国との間で積み上がる貿易赤字が慢性的な通貨安を引き起こし、国内物価を押し上げる。米国や日本向けに輸出を増やさないと国がもたず、中国経済にのみ込まれるとの危機意識は強い。
世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンドは交渉がなかなか進まない。かといって、2国間FTAでは効果は限られる。こうした局面を打開し、重要な市場をつなげるところにTPPの意義がある。乗り遅れれば失う利益も大きい。日本は貿易・投資立国として生き抜けるかの岐路に立っている。
:2011:01/18/16:29 ++ 次世代携帯「LTE」、米通信大手の競争激化――ベライゾン、AT&T。
ベライゾン 年内に端末10機種発売
AT&T 全国展開を1年前倒し
次世代携帯電話サービスを巡り、米通信大手の競争が激化してきた。最大手のベライゾン・ワイヤレスは2010年12月に始めた「LTE」方式のサービスに対応した端末を年内に10機種発売。今年半ばにLTEを開始するAT&Tは全国展開を1年前倒しする。LTEの普及が米国で加速すれば、海外展開で出遅れている日本の端末メーカーの商機にもなりそうだ。
ベライゾンはLTE対応の高機能携帯電話(スマートフォン)4機種や、「タブレット」と呼ばれる携帯端末2機種などを今春以降、順次発売する。端末は韓国サムスン電子や米モトローラ・モビリティー、台湾の宏達国際電子(HTC)などが開発する。
ベライゾンは昨年12月、ニューヨークやサンフランシスコなど38都市で、通信速度が毎秒5~12メガ(メガは100万)ビットのLTEサービスを開始。年内にデトロイトなど140都市でもサービスを始め、13年までに全米で利用できるようにする。
AT&Tは今年半ばに一部都市でLTEサービスを開始する。当初は全国展開の完了を14年としていたが、13年末までにほぼ全国で利用できるようにする。スティーブンソン会長兼最高経営責任者(CEO)は「(昨年12月に決まった)企業の設備投資に対する税制優遇などが決断を後押しした」と指摘。オバマ政権の追加景気対策が米企業の設備投資意欲を高めた例といえる。
AT&Tはベライゾンなどに対抗するため、LTEに加え、「HSPA+」と呼ぶ別方式の高速通信サービスに対応したスマートフォンやタブレット端末を、年内に合計20機種発売する計画も明らかにした。
一方、08年から「WiMAX(ワイマックス)」と呼ぶ別方式で次世代携帯サービスを提供している3位の米スプリント・ネクステルも、カナダのリサーチ・イン・モーション(RIM)製のタブレット端末やHTC製のスマートフォンなどを発表。今夏までに順次発売する考えだ。
3億人近い携帯加入者がいる米国では、米アップルの「iPhone(アイフォーン)」に代表されるスマートフォンが急速に普及。「iPad(アイパッド)」などのタブレット端末も台頭し、高速データ通信の需要は高まっている。(ニューヨーク=小川義也)
▼LTE 次世代の高速無線通信技術の一つである「ロング・ターム・エボリューション」の略称。最大通信速度は現在の第3世代携帯電話の約10倍になる。日本ではNTTドコモが昨年12月から東名阪の三大都市圏でサービスを開始。KDDIやソフトバンクも採用を計画している。欧州やアジアの通信会社も続々とLTEサービスを開始しており、事実上の世界標準になりつつある。
AT&T 全国展開を1年前倒し
次世代携帯電話サービスを巡り、米通信大手の競争が激化してきた。最大手のベライゾン・ワイヤレスは2010年12月に始めた「LTE」方式のサービスに対応した端末を年内に10機種発売。今年半ばにLTEを開始するAT&Tは全国展開を1年前倒しする。LTEの普及が米国で加速すれば、海外展開で出遅れている日本の端末メーカーの商機にもなりそうだ。
ベライゾンはLTE対応の高機能携帯電話(スマートフォン)4機種や、「タブレット」と呼ばれる携帯端末2機種などを今春以降、順次発売する。端末は韓国サムスン電子や米モトローラ・モビリティー、台湾の宏達国際電子(HTC)などが開発する。
ベライゾンは昨年12月、ニューヨークやサンフランシスコなど38都市で、通信速度が毎秒5~12メガ(メガは100万)ビットのLTEサービスを開始。年内にデトロイトなど140都市でもサービスを始め、13年までに全米で利用できるようにする。
AT&Tは今年半ばに一部都市でLTEサービスを開始する。当初は全国展開の完了を14年としていたが、13年末までにほぼ全国で利用できるようにする。スティーブンソン会長兼最高経営責任者(CEO)は「(昨年12月に決まった)企業の設備投資に対する税制優遇などが決断を後押しした」と指摘。オバマ政権の追加景気対策が米企業の設備投資意欲を高めた例といえる。
AT&Tはベライゾンなどに対抗するため、LTEに加え、「HSPA+」と呼ぶ別方式の高速通信サービスに対応したスマートフォンやタブレット端末を、年内に合計20機種発売する計画も明らかにした。
一方、08年から「WiMAX(ワイマックス)」と呼ぶ別方式で次世代携帯サービスを提供している3位の米スプリント・ネクステルも、カナダのリサーチ・イン・モーション(RIM)製のタブレット端末やHTC製のスマートフォンなどを発表。今夏までに順次発売する考えだ。
3億人近い携帯加入者がいる米国では、米アップルの「iPhone(アイフォーン)」に代表されるスマートフォンが急速に普及。「iPad(アイパッド)」などのタブレット端末も台頭し、高速データ通信の需要は高まっている。(ニューヨーク=小川義也)
▼LTE 次世代の高速無線通信技術の一つである「ロング・ターム・エボリューション」の略称。最大通信速度は現在の第3世代携帯電話の約10倍になる。日本ではNTTドコモが昨年12月から東名阪の三大都市圏でサービスを開始。KDDIやソフトバンクも採用を計画している。欧州やアジアの通信会社も続々とLTEサービスを開始しており、事実上の世界標準になりつつある。
:2011:01/18/16:29 ++ 次世代携帯「LTE」、米通信大手の競争激化――ベライゾン、AT&T。
ベライゾン 年内に端末10機種発売
AT&T 全国展開を1年前倒し
次世代携帯電話サービスを巡り、米通信大手の競争が激化してきた。最大手のベライゾン・ワイヤレスは2010年12月に始めた「LTE」方式のサービスに対応した端末を年内に10機種発売。今年半ばにLTEを開始するAT&Tは全国展開を1年前倒しする。LTEの普及が米国で加速すれば、海外展開で出遅れている日本の端末メーカーの商機にもなりそうだ。
ベライゾンはLTE対応の高機能携帯電話(スマートフォン)4機種や、「タブレット」と呼ばれる携帯端末2機種などを今春以降、順次発売する。端末は韓国サムスン電子や米モトローラ・モビリティー、台湾の宏達国際電子(HTC)などが開発する。
ベライゾンは昨年12月、ニューヨークやサンフランシスコなど38都市で、通信速度が毎秒5~12メガ(メガは100万)ビットのLTEサービスを開始。年内にデトロイトなど140都市でもサービスを始め、13年までに全米で利用できるようにする。
AT&Tは今年半ばに一部都市でLTEサービスを開始する。当初は全国展開の完了を14年としていたが、13年末までにほぼ全国で利用できるようにする。スティーブンソン会長兼最高経営責任者(CEO)は「(昨年12月に決まった)企業の設備投資に対する税制優遇などが決断を後押しした」と指摘。オバマ政権の追加景気対策が米企業の設備投資意欲を高めた例といえる。
AT&Tはベライゾンなどに対抗するため、LTEに加え、「HSPA+」と呼ぶ別方式の高速通信サービスに対応したスマートフォンやタブレット端末を、年内に合計20機種発売する計画も明らかにした。
一方、08年から「WiMAX(ワイマックス)」と呼ぶ別方式で次世代携帯サービスを提供している3位の米スプリント・ネクステルも、カナダのリサーチ・イン・モーション(RIM)製のタブレット端末やHTC製のスマートフォンなどを発表。今夏までに順次発売する考えだ。
3億人近い携帯加入者がいる米国では、米アップルの「iPhone(アイフォーン)」に代表されるスマートフォンが急速に普及。「iPad(アイパッド)」などのタブレット端末も台頭し、高速データ通信の需要は高まっている。(ニューヨーク=小川義也)
▼LTE 次世代の高速無線通信技術の一つである「ロング・ターム・エボリューション」の略称。最大通信速度は現在の第3世代携帯電話の約10倍になる。日本ではNTTドコモが昨年12月から東名阪の三大都市圏でサービスを開始。KDDIやソフトバンクも採用を計画している。欧州やアジアの通信会社も続々とLTEサービスを開始しており、事実上の世界標準になりつつある。
AT&T 全国展開を1年前倒し
次世代携帯電話サービスを巡り、米通信大手の競争が激化してきた。最大手のベライゾン・ワイヤレスは2010年12月に始めた「LTE」方式のサービスに対応した端末を年内に10機種発売。今年半ばにLTEを開始するAT&Tは全国展開を1年前倒しする。LTEの普及が米国で加速すれば、海外展開で出遅れている日本の端末メーカーの商機にもなりそうだ。
ベライゾンはLTE対応の高機能携帯電話(スマートフォン)4機種や、「タブレット」と呼ばれる携帯端末2機種などを今春以降、順次発売する。端末は韓国サムスン電子や米モトローラ・モビリティー、台湾の宏達国際電子(HTC)などが開発する。
ベライゾンは昨年12月、ニューヨークやサンフランシスコなど38都市で、通信速度が毎秒5~12メガ(メガは100万)ビットのLTEサービスを開始。年内にデトロイトなど140都市でもサービスを始め、13年までに全米で利用できるようにする。
AT&Tは今年半ばに一部都市でLTEサービスを開始する。当初は全国展開の完了を14年としていたが、13年末までにほぼ全国で利用できるようにする。スティーブンソン会長兼最高経営責任者(CEO)は「(昨年12月に決まった)企業の設備投資に対する税制優遇などが決断を後押しした」と指摘。オバマ政権の追加景気対策が米企業の設備投資意欲を高めた例といえる。
AT&Tはベライゾンなどに対抗するため、LTEに加え、「HSPA+」と呼ぶ別方式の高速通信サービスに対応したスマートフォンやタブレット端末を、年内に合計20機種発売する計画も明らかにした。
一方、08年から「WiMAX(ワイマックス)」と呼ぶ別方式で次世代携帯サービスを提供している3位の米スプリント・ネクステルも、カナダのリサーチ・イン・モーション(RIM)製のタブレット端末やHTC製のスマートフォンなどを発表。今夏までに順次発売する考えだ。
3億人近い携帯加入者がいる米国では、米アップルの「iPhone(アイフォーン)」に代表されるスマートフォンが急速に普及。「iPad(アイパッド)」などのタブレット端末も台頭し、高速データ通信の需要は高まっている。(ニューヨーク=小川義也)
▼LTE 次世代の高速無線通信技術の一つである「ロング・ターム・エボリューション」の略称。最大通信速度は現在の第3世代携帯電話の約10倍になる。日本ではNTTドコモが昨年12月から東名阪の三大都市圏でサービスを開始。KDDIやソフトバンクも採用を計画している。欧州やアジアの通信会社も続々とLTEサービスを開始しており、事実上の世界標準になりつつある。
:2011:01/18/16:21 ++ 昨年末、時価総額、世界の上位1000社、アジア勢躍進211社。
サムスン、トヨタに迫る 日本は92社、3位を維持
世界企業の株式時価総額でアジア勢が躍進している。商品開発力の向上や自国経済の高成長をテコに収益を伸ばし、グローバル競争でもシェアを高める企業が増えている。日本は自動車や機械などでなお優位を維持しているものの、低い資本効率の向上が課題だ。(関連記事11面に)
インド台頭顕著
株式時価総額は株価に発行済み株式数をかけた値で、企業の市場価値を示す。2010年末時点の世界の時価総額上位1000社(ドル換算ベース)をみると、日本を除くアジアが211社を占め、09年末から8社増えた。米国も7社増の306社。財政問題などが重荷の欧州は248社と20社減少した。日本は3社増の92社で、国別では米国、香港を含む中国(105社)に次ぐ世界3位を維持した。
順位上昇が目立つのは韓国企業だ。サムスン電子は1年間で時価総額が2割増加。日本企業トップのトヨタ自動車にあと1兆円と迫ってきた。ソニーの3倍強で、電機では圧倒的な存在だ。自動車では現代自動車が日本勢を追い上げている。
