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:2009:03/09/13:39 ++ 【2030年】第1部(3)希望退職に「希望」は… 公認された「肩たたき」
課長は席に着くなり「あなたの業績評価は悪い」と告げた。それまでの5段階の真ん中から1ランク下がり、今後の年収は最大200万円減るという。課長は「特別セカンドキャリア支援プログラムのご案内」と題した1枚の用紙を取り出し、こう迫った。
「会社の外へキャリアを求めてみませんか。退職金に加えて割増金を勤続年数に応じて最大15カ月分支給し、会社指定の再就職支援会社を紹介するプログラムを実施します」
右近さんが「定年まで勤めたい」と断ると、今度は同年代の女性部長に呼ばれ「GBS&GDEビジネス推進」という新設の部署への異動を命じられた。“業務”は退職勧奨を断った社員を集め、社内で自分の新しい仕事を探させること。俗に言う「リストラ部屋」である。ただし机は元のままで、名前だけの「バーチャル部屋」だった。
「私にも家族があり小学生の子供もいる。マンションのローンも残っている。鬱(うつ)病になるくらいのストレスです…。経験しないと分かってもらえないでしょうね」
40代の同僚は、執拗(しつよう)な退職勧奨を受けた後、次のようなメールを残して「自主退職」した。《私はもう決めました。割り増しもらって辞めようと。背に腹はかえられませんわ。闘う気力もうせました。いろいろお世話になりました》
あいまいな線引き
急速な景気悪化を背景に、雇用調整の波が正社員にも及んでいる。厚生労働省は先月末、昨年10月からの半年間で職を失うか、失った正社員が約1万人に上ると公表した。これは倒産などを含め一度に100人以上が職を失った大きな企業だけの集計で、実際はそれ以上だろう。
「犯罪でもしない限り、正社員の解雇は難しい」「裁判闘争になりかねない」。派遣社員などと比べ、正社員が「整理解雇の4要件」と呼ばれる判例などで保護されているわが国の雇用システムは今も変わっていない。ではなぜ右近さんのようなケースが生まれるのか。
大手企業がこぞって進めているのが「肩たたき」の退職勧奨ではなく、希望退職と呼ばれるものだ。東京商工リサーチの調べでは今年に入って希望・早期退職の募集を公表した上場企業は50社を超え、早くも前年の68社に迫っている。
希望退職とは企業が「解雇」を回避するため、退職金割り増しなどの優遇措置を設けて退職者を募る制度だ。希望退職があくまで本人の自由意思によるものなのに対し、退職勧奨は、本人の希望にかかわらず退職を勧められる。ただ、その線引きがあいまいになることもあり、右近さんの会社も、リストラを始めた当初は希望退職制度だったという。
今後そうした流れはさらに加速するのか。仮に定年まで20年以上を残したサラリーマンの場合、2030年に今の会社で働き続けていられるのだろうか。「正社員に優しい」といわれた日本企業が変わり始めたのは8年前の法改正が1つのきっかけだった。
今の会社だけか
「自民党をぶっ壊す」。平成13(2001)年4月、絶叫とともに発足した小泉純一郎政権に85%以上の国民の支持が集まる中で施行された改正雇用保険法。以降、会社を離職した後、ハローワークが交付する「離職票」と呼ばれる書類の離職理由の記入欄に「希望退職の募集又は退職勧奨」という新たな項目が加わった。それまでは「解雇」と、懲戒解雇にあたる「重責解雇」の2項目しかなく、「第二の人生」のスタートに“傷”を付けかねなかったのだ。
ただ、自身も大手金属メーカーの子会社でリストラと闘った経験を持つフリーライター、中森勇人さん(45)は「この項目ができたことで、希望退職や退職勧奨がいわば公認された」と指摘し、今後の流れについて「解雇をマイナスイメージとして嫌っていた企業が正社員を辞めさせやすくなった。わずかな法改正が針の一穴になったように、正社員にとって厳しい世の中になるのは間違いないと思う」。
一方、労働問題に詳しい古川景一弁護士(56)は「希望退職は本来、労働者の自発的な意思が尊重されるなら悪い制度ではない」としたうえで、正社員の解雇が難しいわが国の現状についてこう述べる。
「本人がつらいのと同じくらい、会社もつらい。なぜなら、重大な落ち度のない社員には、解雇の理由が見つからないからです。だからこそ希望退職や退職勧奨が拡大解釈されて使われる恐れがある。どうしても辞めたくない人は『辞めない』で押し通せばいい。ただし閑職に追いやられ、会社側と闘う覚悟を求められることもある」
現在バーチャルリストラ部屋へと通勤する右近さんに20年後の日本を占ってもらうと、「人間が部品になる」「使い捨て人間が増える」と過激な言葉ばかりが飛び出してきた。まるで「派遣切り」にあった労働者のようだった。
ただ、今の会社に居続けることはそれほど至上のものなのか。1本のレールだけが、本当に幸福な未来につながっているのか。希望退職に「希望」を求めた人たちを訪ねた。
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