編集委員 西田睦美
麻生太郎首相は「安心社会実現選挙」と名付け、鳩山由紀夫民主党代表は「政権交代選挙」と命名した。ネーミングは鳩山氏に分がある。次期衆院選の争点は明白で、自民党と民主党のどちらに政権を任せた方がいいのかを問う選挙となる。
1955年の保守合同で自民党が誕生してから半世紀余り。有権者は事実上初めて選挙で政権を選ぶ機会を得た。自民、民主の二大政党が政権を争う、歴史的な意義を持つ選挙である。
統治機構の転機
93年の衆院選で自民党は初めて下野したが、有権者は細川非自民連立政権を想定して投票したわけではなかった。1年に満たない細川、羽田両政権を除けば、自民党はその後も与党の座を占め続けてきた。
2005年の前回衆院選で、民主党は本気で政権奪取を目指していた。事前の党の情勢調査では決して夢物語ではなかった。だが郵政民営化の一点に争点を絞った小泉純一郎首相の迫力の前に砕け散る。振り返れば、解散直後に国民に語りかけた小泉首相の記者会見で勝負がついていた。
政権交代前夜の空気すら漂う今回は、土俵際に追い込まれた自民党政治の信任選挙でもある。
民主党は「脱官僚」をキーワードに政治主導の政権運営を訴える。副大臣や政務官を含め、100人の国会議員を内閣に送り込み、政策決定で政府と与党の一元化を進めるという。
霞が関の官僚機構との二人三脚で経済成長などを成し遂げてきた自民党モデルへの対抗軸といえる。官僚をうまくつかいこなせるのか。民主党の力量は未知数だが、政官関係の見直しや公務員制度改革は重要な争点の一つである。
首相も21日の記者会見で「国会議員の削減、公務員の削減や天下り・渡りの廃止などで行政の無駄を根絶する」と語った。
政治主導は当然のことだが、自民、民主両党が「官僚たたき」に終始するなら不毛な結果しかもたらさない。統治機構のあり方は冷静に議論する必要がある。
政治の機能不全は、07年参院選で自民党が大敗した後の衆参ねじれ国会で顕著になった。安倍晋三、福田康夫両首相がわずか1年で政権を投げ出した大きな理由は、ねじれ国会の下での政策の停滞だった。
麻生内閣もねじれ国会に苦しむ。景気対策を訴えながら、国会対策上の理由で昨年暮れの臨時国会に08年度第2次補正予算案を提出しなかったことが、支持率低下の一因としてあげられる。
日銀総裁の同意人事を含め、参院第1党の民主党は参院で拒否権を連発した。与党側は衆院の3分の2の多数による再可決で重要法案を成立させるしかなかった。
国会改革は急務
衆院選の審判が下れば、新政権はマニフェスト(政権公約)に基づいて政策を実行する力を与えられる。そこから機能不全の政治を再生させる道が開けてくる。
民主党を中心とする政権なら、衆参のねじれはひとまず解消される。ただ民主党も参院で過半数の勢力はなく、社民、国民新両党などとの連立は不可避だ。外交・安全保障政策などで小政党がキャスチングボートを握り、政権が不安定になる事態も予想される。
自民、公明両党が政権を維持した場合には、衆院で3分の2の勢力を失う公算が大きく、法案処理は一層困難になるだろう。伯仲なら政界再編も起こりうる。
選挙後には、与野党が国会運営で協力する新たなルールづくりが必要だ。参院を「政局の府」にしないための国会改革は急務である。
政権交代の可能性が出てきたことで政治に緊張感が出てきたが、その一方で選挙に勝つために世論におもねる風潮も目立ってきた。
衆院選に政権公約が導入されてから3回目の選挙だが、民主党の政権公約の実行可能性はこれまで以上に吟味されなければならない。統治能力に疑問符がついた自民党は、経済対策の実績を訴えるだけでは不十分だ。
今後4年間の国造りのビジョンが問われる。近く発表される両党の政権公約は「政党力」を測る格好の試金石になる。
:2025:02/12/06:22 ++ [PR]
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
:2009:08/18/13:19 ++ 環境対応で常識破る、日本発、革新技術の芽、ロス減らす直流送電。
水からクリーン燃料
地球温暖化や資源の枯渇懸念など切迫する環境・エネルギー問題。その克服には在来技術の延長にとどまらない革新技術が求められる。太陽光発電や電気自動車の先にあるのは何か。日本発の「常識破りの技術」がイノベーションの芽になり2020年には社会を変え始めるかもしれない。
「IT(情報技術)の浸透で企業のデータセンターが急増しているが、新方式なら電力消費の伸びを抑え込める」。中部大学の山口作太郎教授が住友電気工業などと組んで研究を進める「超電導送電」の本格的な実験が11年にも始まる。
高性能コンピューターがずらりと並ぶデータセンターは大量の電気を食い、総消費電力はいまや150万世帯分に匹敵する。新技術は液体窒素で冷やすと電気抵抗ゼロになる超電導ケーブルで変電所とデータセンターを直結。「送電ロスやコンピューターの発熱を抑え、消費電力を4割減らせる」(山口教授)
「冷却設備が必要でコスト高」と二の足を踏む電力会社もあるが、大口需要家への集中送電ならコスト差が縮む。「実用化は遠い先」とみられていた超電導送電への先入観が変わり始めた。
2020年までに20倍
1880年代、米国の電力事業草創期。発明王エジソンは直流による送電を唱え、ウエスチングハウス(WH社の創始者)らが推す交流方式と覇を争った。「電流戦争」だ。軍配は高電圧で遠くまで送れる交流に上がり、交流送電網が社会の血管になった。
それから120年、電力=交流の常識も崩れつつある。温暖化防止に向け「太陽光発電を2020年までに20倍に増やす」という政府の目標が実現すれば、多くの家庭や工場がミニ発電所になり、送電網も見直しを迫られるからだ。
シャープやパナソニック電工は太陽光パネルと家電製品を直接つなぐ「直流家電システム」の研究に動く。技術者を駆り立てるのは次世代照明LED(発光ダイオード)など直流で働く機器の急速な普及だ。現在のLEDは交流から直流への変換時に5割の電力を失う。太陽電池で起こした直流をそのまま使う方がはるかに合理的だ。
テレビのアナログからデジタルへの転換は関連投資を含め250兆円(総務省試算)の波及効果が見込まれるが、「直流家電の潜在需要は少なくとも1ケタ多い」(大手家電)。
「非常にスムーズ。大型エンジンも動かせそうだ」。7月中旬、東京海洋大学で全く新しい燃料で動く小型エンジンがうなりを上げ、伊藤雅則教授の顔がほころんだ。
新燃料は水を電気分解して得た水素・酸素からなるガス。プラントメーカーの日本テクノ(東京・大田、大政龍晋社長)が開発した振動攪拌(かくはん)という技術で作る。二酸化炭素(CO2)の発生がゼロで燃焼後も水に戻る究極のクリーン燃料だ。安定燃焼などに課題が残るが「自然エネルギー社会にふさわしい燃料になる」(伊藤教授)。
薄く広く集める
太陽光発電など分散電源の普及はエネルギーや資源を「薄く広く集める」という発想転換を呼ぶ。空気や排水中の熱を拾い集め、給湯や暖房に使うヒートポンプが代表だ。三菱電機やダイキン工業などが省エネ性能の3~4倍向上を競い、日本勢の独壇場が続く。
18世紀末、ワットの蒸気機関は手工業からエネルギー集約型へと産業構造を変え、環境・エネルギー制約は新たな転換を促す。送電網などのインフラ刷新には政策の後押しや社会的合意が必要だが、固定観念を破る発想が次の産業革命の揺りかごになる。(吉川和輝、黒川卓)
