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:2007:11/16/11:00 ++ 【やばいぞ日本】第4部 忘れてしまったもの(10)
ゴミのポイ捨てや落書きといえば、「今どきの若者」のモラルや規範意識の薄さを象徴する行為かもしれない。だが、教育の工夫次第で子供たちは驚くほどに変わる。
今年7月下旬、東京都立広尾高校(渋谷区)1年の生徒約200人が、表参道、宮下公園などでゴミ拾いや落書き消しの作業を4時間体験した。
生徒たちは汗だくになり、ゴミだらけにもなった。午後、学校に戻ってきた生徒たちを見て、1年生学年主任の高木春光教諭(46)はある変化に気付いた。「みんなの表情ががらりと変わり、目も輝いていた」
翌日、高木教諭らは生徒に感想文を書かせた。圧倒的に多かったのは「もうゴミのポイ捨てはできない」という声だった。
「ボランティアなんて損するだけだと思っていた。だが、作業を終えたときは満足できた」(男子)
「大勢の人が通る町を自分たちがきれいにしている。そう思うとうれしかった」(女子)
これが都が全国に先がけて今年度から高校の必修科目に導入した「奉仕」授業の一つの成果である。
実は、今春の新学期開始前から、各校の先生たちは頭を抱えていた。必修1単位(年間35時限)の約半分を奉仕体験学習にあてて、残りは事前学習と事後の反省にあてる仕組みなのだが、教科としての前例などないし専任教師もいない。どの学校でも何からどう手をつけてよいのか、暗中模索状態にあった。
広尾高校の場合、200人に奉仕体験をさせるには、活動の種類も限られる。「清掃作業をさせてはどうか」との案が出たが、ありきたりに学校の周囲を清掃させるだけでは、生徒たちに義務感を強いるだけのむなしい結果になりかねなかった。
「地域のボランティア団体と共同作業をさせ、大人たちと触れ合う場にすべきだ」と助言したのは、都立高全体のカリキュラム開発を手伝ったボランティア専門家、村上徹也さん(50)=日本青年奉仕協会調査研究員=らだった。渋谷の繁華街などで清掃作業や暴走族などによる落書き消しを続けている地元NPO団体に協力を求めた。4、5月は学年集会の場を設けて、NPO代表らを招いて生徒たちに「なぜボランティアが必要なのか」を話してもらった。
初めは興味がなさそうだった生徒たちも、やがて「何が楽しくてゴミ拾いをやるのか」と、関心を持ち始めたという。
一方で、教師側にも不安があった。生徒を授業時間帯に校外に出すことで「どこかへ消えてしまわないか」「地域の大人と意思疎通ができるだろうか」との悩みがつきまとったからだ。
だが、生徒たちの感想文を読んで、教師たちは「ウチの生徒を見直した」と満足げだ。
「ゴミを捨てるな、といわれるだけでは身につかないが、体で覚えた内発的な規範意識はずっと残る」と村上さん。
奉仕の授業は、過密な受験勉強や競争社会の中でいつしか忘れられた「日本人の心」を取り戻す試みともいえる。「私も生徒たちに感動させてもらいました」というのが、村上さんの実感である。
≪「社会の一員」心に刻む≫
「チョーかわいい!」
「一緒にボール投げしようねっ」
乳幼児らの笑顔を囲んで、高校生のにぎやかな声がはずむ。新宿区の都立市ケ谷商業高校。校舎の空き教室を利用して開いている区の子育て支援施設「ゆったりーの」では、2年生男女14人が交代で奉仕体験に取り組んでいた。
この日の「ゆったりーの」に参加したのは、ゼロ歳から4歳までの乳幼児5人とお母さんたちだ。生徒たちは子供をあやしたり、すべり台で遊ばせる。合間に母親らとのおしゃべりを通じて育児や出産の難しさなども学ぶ。
「小さな子と触れ合う授業なんて、ほかにないので、役に立ちます」と女子生徒(17)。「ゆったりーの」運営委員の西美智子さんも「生徒たちの熱心さは驚くほど。赤ちゃんをだっこしたこともない生徒も多いので毎回、やりがいがある」。
奉仕や助け合いの心が忘れられがちなのは、日本だけではない。
奉仕活動の先進国・米国でも約10年前、「ボウリング・アローン」という論文が話題を呼んだ。
地域社会のきずなが失われ、昔は家族や仲間で楽しんだボウリングを1人さみしくプレーする姿が描かれていたからだ。
奉仕体験を教育に組み込む必要が米国で早くから叫ばれてきたのは、個人主義が根強い国民性とも無関係ではあるまい。
前述の村上徹也さんによると、米国の「サービス・ラーニング(奉仕体験学習)」を全米で最初に高校必修科目としたのはメリーランド州だ。1992年からは計75時間の社会貢献活動を卒業要件にしている。今では全米の公立高の8割以上がこうした教育を採用しているという。
一方、都が「奉仕」必修化を打ち出したのは2004年の「教育ビジョン」だ。子供たちの規範意識の低下が全国的に指摘され、社会の一員であることの意味をどうやって教えるかが極めて重要な課題だった。
結局、「サービス・ラーニング」をベースに、社会や地域のためになる貢献を実際に体験させることとし、都立高全校(夜間部も含めて約280校)で一斉に導入することが決まった。
だが、実現までの道は簡単ではなかった。カリキュラム作成に専心してきた都教育庁の江本敏男・主任指導主事は「初めは『奉仕を強制するな』とか『戦前の教育に戻すのか』といった反対論も根強かった。保護者や学校を回って説明するのがたいへんだった」と苦労を語った。
市ケ谷商業高校は以前からボランティア活動がさかんだった。お年寄りのパソコン指導や、小学生に本を読んで聞かせるなどの実績を積んでいた。
このため、奉仕体験でも▽お年寄りとの交流▽小学生へのパソコン講習▽学童クラブの手伝い-など多様なプログラムを用意できた。「活動の準備や受け入れ先探しは難しくはなかった」と山下哲校長は説明する。
学校や教師の側にも意欲がなければうまくいかない。中には「地元の団体にプログラム作りを丸投げしようとした」「旅行会社のパック旅行に体験学習を組み込んでお茶を濁せば」などの話も聞こえてくる。
生徒たちの規範意識を育て、社会のために役立つ心を養うのが「奉仕」だ。その成否は教師たちの心意気にもかかっている。(高畑昭男)
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