インドの台頭も著しい。IT(情報技術)サービス分野が強く、最大手のタタ・コンサルタンシー・サービシズは時価総額が4兆円強だ。中国は上海総合指数が下がり順位を落とした企業もあるが、携帯電話の中国移動(チャイナモバイル)は世界ベストテンに入った。時価総額はNTTドコモの2・6倍に達する。
市場がアジア企業を高く評価する背景には、各国経済の成長性に加え、高い収益力がある。自己資本に対してどれだけ効率的に利益を稼いだかを示す自己資本利益率(ROE)は、アジア主要国では平均15%。11年3月期にようやく7%近くまで回復する日本は、明らかに見劣りする。
米国の追加金融緩和であふれる投資マネーが流入、アジア企業の株価を押し上げた面もある。だが、時価総額が大きければそれだけ資金調達が容易になり、成長へ向けた投資もしやすい。M&A(合併・買収)でも優位になり、逆に時価総額が小さければ買収の対象になるリスクが高まる。
強みをより強く
アジアの攻勢はまだ続きそうだ。中国は「これから内需主導で成長する局面に入り、消費財やサービス分野で大きく成長する企業が出てくる」(フィデリティ・インベストメント・マネージャーズのアントニー・ボルトン氏)。韓国は米欧との自由貿易協定(FTA)に動き、国をあげて産業振興を後押しする。
一方、日本はどこで強みを発揮していくのか。建機大手のコマツは中国の同業大手に対して技術力で優位に立つ。ゲームの任天堂や医療機器のテルモなど世界で稼げる企業への評価は高い。付加価値の高い電子部品・素材もアジア勢が簡単には追いつけない分野だ。
日本企業は成長性の高いアジア市場を積極的に開拓し、日米欧の3市場が落ち込んでも収益を稼げる基盤が整ってきた。日立製作所の10年4~9月期の純利益が最高になるなど構造改革の成果も出始めている。
企業は勝てる分野をより強くし、低採算部門の思い切った改革で一段と収益力を高める必要がある。政府がデフレ脱却や競争力向上につながる政策を実行することも、市場の評価を高めるためには欠かせない。
世界企業の株式時価総額でアジア勢が躍進している。商品開発力の向上や自国経済の高成長をテコに収益を伸ばし、グローバル競争でもシェアを高める企業が増えている。日本は自動車や機械などでなお優位を維持しているものの、低い資本効率の向上が課題だ。(関連記事11面に)
インド台頭顕著
株式時価総額は株価に発行済み株式数をかけた値で、企業の市場価値を示す。2010年末時点の世界の時価総額上位1000社(ドル換算ベース)をみると、日本を除くアジアが211社を占め、09年末から8社増えた。米国も7社増の306社。財政問題などが重荷の欧州は248社と20社減少した。日本は3社増の92社で、国別では米国、香港を含む中国(105社)に次ぐ世界3位を維持した。
順位上昇が目立つのは韓国企業だ。サムスン電子は1年間で時価総額が2割増加。日本企業トップのトヨタ自動車にあと1兆円と迫ってきた。ソニーの3倍強で、電機では圧倒的な存在だ。自動車では現代自動車が日本勢を追い上げている。
インドの台頭も著しい。IT(情報技術)サービス分野が強く、最大手のタタ・コンサルタンシー・サービシズは時価総額が4兆円強だ。中国は上海総合指数が下がり順位を落とした企業もあるが、携帯電話の中国移動(チャイナモバイル)は世界ベストテンに入った。時価総額はNTTドコモの2・6倍に達する。
市場がアジア企業を高く評価する背景には、各国経済の成長性に加え、高い収益力がある。自己資本に対してどれだけ効率的に利益を稼いだかを示す自己資本利益率(ROE)は、アジア主要国では平均15%。11年3月期にようやく7%近くまで回復する日本は、明らかに見劣りする。
米国の追加金融緩和であふれる投資マネーが流入、アジア企業の株価を押し上げた面もある。だが、時価総額が大きければそれだけ資金調達が容易になり、成長へ向けた投資もしやすい。M&A(合併・買収)でも優位になり、逆に時価総額が小さければ買収の対象になるリスクが高まる。
強みをより強く
アジアの攻勢はまだ続きそうだ。中国は「これから内需主導で成長する局面に入り、消費財やサービス分野で大きく成長する企業が出てくる」(フィデリティ・インベストメント・マネージャーズのアントニー・ボルトン氏)。韓国は米欧との自由貿易協定(FTA)に動き、国をあげて産業振興を後押しする。
一方、日本はどこで強みを発揮していくのか。建機大手のコマツは中国の同業大手に対して技術力で優位に立つ。ゲームの任天堂や医療機器のテルモなど世界で稼げる企業への評価は高い。付加価値の高い電子部品・素材もアジア勢が簡単には追いつけない分野だ。
日本企業は成長性の高いアジア市場を積極的に開拓し、日米欧の3市場が落ち込んでも収益を稼げる基盤が整ってきた。日立製作所の10年4~9月期の純利益が最高になるなど構造改革の成果も出始めている。
企業は勝てる分野をより強くし、低採算部門の思い切った改革で一段と収益力を高める必要がある。政府がデフレ脱却や競争力向上につながる政策を実行することも、市場の評価を高めるためには欠かせない。
:2011:01/12/09:19 ++ 第7部日本だからできる(1)ファナックの国産宣言(企業強さの条件)
工作機械の頭脳となる数値制御(NC)装置で世界シェア6割を握るファナック。富士山のふもと、山梨県忍野村に本社を置く同社は有価証券報告書の事業リスクの項目に「富士山噴火」を挙げる。よほどの天変地異でも起きない限り、この地を、そして日本を離れるつもりはない。
150万平方メートルもの敷地に点在する研究所の扉にはこんな言葉が記されている。「WenigerTeile(ベニガー・タイレ)」。ドイツ語で「部品点数の削減」を意味する。「少ない部品でつくればコストが下がり、信頼性は上がる」。実質的な創業者で名誉会長の稲葉清右衛門(85)はこの言葉にもの作りの基本方針を込める。
まず価格を決定
清右衛門は「ありきたりの設計を製造段階で改善しようとしてもどだい無理」と言い切る。円高を乗り切るために、多くの日本企業が工場でのコスト削減に血道をあげる。対するファナックの発想は「利益は開発時点で決まり、製造段階では生まれない」。
ありきたりではない製品をどう生み出すのか。決めるのはまず価格だ。内外約200カ所に置いた保守サービス拠点を通じて市場の変化や顧客の要望を吸い上げ、競合他社に負けない価格を探る。価格から一定の利益を引いて製造原価を算出する。この原価に収めるのが設計の絶対条件。原価に利益を上乗せし価格を決める手法の逆を行く。
世界最大の工作機械生産国になった中国。最大手の瀋陽機床はNC装置の7割をファナックから購入する。「同じ性能なら世界2位の独シーメンスより1割ほど安い」と瀋陽機床の関係者は説明する。ファナックの海外売上高比率は75%を超えるが、円高の逆風下でも昨年7~9月期の売上高営業利益率が43・8%と過去最高を更新した。
生産も国内に集中する。昨年末、茨城県筑西市の工場で増築が始まった。6月には新棟が完成し、工作機械の生産能力が今より6割増える。ここでつくる機械の大半をスマートフォン(高機能携帯電話)などの増産を急ぐ中国企業が競って買う。昨年秋には本社工場で産業用ロボットの生産量を7割引き上げた。
「1カ所でつくる」
清右衛門の長男で社長の稲葉善治(62)は「1カ所でつくるのが一番いい」と強調する。国内工場は自動化が究極まで進み、少ない部品による設計が生産性を高める。なにより「研究者がすぐに製造現場に行ける。現場から得るものは多い」と善治はいう。
価格、開発期間、仕様――。様々なハードルを越える研究者には重圧がかかる。昼夜を問わない研究者の働きぶりは業界の誰もが知る。最近は中国など世界から研究者が集まる。今でも採用の最終面接をする清右衛門は「これだけの人材を抱えているところは世界にない」と自負する。
ただファナックも金融危機後の市場激変と無縁ではない。自動車や家電の低価格化に伴い、ファナックがつくる高精度のNC装置やロボットを必要としないもの作りが広がる可能性は否定できない。新興国企業の追い上げも急だ。
解はやはり研究開発の強化だ。世界で成長を目指す日本企業は国内で付加価値の低い製品の開発、生産を続けられない。日本だからできる研究開発を突き詰めれば、生産現場の強さが生きてくる。ファナックは将来、研究者の数を従業員の半分に引き上げる腹づもりだ。現預金は年間売上高を上回る5300億円。成長に投じる資金はある。
ファナックは特殊例なのか。日本企業には長年にわたる技術開発の蓄積があり、手元資金もため込んでいる。国内でのもの作りを宣言するファナックの姿はむしろ日本企業の一つの可能性を示す。(敬称略)
◇
次々と世界に飛び出す日本企業。だが日本に足場を置き、ここで育ったからこそ得られる経営資源は多い。技術や人材、市場。どう使いこなすかが、世界で戦う条件となる。
稲葉清右衛門氏のインタビューを電子版「連載・コラム」に掲載。ご意見もこちらから。
【図・写真】ファナックの新製品にアジアの工場が注目する(昨年10月の見本市)
150万平方メートルもの敷地に点在する研究所の扉にはこんな言葉が記されている。「WenigerTeile(ベニガー・タイレ)」。ドイツ語で「部品点数の削減」を意味する。「少ない部品でつくればコストが下がり、信頼性は上がる」。実質的な創業者で名誉会長の稲葉清右衛門(85)はこの言葉にもの作りの基本方針を込める。
まず価格を決定
清右衛門は「ありきたりの設計を製造段階で改善しようとしてもどだい無理」と言い切る。円高を乗り切るために、多くの日本企業が工場でのコスト削減に血道をあげる。対するファナックの発想は「利益は開発時点で決まり、製造段階では生まれない」。
ありきたりではない製品をどう生み出すのか。決めるのはまず価格だ。内外約200カ所に置いた保守サービス拠点を通じて市場の変化や顧客の要望を吸い上げ、競合他社に負けない価格を探る。価格から一定の利益を引いて製造原価を算出する。この原価に収めるのが設計の絶対条件。原価に利益を上乗せし価格を決める手法の逆を行く。
世界最大の工作機械生産国になった中国。最大手の瀋陽機床はNC装置の7割をファナックから購入する。「同じ性能なら世界2位の独シーメンスより1割ほど安い」と瀋陽機床の関係者は説明する。ファナックの海外売上高比率は75%を超えるが、円高の逆風下でも昨年7~9月期の売上高営業利益率が43・8%と過去最高を更新した。
生産も国内に集中する。昨年末、茨城県筑西市の工場で増築が始まった。6月には新棟が完成し、工作機械の生産能力が今より6割増える。ここでつくる機械の大半をスマートフォン(高機能携帯電話)などの増産を急ぐ中国企業が競って買う。昨年秋には本社工場で産業用ロボットの生産量を7割引き上げた。
「1カ所でつくる」
清右衛門の長男で社長の稲葉善治(62)は「1カ所でつくるのが一番いい」と強調する。国内工場は自動化が究極まで進み、少ない部品による設計が生産性を高める。なにより「研究者がすぐに製造現場に行ける。現場から得るものは多い」と善治はいう。
価格、開発期間、仕様――。様々なハードルを越える研究者には重圧がかかる。昼夜を問わない研究者の働きぶりは業界の誰もが知る。最近は中国など世界から研究者が集まる。今でも採用の最終面接をする清右衛門は「これだけの人材を抱えているところは世界にない」と自負する。
ただファナックも金融危機後の市場激変と無縁ではない。自動車や家電の低価格化に伴い、ファナックがつくる高精度のNC装置やロボットを必要としないもの作りが広がる可能性は否定できない。新興国企業の追い上げも急だ。
解はやはり研究開発の強化だ。世界で成長を目指す日本企業は国内で付加価値の低い製品の開発、生産を続けられない。日本だからできる研究開発を突き詰めれば、生産現場の強さが生きてくる。ファナックは将来、研究者の数を従業員の半分に引き上げる腹づもりだ。現預金は年間売上高を上回る5300億円。成長に投じる資金はある。
ファナックは特殊例なのか。日本企業には長年にわたる技術開発の蓄積があり、手元資金もため込んでいる。国内でのもの作りを宣言するファナックの姿はむしろ日本企業の一つの可能性を示す。(敬称略)
◇
次々と世界に飛び出す日本企業。だが日本に足場を置き、ここで育ったからこそ得られる経営資源は多い。技術や人材、市場。どう使いこなすかが、世界で戦う条件となる。
稲葉清右衛門氏のインタビューを電子版「連載・コラム」に掲載。ご意見もこちらから。
【図・写真】ファナックの新製品にアジアの工場が注目する(昨年10月の見本市)
:2011:01/11/09:00 ++ クラウドが促す脱パソコン時代に備えよ(社説)