地球温暖化や資源の枯渇懸念など切迫する環境・エネルギー問題。その克服には在来技術の延長にとどまらない革新技術が求められる。太陽光発電や電気自動車の先にあるのは何か。日本発の「常識破りの技術」がイノベーションの芽になり2020年には社会を変え始めるかもしれない。
「IT(情報技術)の浸透で企業のデータセンターが急増しているが、新方式なら電力消費の伸びを抑え込める」。中部大学の山口作太郎教授が住友電気工業などと組んで研究を進める「超電導送電」の本格的な実験が11年にも始まる。
高性能コンピューターがずらりと並ぶデータセンターは大量の電気を食い、総消費電力はいまや150万世帯分に匹敵する。新技術は液体窒素で冷やすと電気抵抗ゼロになる超電導ケーブルで変電所とデータセンターを直結。「送電ロスやコンピューターの発熱を抑え、消費電力を4割減らせる」(山口教授)
「冷却設備が必要でコスト高」と二の足を踏む電力会社もあるが、大口需要家への集中送電ならコスト差が縮む。「実用化は遠い先」とみられていた超電導送電への先入観が変わり始めた。
2020年までに20倍
1880年代、米国の電力事業草創期。発明王エジソンは直流による送電を唱え、ウエスチングハウス(WH社の創始者)らが推す交流方式と覇を争った。「電流戦争」だ。軍配は高電圧で遠くまで送れる交流に上がり、交流送電網が社会の血管になった。
それから120年、電力=交流の常識も崩れつつある。温暖化防止に向け「太陽光発電を2020年までに20倍に増やす」という政府の目標が実現すれば、多くの家庭や工場がミニ発電所になり、送電網も見直しを迫られるからだ。
シャープやパナソニック電工は太陽光パネルと家電製品を直接つなぐ「直流家電システム」の研究に動く。技術者を駆り立てるのは次世代照明LED(発光ダイオード)など直流で働く機器の急速な普及だ。現在のLEDは交流から直流への変換時に5割の電力を失う。太陽電池で起こした直流をそのまま使う方がはるかに合理的だ。
テレビのアナログからデジタルへの転換は関連投資を含め250兆円(総務省試算)の波及効果が見込まれるが、「直流家電の潜在需要は少なくとも1ケタ多い」(大手家電)。
「非常にスムーズ。大型エンジンも動かせそうだ」。7月中旬、東京海洋大学で全く新しい燃料で動く小型エンジンがうなりを上げ、伊藤雅則教授の顔がほころんだ。
新燃料は水を電気分解して得た水素・酸素からなるガス。プラントメーカーの日本テクノ(東京・大田、大政龍晋社長)が開発した振動攪拌(かくはん)という技術で作る。二酸化炭素(CO2)の発生がゼロで燃焼後も水に戻る究極のクリーン燃料だ。安定燃焼などに課題が残るが「自然エネルギー社会にふさわしい燃料になる」(伊藤教授)。
薄く広く集める
太陽光発電など分散電源の普及はエネルギーや資源を「薄く広く集める」という発想転換を呼ぶ。空気や排水中の熱を拾い集め、給湯や暖房に使うヒートポンプが代表だ。三菱電機やダイキン工業などが省エネ性能の3~4倍向上を競い、日本勢の独壇場が続く。
18世紀末、ワットの蒸気機関は手工業からエネルギー集約型へと産業構造を変え、環境・エネルギー制約は新たな転換を促す。送電網などのインフラ刷新には政策の後押しや社会的合意が必要だが、固定観念を破る発想が次の産業革命の揺りかごになる。(吉川和輝、黒川卓)
PR
:2009:08/12/11:26 ++ システム管理ソフト、市場、13年まで年平均4.7%成長、IDCジャパン予測。
調査会社のIDCジャパン(東京・千代田)は11日、2013年までの国内のシステム管理ソフトの市場予測をまとめた。08年実績で2774億円だった市場は、13年まで年平均4・7%成長し、3486億円となる見通し。景気低迷の影響で伸び率は鈍化するが、IT(情報技術)システムを効率よく活用できる管理ソフトの需要は比較的堅調に伸びると見ている。
調査対象は情報システムの運用管理ソフトや、システム障害に素早く対応できるようにする監視ソフトなど。
調査対象は情報システムの運用管理ソフトや、システム障害に素早く対応できるようにする監視ソフトなど。
:2009:08/12/11:22 ++ 太陽電池用シリコン、トクヤマ、投資3割増、マレーシアの新工場で。
トクヤマは11日、マレーシアで建設を予定している多結晶シリコンの新工場への設備投資額を、当初計画から3割上積みし、約650億円にすると発表した。多結晶シリコンが原料に使われる太陽電池の需要が中長期的に拡大することに対応。年産能力を6000トンとし、2013年春の運転開始を目指す。
まず今月、多結晶シリコンを製造・販売する100%出資子会社の「トクヤママレーシア」を設立。新規顧客の開拓や原料の調達、輸送体制の構築などを進める。
11年初めにマレーシア東部のサラワク州の工業団地の敷地面積約200万平方メートルの土地に新工場を着工。トクヤマは多結晶シリコンを徳山製造所(山口県周南市)のみで生産しており、マレーシアと合わせて総年産能力は1万4200トンに拡大する見通し。
同日の記者会見で幸後和寿社長は「13年には太陽電池向けの多結晶シリコンが足りなくなる」との見通しを示した。多結晶シリコンは需要拡大を受け、内外で増産投資競争が過熱している。
多結晶シリコンは、半導体のほか、太陽電池の発電層に使われる主原料。太陽電池を使った太陽光発電は発電時に二酸化炭素(CO2)を排出せず世界的に需要が拡大している。特に欧州では太陽光発電で生み出した電力を一般の電力より高い価格で買い取る制度があることから、発電所の新設が相次いでいる。
まず今月、多結晶シリコンを製造・販売する100%出資子会社の「トクヤママレーシア」を設立。新規顧客の開拓や原料の調達、輸送体制の構築などを進める。
11年初めにマレーシア東部のサラワク州の工業団地の敷地面積約200万平方メートルの土地に新工場を着工。トクヤマは多結晶シリコンを徳山製造所(山口県周南市)のみで生産しており、マレーシアと合わせて総年産能力は1万4200トンに拡大する見通し。
同日の記者会見で幸後和寿社長は「13年には太陽電池向けの多結晶シリコンが足りなくなる」との見通しを示した。多結晶シリコンは需要拡大を受け、内外で増産投資競争が過熱している。
多結晶シリコンは、半導体のほか、太陽電池の発電層に使われる主原料。太陽電池を使った太陽光発電は発電時に二酸化炭素(CO2)を排出せず世界的に需要が拡大している。特に欧州では太陽光発電で生み出した電力を一般の電力より高い価格で買い取る制度があることから、発電所の新設が相次いでいる。
:2009:08/12/11:02 ++ 第1部前夜(2)官僚たちの「Xデー」――政治主導、警戒と瀬踏み(政権)
「始まったようだな」。大臣秘書官も務めた経済官庁の幹部が声をひそめる。
民主党は首相直属の「国家戦略局」を置くとマニフェスト(政権公約)に書いた。最近、若手議員が、事務局入りの候補となる主な官庁の局長や審議官級について意見を聞きにきた。「各省のエースを10人集めれば相当なことができます」と答えた。
□ □
官民でつくる国家戦略局は予算や社会保障などの重要な政策を政治家の主導で一元的に決める。情報集めや伝達を担う事務局トップの候補の一人として、財務省総括審議官の香川俊介(52)の名が挙がる。
香川は前民主党代表の小沢一郎(67)が竹下内閣で官房副長官をしていた時の秘書官。「戦略局が実力のある、ダイヤモンドのような組織になるなら、香川を送り込んでもいい」と財務省幹部は言い切る。
