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:2009:03/12/12:00 ++ 第2部NOリターン(1)グローバル化に罪はない(世界この先)
効用引き出す安全網を
グローバル化は本当に世界に格差や貧困をばらまいたのだろうか?
貧困層から脱出
インドの大手IT(情報技術)企業の日本法人で働くフナチギリ(34)は、同国南部の小村の出身者で最初に異国の地を踏んだ。「以前なら日本で働くなんて考えられなかった」
三千年超の歴史を持つインドのカースト制度は格差と階層固定化の象徴だった。身分が低ければ望む仕事にも就けず、子供はまともな教育を受けられない。フナチギリも高いとはいえない階層の出身だった。
そんな彼の人生が変わり始めるのは一九九一年。きっかけは外貨危機を受けた経済自由化政策だ。規制緩和、外資開放、人材育成。数学史に「ゼロの発見」を刻むインドはもともと理数に強いお国柄でもあり、効果はてきめんだった。
大学を卒業し、プログラム開発能力を身に付けたフナチギリの年収は七百万円。約二十万円で暮らす村での生活では考えられない水準だ。「過去二十年でインドはカースト・フリー社会に近づいた」と彼はいう。
豊かさをつかみ取る新中間層が爆発的に増えている。中国、ブラジル、インドネシア、メキシコ……。グローバル化で世界経済が融合し、先進国に富が集中する構図が変わり始めた。
一に近いほど所得格差が大きいことを示すジニ係数。米コロンビア大教授のサライマルティン(45)によれば世界全体の係数は七〇年には〇・六七だったが、二〇〇六年には〇・六一に下がった。世界銀行によると一日一ドル二十五セント未満で暮らす貧困層も過去二十五年間で五億人減った。過去の経済成長の恩恵は広く及んだ。マクロで見ればグローバル化が人々を不幸にしたと断ずる理由は乏しい。
サライマルティンは「今世紀にはアフリカでも貧困脱出が始まった」と言う。グローバル化の恩恵を享受してきた先進国が不況に苦しむ今になって反グローバル化を唱えるのは、貧困国が豊かになる権利を奪うエゴと紙一重ともいえる。
一方で、グローバル化が一人ひとりの個人に厳しい現実を突き付けるのは紛れもない事実である。
岩手県盛岡市で昨年十一月に電気機器メーカーから雇用契約を解除されたA(44)はぽつりぽつりと語り始めた。一月末に介護サービスのツクイで仕事を見つけるまでに送った履歴書は三十。慣れ親しんだ製造業で職を見つけたかったが、すべて断られた。企業が「労働力の世界最適調達」志向を強めてきたところに世界不況が重なり、欲しい仕事は“蒸発”してしまった。
切ない現実はグローバル化を敵視する風潮を生む。米ピュー・リサーチ・センターによれば、〇七年と〇二年の比較で「世界貿易が自国にプラス」とした比率が最も落ち込んだのは、自由市場信仰が最も強いといわれる米国だった。
鎖国でいいのか
グローバル化には光も影もある。だからといって鎖国的な政策を採用すれば世界は分断され、縮小均衡に陥る。必要なのはグローバル化の負を抑えつつ、効用を引き出す知恵だろう。
貧困層や失業者への生活保障、非正規労働者らの自立支援、労働市場のミスマッチ解消。実は社会民主主義志向の国も市場重視の国も課題に上る政策にさしたる違いはない。弱者に支援の手を差し伸べるだけではなく、再び市場に戻す「トランポリン政策」。帝塚山大教授の柏野健三(60)は「安全網の整備は自由市場を守るコスト」と言う。
民主主義が富裕層への課税強化による所得再分配を重視するのに対し、市場主義の立場は成長や投資の呼び水になる法人減税などを是とする傾向が強い。労働規制の対立も残る。だが、越えがたい壁ではない。
◇
反グローバル化、安易な政府依存、そして反市場。世界には内向きの機運がまん延する。だが、それでは事態は改善しない。苦し紛れのUターンを避ける意義を再考する。=敬称略
グローバル化は本当に世界に格差や貧困をばらまいたのだろうか?