パソコンの時代が終わる――。そんな予感もする世界最大の家電見本市が先週、米国で開かれた。タブレットPCと呼ばれる多機能端末の発表が相次ぎ、脱パソコンの動きを印象づけた。2011年はIT(情報技術)分野の技術転換が大きく進む節目の年となりそうだ。
会場で話題を集めたのが日本メーカーによる多機能端末の発表だ。東芝やシャープ、パナソニックが新製品を発表し、ソニーも計画を明らかにした。米アップルの「iPad(アイパッド)」の後じんを拝してきた日本勢の巻き返しの動きだ。
タブレット需要が拡大
英語で「書字板」を表すタブレットは、キーボードではなく画面をなぞって操作する。アップルに対抗し、米グーグルが携帯端末向けの基本ソフト「アンドロイド」を無償提供したことで、台湾や韓国などのメーカーも一斉に製品を発表した。
パソコンに代わる端末としてスマートフォン(高機能携帯電話)も人気を呼ぶ。アップルの「iPhone(アイフォーン)」が火付け役となり、出遅れた日本メーカーはここで一気に挽回を狙っている。
販売数量でもパソコンから携帯端末へ移行する大きな流れがうかがえるようになってきた。米調査会社IDCによると、スマートフォンや多機能端末の世界の予想出荷台数は今年、合計で4億5000万台を超え、パソコンの出荷台数を初めて追い抜く見通しだ。
こうした携帯端末の需要をけん引しているのが、インターネット経由で様々なソフトを使えるようにしたクラウドコンピューティングの登場だ。情報はデータセンターに蓄積するため、端末では通信と入力、表示ができればいいというわけだ。
クラウド時代の到来は一方で高速の通信環境を求める。NTTドコモは昨年末、データ通信速度をこれまでの10倍に高めた「LTE」と呼ばれる携帯無線サービスを始めた。設備投資額は今後3年間で3000億円以上にのぼる計画だという。
年明けの日経平均株価が8カ月ぶりの高値をつけた一因も、こうしたIT分野の需要拡大への期待だ。半導体や液晶などスマートフォン関連の株価は軒並み上昇した。クラウドや多機能端末の事業をどう成功させるかは、経済の活性化を左右する。
技術の節目という意味では放送も今年は大きく変わる。テレビの地上アナログ放送が7月に終了し、60年近く築き上げてきた放送インフラがすべてデジタルに置き換わる。さらに来春開始予定の携帯マルチメディア放送への投資も本格化する。
技術の転換期には、政府のIT政策が重要なカギを握る。民主党政権下で昨年末、いくつかの施策が決まった。全世帯に高速ネットを広める「光の道」構想や、携帯電話などに用いる電波の割り当てに競売原理を導入しようという方針だ。
4月からは通信会社による携帯端末の囲い込みが是正される。通信各社は自社の端末を競合他社では使えないようにしてきたが、一定期間を過ぎれば利用できるようになる。
日本の携帯端末は機能が高い分、値段も高く、海外では売れないことから「ガラパゴス携帯」と呼ばれた。その背景にはこうした囲い込みがあった。スマートフォンやLTEの登場とタイミングを合わせる形で囲い込みの時代が終わる。これを機に日本メーカーはもっと海外市場に目を向ける必要がある。
経済成長促す原動力に
情報通信分野は日本の国内総生産(GDP)成長への寄与率が40%もある。経済成長を促すのに最適な原動力だ。その力を十分利用するには、IT政策だけでなく、行政や医療、教育などITを用いる公的分野の規制緩和も欠かせない。
著作権法や個人情報保護法などクラウドサービスの普及にからむ法制度の見直しも必要だ。パソコンの時代は手元に文書などをコピーして取り込んだが、クラウド環境では複製せず必要な情報だけを見に行けばいい。今後は複製を前提としないシステムに考慮した法制度が要る。
日本では通信インフラ整備に力点を置いた10年前の政策が奏功したのに、ITの活用を狙った5年前の政策はほとんど頓挫した。それは政治の迷走期とも重なっている。
5年前の予測で当たったものもある。11年には通信や放送がすべてデジタル化する「完全デジタル元年」の予測だ。電子書籍や多機能端末が登場し、携帯電話の利用料に占めるデータ通信の割合が昨年、通話を上回ったのは象徴的な出来事だ。
グローバルな脱パソコン時代に日本に求められるのは何か。まずは得意の家電技術で画期的な製品を世界に送り出すこと。第2にそうした新技術を経済成長や生活の向上に役立てること。そして最も大切なことは、最先端の技術を使いこなせる若い人材を育てていくことだろう。
会場で話題を集めたのが日本メーカーによる多機能端末の発表だ。東芝やシャープ、パナソニックが新製品を発表し、ソニーも計画を明らかにした。米アップルの「iPad(アイパッド)」の後じんを拝してきた日本勢の巻き返しの動きだ。
タブレット需要が拡大
英語で「書字板」を表すタブレットは、キーボードではなく画面をなぞって操作する。アップルに対抗し、米グーグルが携帯端末向けの基本ソフト「アンドロイド」を無償提供したことで、台湾や韓国などのメーカーも一斉に製品を発表した。
パソコンに代わる端末としてスマートフォン(高機能携帯電話)も人気を呼ぶ。アップルの「iPhone(アイフォーン)」が火付け役となり、出遅れた日本メーカーはここで一気に挽回を狙っている。
販売数量でもパソコンから携帯端末へ移行する大きな流れがうかがえるようになってきた。米調査会社IDCによると、スマートフォンや多機能端末の世界の予想出荷台数は今年、合計で4億5000万台を超え、パソコンの出荷台数を初めて追い抜く見通しだ。
こうした携帯端末の需要をけん引しているのが、インターネット経由で様々なソフトを使えるようにしたクラウドコンピューティングの登場だ。情報はデータセンターに蓄積するため、端末では通信と入力、表示ができればいいというわけだ。
クラウド時代の到来は一方で高速の通信環境を求める。NTTドコモは昨年末、データ通信速度をこれまでの10倍に高めた「LTE」と呼ばれる携帯無線サービスを始めた。設備投資額は今後3年間で3000億円以上にのぼる計画だという。
年明けの日経平均株価が8カ月ぶりの高値をつけた一因も、こうしたIT分野の需要拡大への期待だ。半導体や液晶などスマートフォン関連の株価は軒並み上昇した。クラウドや多機能端末の事業をどう成功させるかは、経済の活性化を左右する。
技術の節目という意味では放送も今年は大きく変わる。テレビの地上アナログ放送が7月に終了し、60年近く築き上げてきた放送インフラがすべてデジタルに置き換わる。さらに来春開始予定の携帯マルチメディア放送への投資も本格化する。
技術の転換期には、政府のIT政策が重要なカギを握る。民主党政権下で昨年末、いくつかの施策が決まった。全世帯に高速ネットを広める「光の道」構想や、携帯電話などに用いる電波の割り当てに競売原理を導入しようという方針だ。
4月からは通信会社による携帯端末の囲い込みが是正される。通信各社は自社の端末を競合他社では使えないようにしてきたが、一定期間を過ぎれば利用できるようになる。
日本の携帯端末は機能が高い分、値段も高く、海外では売れないことから「ガラパゴス携帯」と呼ばれた。その背景にはこうした囲い込みがあった。スマートフォンやLTEの登場とタイミングを合わせる形で囲い込みの時代が終わる。これを機に日本メーカーはもっと海外市場に目を向ける必要がある。
経済成長促す原動力に
情報通信分野は日本の国内総生産(GDP)成長への寄与率が40%もある。経済成長を促すのに最適な原動力だ。その力を十分利用するには、IT政策だけでなく、行政や医療、教育などITを用いる公的分野の規制緩和も欠かせない。
著作権法や個人情報保護法などクラウドサービスの普及にからむ法制度の見直しも必要だ。パソコンの時代は手元に文書などをコピーして取り込んだが、クラウド環境では複製せず必要な情報だけを見に行けばいい。今後は複製を前提としないシステムに考慮した法制度が要る。
日本では通信インフラ整備に力点を置いた10年前の政策が奏功したのに、ITの活用を狙った5年前の政策はほとんど頓挫した。それは政治の迷走期とも重なっている。
5年前の予測で当たったものもある。11年には通信や放送がすべてデジタル化する「完全デジタル元年」の予測だ。電子書籍や多機能端末が登場し、携帯電話の利用料に占めるデータ通信の割合が昨年、通話を上回ったのは象徴的な出来事だ。
グローバルな脱パソコン時代に日本に求められるのは何か。まずは得意の家電技術で画期的な製品を世界に送り出すこと。第2にそうした新技術を経済成長や生活の向上に役立てること。そして最も大切なことは、最先端の技術を使いこなせる若い人材を育てていくことだろう。
:2011:01/07/17:42 ++ 米家電見本市、タブレット端末、普及元年――パソコン機能持ち運び。
パナソニック・モトローラ参入
市場、来年8倍
【ラスベガス=京塚環】パソコンと携帯電話の「隙間」を狙え――。米ラスベガスで6日開幕する世界最大の家電見本市で、タブレット型と呼ばれる情報携帯端末の発表が相次いでいる。米アップルが昨年4月に発売した「iPad(アイパッド)」はパソコン並みの機能を持ちながら、携帯電話のように持ち運べる点が人気を呼んでいる。パナソニックなどの参入で、機能や価格の競争が一気に本格化する。
「これは我々にとって最も重要な端末になる」。5日、ラスベガスで記者会見した米モトローラ・モビリティー・ホールディングスのサンジェイ・ジャ会長兼最高経営責任者(CEO)は、今春発売予定のタブレット端末「XOOM(ズーム)」を紹介する際、こう力を込めた。
かつて世界2位の携帯電話機メーカーだったモトローラは、事業再建をこのiPad対抗機にかける。
パナソニックは年内に米国や日本などで「ビエラ・タブレット」を発売する。端末で見ていた映画の続きを、即座にテレビに切り替えて視聴できるようにするなど、テレビとの連携機能を売りにする。
ほかにも韓国LG電子や、パソコン大手の台湾アスース、薄型テレビの新興ブランド米ビジオなどが新製品を発表する。多彩な顔ぶれがそろうのは、多額の開発費用がかかる基本ソフト(OS)を、米グーグルが無償で提供しているからだ。
家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」を主催する米家電協会のチーフエコノミスト、ショーン・デュブラバック氏は「画面サイズが15型以上のパソコンやテレビと、3~5型が主流の携帯の間にぽっかりと空いていた『空白地帯』を(iPadは)埋めた」と指摘する。
米調査会社のガートナーは、タブレット端末の世界全体の販売台数が2009年の1949万台から、12年に約8倍の1億5415万台まで増えると予測する。
価格競争も激しくなりそうだ。米調査会社ヤンキーグループによると、10年に700ドル台だったタブレット端末の平均価格が14年には半分以下になる見通し。自分の趣味や生活スタイルに合わせて端末に機能を追加できる「アプリ」の充実度が販売競争のカギを握る。
アップルの強みは規模のメリットを生かした戦略にもある。たとえば、iPadと高機能携帯電話「iPhone(アイフォーン)4」は、端末の頭脳となる高価な半導体「プロセッサー」を共通化している。
米調査会社ディスプレイサーチによると、iPadとiPhone4の10年の世界出荷台数は合計で約5000万台。これは世界のパソコン出荷台数の7分の1で、部品調達におけるアップルの価格交渉力は圧倒的だ。
プロセッサーを共通化しているので、iPadとiPhone上では基本的に同じアプリが動く。開発者にとって市場は大きいほど魅力的だ。1本でもヒットすれば多額の収入につながるからだ。そんな期待が、アプリの質を向上させ、消費者をひき付けるという好循環を生んでいる。
【図・写真】米CESの会場ではタブレット端末が主役に=AP
市場、来年8倍
【ラスベガス=京塚環】パソコンと携帯電話の「隙間」を狙え――。米ラスベガスで6日開幕する世界最大の家電見本市で、タブレット型と呼ばれる情報携帯端末の発表が相次いでいる。米アップルが昨年4月に発売した「iPad(アイパッド)」はパソコン並みの機能を持ちながら、携帯電話のように持ち運べる点が人気を呼んでいる。パナソニックなどの参入で、機能や価格の競争が一気に本格化する。
「これは我々にとって最も重要な端末になる」。5日、ラスベガスで記者会見した米モトローラ・モビリティー・ホールディングスのサンジェイ・ジャ会長兼最高経営責任者(CEO)は、今春発売予定のタブレット端末「XOOM(ズーム)」を紹介する際、こう力を込めた。
かつて世界2位の携帯電話機メーカーだったモトローラは、事業再建をこのiPad対抗機にかける。
パナソニックは年内に米国や日本などで「ビエラ・タブレット」を発売する。端末で見ていた映画の続きを、即座にテレビに切り替えて視聴できるようにするなど、テレビとの連携機能を売りにする。