「時の首相、大臣に仕えるのが行政の基本だ」。財務次官の丹呉泰健(58)は政権交代が起きたときの対応を聞かれると、注意深くこの言葉を繰り返す。だが「Xデー」に向けた腹の探り合いも着々と進む。
政と官。衆院選は戦後の日本を引っ張った、この統治機構のあり方を問う。
官僚制は長く政権を握った自民党と二人三脚で経済成長の「司令塔」を担った。権限と予算がほしい各省庁と、補助金を使って地元を固めたい族議員。内閣と与党が二重の権力を握り、裏方のはずの官僚が政策づくりを主導するいびつな構造ができあがった。
「大正時代に民主主義の要求が高まった大正デモクラシーの時から今日まで、日本では与党・官僚制の共同体制が形を変えて続いてきた」。米コロンビア大教授のジェラルド・カーティス(68)は指摘する。
民主党は政権公約で政と官がなれ合った「官僚依存型政治」との決別を訴える。与党の政治家を100人以上省庁に送り込み、事前に閣議案件を決める事務次官会議も「閣議を形骸化させる」として廃止する。
自民党は「官僚の特権は認めない」と天下りや「渡り」を全廃し、2015年までに国家公務員を8万人以上減らすと公約したが、政策決定の手法は変えない。
□ □
「本気でこれをやるのか?」。7月、民主党代表代行の菅直人(62)が月刊誌に出した構想に、霞が関では驚きともあきれともつかない声が広がった。
「政治的調整や根回しは副大臣や政務官がすべきだ」。議院内閣制の元祖である英国を手本に、官僚の役割を大きく制限し、内閣に政策決定の権限を集めるのが構想の柱だ。
官僚が警戒するのは、政治家が降格を絡めて人事に介入すること。02年、小泉政権で外相の田中真紀子(65)が一時、事務次官らを代えると表明し、首相裁定で外相、次官が更迭された混乱劇が浮かぶ。
「大臣は公務員の任用に政治的影響を及ぼすことはできない」。英国の公務員制度改革を調べ上げた内部資料を作り、ひそかに理論武装する官庁もある。
霞が関には「政治家主導」に対する疑念も強い。民主案が実現すれば、政府に入った与党の政治家の仕事と拘束時間は大幅に増える。選挙区に帰りたい議員が、どこまで本省に腰を落ち着けられるのか。政治家自身の技量も問われる。
1995年から03年まで官僚のトップである官房副長官だった古川貞二郎(74)は「政治家は大方針を示し、官僚を信頼して任せてほしい。官僚の役割まで果たそうとすれば、議員活動も行政も中途半端になりかねない」と言明する。
政と官の役割を仕切り直すか否か。その審判を前に、霞が関は周到な警戒と瀬踏みを続ける。
民主党は首相直属の「国家戦略局」を置くとマニフェスト(政権公約)に書いた。最近、若手議員が、事務局入りの候補となる主な官庁の局長や審議官級について意見を聞きにきた。「各省のエースを10人集めれば相当なことができます」と答えた。
□ □
官民でつくる国家戦略局は予算や社会保障などの重要な政策を政治家の主導で一元的に決める。情報集めや伝達を担う事務局トップの候補の一人として、財務省総括審議官の香川俊介(52)の名が挙がる。
香川は前民主党代表の小沢一郎(67)が竹下内閣で官房副長官をしていた時の秘書官。「戦略局が実力のある、ダイヤモンドのような組織になるなら、香川を送り込んでもいい」と財務省幹部は言い切る。
「時の首相、大臣に仕えるのが行政の基本だ」。財務次官の丹呉泰健(58)は政権交代が起きたときの対応を聞かれると、注意深くこの言葉を繰り返す。だが「Xデー」に向けた腹の探り合いも着々と進む。
政と官。衆院選は戦後の日本を引っ張った、この統治機構のあり方を問う。
官僚制は長く政権を握った自民党と二人三脚で経済成長の「司令塔」を担った。権限と予算がほしい各省庁と、補助金を使って地元を固めたい族議員。内閣と与党が二重の権力を握り、裏方のはずの官僚が政策づくりを主導するいびつな構造ができあがった。
「大正時代に民主主義の要求が高まった大正デモクラシーの時から今日まで、日本では与党・官僚制の共同体制が形を変えて続いてきた」。米コロンビア大教授のジェラルド・カーティス(68)は指摘する。
民主党は政権公約で政と官がなれ合った「官僚依存型政治」との決別を訴える。与党の政治家を100人以上省庁に送り込み、事前に閣議案件を決める事務次官会議も「閣議を形骸化させる」として廃止する。
自民党は「官僚の特権は認めない」と天下りや「渡り」を全廃し、2015年までに国家公務員を8万人以上減らすと公約したが、政策決定の手法は変えない。
□ □
「本気でこれをやるのか?」。7月、民主党代表代行の菅直人(62)が月刊誌に出した構想に、霞が関では驚きともあきれともつかない声が広がった。
「政治的調整や根回しは副大臣や政務官がすべきだ」。議院内閣制の元祖である英国を手本に、官僚の役割を大きく制限し、内閣に政策決定の権限を集めるのが構想の柱だ。
官僚が警戒するのは、政治家が降格を絡めて人事に介入すること。02年、小泉政権で外相の田中真紀子(65)が一時、事務次官らを代えると表明し、首相裁定で外相、次官が更迭された混乱劇が浮かぶ。
「大臣は公務員の任用に政治的影響を及ぼすことはできない」。英国の公務員制度改革を調べ上げた内部資料を作り、ひそかに理論武装する官庁もある。
霞が関には「政治家主導」に対する疑念も強い。民主案が実現すれば、政府に入った与党の政治家の仕事と拘束時間は大幅に増える。選挙区に帰りたい議員が、どこまで本省に腰を落ち着けられるのか。政治家自身の技量も問われる。
1995年から03年まで官僚のトップである官房副長官だった古川貞二郎(74)は「政治家は大方針を示し、官僚を信頼して任せてほしい。官僚の役割まで果たそうとすれば、議員活動も行政も中途半端になりかねない」と言明する。
政と官の役割を仕切り直すか否か。その審判を前に、霞が関は周到な警戒と瀬踏みを続ける。
:2009:08/12/11:01 ++ 第1部前夜(1)平成デモクラシー胎動――一票が一時代を画す(政権)
与党と野党が真っ向からぶつかる今度の衆院選は、国のありようを大きく変える転機かもしれない。政権とは何か。新政権のもとで日本はどうなるのか。
16年前、野党になってもびくともしなかった「自民党王国」の茨城県がぐらついている。自民党が生まれた1955年に県議になり、今も県連会長として県政を動かす山口武平(88)に県医師会が弓を引いた。
「今の社会や医療のしくみは自民党がつくった。なのに責任は別だという」と県医師会会長の原中勝征(69)は怒っている。診療所から自民のポスターが消え民主のポスターは候補者の隣に原中の写真が並ぶ。
官僚たちも自民党から離れ始めた。千葉9区で元郵政官僚が民主党から立つ。しかも郵便局長たちと旧社会党系の労働組合員が労使相乗りで応援している。
□ □
今回の衆院選で霞が関の役所をやめて立つ新人候補は自民6人に対し民主が12人と2倍。年齢は民主の方が平均で10歳以上若い。
自民が民主に敗れた7月の地方選では投票率が急上昇した。静岡県知事選は16・5ポイント、東京都議選は10・5ポイント上がった。自民は医師会、郵便局、官僚などの支えを失い、無党派の逆風まで吹いている。こんなことはこれまでなかった。
「国会議事堂に赤旗を立てさせるなと言えば票が集まった」と自民党元幹事長の加藤紘一(70)はいう。
自民党がおかしくなり始めたのは、ベルリンの壁が崩れ、バブル経済が頂点を迎えつつあった89年ごろからだ。「反共」は役割を終え、経済成長の分け前を広く配ることも難しくなった。自民はその年の参院選で過半数割れ。93年衆院選は223議席で第1党だったが、細川内閣に政権を譲って野党になってしまう。