貧困層から脱出
インドの大手IT(情報技術)企業の日本法人で働くフナチギリ(34)は、同国南部の小村の出身者で最初に異国の地を踏んだ。「以前なら日本で働くなんて考えられなかった」
三千年超の歴史を持つインドのカースト制度は格差と階層固定化の象徴だった。身分が低ければ望む仕事にも就けず、子供はまともな教育を受けられない。フナチギリも高いとはいえない階層の出身だった。
そんな彼の人生が変わり始めるのは一九九一年。きっかけは外貨危機を受けた経済自由化政策だ。規制緩和、外資開放、人材育成。数学史に「ゼロの発見」を刻むインドはもともと理数に強いお国柄でもあり、効果はてきめんだった。
大学を卒業し、プログラム開発能力を身に付けたフナチギリの年収は七百万円。約二十万円で暮らす村での生活では考えられない水準だ。「過去二十年でインドはカースト・フリー社会に近づいた」と彼はいう。
豊かさをつかみ取る新中間層が爆発的に増えている。中国、ブラジル、インドネシア、メキシコ……。グローバル化で世界経済が融合し、先進国に富が集中する構図が変わり始めた。
一に近いほど所得格差が大きいことを示すジニ係数。米コロンビア大教授のサライマルティン(45)によれば世界全体の係数は七〇年には〇・六七だったが、二〇〇六年には〇・六一に下がった。世界銀行によると一日一ドル二十五セント未満で暮らす貧困層も過去二十五年間で五億人減った。過去の経済成長の恩恵は広く及んだ。マクロで見ればグローバル化が人々を不幸にしたと断ずる理由は乏しい。
サライマルティンは「今世紀にはアフリカでも貧困脱出が始まった」と言う。グローバル化の恩恵を享受してきた先進国が不況に苦しむ今になって反グローバル化を唱えるのは、貧困国が豊かになる権利を奪うエゴと紙一重ともいえる。
一方で、グローバル化が一人ひとりの個人に厳しい現実を突き付けるのは紛れもない事実である。
岩手県盛岡市で昨年十一月に電気機器メーカーから雇用契約を解除されたA(44)はぽつりぽつりと語り始めた。一月末に介護サービスのツクイで仕事を見つけるまでに送った履歴書は三十。慣れ親しんだ製造業で職を見つけたかったが、すべて断られた。企業が「労働力の世界最適調達」志向を強めてきたところに世界不況が重なり、欲しい仕事は“蒸発”してしまった。
切ない現実はグローバル化を敵視する風潮を生む。米ピュー・リサーチ・センターによれば、〇七年と〇二年の比較で「世界貿易が自国にプラス」とした比率が最も落ち込んだのは、自由市場信仰が最も強いといわれる米国だった。
鎖国でいいのか
グローバル化には光も影もある。だからといって鎖国的な政策を採用すれば世界は分断され、縮小均衡に陥る。必要なのはグローバル化の負を抑えつつ、効用を引き出す知恵だろう。
貧困層や失業者への生活保障、非正規労働者らの自立支援、労働市場のミスマッチ解消。実は社会民主主義志向の国も市場重視の国も課題に上る政策にさしたる違いはない。弱者に支援の手を差し伸べるだけではなく、再び市場に戻す「トランポリン政策」。帝塚山大教授の柏野健三(60)は「安全網の整備は自由市場を守るコスト」と言う。
民主主義が富裕層への課税強化による所得再分配を重視するのに対し、市場主義の立場は成長や投資の呼び水になる法人減税などを是とする傾向が強い。労働規制の対立も残る。だが、越えがたい壁ではない。
◇
反グローバル化、安易な政府依存、そして反市場。世界には内向きの機運がまん延する。だが、それでは事態は改善しない。苦し紛れのUターンを避ける意義を再考する。=敬称略
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