ほかにも韓国LG電子や、パソコン大手の台湾アスース、薄型テレビの新興ブランド米ビジオなどが新製品を発表する。多彩な顔ぶれがそろうのは、多額の開発費用がかかる基本ソフト(OS)を、米グーグルが無償で提供しているからだ。
家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」を主催する米家電協会のチーフエコノミスト、ショーン・デュブラバック氏は「画面サイズが15型以上のパソコンやテレビと、3~5型が主流の携帯の間にぽっかりと空いていた『空白地帯』を(iPadは)埋めた」と指摘する。
米調査会社のガートナーは、タブレット端末の世界全体の販売台数が2009年の1949万台から、12年に約8倍の1億5415万台まで増えると予測する。
価格競争も激しくなりそうだ。米調査会社ヤンキーグループによると、10年に700ドル台だったタブレット端末の平均価格が14年には半分以下になる見通し。自分の趣味や生活スタイルに合わせて端末に機能を追加できる「アプリ」の充実度が販売競争のカギを握る。
アップルの強みは規模のメリットを生かした戦略にもある。たとえば、iPadと高機能携帯電話「iPhone(アイフォーン)4」は、端末の頭脳となる高価な半導体「プロセッサー」を共通化している。
米調査会社ディスプレイサーチによると、iPadとiPhone4の10年の世界出荷台数は合計で約5000万台。これは世界のパソコン出荷台数の7分の1で、部品調達におけるアップルの価格交渉力は圧倒的だ。
プロセッサーを共通化しているので、iPadとiPhone上では基本的に同じアプリが動く。開発者にとって市場は大きいほど魅力的だ。1本でもヒットすれば多額の収入につながるからだ。そんな期待が、アプリの質を向上させ、消費者をひき付けるという好循環を生んでいる。
【図・写真】米CESの会場ではタブレット端末が主役に=AP
:2011:01/05/09:22 ++ データで見る―6800の離島が支える海の広さ(三度目の奇跡)
日本の国土面積は約38万平方キロメートル。世界の国・地域で見ると61番目の広さで、最も広いロシアの45分の1だ。インドネシア、ミャンマー、タイより小さく、資源に恵まれた国でもない。
海に目を転じると、日本の姿は違って見える。領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせれば、国土面積の約12倍の約447万平方キロメートル。世界で第6位の広さの“大国”に躍り出る。
「領海+EEZ」の世界1位は米国(762万平方キロメートル)、2位はオーストラリア(701万平方キロメートル)。両国とも長い海岸に沿うようにEEZも広がっている。
国土の小さな日本のEEZが広いのは、離島の数が多いためだ。日本には本土の5島(北海道、本州、四国、九州、沖縄本島)のほか、6847の離島が北から南まで点在し、EEZが広がる理由になっている。
■天然ガス100年分に匹敵 日本の領海の警備や航行の安全は海上保安庁が担う。米国の沿岸警備隊をモデルに1948年に発足した。
国連海洋法条約によれば、領海の外側であっても200カイリ(約370キロメートル)までEEZを設定することが容認されている。EEZ内では水産資源や海底の鉱物資源の採掘について優先権が認められており、沿岸国は資源の保存や環境保護について責任を負う。
日本でEEZが注目され始めたのは、周辺海域で豊富な鉱物資源が発見されてからだ。本土に資源が乏しい日本には貴重な権益である。新たなエネルギー資源として注目が集まっているメタンハイドレートは、年間天然ガス消費量の約100年分が埋まっているとの試算もある。レアメタルなどを含有する海底熱水鉱床は伊豆や小笠原、沖縄海域などに存在する。
EEZの設定は各国に認められているが、狭い海峡などでは時に2国のEEZが重なり合うことがある。国連海洋法条約に基づく「衡平の原則」で2国間で解決するのが基本だ。国際司法裁判所で紛争処理した例もあるが、ここでも「衡平の原則」による当事者間の解決が優先される。
トラブルになっている日中の場合も、日本は日中の両岸から等距離(中間線)をEEZの境界と主張。中国は大陸からせり出している大陸棚までと反論し、中間線よりも日本側に近いところを境界としている。
■中国との議論進まず 両者の溝が埋まらないなかで、日中中間線をまたぐところでトラブルに発展したのが、ガス田問題だ。日中両政府は2008年、中間線をまたぐ地域でのガス田共同開発で合意したが、その後の議論は進んでいない。尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件後、中国が単独で掘削した可能性も指摘される。
日本が世界2位の経済大国で、日米関係も強固な間は「国境」に対する意識も薄くて済んだ。だが、日本の存在感が弱くなりつつある今、領海やEEZのトラブルはより頻繁に起きるようになるとの見方が多い。海洋大国・日本は、国民の安全や資源採掘権、漁業権などをどう守るか。国のあり方が問われている。
海に目を転じると、日本の姿は違って見える。領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせれば、国土面積の約12倍の約447万平方キロメートル。世界で第6位の広さの“大国”に躍り出る。
「領海+EEZ」の世界1位は米国(762万平方キロメートル)、2位はオーストラリア(701万平方キロメートル)。両国とも長い海岸に沿うようにEEZも広がっている。
国土の小さな日本のEEZが広いのは、離島の数が多いためだ。日本には本土の5島(北海道、本州、四国、九州、沖縄本島)のほか、6847の離島が北から南まで点在し、EEZが広がる理由になっている。
■天然ガス100年分に匹敵 日本の領海の警備や航行の安全は海上保安庁が担う。米国の沿岸警備隊をモデルに1948年に発足した。
国連海洋法条約によれば、領海の外側であっても200カイリ(約370キロメートル)までEEZを設定することが容認されている。EEZ内では水産資源や海底の鉱物資源の採掘について優先権が認められており、沿岸国は資源の保存や環境保護について責任を負う。
日本でEEZが注目され始めたのは、周辺海域で豊富な鉱物資源が発見されてからだ。本土に資源が乏しい日本には貴重な権益である。新たなエネルギー資源として注目が集まっているメタンハイドレートは、年間天然ガス消費量の約100年分が埋まっているとの試算もある。レアメタルなどを含有する海底熱水鉱床は伊豆や小笠原、沖縄海域などに存在する。
EEZの設定は各国に認められているが、狭い海峡などでは時に2国のEEZが重なり合うことがある。国連海洋法条約に基づく「衡平の原則」で2国間で解決するのが基本だ。国際司法裁判所で紛争処理した例もあるが、ここでも「衡平の原則」による当事者間の解決が優先される。
トラブルになっている日中の場合も、日本は日中の両岸から等距離(中間線)をEEZの境界と主張。中国は大陸からせり出している大陸棚までと反論し、中間線よりも日本側に近いところを境界としている。
■中国との議論進まず 両者の溝が埋まらないなかで、日中中間線をまたぐところでトラブルに発展したのが、ガス田問題だ。日中両政府は2008年、中間線をまたぐ地域でのガス田共同開発で合意したが、その後の議論は進んでいない。尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件後、中国が単独で掘削した可能性も指摘される。
日本が世界2位の経済大国で、日米関係も強固な間は「国境」に対する意識も薄くて済んだ。だが、日本の存在感が弱くなりつつある今、領海やEEZのトラブルはより頻繁に起きるようになるとの見方が多い。海洋大国・日本は、国民の安全や資源採掘権、漁業権などをどう守るか。国のあり方が問われている。
:2011:01/05/09:07 ++ 首相、政権維持へ賭け、消費税・TPP、6月期限を公約―税制協議、野党なお慎重。
菅直人首相は4日の年頭記者会見で、6月までに消費税を含む税制抜本改革の方向性を示し、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加も最終判断する意向を明確にした。期限を切った「二大公約」で政権維持に向けた賭けに出た形だが、肝心の野党側は低支持率にあえぐ菅政権下での税制・社会保障を巡る与野党協議に慎重。通常国会では2011年度予算案の年度内成立も危うく、政策に立ちはだかる壁は厚い。
「社会保障と必要な財源として消費税を含む税制改革を議論しなければならないのは誰の目にも明らか」。首相は財政再建待ったなしとの切迫感を前面に打ち出した。その肩には、11年度予算案(当初予算ベース)で2年連続して国債発行額が税収を上回った事実が重くのしかかる。
だが、野党側から見える風景は異なる。自民党幹部は「国会が動かず、消費税論議が進まないのは野党のせいだと言うための布石だ」と身構える。
自民、公明両党は与野党協議の必要性は認めつつも、早い段階での議論開始となると腰が重い。自民の谷垣禎一総裁は、三重県伊勢市内の記者会見で「政府がどういう方向に持っていくかをまずまとめるべきだ」と主張。公明の山口那津男代表も国会内で「社会保障の中身を示さず、消費税の結論を6月に、と時期だけ出てくるようでは国民は違和感を覚える」と、増税論の先行をけん制した。
首相が二大公約の期限として設定した6月の前には、予算案と関連法案の年度内成立を巡る3月末の攻防が立ちはだかる。
「今年は攻めの姿勢で」と周囲に語る首相の思いとは裏腹に、参院で野党が多数を占めるねじれ国会で首相が主導権を発揮できる環境は整わない。たちあがれ日本などとの連立政権の構想は頓挫。社民党も普天間基地移設問題などで折り合えず、予算案への賛否決定は2月以降に先送りした。
4月の統一地方選を控え、野党が対決姿勢を強める情勢も影を落とす。谷垣氏は名古屋市内の街頭演説で「今の窮状を打開するには政権を一刻も早く衆院解散に追い込まないといけない」と意気込んだ。
歳入確保に必要な公債特例法案など関連法案が年度内に成立しない場合、92兆4000億円規模の一般会計予算の44%の歳入が確保できない。国や地方の予算執行に悪影響が及べば、直後の統一地方選にも影響する。負けが込んだ場合、政権運営も行き詰まりかねない。
首相が必要な政策を実現するには、野党を説得できるだけの求心力を回復するか、粘り強く連立や部分連合の相手を探すしかない。その道は非常に険しい。伊勢神宮を参拝した首相は記者団を前に政権維持への意欲と不安が交錯する心の内をのぞかせた。「元気な日本を復活させる目標を達成できるよう神様の前でお願いした」
「社会保障と必要な財源として消費税を含む税制改革を議論しなければならないのは誰の目にも明らか」。首相は財政再建待ったなしとの切迫感を前面に打ち出した。その肩には、11年度予算案(当初予算ベース)で2年連続して国債発行額が税収を上回った事実が重くのしかかる。
だが、野党側から見える風景は異なる。自民党幹部は「国会が動かず、消費税論議が進まないのは野党のせいだと言うための布石だ」と身構える。
自民、公明両党は与野党協議の必要性は認めつつも、早い段階での議論開始となると腰が重い。自民の谷垣禎一総裁は、三重県伊勢市内の記者会見で「政府がどういう方向に持っていくかをまずまとめるべきだ」と主張。公明の山口那津男代表も国会内で「社会保障の中身を示さず、消費税の結論を6月に、と時期だけ出てくるようでは国民は違和感を覚える」と、増税論の先行をけん制した。
首相が二大公約の期限として設定した6月の前には、予算案と関連法案の年度内成立を巡る3月末の攻防が立ちはだかる。
「今年は攻めの姿勢で」と周囲に語る首相の思いとは裏腹に、参院で野党が多数を占めるねじれ国会で首相が主導権を発揮できる環境は整わない。たちあがれ日本などとの連立政権の構想は頓挫。社民党も普天間基地移設問題などで折り合えず、予算案への賛否決定は2月以降に先送りした。
4月の統一地方選を控え、野党が対決姿勢を強める情勢も影を落とす。谷垣氏は名古屋市内の街頭演説で「今の窮状を打開するには政権を一刻も早く衆院解散に追い込まないといけない」と意気込んだ。
歳入確保に必要な公債特例法案など関連法案が年度内に成立しない場合、92兆4000億円規模の一般会計予算の44%の歳入が確保できない。国や地方の予算執行に悪影響が及べば、直後の統一地方選にも影響する。負けが込んだ場合、政権運営も行き詰まりかねない。