力をたちまち失った自民党は長年の敵、社会党と手を組んで94年に政権を奪い返す。それから15年。自民党は今、55年の結党以来初めて衆院第1党の座を民主党に脅かされている。
二大政党による政権交代のモデルは米英だ。「(保守党の)チャーチルが出てきたのは国がピンチの時。戦争が済んだらもう結構、ハイさようならになっちゃった」(元首相の故宮沢喜一)。英国の有権者は労働党を選んで戦争の時代に区切りをつけた。金融危機と泥沼のイラク戦争に苦しんだ米国は昨年、上院議員1期の経験しかないバラク・オバマ(48)を初の黒人大統領に押し上げた。
米大統領選で激戦州の中の激戦区だったネバダ州リノ。民主党選対の幹部を務めた弁護士のクリス・ウィッカー(56)は「60年代以来、四十数年ぶりで民主党に登録した有権者が共和党を上回った」「まるでケネディ政権への熱狂のようだった」と振り返る。
□ □
米英は政権を代えて国の危機を乗り越える。使命を終えれば、次の政党の出番だ。米国の政権交代は220年間で22回。米民主党と英労働党は分配を重んじ、米共和党と英保守党は小さな政府。違いも大きい。
「郵政民営化なくして小さな政府なし」。4年前の衆院選で元首相の小泉純一郎(67)は叫んだ。だが、首相で自民党総裁の麻生太郎(68)は「100年に1度の経済危機だ」と言って「小さな政府」という言葉をマニフェスト(政権公約)から消した。鳩山由紀夫(62)が率いる民主党も外交・安全保障や貿易政策、成長戦略などで主張がふらふらしている。
大正デモクラシーと呼ばれた戦前の民主主義。政友会、民政党による二大政党制は昭和恐慌や軍部の台頭で短命に終わった。平成デモクラシーは胎動を始めたのか。有権者の一票が行方を決める
:2009:07/31/10:12 ++ 電機大手の業績改善、ソニー、シャープ赤字大幅縮小(景気がわかる)
電機大手の業績が改善している。30日に2009年4~6月期決算を発表したソニーは本業のもうけを示す営業損益が257億円の赤字と1~3月期より約2600億円縮小。シャープも約640億円改善した。構造改革による固定費削減に加え薄型テレビの回復が支えとなった。半導体需要も底入れしNECや富士通は業績が想定を上回った。ただ産業向けの需要は冷え込んだままで、年末商戦の動向も不透明。各社とも先行きに慎重な姿勢を崩していない。
「5月時点の予想より1000億円強、良かった」。同日、記者会見したソニーの大根田伸行CFOは、4~6月期の業績をこう評価した。採算重視で液晶テレビの出荷を絞り込む一方、販売管理費や原材料費などのコスト圧縮で採算が改善。省エネ家電の購入を促進する「エコポイント」の効果もあり、国内の薄型テレビは想定以上に伸びた。旧型モデルの在庫が一掃され、価格下落も限定的だった。
10年3月期の通期業績は1100億円の営業赤字見通しを据え置いたが、「社内では営業損益の黒字化を目指している」という。
中国向けが支え
シャープは260億円の営業赤字だった。液晶テレビとパネルの営業赤字は1~3月期に比べて改善しており、パネルの赤字額は130億円減った。中国を中心にパネル販売が伸び、主力工場は4月以降、フル生産が続く。価格も上昇基調にあり、「7月以降も収益の改善が見込める」(浜野稔重副社長)という。
薄型テレビなど最終製品の販売回復で、搭載する半導体の需要も戻った。富士通はデジタルカメラ向けの半導体が回復。「電子部品の市況が想定より持ち直した」(加藤和彦CFO)として、10年3月期の営業利益予想を100億円引き上げた。NECは固定費を大きく削減したところに「受注が想定より早く戻った」(小野隆男常務)。富士通とともに期末に多くの利益を稼ぐ構造のため、1~3月期に比べると損益は悪化するが、営業赤字は計画より200億円少なかった。
需要先食い懸念
三菱電機は液晶テレビの販売が伸びたうえ、大容量の冷蔵庫が好調で73億円の営業黒字に転換した。三洋電機は半導体の赤字が縮小したほか、リチウムイオンなど2次電池の需要も回復。前田孝一副社長は「1~3月期と同程度の赤字を覚悟していたが圧縮できた」と話す。
ただ、回復はデジタル家電など消費者向けの一部の製品に限られる。エコポイントの対象であるエアコンは、天候不順の影響で販売台数が軒並み減少した。企業の投資意欲も冷え込んでおり、企業向けの事業は低迷から抜け出せない。
三菱電機は自動車や工作機械用部品など産業機器部門が苦戦し、25億円の部門赤字になった。富士通は自動車や金融機関向け情報システムの受注が減少。IT(情報技術)投資は前期より10%程度減るとみており、システム運用など情報システム部門の赤字は153億円になった。
薄型テレビなどの販売回復も、国内のエコポイントや中国の「家電下郷(家電を農村に)」制度など、国の経済対策が下支えしている。将来の需要を先食いしている可能性もあり、個人の消費意欲がどれだけ回復しているか読みにくい。このため8社中7社が通期の業績予想を据え置いた。
「5月時点の予想より1000億円強、良かった」。同日、記者会見したソニーの大根田伸行CFOは、4~6月期の業績をこう評価した。採算重視で液晶テレビの出荷を絞り込む一方、販売管理費や原材料費などのコスト圧縮で採算が改善。省エネ家電の購入を促進する「エコポイント」の効果もあり、国内の薄型テレビは想定以上に伸びた。旧型モデルの在庫が一掃され、価格下落も限定的だった。
10年3月期の通期業績は1100億円の営業赤字見通しを据え置いたが、「社内では営業損益の黒字化を目指している」という。
中国向けが支え
シャープは260億円の営業赤字だった。液晶テレビとパネルの営業赤字は1~3月期に比べて改善しており、パネルの赤字額は130億円減った。中国を中心にパネル販売が伸び、主力工場は4月以降、フル生産が続く。価格も上昇基調にあり、「7月以降も収益の改善が見込める」(浜野稔重副社長)という。
薄型テレビなど最終製品の販売回復で、搭載する半導体の需要も戻った。富士通はデジタルカメラ向けの半導体が回復。「電子部品の市況が想定より持ち直した」(加藤和彦CFO)として、10年3月期の営業利益予想を100億円引き上げた。NECは固定費を大きく削減したところに「受注が想定より早く戻った」(小野隆男常務)。富士通とともに期末に多くの利益を稼ぐ構造のため、1~3月期に比べると損益は悪化するが、営業赤字は計画より200億円少なかった。
需要先食い懸念
三菱電機は液晶テレビの販売が伸びたうえ、大容量の冷蔵庫が好調で73億円の営業黒字に転換した。三洋電機は半導体の赤字が縮小したほか、リチウムイオンなど2次電池の需要も回復。前田孝一副社長は「1~3月期と同程度の赤字を覚悟していたが圧縮できた」と話す。
ただ、回復はデジタル家電など消費者向けの一部の製品に限られる。エコポイントの対象であるエアコンは、天候不順の影響で販売台数が軒並み減少した。企業の投資意欲も冷え込んでおり、企業向けの事業は低迷から抜け出せない。
三菱電機は自動車や工作機械用部品など産業機器部門が苦戦し、25億円の部門赤字になった。富士通は自動車や金融機関向け情報システムの受注が減少。IT(情報技術)投資は前期より10%程度減るとみており、システム運用など情報システム部門の赤字は153億円になった。
