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ひで坊な日々

主に私の仕事と信条に関わるメディアからの備忘録と私の日常生活から少し・・・                             
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:2011:05/09/10:01  ++  震災にみる日本の技術観―「最悪の想定」は背徳的か(経営の視点)

ルイ・ヴィトンやカルティエなど首都圏にある外国高級ブランド店は、震災の直後に一斉に休業した。百貨店内の売り場も閉めた。
 他の小売店や飲食業が頑張って営業を続ける中で、照明を落とし、真っ暗になったブランド店の光景は、多くの日本人の目に無情と映ったのではないか。
 「フランス企業は真っ先に日本から逃げた」。そんな批判も出たが、危機への対応で多くの欧米企業の意思決定が、日本企業より素早かったのは事実だ。
 早さには理由がある。フォール駐日仏大使は、こう解説する。「慌てて会議を開いて決めたわけではない。手順は前から定められていた。それを忠実に実行しただけだ」
 制御不能になった原子炉への対応で、東京電力の右往左往が続く。「最悪の事態」を想定せず、ことが起きてから考えるから時間がかかり、失敗もする。ベント(排気)や廃炉の決断の遅れが、悔やまれる。
 たとえば、福島第1原子力発電所では、津波の高さを最大5・7メートルと想定していたという。現実には14メートル以上に襲われ、冷却装置が動かなくなった。
 では、なぜ東電は設計の際に5・7メートルで線を引いたのか。原子力部門の技術陣が「たとえ5メートルの大波が来ても大丈夫です」と説明したときに、「ならば10メートルならどうする?」と、専門家ではない客観的な立場から問い返すのが、経営トップの役目であるはずだ。
 監督官庁である経済産業省の幹部の弁明はこうだ。「当事者が最悪の事態を想定すること自体が、背徳的とみなされる。そんな可能性まで頭に描いているのかと逆に糾弾されてしまう」
 トヨタ自動車のリコール問題にも共通の根があった。技術に自負がある技術部門が、社内で対米交渉部門への情報開示を渋り、米国との関係が決定的にこじれてしまった。情報漏洩を起こしたソニーも、保安技術への過信がなかったか。
 フォール仏大使によると仏原子力庁と政府傘下のアレバ社は、全仏各地の原発について、炉心溶融やテロ攻撃、核攻撃、放射性物質の大量放出など考えられる限りの「最悪の事態」を想定し、2005年から模擬実験を繰り返してきた。
 農業への影響の予測も徹底している。牛乳、小麦、ホウレンソウなどの品目ごとの安全基準。1日、1週間、1カ月、1年など時間経過に沿った対応策。出荷停止や廃棄、農家への補償など、原発からの距離に応じた行動計画が、あらかじめ練られているという。
 放射能汚染の可能性がある日本の農産物や製品の輸入について、検査方法や基準をいち早く打ち出したのは米国だった。9・11事件以来、テロに備えた対応策を作ってあったからだ。
 マニュアルがあれば、あとは実行するだけ。対日支援で米仏の行動が早かったのは、意思決定の速度だけでなく、視野に入れている危機の範囲の広さにある。
 仏政府は原発危機の対応マニュアルを一般に公開していない。米国も輸入品の検査基準を、事前には明らかにしていない。だが起きてはならない「最悪の事態」を、悪魔の心で計算していた。日本が西欧から学びそこねた技術文明の一つの側面がここにある。
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