首相が必要な政策を実現するには、野党を説得できるだけの求心力を回復するか、粘り強く連立や部分連合の相手を探すしかない。その道は非常に険しい。伊勢神宮を参拝した首相は記者団を前に政権維持への意欲と不安が交錯する心の内をのぞかせた。「元気な日本を復活させる目標を達成できるよう神様の前でお願いした」
:2011:01/05/09:07 ++ 首相、政権維持へ賭け、消費税・TPP、6月期限を公約―税制協議、野党なお慎重。
菅直人首相は4日の年頭記者会見で、6月までに消費税を含む税制抜本改革の方向性を示し、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加も最終判断する意向を明確にした。期限を切った「二大公約」で政権維持に向けた賭けに出た形だが、肝心の野党側は低支持率にあえぐ菅政権下での税制・社会保障を巡る与野党協議に慎重。通常国会では2011年度予算案の年度内成立も危うく、政策に立ちはだかる壁は厚い。
「社会保障と必要な財源として消費税を含む税制改革を議論しなければならないのは誰の目にも明らか」。首相は財政再建待ったなしとの切迫感を前面に打ち出した。その肩には、11年度予算案(当初予算ベース)で2年連続して国債発行額が税収を上回った事実が重くのしかかる。
だが、野党側から見える風景は異なる。自民党幹部は「国会が動かず、消費税論議が進まないのは野党のせいだと言うための布石だ」と身構える。
自民、公明両党は与野党協議の必要性は認めつつも、早い段階での議論開始となると腰が重い。自民の谷垣禎一総裁は、三重県伊勢市内の記者会見で「政府がどういう方向に持っていくかをまずまとめるべきだ」と主張。公明の山口那津男代表も国会内で「社会保障の中身を示さず、消費税の結論を6月に、と時期だけ出てくるようでは国民は違和感を覚える」と、増税論の先行をけん制した。
首相が二大公約の期限として設定した6月の前には、予算案と関連法案の年度内成立を巡る3月末の攻防が立ちはだかる。
「今年は攻めの姿勢で」と周囲に語る首相の思いとは裏腹に、参院で野党が多数を占めるねじれ国会で首相が主導権を発揮できる環境は整わない。たちあがれ日本などとの連立政権の構想は頓挫。社民党も普天間基地移設問題などで折り合えず、予算案への賛否決定は2月以降に先送りした。
4月の統一地方選を控え、野党が対決姿勢を強める情勢も影を落とす。谷垣氏は名古屋市内の街頭演説で「今の窮状を打開するには政権を一刻も早く衆院解散に追い込まないといけない」と意気込んだ。
歳入確保に必要な公債特例法案など関連法案が年度内に成立しない場合、92兆4000億円規模の一般会計予算の44%の歳入が確保できない。国や地方の予算執行に悪影響が及べば、直後の統一地方選にも影響する。負けが込んだ場合、政権運営も行き詰まりかねない。
首相が必要な政策を実現するには、野党を説得できるだけの求心力を回復するか、粘り強く連立や部分連合の相手を探すしかない。その道は非常に険しい。伊勢神宮を参拝した首相は記者団を前に政権維持への意欲と不安が交錯する心の内をのぞかせた。「元気な日本を復活させる目標を達成できるよう神様の前でお願いした」
「社会保障と必要な財源として消費税を含む税制改革を議論しなければならないのは誰の目にも明らか」。首相は財政再建待ったなしとの切迫感を前面に打ち出した。その肩には、11年度予算案(当初予算ベース)で2年連続して国債発行額が税収を上回った事実が重くのしかかる。
だが、野党側から見える風景は異なる。自民党幹部は「国会が動かず、消費税論議が進まないのは野党のせいだと言うための布石だ」と身構える。
自民、公明両党は与野党協議の必要性は認めつつも、早い段階での議論開始となると腰が重い。自民の谷垣禎一総裁は、三重県伊勢市内の記者会見で「政府がどういう方向に持っていくかをまずまとめるべきだ」と主張。公明の山口那津男代表も国会内で「社会保障の中身を示さず、消費税の結論を6月に、と時期だけ出てくるようでは国民は違和感を覚える」と、増税論の先行をけん制した。
首相が二大公約の期限として設定した6月の前には、予算案と関連法案の年度内成立を巡る3月末の攻防が立ちはだかる。
「今年は攻めの姿勢で」と周囲に語る首相の思いとは裏腹に、参院で野党が多数を占めるねじれ国会で首相が主導権を発揮できる環境は整わない。たちあがれ日本などとの連立政権の構想は頓挫。社民党も普天間基地移設問題などで折り合えず、予算案への賛否決定は2月以降に先送りした。
4月の統一地方選を控え、野党が対決姿勢を強める情勢も影を落とす。谷垣氏は名古屋市内の街頭演説で「今の窮状を打開するには政権を一刻も早く衆院解散に追い込まないといけない」と意気込んだ。
歳入確保に必要な公債特例法案など関連法案が年度内に成立しない場合、92兆4000億円規模の一般会計予算の44%の歳入が確保できない。国や地方の予算執行に悪影響が及べば、直後の統一地方選にも影響する。負けが込んだ場合、政権運営も行き詰まりかねない。
首相が必要な政策を実現するには、野党を説得できるだけの求心力を回復するか、粘り強く連立や部分連合の相手を探すしかない。その道は非常に険しい。伊勢神宮を参拝した首相は記者団を前に政権維持への意欲と不安が交錯する心の内をのぞかせた。「元気な日本を復活させる目標を達成できるよう神様の前でお願いした」
:2011:01/05/09:03 ++ 民主党誰が何を決めているのか(1)外交、前原氏と仙谷氏―思想を超えた打算。
「前原は大したやつだよ。日米関係をここまで戻したんだからな」。外相の前原誠司(48)を支える民主党内グループ「凌雲会」の最近の会合で、官房長官の仙谷由人(64)は前原の外交手腕をことさらにたててみせた。
尖閣で表舞台に
16歳年上の仙谷は前原の後見役であり、今でも気軽に電話で相談できる間柄だ。前原は仙谷を頼りにし、仙谷は若い前原をグループの看板に押し立てた。与党になってからも小沢一郎と距離を置くなど権力闘争で手を握る。だからこそ民主党内で将来の首相候補の一人である前原に、仙谷は「直線的、直截(ちょくせつ)的すぎる」と辛口にもなれた。
外交官志望だった前原の外交・安保観は民主党では「右寄り」で「自民党議員以上に自民党的」と評される。かたや仙谷は学生時代に東大全共闘に参加。世代も考え方も違う青春時代を過ごした2人だが、菅政権で外交のかじ取りを担う外相と官房長官に就き、お互い「共同歩調」をアピールするようになった。
「この件は長官にも必ず伝えて下さい」。外務省幹部から報告を受けると、前原は最後にこう付け加える。仙谷への配慮は外交・安保政策で肌合いが違うとされる2人の「危機管理」でもある。
前原の強みは野党時代から培ってきた米国務省や国防総省の人脈。だが昨年9月、尖閣諸島沖で発生した海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件では「(中国の対応は)極めてヒステリック」などと発言し身動きが取りにくくなった。前原に代わり対中外交の舞台に登場したのが仙谷だった。
「待てば海路の日和あり」と前原を諭す一方、駐日中国大使、程永華のもとに足しげく通ったり、民主党の細野豪志や旧知のコンサルタントを使って水面下の交渉に動いた。那覇地検が処分保留で中国人船長の釈放を発表したのは首相の菅直人も前原も外遊中のタイミング。政界ではもっぱら仙谷の意向とされた。
これが外交の一貫性を欠いたと批判された。日中関係が緊迫した直後の10月下旬に日本経済新聞が実施した世論調査では、菅内閣を支持しない理由のうち「外交・安全保障への取り組み」が急上昇し、1位になった。
2人ともに新年早々、正念場を迎えている。
普天間が正念場
参院が問責決議した仙谷は政策調整でも前面に出にくくなっている。日米重視の前原外交への米国の評価は高いが、まだ鳩山政権時代に比べればまし、という「ただし」付きだ。沖縄県の米軍普天間基地移設問題も重くのしかかる。
前原は坂本竜馬に政治家としての原点を感じる。霊山護国神社の竜馬の墓を毎年訪れ、2006年に偽メール事件で党代表を退いた直後には、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」を再び読み切った。NHK大河ドラマ「龍馬伝」も途中まで欠かさず見ていた。だが、外相になった前原には少しだけ不満があった。「福山雅治さんの竜馬は格好良すぎるんだよな」(敬称略)
尖閣で表舞台に
16歳年上の仙谷は前原の後見役であり、今でも気軽に電話で相談できる間柄だ。前原は仙谷を頼りにし、仙谷は若い前原をグループの看板に押し立てた。与党になってからも小沢一郎と距離を置くなど権力闘争で手を握る。だからこそ民主党内で将来の首相候補の一人である前原に、仙谷は「直線的、直截(ちょくせつ)的すぎる」と辛口にもなれた。
外交官志望だった前原の外交・安保観は民主党では「右寄り」で「自民党議員以上に自民党的」と評される。かたや仙谷は学生時代に東大全共闘に参加。世代も考え方も違う青春時代を過ごした2人だが、菅政権で外交のかじ取りを担う外相と官房長官に就き、お互い「共同歩調」をアピールするようになった。
「この件は長官にも必ず伝えて下さい」。外務省幹部から報告を受けると、前原は最後にこう付け加える。仙谷への配慮は外交・安保政策で肌合いが違うとされる2人の「危機管理」でもある。
前原の強みは野党時代から培ってきた米国務省や国防総省の人脈。だが昨年9月、尖閣諸島沖で発生した海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件では「(中国の対応は)極めてヒステリック」などと発言し身動きが取りにくくなった。前原に代わり対中外交の舞台に登場したのが仙谷だった。
「待てば海路の日和あり」と前原を諭す一方、駐日中国大使、程永華のもとに足しげく通ったり、民主党の細野豪志や旧知のコンサルタントを使って水面下の交渉に動いた。那覇地検が処分保留で中国人船長の釈放を発表したのは首相の菅直人も前原も外遊中のタイミング。政界ではもっぱら仙谷の意向とされた。
これが外交の一貫性を欠いたと批判された。日中関係が緊迫した直後の10月下旬に日本経済新聞が実施した世論調査では、菅内閣を支持しない理由のうち「外交・安全保障への取り組み」が急上昇し、1位になった。
2人ともに新年早々、正念場を迎えている。
普天間が正念場
参院が問責決議した仙谷は政策調整でも前面に出にくくなっている。日米重視の前原外交への米国の評価は高いが、まだ鳩山政権時代に比べればまし、という「ただし」付きだ。沖縄県の米軍普天間基地移設問題も重くのしかかる。
前原は坂本竜馬に政治家としての原点を感じる。霊山護国神社の竜馬の墓を毎年訪れ、2006年に偽メール事件で党代表を退いた直後には、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」を再び読み切った。NHK大河ドラマ「龍馬伝」も途中まで欠かさず見ていた。だが、外相になった前原には少しだけ不満があった。「福山雅治さんの竜馬は格好良すぎるんだよな」(敬称略)
:2011:01/05/09:03 ++ 民主党誰が何を決めているのか(1)外交、前原氏と仙谷氏―思想を超えた打算。
「前原は大したやつだよ。日米関係をここまで戻したんだからな」。外相の前原誠司(48)を支える民主党内グループ「凌雲会」の最近の会合で、官房長官の仙谷由人(64)は前原の外交手腕をことさらにたててみせた。
尖閣で表舞台に
16歳年上の仙谷は前原の後見役であり、今でも気軽に電話で相談できる間柄だ。前原は仙谷を頼りにし、仙谷は若い前原をグループの看板に押し立てた。与党になってからも小沢一郎と距離を置くなど権力闘争で手を握る。だからこそ民主党内で将来の首相候補の一人である前原に、仙谷は「直線的、直截(ちょくせつ)的すぎる」と辛口にもなれた。
外交官志望だった前原の外交・安保観は民主党では「右寄り」で「自民党議員以上に自民党的」と評される。かたや仙谷は学生時代に東大全共闘に参加。世代も考え方も違う青春時代を過ごした2人だが、菅政権で外交のかじ取りを担う外相と官房長官に就き、お互い「共同歩調」をアピールするようになった。
「この件は長官にも必ず伝えて下さい」。外務省幹部から報告を受けると、前原は最後にこう付け加える。仙谷への配慮は外交・安保政策で肌合いが違うとされる2人の「危機管理」でもある。
前原の強みは野党時代から培ってきた米国務省や国防総省の人脈。だが昨年9月、尖閣諸島沖で発生した海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件では「(中国の対応は)極めてヒステリック」などと発言し身動きが取りにくくなった。前原に代わり対中外交の舞台に登場したのが仙谷だった。