薄型テレビなどの販売回復も、国内のエコポイントや中国の「家電下郷(家電を農村に)」制度など、国の経済対策が下支えしている。将来の需要を先食いしている可能性もあり、個人の消費意欲がどれだけ回復しているか読みにくい。このため8社中7社が通期の業績予想を据え置いた。
:2009:07/30/11:31 ++ 家電や商品券、不正利用多く、アリコ情報流出。
アリコジャパンの契約者のクレジットカード情報が流出した問題で、カード情報を不正利用して家電や商品券など換金しやすい商品が多く購入されていることが分かった。カード番号や有効期限などを入力するだけで手軽に商品を購入できる通販サイトでの利用が大半とみられる。
カードの不正利用は7月初旬から始まり、現在まで続いている。一部のネット通販業者では商品を発送してしまい、だまし取られる被害も出ている。1カ月ほどで2200件という大量の不正利用が確認されたことや、換金目的とみられる商品が多いことなどから組織的な不正利用の可能性が高まっている。アリコへの問い合わせは29日までに約1万7000件。同社では流出経路などの特定を急いでいる
カードの不正利用は7月初旬から始まり、現在まで続いている。一部のネット通販業者では商品を発送してしまい、だまし取られる被害も出ている。1カ月ほどで2200件という大量の不正利用が確認されたことや、換金目的とみられる商品が多いことなどから組織的な不正利用の可能性が高まっている。アリコへの問い合わせは29日までに約1万7000件。同社では流出経路などの特定を急いでいる
:2009:07/30/11:27 ++ マイクロソフトとヤフー提携、ネット検索、グーグル追撃、関連事業を一体運営。
【シリコンバレー=村山恵一】ソフトウエア最大手の米マイクロソフト(MS)とインターネットサービス大手の米ヤフーは29日、インターネット検索・広告事業で提携すると発表した。両社の関連事業を事実上、一体運営し、事業規模を拡大することで検索最大手のグーグルを追撃する。IT(情報技術)業界の主戦場となったネット分野では、MS・ヤフー連合とグーグルが覇権を争う構図が鮮明となる。
MSは2008年1月に総額446億ドルでの買収をヤフーに提案したが、金額面で折り合えず交渉は同年5月に決裂。その後も両社は断続的に提携協議を続けてきた。
発表によると、提携期間は10年。MSは自社の検索エンジン「ビング」をヤフーに提供し、両社が使う検索技術の開発を主導する。一方、検索キーワードに関連した広告を表示する「検索連動型広告」についてはヤフーがMS分も含めて営業活動を担い、収入は両社で分け合う。規制当局の審査などを経て10年初めまでの最終契約をめざす。
MSは提携で検索シェアを一気に高め、開発投資を加速。ヤフーは検索技術開発を資金力にまさるMSに委ね、収益力向上を急ぐ。ヤフーは提携で営業利益が年5億ドル増え、設備投資を年2億ドル節約できるとみている。
MSのスティーブ・バルマー最高経営責任者(CEO)は電話会見で「検索に技術革新を起こし、利用者の選択肢を増やす」と強調。ヤフーのキャロル・バーツCEOは「ディスプレー広告やコンテンツの拡充を優先的に進める」と述べた。
米コムスコアの調査では、米ネット検索シェア(6月)はMSとヤフーの合計で28%となり、65%で首位のグーグルの4割程度となる。MSとヤフーの直近の年間ネット広告収入を足すと86億ドルでこれもグーグルの4割の水準。グーグルに対する有力な対抗軸の形成で営業・技術面の競争が促進され、広告料金低下やサービス向上につながる可能性もある。
ヤフーは08年6月にグーグルとの提携を決めたが、独禁法上問題があるとして米司法省が承認せず断念。創業者のジェリー・ヤンCEOも辞任した。ネット事業の草分けである同社だが、MSとの提携で経営の大きな転換点を迎える。
MSは2008年1月に総額446億ドルでの買収をヤフーに提案したが、金額面で折り合えず交渉は同年5月に決裂。その後も両社は断続的に提携協議を続けてきた。
発表によると、提携期間は10年。MSは自社の検索エンジン「ビング」をヤフーに提供し、両社が使う検索技術の開発を主導する。一方、検索キーワードに関連した広告を表示する「検索連動型広告」についてはヤフーがMS分も含めて営業活動を担い、収入は両社で分け合う。規制当局の審査などを経て10年初めまでの最終契約をめざす。
MSは提携で検索シェアを一気に高め、開発投資を加速。ヤフーは検索技術開発を資金力にまさるMSに委ね、収益力向上を急ぐ。ヤフーは提携で営業利益が年5億ドル増え、設備投資を年2億ドル節約できるとみている。
MSのスティーブ・バルマー最高経営責任者(CEO)は電話会見で「検索に技術革新を起こし、利用者の選択肢を増やす」と強調。ヤフーのキャロル・バーツCEOは「ディスプレー広告やコンテンツの拡充を優先的に進める」と述べた。
米コムスコアの調査では、米ネット検索シェア(6月)はMSとヤフーの合計で28%となり、65%で首位のグーグルの4割程度となる。MSとヤフーの直近の年間ネット広告収入を足すと86億ドルでこれもグーグルの4割の水準。グーグルに対する有力な対抗軸の形成で営業・技術面の競争が促進され、広告料金低下やサービス向上につながる可能性もある。
ヤフーは08年6月にグーグルとの提携を決めたが、独禁法上問題があるとして米司法省が承認せず断念。創業者のジェリー・ヤンCEOも辞任した。ネット事業の草分けである同社だが、MSとの提携で経営の大きな転換点を迎える。
:2009:07/29/10:46 ++ 日立、再建へ「本社集権」―岐路の「日本式連結経営」。
ここ数年の日立製作所をみていると、かつての米ゼネラル・モーターズ(GM)のようだった。米国が株高で沸いた1990年代末、GMの株価は低迷が続き、時価総額から防衛・通信子会社ヒューズ・エレクトロニクスのそれを引いた金額がゼロになる状態が続いた。「GM本体には価値がない」。株式市場はそう見なしたのである。
日立はそれほどひどくない。だが、上場している16社の時価総額合計は日立のそれの6割を超えた時期もある。「日立本体は価値を生んでいるのか」。デジタル家電の不振で本体の業績低迷が続く中、株式市場からは日立経営陣へのこんな批判が絶えなかった。連結経営がすでに行き詰まっていたのだ。
日本企業の連結経営を特徴づけてきた「親子上場」はどこへ向かうのか。富士電機―富士通―ファナック。電機では親と子と孫3代にわたる上場企業の出世物語が有名だった。だが、3社は親が子の、子が孫の株を売りながら関係を薄める方向に進んだ。「連結」しているだけでは価値が生み出せないと判断した。日立は逆に5社を全額出資の子会社にし、関係を強める。やせ細った本体を救えるのは、21世紀を通じて成長が続くとみられる社会インフラや新エネルギー事業の子会社しかなくなったからだ。
同じ状況の企業もあるだろう。成長分野や事業モデル、すべてが大きく変化しつつある中で、変革は待ったなしだ。中には連結経営を見直して主力事業の入れ替えに成功し、成長を持続する富士フイルムホールディングス、日清紡ホールディングスなどの企業もある。価値はグループのどこに眠っているのか。それを見極め、新陳代謝につなげられるかどうかが、企業の浮沈を決めそうだ。
日立はそれほどひどくない。だが、上場している16社の時価総額合計は日立のそれの6割を超えた時期もある。「日立本体は価値を生んでいるのか」。デジタル家電の不振で本体の業績低迷が続く中、株式市場からは日立経営陣へのこんな批判が絶えなかった。連結経営がすでに行き詰まっていたのだ。
