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:2007:11/08/10:51 ++ 【正論】「大連立」の不可解 杏林大学客員教授・田久保忠衛
■日米関係の悪化はさらに深刻に
≪小沢去就などどうでもいい≫
マスメディアの関心は民主党の小沢一郎代表の去就にあったようだが、私にとってはどうでもいい。が、小沢代表が辞任表明の記者会見で用意した書面を読み上げながら、福田康夫首相は「政策協議の最大の問題とみられるわが国の安全保障政策について、極めて大きな政策転換を決断された」と述べたときには思わず耳を疑った。
福田首相は(1)自衛隊の海外派遣は国連が認めない限り行わないし、従って特定の国の軍事作戦を支援しない(2)自民党と民主党の協力体制確立が最優先するので、新テロ対策特別措置法案にはこだわらない-の2点を約束したと小沢氏は言明した。首相が(2)についてだけ「何かの勘違いだろう」と述べているところから判断すれば誤解を生むやりとりはあったのだろう。
小沢氏が月刊誌『世界』11月号で展開している自説に、福田首相は歩み寄る姿勢を示したのだろうか。
小沢氏は自衛隊を憲法第9条の下で厳密な運用をすると主張しながら、国連のお墨付きさえあれば戦闘行為も想定されるアフガニスタンの国際治安支援部隊(ISAF)にも参加させると明言した。国を守る自衛隊と国連下の自衛隊をつなぐ論理が欠落している。
国内の非常識を国際の常識に順序立てて近づけたいと考えたからこそ政府・自民党は憲法の拡大解釈、集団自衛権の行使は不可とする法匪(ほうひ)的解釈の改正、最終的には改憲を目指そうとしてきたのではないか。
政府・与党の最高指導者は方針を一擲(いってき)し、荒唐無稽(むけい)な小沢案に全面降伏する気配でも示したのか。両者の間に合意が成立していたならば、日本は日米同盟の運用も多国籍軍への参加も、いい加減な国連決議とやらに全部縛られる寸前だった。
よしんば国連がまともな機能を果たす機関であったにせよ、普通の国連加盟国並みの国軍でない自衛隊が参加して、どれだけの貢献ができるか首相も小沢氏も理解しているかどうか疑わしい。
≪「話し合い」路線の危うさ≫
ワシントンの目には日米同盟を内部から突き崩そうとするのが小沢氏で、福田首相は頼りになる存在だったはずだ。小沢発言とほぼ同じ時間に加藤良三駐米大使はワシントンで開かれた日米財界人会議で講演し、「いまの日米関係は私が大使に就任した2001年9月以来、最も困難な状態だ」と述べた。
小沢氏と組んで日米関係の悪化に手を貸したなどとは言いたくないが、ブッシュ大統領ら米政府首脳の福田首相に対する感情は小泉純一郎、安倍晋三の過去2代の首相への信頼感とは一味違ったものになるのではないか。
福田首相の姿勢全体を言い表すキーワードは「話し合い」だと思う。誰も正面切って反対できない、このうえない陳腐なこの表現は外交・安全保障問題に関するかぎり、すこぶる危険である。
たまたま米共和党の大統領候補の一人であるルドルフ・W・ジュリアーニ前ニューヨーク市長は『フォーリン・アフェアーズ』誌9~10月号に「現実的平和に向けて」と題する一文を書き、原則なしにひたすら譲ることの怖さを指摘した。彼は外交交渉自体が何がしかの譲歩を意味し、ずるずる譲るうちに全面降伏に至るとして自らを戒めている。
≪どこまで譲歩するつもりか≫
解散権という最強のカードまで「野党との話し合いで」と公言してしまった福田首相は中国に対して「靖国神社に参拝しない」とあっさり言ってのけた。先月平壌を訪れた韓国の盧武鉉大統領には金正日総書記宛の「日朝関係の改善には日本人拉致問題が解決されなければならないが、その解決のためには日本は対話する意思がある」とのメッセージを託した。
集団自衛権の行使を可能にする道を開けば、日本が普通の民主主義国に一歩近づくだけでなく関係諸国に与える外交的含蓄があるにもかかわらず、「扱いは十分慎重でなければならぬ」と発言した。同盟国である米国からいやがられ、中国や北朝鮮からは歓迎される言動だ。
安倍前首相には「戦後レジームからの脱却」という目標があり、「価値観外交」という戦略があり、そのうえで二国間外交を進めるという戦術があった。福田首相の小沢氏に対する譲歩は最たるものだが、ひたすら相手との衝突を避ける態度には目標、戦略、戦術は皆無で無原則な後退だけがある。
「戦後レジーム」の夢からさめたはずの日本は、この政権の下で再び深い眠りに戻るのだろうか。危機と言わずして何と言おう。(たくぼ ただえ)
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