「待てば海路の日和あり」と前原を諭す一方、駐日中国大使、程永華のもとに足しげく通ったり、民主党の細野豪志や旧知のコンサルタントを使って水面下の交渉に動いた。那覇地検が処分保留で中国人船長の釈放を発表したのは首相の菅直人も前原も外遊中のタイミング。政界ではもっぱら仙谷の意向とされた。
これが外交の一貫性を欠いたと批判された。日中関係が緊迫した直後の10月下旬に日本経済新聞が実施した世論調査では、菅内閣を支持しない理由のうち「外交・安全保障への取り組み」が急上昇し、1位になった。
2人ともに新年早々、正念場を迎えている。
普天間が正念場
参院が問責決議した仙谷は政策調整でも前面に出にくくなっている。日米重視の前原外交への米国の評価は高いが、まだ鳩山政権時代に比べればまし、という「ただし」付きだ。沖縄県の米軍普天間基地移設問題も重くのしかかる。
前原は坂本竜馬に政治家としての原点を感じる。霊山護国神社の竜馬の墓を毎年訪れ、2006年に偽メール事件で党代表を退いた直後には、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」を再び読み切った。NHK大河ドラマ「龍馬伝」も途中まで欠かさず見ていた。だが、外相になった前原には少しだけ不満があった。「福山雅治さんの竜馬は格好良すぎるんだよな」(敬称略)
尖閣で表舞台に
16歳年上の仙谷は前原の後見役であり、今でも気軽に電話で相談できる間柄だ。前原は仙谷を頼りにし、仙谷は若い前原をグループの看板に押し立てた。与党になってからも小沢一郎と距離を置くなど権力闘争で手を握る。だからこそ民主党内で将来の首相候補の一人である前原に、仙谷は「直線的、直截(ちょくせつ)的すぎる」と辛口にもなれた。
外交官志望だった前原の外交・安保観は民主党では「右寄り」で「自民党議員以上に自民党的」と評される。かたや仙谷は学生時代に東大全共闘に参加。世代も考え方も違う青春時代を過ごした2人だが、菅政権で外交のかじ取りを担う外相と官房長官に就き、お互い「共同歩調」をアピールするようになった。
「この件は長官にも必ず伝えて下さい」。外務省幹部から報告を受けると、前原は最後にこう付け加える。仙谷への配慮は外交・安保政策で肌合いが違うとされる2人の「危機管理」でもある。
前原の強みは野党時代から培ってきた米国務省や国防総省の人脈。だが昨年9月、尖閣諸島沖で発生した海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件では「(中国の対応は)極めてヒステリック」などと発言し身動きが取りにくくなった。前原に代わり対中外交の舞台に登場したのが仙谷だった。
「待てば海路の日和あり」と前原を諭す一方、駐日中国大使、程永華のもとに足しげく通ったり、民主党の細野豪志や旧知のコンサルタントを使って水面下の交渉に動いた。那覇地検が処分保留で中国人船長の釈放を発表したのは首相の菅直人も前原も外遊中のタイミング。政界ではもっぱら仙谷の意向とされた。
これが外交の一貫性を欠いたと批判された。日中関係が緊迫した直後の10月下旬に日本経済新聞が実施した世論調査では、菅内閣を支持しない理由のうち「外交・安全保障への取り組み」が急上昇し、1位になった。
2人ともに新年早々、正念場を迎えている。
普天間が正念場
参院が問責決議した仙谷は政策調整でも前面に出にくくなっている。日米重視の前原外交への米国の評価は高いが、まだ鳩山政権時代に比べればまし、という「ただし」付きだ。沖縄県の米軍普天間基地移設問題も重くのしかかる。
前原は坂本竜馬に政治家としての原点を感じる。霊山護国神社の竜馬の墓を毎年訪れ、2006年に偽メール事件で党代表を退いた直後には、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」を再び読み切った。NHK大河ドラマ「龍馬伝」も途中まで欠かさず見ていた。だが、外相になった前原には少しだけ不満があった。「福山雅治さんの竜馬は格好良すぎるんだよな」(敬称略)
:2011:01/05/08:56 ++ 国を開き道を拓く(4)自由化に耐える改革で農業自滅を防げ(社説)
同じ産業界でも、半導体と自動車では業界内の事情や経営の課題が異なる。同様に農業の中にも、コメ、野菜、酪農など、さまざまな“異業種”がある。兼業農家と専業農家では家計の収入構造が違う。北海道と沖縄の農業は同じではない。
ひと口に農業問題と呼ぶと日本が直面している課題の本質がぼやけてしまう。保護論争にはまり込み、必要な改革が遅れれば、日本を新たな成長に導く道は拓(ひら)けない。
コメ保護を問うTPP
米国主導で交渉が進む環太平洋経済連携協定(TPP)が、日本の農政に転換を迫っている。高い水準の自由貿易の仲間に入るには、これまで聖域だった農産物でも市場開放を進めなければならないからだ。
菅直人首相は交渉への参加に意欲をみせ、昨年末に農業改革の会議を政府内に立ち上げた。だが、これまでの議論を見ると、自由貿易を目指す産業界と、関税撤廃に抵抗する農業関係者の対立ばかりが目立つ。
農業問題の核にあるのはコメ問題だ。コメ農業には零細農家が多く、大半は農業以外で収入を得る兼業農家。こうした非効率な生産構造が、保護政策の下で温存されてきた。
日本のコメ政策は、減反で生産量を抑え、人為的に値段を高く維持することを主眼としてきた。高い価格で農家の所得を確保する一方、負担を消費者に回していた。その方法の前提となるのが、高い関税による国内市場の世界からの隔離である。
これでは土地を集約して規模を拡大したり、面積あたりの収穫量を高めたりする改善の力学が働かない。自立して経営努力するのではなく、生産支援から販売まで農業協同組合に依存するコメ農家が目立つ。
対照的にトマトやネギなどの野菜は関税率が低く、既に国内に外国産が大量に流通している。一方、品質や流通、マーケティングの工夫で、外国産に負けずに消費者の需要をつかんでいる農家は少なくない。鋭いビジネス感覚で成功した営農法人の事例が多いのも、この分野だ。
日本は国土が狭く、山林が多いのは事実だが、それだけが農業の生産性の足かせではない。市場開放に耐えられる強い農業が育たなかった主因の一つは、政策の失敗である。
ここは思い切って方向転換し、コメ農業を輸出産業に育てるほどの高い目標を掲げるべきではないか。現行の所得補償制度を見直し、コメ農家を含めて規模拡大に導く意欲的な改革に踏み切る必要がある。米国主導のTPP交渉は、市場開放にもたつく日本を待ってはくれない。
競争力を高めるには、農地の貸借をしにくくし、農業への新規参入を阻んでいる農地制度を、早急に見直さなければならない。細分化されたコメ農業の上に成り立つ農協組織の改革についても、消費者の視点を含めて議論を深めるべきだ。
農業が国民の食を担う重要な産業であることは間違いない。日本がTPPへの参加を決め、農産物の市場開放に踏み出すとしても、必要な量の国内生産を続け、食糧自給率を維持する支援策は欠かせないだろう。
保護を考える上で重要なのは「守るべき農家とは誰なのか」という視点だ。国内農家の大多数をコメ兼業農家が占める事実からすれば、多くの農家は企業に勤める会社員であり役所で働く公務員であろう。
輸出産業への脱皮も
北海道や和歌山県、高知県など全国の地方議会で、TPP交渉参加に反対する決議が相次いでいる。「参加すれば県産米の生産額は10分の1になる」(高知県)などと主張するが、コメ農業を現状のまま保護するだけでは地域経済は守れない。
農業を収入の柱とする主業農家の数は全国で36万戸。総農家数の14%にすぎない。大企業の工場や中小企業などが地方に立地しているからこそ、農業を続けられるともいえる。
TPPへの参加が遅れ、製造業の国際競争力がさらに低下すれば、工場の閉鎖などで影響を受けるのは、ほかならぬ地方経済だ。一方的に市場開放に反対する姿勢は短絡的すぎる。市場開放に耐えうる改革や、企業との共栄に知恵を絞るべきだ。
農業と輸出産業がにらみ合う姿は、政治がつくり出した虚構ではないか。全国の農家の中には、競争力に自信があり、TPPへの参加や輸出への道を期待する声もある。新興国の食糧需要の膨張を予測し、これからの成長産業として農業への進出を目指す企業もある。
表面的な対立の構図にとらわれると、こうした強い農業を育てる政策論から離れ、政治ゲームに陥る危険がある。自ら市場を閉ざして、成長の機会を失うべきではない。
ひと口に農業問題と呼ぶと日本が直面している課題の本質がぼやけてしまう。保護論争にはまり込み、必要な改革が遅れれば、日本を新たな成長に導く道は拓(ひら)けない。
コメ保護を問うTPP
米国主導で交渉が進む環太平洋経済連携協定(TPP)が、日本の農政に転換を迫っている。高い水準の自由貿易の仲間に入るには、これまで聖域だった農産物でも市場開放を進めなければならないからだ。
菅直人首相は交渉への参加に意欲をみせ、昨年末に農業改革の会議を政府内に立ち上げた。だが、これまでの議論を見ると、自由貿易を目指す産業界と、関税撤廃に抵抗する農業関係者の対立ばかりが目立つ。
農業問題の核にあるのはコメ問題だ。コメ農業には零細農家が多く、大半は農業以外で収入を得る兼業農家。こうした非効率な生産構造が、保護政策の下で温存されてきた。
日本のコメ政策は、減反で生産量を抑え、人為的に値段を高く維持することを主眼としてきた。高い価格で農家の所得を確保する一方、負担を消費者に回していた。その方法の前提となるのが、高い関税による国内市場の世界からの隔離である。
これでは土地を集約して規模を拡大したり、面積あたりの収穫量を高めたりする改善の力学が働かない。自立して経営努力するのではなく、生産支援から販売まで農業協同組合に依存するコメ農家が目立つ。
対照的にトマトやネギなどの野菜は関税率が低く、既に国内に外国産が大量に流通している。一方、品質や流通、マーケティングの工夫で、外国産に負けずに消費者の需要をつかんでいる農家は少なくない。鋭いビジネス感覚で成功した営農法人の事例が多いのも、この分野だ。
日本は国土が狭く、山林が多いのは事実だが、それだけが農業の生産性の足かせではない。市場開放に耐えられる強い農業が育たなかった主因の一つは、政策の失敗である。
ここは思い切って方向転換し、コメ農業を輸出産業に育てるほどの高い目標を掲げるべきではないか。現行の所得補償制度を見直し、コメ農家を含めて規模拡大に導く意欲的な改革に踏み切る必要がある。米国主導のTPP交渉は、市場開放にもたつく日本を待ってはくれない。
競争力を高めるには、農地の貸借をしにくくし、農業への新規参入を阻んでいる農地制度を、早急に見直さなければならない。細分化されたコメ農業の上に成り立つ農協組織の改革についても、消費者の視点を含めて議論を深めるべきだ。
農業が国民の食を担う重要な産業であることは間違いない。日本がTPPへの参加を決め、農産物の市場開放に踏み出すとしても、必要な量の国内生産を続け、食糧自給率を維持する支援策は欠かせないだろう。
保護を考える上で重要なのは「守るべき農家とは誰なのか」という視点だ。国内農家の大多数をコメ兼業農家が占める事実からすれば、多くの農家は企業に勤める会社員であり役所で働く公務員であろう。
輸出産業への脱皮も
北海道や和歌山県、高知県など全国の地方議会で、TPP交渉参加に反対する決議が相次いでいる。「参加すれば県産米の生産額は10分の1になる」(高知県)などと主張するが、コメ農業を現状のまま保護するだけでは地域経済は守れない。
農業を収入の柱とする主業農家の数は全国で36万戸。総農家数の14%にすぎない。大企業の工場や中小企業などが地方に立地しているからこそ、農業を続けられるともいえる。
TPPへの参加が遅れ、製造業の国際競争力がさらに低下すれば、工場の閉鎖などで影響を受けるのは、ほかならぬ地方経済だ。一方的に市場開放に反対する姿勢は短絡的すぎる。市場開放に耐えうる改革や、企業との共栄に知恵を絞るべきだ。
農業と輸出産業がにらみ合う姿は、政治がつくり出した虚構ではないか。全国の農家の中には、競争力に自信があり、TPPへの参加や輸出への道を期待する声もある。新興国の食糧需要の膨張を予測し、これからの成長産業として農業への進出を目指す企業もある。
表面的な対立の構図にとらわれると、こうした強い農業を育てる政策論から離れ、政治ゲームに陥る危険がある。自ら市場を閉ざして、成長の機会を失うべきではない。
:2011:01/04/14:27 ++ 国を開き道を拓く(3)技術の囲い込み排し世界市場を目指せ(社説)