日本企業の連結経営を特徴づけてきた「親子上場」はどこへ向かうのか。富士電機―富士通―ファナック。電機では親と子と孫3代にわたる上場企業の出世物語が有名だった。だが、3社は親が子の、子が孫の株を売りながら関係を薄める方向に進んだ。「連結」しているだけでは価値が生み出せないと判断した。日立は逆に5社を全額出資の子会社にし、関係を強める。やせ細った本体を救えるのは、21世紀を通じて成長が続くとみられる社会インフラや新エネルギー事業の子会社しかなくなったからだ。
同じ状況の企業もあるだろう。成長分野や事業モデル、すべてが大きく変化しつつある中で、変革は待ったなしだ。中には連結経営を見直して主力事業の入れ替えに成功し、成長を持続する富士フイルムホールディングス、日清紡ホールディングスなどの企業もある。価値はグループのどこに眠っているのか。それを見極め、新陳代謝につなげられるかどうかが、企業の浮沈を決めそうだ。
:2009:07/29/10:43 ++ 日立、再建へ「本社集権」、上場5社、完全子会社化を発表―社会インフラに総力。
日立製作所は28日、日立マクセルなど上場子会社5社を完全子会社化すると正式発表した。5社とも8月20日にTOB(株式公開買い付け)を開始、最大2790億円を投じ、現在約5~7割の出資比率を全額出資に引き上げる。伝統だったグループ会社の自主独立路線を本社集権へと転換。電力や交通システムなど社会インフラとIT(情報技術)事業に総力を結集し再建を急ぐ。ただ非中核事業の整理など積み残した課題はなお多く、グループ改革は道半ばだ。
28日に記者会見した川村隆会長兼社長は「(社会インフラとITを組み合わせた)社会イノベーション事業で日立を再生させる」と宣言。5社の完全子会社化をその原動力にする考えだ。「脱・総合電機」を掲げて電力、交通、環境・産業、情報通信の各システムに注力。これらを新素材やキーデバイス事業が支える成長戦略を描く。
「日立グループで材料から中核部品、製品までつくり運用メンテナンスも提供する」と説明。デジタル家電のような大量生産品では少数派となりつつある垂直統合モデルが「社会インフラ事業では有効」と考える。
現状はどうか。子会社の日立ビークルエナジー、日立マクセル、新神戸電機がリチウムイオン電池をばらばらに開発したり、複数の情報子会社が同じ顧客に個別に営業したりするなど経営資源の分散も目立つ。
さらに「鉄道では車両単体だけでなく運行システムも含む全体の提案力が問われている」と事業ニーズの変化も強調。ITと社会インフラ事業の横の連携強化もグループ再編の理由に挙げた。
具体的な統合効果として、日立プラントテクノロジーはプラント建設や交通システムの世界展開の加速、情報3社は省エネ型データセンター事業の強化、日立マクセルは次世代送電網(スマートグリッド)の蓄電に不可欠のリチウムイオン電池の開発加速を見込む。
電機大手では2002年にパナソニックが5社を完全子会社化した例がある。同時に家電営業改革による事業部制解体、雇用圧縮、経理・財務改革を一気に断行。業績のV字回復を遂げた。
日立には課題も残る。川村社長は「(グループ外に)遠ざける事業はいろんな検討をしている」と話す。整理・集約をにらみ、社内の事業を独立性の高い7つのカンパニーに再編すると同日発表したが、取り組みは始まったばかりだ。
傷んだ財務体質の改善も急務。TOB資金は借り入れで賄うが、今後は「幅広く資金調達方法を検討する」(三好崇司副社長)と資本増強に前向きな姿勢を示した。
28日に記者会見した川村隆会長兼社長は「(社会インフラとITを組み合わせた)社会イノベーション事業で日立を再生させる」と宣言。5社の完全子会社化をその原動力にする考えだ。「脱・総合電機」を掲げて電力、交通、環境・産業、情報通信の各システムに注力。これらを新素材やキーデバイス事業が支える成長戦略を描く。
「日立グループで材料から中核部品、製品までつくり運用メンテナンスも提供する」と説明。デジタル家電のような大量生産品では少数派となりつつある垂直統合モデルが「社会インフラ事業では有効」と考える。
現状はどうか。子会社の日立ビークルエナジー、日立マクセル、新神戸電機がリチウムイオン電池をばらばらに開発したり、複数の情報子会社が同じ顧客に個別に営業したりするなど経営資源の分散も目立つ。
さらに「鉄道では車両単体だけでなく運行システムも含む全体の提案力が問われている」と事業ニーズの変化も強調。ITと社会インフラ事業の横の連携強化もグループ再編の理由に挙げた。
具体的な統合効果として、日立プラントテクノロジーはプラント建設や交通システムの世界展開の加速、情報3社は省エネ型データセンター事業の強化、日立マクセルは次世代送電網(スマートグリッド)の蓄電に不可欠のリチウムイオン電池の開発加速を見込む。
電機大手では2002年にパナソニックが5社を完全子会社化した例がある。同時に家電営業改革による事業部制解体、雇用圧縮、経理・財務改革を一気に断行。業績のV字回復を遂げた。
日立には課題も残る。川村社長は「(グループ外に)遠ざける事業はいろんな検討をしている」と話す。整理・集約をにらみ、社内の事業を独立性の高い7つのカンパニーに再編すると同日発表したが、取り組みは始まったばかりだ。
傷んだ財務体質の改善も急務。TOB資金は借り入れで賄うが、今後は「幅広く資金調達方法を検討する」(三好崇司副社長)と資本増強に前向きな姿勢を示した。
:2009:07/27/13:56 ++ 日立が完全子会社化、マクセルなど上場5社、成長事業取り込む、来月からTOB。
日立製作所は日立マクセルなど東証に上場しているグループ5社を完全子会社にする。8月下旬に株式公開買い付け(TOB)を開始し、最大3000億円を投じ、それぞれ約5~7割の出資比率を全額出資へ引き上げる。日立は2009年3月期に国内製造業では最大となる7873億円の連結最終赤字に陥った。グループ戦略を転換し、上場子会社16社のうち社会インフラなど成長が見込める分野の5社を一斉に取り込み、経営再建を急ぐ。(関連記事9面に)
完全子会社にするのは日立マクセルのほか、日立プラントテクノロジー、日立情報システムズ、日立ソフトウェアエンジニアリング、日立システムアンドサービスの計5社。週内に発表する。
5社に対する日立の出資比率は現在51・2~68・1%。完全子会社化へ一般株主を対象にTOBを実施する。すべて現金で買い付けた場合、24日の終値ベースで必要な取得金額は約2000億円。実際の買い付け価格は直近の一定期間の平均株価に上乗せ価格(プレミアム)を加えて決める。
少数株主が残った場合は日立株と交換し、09年度中に出資比率を100%へ引き上げる。TOBで日立の出資比率が3分の2を超えていれば、会社法の規定により少数株を強制的に株式交換できる。5社はいずれも上場廃止にする。
日立グループには日立金属や日立電線など上場企業16社を含め、連結子会社が943社(09年3月末時点)ある。これまでは各社が自主独立で事業拡大を競い、グループ全体の成長につなげてきた。技術開発や営業を日立製作所と一体化して収益力を高めるため、グループ戦略を見直す。
産業界では02年にパナソニックが当時の松下寿電子工業や松下通信工業など上場4社を、株式交換により完全子会社化した。製造業で最多の上場子会社を持つ日立が5社を完全子会社にする戦略は、世界金融危機で業績が悪化している日本企業のグループ経営の転換点となる可能性がある。
日立は昨秋以降の世界的な需要減少や円高の影響で、09年3月期に国内製造業で過去最大の赤字を計上。10年3月期も2700億円の連結最終赤字を見込む。今年4月に就任した川村隆会長兼社長は業績回復へ向け「脱・総合電機」を宣言。赤字の主因だったデジタル家電や自動車機器を7月1日付で分社化した。
上場16社を含む主要約40社を対象に、情報通信や社会インフラとの関連が深い企業は保有株を買い増し、逆に低い企業は売却する検討に着手してきた。完全子会社化する5社のうち、日立マクセルはリチウムイオン電池を、日立プラントテクノロジーは原子力発電所の建設など社会インフラ関連の中核事業を担う。
完全子会社化を通じ、従来は「少数株主持ち分」として外部流出していた利益などの企業価値を内部にとどめ、連結業績の改善も図る。日立は1995年に東証1部上場だった家電販売の日立家電を吸収したほか、06年に携帯電話機の販売会社だった日立モバイル(現・日立オートパーツ&サービス)を完全子会社にしている。
親会社と連結子会社がともに上場する「親子上場」は日本独特の経営手法とされるが、成長が鈍化すると事業の重複など非効率な面が目立つようになる。産業界で見直す動きが加速しそうだ。
完全子会社にするのは日立マクセルのほか、日立プラントテクノロジー、日立情報システムズ、日立ソフトウェアエンジニアリング、日立システムアンドサービスの計5社。週内に発表する。
5社に対する日立の出資比率は現在51・2~68・1%。完全子会社化へ一般株主を対象にTOBを実施する。すべて現金で買い付けた場合、24日の終値ベースで必要な取得金額は約2000億円。実際の買い付け価格は直近の一定期間の平均株価に上乗せ価格(プレミアム)を加えて決める。
少数株主が残った場合は日立株と交換し、09年度中に出資比率を100%へ引き上げる。TOBで日立の出資比率が3分の2を超えていれば、会社法の規定により少数株を強制的に株式交換できる。5社はいずれも上場廃止にする。
日立グループには日立金属や日立電線など上場企業16社を含め、連結子会社が943社(09年3月末時点)ある。これまでは各社が自主独立で事業拡大を競い、グループ全体の成長につなげてきた。技術開発や営業を日立製作所と一体化して収益力を高めるため、グループ戦略を見直す。
産業界では02年にパナソニックが当時の松下寿電子工業や松下通信工業など上場4社を、株式交換により完全子会社化した。製造業で最多の上場子会社を持つ日立が5社を完全子会社にする戦略は、世界金融危機で業績が悪化している日本企業のグループ経営の転換点となる可能性がある。
日立は昨秋以降の世界的な需要減少や円高の影響で、09年3月期に国内製造業で過去最大の赤字を計上。10年3月期も2700億円の連結最終赤字を見込む。今年4月に就任した川村隆会長兼社長は業績回復へ向け「脱・総合電機」を宣言。赤字の主因だったデジタル家電や自動車機器を7月1日付で分社化した。
上場16社を含む主要約40社を対象に、情報通信や社会インフラとの関連が深い企業は保有株を買い増し、逆に低い企業は売却する検討に着手してきた。完全子会社化する5社のうち、日立マクセルはリチウムイオン電池を、日立プラントテクノロジーは原子力発電所の建設など社会インフラ関連の中核事業を担う。
完全子会社化を通じ、従来は「少数株主持ち分」として外部流出していた利益などの企業価値を内部にとどめ、連結業績の改善も図る。日立は1995年に東証1部上場だった家電販売の日立家電を吸収したほか、06年に携帯電話機の販売会社だった日立モバイル(現・日立オートパーツ&サービス)を完全子会社にしている。
親会社と連結子会社がともに上場する「親子上場」は日本独特の経営手法とされるが、成長が鈍化すると事業の重複など非効率な面が目立つようになる。産業界で見直す動きが加速しそうだ。
:2009:07/23/11:17 ++ 検証郵政解散後05~09(1)苦境に涙、党首流転―政権放棄覚悟に疑問符。
2005年夏の「郵政解散」に伴う衆院選から4年。首相を担う自民党総裁はこの間、小泉純一郎氏を含む計4人が目まぐるしく入れ替わり、野党第1党の民主党代表も三たび代わった。苦境に涙をこぼす党首も続出した。一国の政権を担うため争うはずの党首の座。衆院選では何よりトップの覚悟が問われる。
「小泉純一郎が参りました」。06年8月5日午後、山口県萩市内を一望できる丘にある吉田松陰生家跡地。視察で訪れた当時の小泉首相は玄関跡で戸を開けるしぐさをして、頭を垂れた。同行者が「何を思ったのですか」と聞くと、小泉氏はつぶやいた。「やはり志の強さだな。松陰のように一身を賭す覚悟がないと政治はぐらぐらする。国がおかしくなる」
■改造直後の辞意
指導者に強じんな精神力を求めた小泉氏の思いとは裏腹に、同氏が後継指名した安倍晋三氏は1年で政権を投げ出した。07年夏の参院選の自民党惨敗後に続投表明し、8月末に内閣改造に踏み切ってまもなくのことだ。
「職を辞するべきと決意いたしました」。9月12日、首相官邸の記者会見室で辞任会見に臨んだ安倍氏の目には涙が浮かんでいた。「体調不良」が理由だった辞意表明は、海外での記者会見でインド洋での給油活動延長法案の成立に「職を賭していく」と意気込みをみせてからわずか3日後だった。
安倍氏から首相を引き継いだ福田康夫氏は「ねじれ国会」に苦しんだ。08年4月9日、国会内で開かれた民主党の小沢一郎代表との党首討論。「かわいそうなくらい苦労しているんですよ」。福田氏は涙目で口元を震わせた。
日銀総裁人事を巡って財務次官OBを充てる人事案を相次ぎ提示した福田氏だが、参院で多数を握る小沢民主党は不同意を連発。内閣支持率低迷もあり福田氏も08年8月の内閣改造から約1カ月半で政権を放り出した。
■民主にも「軽さ」
一方、政権交代を掲げる民主党の代表も野党党首の「軽さ」が目立った。「問題が起こればすぐに辞めさせればいい。政権党の党首じゃないんだ」。岡田克也氏が衆院選敗退の責任を取って辞任した05年9月。党内実力者の小沢一郎氏は前原誠司氏の代表選出について同党の衆院議員に語った。
小沢氏の言説通り、前原氏は「偽メール」問題によってわずか在任半年であえなく辞任。小沢氏は後任の代表に就任し、党を07年夏の参院選大勝に導いた。辞任会見で涙ぐむ安倍首相(当時)の様子をテレビでみて周辺に「政治家が自分のことで人前で泣くようでは終わりだ。加藤紘一氏もそうだった。そんなのは総理はできない」と指導者論を力説した。
ただ、小沢氏は今年3月、西松建設の違法献金事件で自身の公設秘書が逮捕・起訴され、一転苦境に。同月の記者会見では「政権交代が最後の仕事だ」と涙を流しながら続投への理解を求めたが、結局5月に世論の批判の高まりにより辞任に追い込まれた。
「一致団結して戦う以外ない」。21日の両院議員懇談会で自身のもとでの団結を訴えた麻生太郎首相の目は潤んでいた。鳩山由紀夫代表も6月30日の記者会見で自身の偽装献金問題について涙ぐみながら釈明した。衆院選は党首力の戦いとなるが、両者が苦境での「頼もしさ」をどれほど打ち出せるかも焦点となる。
「小泉純一郎が参りました」。06年8月5日午後、山口県萩市内を一望できる丘にある吉田松陰生家跡地。視察で訪れた当時の小泉首相は玄関跡で戸を開けるしぐさをして、頭を垂れた。同行者が「何を思ったのですか」と聞くと、小泉氏はつぶやいた。「やはり志の強さだな。松陰のように一身を賭す覚悟がないと政治はぐらぐらする。国がおかしくなる」