情報通信技術の進展や二酸化炭素の排出削減の必要性から、電力や交通などのインフラ分野で技術革新が起きている。自動車や環境など日本が得意とする分野で優位に立つには、世界市場をにらんだ技術の標準化や普及活動が欠かせない。
電気自動車の普及では、道路沿いに設備を設けて短時間で充電する技術が重要になる。充電プラグや電圧などの規格を統一し、異なる車種でも電池の残量に合わせて安全に充電する技術が必要だ。
国際標準の獲得が重要
この分野でトヨタ自動車や東京電力などが組み、国際標準の獲得を目指す活動が始まった。推進組織には中国や韓国など外国企業も30社以上加わり、日本の規格に強い関心を示す。自動車や電機の技術だけでなく電力を安全に効率よく供給する技術力も日本にあるからだ。
電気自動車の標準化に向け世界的な競争が始まった。米国やドイツなど自動車大国のほか、電力から攻める国もある。自動車メーカーがないアイルランドは車体の供給をルノー・日産自動車や三菱自動車に要請、国内に1社しかない電力会社を通じ国を挙げての実証実験を始めた。日本もこうした国と組むことで、海外での実験や技術の標準化に突破口を開くことができるかもしれない。
日本には苦い経験がある。米国の軍事衛星を用いたカーナビの開発で日本勢は先行したが、各社が独自技術を競い、仕様を囲い込むことで、閉鎖的な市場をつくってしまった。この結果、高機能だが値段も高くなった。一方、海外では安価な簡易端末が主流になり、日本は外国企業の後じんを拝すようになった。
モノづくりの技術を過信し、デジタル技術への転換に乗り遅れたことも、日本が標準化で後れを取った理由だ。ガソリン車や家電製品のような商品は、機能と品質がよければ外国で売れる。だが携帯電話のように通信インフラと一体化した商品は、規格が合わなければ使えない。
「エジソンの夢を日本で実現したい」。こんな掛け声のもと国内の電機メーカーや通信会社約40社が新たな標準化活動を始めている。家庭や事務所で使う電気をすべて直流でまかなう直流給電の規格づくりだ。
19世紀末、エジソンは直流方式の送電網を唱えたが、ライバルの発明家テスラが推す交流方式に敗れ、世界の送電網は交流が標準となった。交流は電圧を高めて遠くに送りやすいという理由だ。ところが太陽光発電や照明用の発光ダイオード(LED)の登場で、常識は覆る。
太陽光発電は直流で電気を起こし、LEDは直流で光る。交流で送配電するのはかえってロスが大きく、合理的とはいえなくなった。
パソコンなどの電子機器も直流で動く。今は端末ごとに電源アダプターで交流から直流に変換している。参加企業は直流のまま使える電子機器の規格をまとめ、国際的な標準機関に働き掛けた。日本発の提案が世界から試されようとしている。
日本発の技術を世界に広めるには国際標準として認めてもらう努力が必要だ。標準化は国際電気通信連合(ITU)など国際機関を中心に進んできた。だが、世界の特定の有力企業の技術者などが集まる会合で事実上の方向性が決まるのが現実だ。
官民の連携が不可欠に
日本が技術標準の採用を求めるには、こうした会合に加わって影響力を発揮できる人材の育成や官民一体での活動が欠かせない。米国では国立標準技術研究所が規格づくりの先頭に立ち、企業派遣を含め約4000人が品質や安全性などの標準化に携わる。日本は経済産業省や総務省などの研究組織がバラバラで、一元的な技術戦略を描けていない。
標準化が重要な分野は多い。次世代送電網(スマートグリッド)でも米政府は送電網の制御技術や通信方式など80件もの規格を2年前に提案したが、日本の対応は遅れた。
政府は新成長戦略の中に標準化戦略の重要性を明記し、ようやく取り組みを始めようとするところだ。
交通渋滞の緩和などを促す高度道路交通システム(ITS)や様々なソフトをネットで提供するクラウドコンピューティングも、日本の存在感を示せる分野だ。そのためには省庁の縦割りを排し、企業間の戦略的連携を進める必要がある。企業も自社の技術を海外に売り込む提案や交渉ができる人材の育成が急務だ。
日本の技術戦略はこれまで守ることに主眼があった。これからは技術を海外に広め、新興国などの新しい需要を取り込む必要がある。2011年がそうした技術開国の幕開けの年となることを期待したい。
電気自動車の普及では、道路沿いに設備を設けて短時間で充電する技術が重要になる。充電プラグや電圧などの規格を統一し、異なる車種でも電池の残量に合わせて安全に充電する技術が必要だ。
国際標準の獲得が重要
この分野でトヨタ自動車や東京電力などが組み、国際標準の獲得を目指す活動が始まった。推進組織には中国や韓国など外国企業も30社以上加わり、日本の規格に強い関心を示す。自動車や電機の技術だけでなく電力を安全に効率よく供給する技術力も日本にあるからだ。
電気自動車の標準化に向け世界的な競争が始まった。米国やドイツなど自動車大国のほか、電力から攻める国もある。自動車メーカーがないアイルランドは車体の供給をルノー・日産自動車や三菱自動車に要請、国内に1社しかない電力会社を通じ国を挙げての実証実験を始めた。日本もこうした国と組むことで、海外での実験や技術の標準化に突破口を開くことができるかもしれない。
日本には苦い経験がある。米国の軍事衛星を用いたカーナビの開発で日本勢は先行したが、各社が独自技術を競い、仕様を囲い込むことで、閉鎖的な市場をつくってしまった。この結果、高機能だが値段も高くなった。一方、海外では安価な簡易端末が主流になり、日本は外国企業の後じんを拝すようになった。
モノづくりの技術を過信し、デジタル技術への転換に乗り遅れたことも、日本が標準化で後れを取った理由だ。ガソリン車や家電製品のような商品は、機能と品質がよければ外国で売れる。だが携帯電話のように通信インフラと一体化した商品は、規格が合わなければ使えない。
「エジソンの夢を日本で実現したい」。こんな掛け声のもと国内の電機メーカーや通信会社約40社が新たな標準化活動を始めている。家庭や事務所で使う電気をすべて直流でまかなう直流給電の規格づくりだ。
19世紀末、エジソンは直流方式の送電網を唱えたが、ライバルの発明家テスラが推す交流方式に敗れ、世界の送電網は交流が標準となった。交流は電圧を高めて遠くに送りやすいという理由だ。ところが太陽光発電や照明用の発光ダイオード(LED)の登場で、常識は覆る。
太陽光発電は直流で電気を起こし、LEDは直流で光る。交流で送配電するのはかえってロスが大きく、合理的とはいえなくなった。
パソコンなどの電子機器も直流で動く。今は端末ごとに電源アダプターで交流から直流に変換している。参加企業は直流のまま使える電子機器の規格をまとめ、国際的な標準機関に働き掛けた。日本発の提案が世界から試されようとしている。
日本発の技術を世界に広めるには国際標準として認めてもらう努力が必要だ。標準化は国際電気通信連合(ITU)など国際機関を中心に進んできた。だが、世界の特定の有力企業の技術者などが集まる会合で事実上の方向性が決まるのが現実だ。
官民の連携が不可欠に
日本が技術標準の採用を求めるには、こうした会合に加わって影響力を発揮できる人材の育成や官民一体での活動が欠かせない。米国では国立標準技術研究所が規格づくりの先頭に立ち、企業派遣を含め約4000人が品質や安全性などの標準化に携わる。日本は経済産業省や総務省などの研究組織がバラバラで、一元的な技術戦略を描けていない。
標準化が重要な分野は多い。次世代送電網(スマートグリッド)でも米政府は送電網の制御技術や通信方式など80件もの規格を2年前に提案したが、日本の対応は遅れた。
政府は新成長戦略の中に標準化戦略の重要性を明記し、ようやく取り組みを始めようとするところだ。
交通渋滞の緩和などを促す高度道路交通システム(ITS)や様々なソフトをネットで提供するクラウドコンピューティングも、日本の存在感を示せる分野だ。そのためには省庁の縦割りを排し、企業間の戦略的連携を進める必要がある。企業も自社の技術を海外に売り込む提案や交渉ができる人材の育成が急務だ。
日本の技術戦略はこれまで守ることに主眼があった。これからは技術を海外に広め、新興国などの新しい需要を取り込む必要がある。2011年がそうした技術開国の幕開けの年となることを期待したい。
:2010:12/28/09:43 ++ 政治への不安強めた民主党政権の1年(社説)
「混迷」という表現は国内政治を評する決まり文句になった感すらある。2010年は民主党が政権運営の未熟さを露呈する場面が目立ち、有権者が期待する政策の大胆な見直しは遅々として進まなかった。年の瀬まで続く民主党内の対立劇も政策論不在の権力闘争の色彩が濃い。
今年の政治の混乱を象徴するのが、6月の鳩山前政権の退陣劇だった。鳩山由紀夫首相は米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)の移設問題をめぐり「国外、最低でも県外」と宣言したが、米政府と本格交渉に入れないまま袋小路に追い詰められた。
自ら設定した5月の決着期限の間際になって「米海兵隊の存在が抑止力になるとの思いに至った」と発言するなど迷走を続け、日米関係の信頼性を損ねた。
政権への逆風が一気に強まったのは、当時の鳩山首相と小沢一郎幹事長の元秘書らが相次いで政治資金規正法違反(虚偽記入)の罪で刑事責任を問われた影響も大きかった。
6月に就任した菅直人首相は2度の代表選で、党の原点に立ち返った諸改革の実現に意欲を見せた。
菅首相は社会保障制度の抜本改革と合わせた消費税率の引き上げ、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加と国内農業の強化に言及した。歴代の自民党政権が先送りを続けた難しいテーマに取り組む姿勢を見せた点は評価できる。
しかし党内外の根強い反対論にさらされると、2つの課題ともに検討のメドを来年春以降に先送りした。「言いっ放し」に近い姿勢は、政権公約(マニフェスト)の見直し問題などでも顕著である。
来年度の予算編成や税制改正からも、経済活性化と財政再建の両立に向けた首相の決意は十分に伝わってこなかった。尖閣諸島沖での中国漁船の衝突事件への対応に象徴される外交や安全保障面での手腕への不安もぬぐえない。
民主党は27日の役員会で、小沢氏の衆院政治倫理審査会への出席を年明けに議決する方針を決めた。小沢氏があくまで拒否した場合は、野党が求める証人喚問も選択肢だ。
民主党は来年の通常国会で、衆参の多数勢力が異なる現状をどう克服しようとしているのだろうか。
党内で主導権争いに明け暮れ、政策論を脇に置いて社民党やたちあがれ日本などとの連携に走る展開が有権者の理解を得られるとは思えない。野党も政権批判をくり返すだけでは政治は前に進まない。今年と同じ政争を続けていては、日本の苦境は深まるばかりである。
今年の政治の混乱を象徴するのが、6月の鳩山前政権の退陣劇だった。鳩山由紀夫首相は米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)の移設問題をめぐり「国外、最低でも県外」と宣言したが、米政府と本格交渉に入れないまま袋小路に追い詰められた。
自ら設定した5月の決着期限の間際になって「米海兵隊の存在が抑止力になるとの思いに至った」と発言するなど迷走を続け、日米関係の信頼性を損ねた。
政権への逆風が一気に強まったのは、当時の鳩山首相と小沢一郎幹事長の元秘書らが相次いで政治資金規正法違反(虚偽記入)の罪で刑事責任を問われた影響も大きかった。
6月に就任した菅直人首相は2度の代表選で、党の原点に立ち返った諸改革の実現に意欲を見せた。
菅首相は社会保障制度の抜本改革と合わせた消費税率の引き上げ、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加と国内農業の強化に言及した。歴代の自民党政権が先送りを続けた難しいテーマに取り組む姿勢を見せた点は評価できる。
しかし党内外の根強い反対論にさらされると、2つの課題ともに検討のメドを来年春以降に先送りした。「言いっ放し」に近い姿勢は、政権公約(マニフェスト)の見直し問題などでも顕著である。
来年度の予算編成や税制改正からも、経済活性化と財政再建の両立に向けた首相の決意は十分に伝わってこなかった。尖閣諸島沖での中国漁船の衝突事件への対応に象徴される外交や安全保障面での手腕への不安もぬぐえない。
民主党は27日の役員会で、小沢氏の衆院政治倫理審査会への出席を年明けに議決する方針を決めた。小沢氏があくまで拒否した場合は、野党が求める証人喚問も選択肢だ。
民主党は来年の通常国会で、衆参の多数勢力が異なる現状をどう克服しようとしているのだろうか。
党内で主導権争いに明け暮れ、政策論を脇に置いて社民党やたちあがれ日本などとの連携に走る展開が有権者の理解を得られるとは思えない。野党も政権批判をくり返すだけでは政治は前に進まない。今年と同じ政争を続けていては、日本の苦境は深まるばかりである。
:2010:12/28/09:32 ++ 政治がなすべき3つの政策(下)開国で成長できる国に。
太平洋を横切るテレビ会議の通信回線に、米政府が毎日のように予約を入れている。ワシントン、シンガポール、キャンベラなど、各国の担当者を直接結ぶ政府間の協議。話し合われているのは、自由貿易圏をつくる環太平洋経済連携協定(TPP)の中身である。
日本抜きで交渉
協定文の原案は部外者が想像する以上の速さで固まりつつある。参加国は米国、シンガポール、豪州、ベトナムなど9カ国。各国の代表が実際に集まる次回2月のチリでの会合で、最初の草案が出そろう見通しだ。
TPPは親しい仲間どうしで障壁を取り払い、貿易や投資、人材の移動などを自由にする構想だ。日本が加われば、最大の輸出相手国の米国と自由貿易協定(FTA)を結ぶのと等しい効果がある。低迷する日本経済に活力を吹き込むのは間違いない。
だが今のところ日本は蚊帳の外。今月6日からニュージーランドで開いた会合に「傍聴人」として出席を希望したが、返事はつれなかった。米通商代表部(USTR)から外務省に届いた連絡は「日本が参加するのは不適切だ」と簡潔だった。
TPPの是非をめぐり、日本では百家争鳴の議論が続く。国内の意思統一ができない以上、交渉には加われない。日本が声を反映できないまま、新しい東アジアの通商秩序を決める協定づくりが駆け足で進む。
菅直人首相は今月、貿易自由化の大前提となる農政改革に着手した。歴代政権が逃げ続けた難題に挑む構えだが、改革案をまとめるのは来年6月がメド。交渉に参加するかどうかを決めるのは、その後だとしている。
これでは間に合うはずもない。米オバマ政権が目指す決着期限は、来年11月だ。来春の統一地方選を気にした政治的な判断で結論を先送りにする余裕など日本にはない。
自由貿易を目指すのか。国を開く意志があるのか。世界の問いに、日本の政治は答える必要がある。米国や欧州連合(EU)、豪州などとの2国間のFTAを動かすためにも、菅政権が取り組むべき課題は明らかだ。
11月半ば、霞が関はTPP反対を叫ぶ3千人のデモ隊に包まれた。千葉から来た農家は「外国ネギが入ってきたら暮らしていけない」と憤る。
だが、現実にはネギの関税は3%と世界でも最低水準で、すでに輸入品が大量に国内に流入している。高品質でしっかり需要をつかむ国産の野菜や果実の例は多い。その実力を、農家自身が自覚していない場合もある。
問題の根は「守り」の農政にある。高い関税で国内農業を鎖国状態に置く一方、補助金で減反を進め、コメの生産を抑え込む。その負担は高い食品価格という形で、消費者が払ってきた。
生産意欲もなく、将来の転売を期待して農地を手放さない名ばかりの農家も増えた。日本全体の耕作放棄地は、埼玉県ほどの広さに達している。
規模の大小や専業か兼業かの区別なく大くくりに「農業問題」として扱えば、旧態依然の保護論争にはまり込むだけだ。意味ある政策論から離れ、票田にらみの政治ゲームに陥る危険がある。
資本集められず
政治が取り組むべき課題は、生産性を高め、生き残れる農業を育てる「攻め」の農政への転換だ。土地利用や税制、農協改革を含め農政を根幹から見直す大仕事には、政治の意志が要る。市場開放後に必要な生産を守るためには、財政負担の議論も避けられない。
日本への海外からの直接投資残高は約2千億ドル。国内総生産(GDP)の約4%と、主要国で最も低い。成長に必要な資本を、世界から集められなくなっている。
人の流れも同様。学生の留学先として日本の大学の人気は陰り、研究開発や医療、デザインなど高度分野で日本で働く夢を抱くアジアの若者は減り続けている。
国として輝きを失ったのは、内側を向いて閉じた日本の姿勢の結果だろう。高まるTPP論議は国を開く好機にもなる。企業や農業、そして日本人が、元気に活躍できる舞台に戻る道をつくるのが、政治の責務だ。
日本抜きで交渉
協定文の原案は部外者が想像する以上の速さで固まりつつある。参加国は米国、シンガポール、豪州、ベトナムなど9カ国。各国の代表が実際に集まる次回2月のチリでの会合で、最初の草案が出そろう見通しだ。
TPPは親しい仲間どうしで障壁を取り払い、貿易や投資、人材の移動などを自由にする構想だ。日本が加われば、最大の輸出相手国の米国と自由貿易協定(FTA)を結ぶのと等しい効果がある。低迷する日本経済に活力を吹き込むのは間違いない。
だが今のところ日本は蚊帳の外。今月6日からニュージーランドで開いた会合に「傍聴人」として出席を希望したが、返事はつれなかった。米通商代表部(USTR)から外務省に届いた連絡は「日本が参加するのは不適切だ」と簡潔だった。
TPPの是非をめぐり、日本では百家争鳴の議論が続く。国内の意思統一ができない以上、交渉には加われない。日本が声を反映できないまま、新しい東アジアの通商秩序を決める協定づくりが駆け足で進む。
菅直人首相は今月、貿易自由化の大前提となる農政改革に着手した。歴代政権が逃げ続けた難題に挑む構えだが、改革案をまとめるのは来年6月がメド。交渉に参加するかどうかを決めるのは、その後だとしている。
これでは間に合うはずもない。米オバマ政権が目指す決着期限は、来年11月だ。来春の統一地方選を気にした政治的な判断で結論を先送りにする余裕など日本にはない。
自由貿易を目指すのか。国を開く意志があるのか。世界の問いに、日本の政治は答える必要がある。米国や欧州連合(EU)、豪州などとの2国間のFTAを動かすためにも、菅政権が取り組むべき課題は明らかだ。
11月半ば、霞が関はTPP反対を叫ぶ3千人のデモ隊に包まれた。千葉から来た農家は「外国ネギが入ってきたら暮らしていけない」と憤る。
だが、現実にはネギの関税は3%と世界でも最低水準で、すでに輸入品が大量に国内に流入している。高品質でしっかり需要をつかむ国産の野菜や果実の例は多い。その実力を、農家自身が自覚していない場合もある。
問題の根は「守り」の農政にある。高い関税で国内農業を鎖国状態に置く一方、補助金で減反を進め、コメの生産を抑え込む。その負担は高い食品価格という形で、消費者が払ってきた。
生産意欲もなく、将来の転売を期待して農地を手放さない名ばかりの農家も増えた。日本全体の耕作放棄地は、埼玉県ほどの広さに達している。
規模の大小や専業か兼業かの区別なく大くくりに「農業問題」として扱えば、旧態依然の保護論争にはまり込むだけだ。意味ある政策論から離れ、票田にらみの政治ゲームに陥る危険がある。
資本集められず
政治が取り組むべき課題は、生産性を高め、生き残れる農業を育てる「攻め」の農政への転換だ。土地利用や税制、農協改革を含め農政を根幹から見直す大仕事には、政治の意志が要る。市場開放後に必要な生産を守るためには、財政負担の議論も避けられない。
日本への海外からの直接投資残高は約2千億ドル。国内総生産(GDP)の約4%と、主要国で最も低い。成長に必要な資本を、世界から集められなくなっている。
人の流れも同様。学生の留学先として日本の大学の人気は陰り、研究開発や医療、デザインなど高度分野で日本で働く夢を抱くアジアの若者は減り続けている。
国として輝きを失ったのは、内側を向いて閉じた日本の姿勢の結果だろう。高まるTPP論議は国を開く好機にもなる。企業や農業、そして日本人が、元気に活躍できる舞台に戻る道をつくるのが、政治の責務だ。
:2010:12/28/09:30 ++ 企業年金180万人分が不明、3月末3000億円、転職増、手続き不備。
公的年金を補完する企業年金で、手続きの不備などで放置され、持ち主が不明な年金資産が3月末時点で約180万人分あることがわかった。資産の総額は約3000億円に上る。転職後の移管手続きや年金の受給申請をしていないことが主な理由で、手続きしないとこの分は受け取れない。税・社会保障の共通番号制度など、個人が自分の年金を一元的に知ることができる仕組みの導入が急務だ。(企業年金は3面「きょうのことば」参照)
企業年金にはあらかじめ受け取る年金額が決まった厚生年金基金などの確定給付型と、個人の運用成績で年金額が変わる確定拠出年金がある。帰属が不明な180万人分の中で、若いうちに転職して厚年基金の受給資格を満たしていない人などの分が144万人(資産1579億円)。この資産は企業年金連合会に移っており、厚年基金に入っていた証明などを提出して手続きすれば受給できるようになる。
企業に一定期間勤めて受給資格を満たした人の資産は各厚年基金に残っている。このうち受給資格者が手続きを終えていないため持ち主が確定せず、厚年基金が支給に向けた処理を進められない資産が14万3千人(同1008億円)分ある。
2001年から始まった確定拠出年金では転職や失業などで21万7千人分(同456億円)が宙に浮いている。会社を辞めると制度から抜け、6カ月以内に手続きすれば転職先や個人の確定拠出年金の口座に移る。ただ、手続きしなければ国民年金基金連合会に移り、運用できなくなる。
帰属がはっきりしない年金資産が増えると、各年金にとっては加入者追跡などの事務コストがかかる。受給資格者の請求に時効はなく、半永久的に連絡をしなければならないため他の受給者にも影響を及ぼしかねない。
終身雇用が定着してきた日本では、企業年金は定年退職後に受け取るという認識が広まっていた。ところが転職が増え、個人で手続きしないと資産が自分のものとして確定できない例が続出。住所が不明で請求書類が届かない人や、住所が把握できても請求書類を返送しない人、年金額が少なく請求しない人も多い。
各企業年金とも転退職した人へ手続きするよう促しているが、問題は解消していない。横浜国立大の山口修教授は「受け取る年金額の割に手続きが煩雑」と指摘する。必要な書類が多いうえ、自分の年金資産がどこに残っているかわからないケースもある。
日本では公的年金と企業年金の記録を別々に管理しているので、宙に浮いた年金資産問題が発生してしまう。米国の年金制度は日本ほど複雑ではなく、居住者が持つ社会保障番号で自分の年金の状況を把握できる。
共通番号制度を導入すれば、自分の年金資産がどこにいくらあるかを確認できるほか、煩雑な手続きも簡素化できる可能性がある。
企業年金にはあらかじめ受け取る年金額が決まった厚生年金基金などの確定給付型と、個人の運用成績で年金額が変わる確定拠出年金がある。帰属が不明な180万人分の中で、若いうちに転職して厚年基金の受給資格を満たしていない人などの分が144万人(資産1579億円)。この資産は企業年金連合会に移っており、厚年基金に入っていた証明などを提出して手続きすれば受給できるようになる。
企業に一定期間勤めて受給資格を満たした人の資産は各厚年基金に残っている。このうち受給資格者が手続きを終えていないため持ち主が確定せず、厚年基金が支給に向けた処理を進められない資産が14万3千人(同1008億円)分ある。
2001年から始まった確定拠出年金では転職や失業などで21万7千人分(同456億円)が宙に浮いている。会社を辞めると制度から抜け、6カ月以内に手続きすれば転職先や個人の確定拠出年金の口座に移る。ただ、手続きしなければ国民年金基金連合会に移り、運用できなくなる。
帰属がはっきりしない年金資産が増えると、各年金にとっては加入者追跡などの事務コストがかかる。受給資格者の請求に時効はなく、半永久的に連絡をしなければならないため他の受給者にも影響を及ぼしかねない。
終身雇用が定着してきた日本では、企業年金は定年退職後に受け取るという認識が広まっていた。ところが転職が増え、個人で手続きしないと資産が自分のものとして確定できない例が続出。住所が不明で請求書類が届かない人や、住所が把握できても請求書類を返送しない人、年金額が少なく請求しない人も多い。
各企業年金とも転退職した人へ手続きするよう促しているが、問題は解消していない。横浜国立大の山口修教授は「受け取る年金額の割に手続きが煩雑」と指摘する。必要な書類が多いうえ、自分の年金資産がどこに残っているかわからないケースもある。
日本では公的年金と企業年金の記録を別々に管理しているので、宙に浮いた年金資産問題が発生してしまう。米国の年金制度は日本ほど複雑ではなく、居住者が持つ社会保障番号で自分の年金の状況を把握できる。
共通番号制度を導入すれば、自分の年金資産がどこにいくらあるかを確認できるほか、煩雑な手続きも簡素化できる可能性がある。