■改造直後の辞意
指導者に強じんな精神力を求めた小泉氏の思いとは裏腹に、同氏が後継指名した安倍晋三氏は1年で政権を投げ出した。07年夏の参院選の自民党惨敗後に続投表明し、8月末に内閣改造に踏み切ってまもなくのことだ。
「職を辞するべきと決意いたしました」。9月12日、首相官邸の記者会見室で辞任会見に臨んだ安倍氏の目には涙が浮かんでいた。「体調不良」が理由だった辞意表明は、海外での記者会見でインド洋での給油活動延長法案の成立に「職を賭していく」と意気込みをみせてからわずか3日後だった。
安倍氏から首相を引き継いだ福田康夫氏は「ねじれ国会」に苦しんだ。08年4月9日、国会内で開かれた民主党の小沢一郎代表との党首討論。「かわいそうなくらい苦労しているんですよ」。福田氏は涙目で口元を震わせた。
日銀総裁人事を巡って財務次官OBを充てる人事案を相次ぎ提示した福田氏だが、参院で多数を握る小沢民主党は不同意を連発。内閣支持率低迷もあり福田氏も08年8月の内閣改造から約1カ月半で政権を放り出した。
■民主にも「軽さ」
一方、政権交代を掲げる民主党の代表も野党党首の「軽さ」が目立った。「問題が起こればすぐに辞めさせればいい。政権党の党首じゃないんだ」。岡田克也氏が衆院選敗退の責任を取って辞任した05年9月。党内実力者の小沢一郎氏は前原誠司氏の代表選出について同党の衆院議員に語った。
小沢氏の言説通り、前原氏は「偽メール」問題によってわずか在任半年であえなく辞任。小沢氏は後任の代表に就任し、党を07年夏の参院選大勝に導いた。辞任会見で涙ぐむ安倍首相(当時)の様子をテレビでみて周辺に「政治家が自分のことで人前で泣くようでは終わりだ。加藤紘一氏もそうだった。そんなのは総理はできない」と指導者論を力説した。
ただ、小沢氏は今年3月、西松建設の違法献金事件で自身の公設秘書が逮捕・起訴され、一転苦境に。同月の記者会見では「政権交代が最後の仕事だ」と涙を流しながら続投への理解を求めたが、結局5月に世論の批判の高まりにより辞任に追い込まれた。
「一致団結して戦う以外ない」。21日の両院議員懇談会で自身のもとでの団結を訴えた麻生太郎首相の目は潤んでいた。鳩山由紀夫代表も6月30日の記者会見で自身の偽装献金問題について涙ぐみながら釈明した。衆院選は党首力の戦いとなるが、両者が苦境での「頼もしさ」をどれほど打ち出せるかも焦点となる。
:2009:07/23/11:12 ++ 韓国・EU自由貿易協定の衝撃波(社説)
韓国と欧州連合(EU)の自由貿易協定(FTA)締結交渉が妥結した。早ければ来年上半期中の発効を目指すという。韓国と比べると、FTAを含む経済連携協定(EPA)戦略で出遅れ感が目立つ日本にとっては、ひとごとではない。
韓国とEUがFTA交渉を本格的に始めたのは2007年5月だ。わずか2年2カ月で妥結した。
EUの経済規模は米国より2割大きい。世界最大の単一市場だ。韓国にとっては中国に次ぐ第2の輸出市場でもある。FTAに伴う経済効果への期待は大きく、サムスン経済研究所は韓国の国内総生産(GDP)を3%以上押し上げると試算する。
韓国とEUは協定発効から3年以内に工業製品の9割以上の関税を撤廃する。韓国は7年以内、EUは5年以内にすべての工業製品の輸入関税をなくす。自動車の輸入関税は5年以内に撤廃するという。
EUは米国などと比べて工業製品の輸入関税が総じて高く、薄型テレビには14%、自動車には10%の関税をかけている。家電や自動車などの工業製品が欧州向け輸出の大半を占める韓国にとって、EU側の関税が撤廃される恩恵は大きい。
日本の自動車や家電業界は現地生産を進めており、影響は限定的との見方もある。だが、韓国製品に対する関税の撤廃が実現する一方、日本製品への高率の関税が続くと、日本企業は韓国企業に価格競争力で大きな差をつけられる。
協定発効にはEU加盟27カ国すべての同意が必要だ。小型車で韓国と競合するイタリアなど一部の国がなお態度を保留しているとされるが、韓国と競合する製品が多い日本は韓国とEUのFTA交渉妥結を重く受け止め、EUとのEPA交渉を真剣に推進すべきである。
EPA推進には農業分野の市場開放が欠かせない。韓国でも農業関係者の市場開放反対論は強かったが、政府はFTAを軸に輸出市場をさらに広げる路線を選び、すでに米国やインドなどとのFTAも妥結している。日本も農産物市場開放は簡単ではないが、農業の生産性を高める改革を進め、関税以外の手段で農家を保護する制度の整備を急ぐべきだ。
輸出への依存度が高い韓国には、金融危機と世界不況によって深刻な打撃を受けた教訓もあった。近年、輸出依存度が高まっていた日本の打撃も深刻で、新たな通商戦略を問われている。日本もこれまで東南アジア中心だったEPAの対象を先進国にも広げ、長期的な視野に立った通商政策を進める必要がある。
韓国とEUがFTA交渉を本格的に始めたのは2007年5月だ。わずか2年2カ月で妥結した。
EUの経済規模は米国より2割大きい。世界最大の単一市場だ。韓国にとっては中国に次ぐ第2の輸出市場でもある。FTAに伴う経済効果への期待は大きく、サムスン経済研究所は韓国の国内総生産(GDP)を3%以上押し上げると試算する。
韓国とEUは協定発効から3年以内に工業製品の9割以上の関税を撤廃する。韓国は7年以内、EUは5年以内にすべての工業製品の輸入関税をなくす。自動車の輸入関税は5年以内に撤廃するという。
EUは米国などと比べて工業製品の輸入関税が総じて高く、薄型テレビには14%、自動車には10%の関税をかけている。家電や自動車などの工業製品が欧州向け輸出の大半を占める韓国にとって、EU側の関税が撤廃される恩恵は大きい。
日本の自動車や家電業界は現地生産を進めており、影響は限定的との見方もある。だが、韓国製品に対する関税の撤廃が実現する一方、日本製品への高率の関税が続くと、日本企業は韓国企業に価格競争力で大きな差をつけられる。
協定発効にはEU加盟27カ国すべての同意が必要だ。小型車で韓国と競合するイタリアなど一部の国がなお態度を保留しているとされるが、韓国と競合する製品が多い日本は韓国とEUのFTA交渉妥結を重く受け止め、EUとのEPA交渉を真剣に推進すべきである。
EPA推進には農業分野の市場開放が欠かせない。韓国でも農業関係者の市場開放反対論は強かったが、政府はFTAを軸に輸出市場をさらに広げる路線を選び、すでに米国やインドなどとのFTAも妥結している。日本も農産物市場開放は簡単ではないが、農業の生産性を高める改革を進め、関税以外の手段で農家を保護する制度の整備を急ぐべきだ。
輸出への依存度が高い韓国には、金融危機と世界不況によって深刻な打撃を受けた教訓もあった。近年、輸出依存度が高まっていた日本の打撃も深刻で、新たな通商戦略を問われている。日本もこれまで東南アジア中心だったEPAの対象を先進国にも広げ、長期的な視野に立った通商政策を進める必要がある。
:2009:07/23/11:06 ++ 選択09衆院選何が問われるか(2)「機能不全」変える好機。
:2009:07/23/11:05 ++ 選択09衆院選何が問われるか(1)責任ある成長政策を。
論説委員長 平田育夫
総選挙を経て新内閣ができるころ、リーマン・ショックから1年になる。その傷は実に深かった。
景気なお厳しく
政府は7月の月例経済報告で景気に持ち直しの動きがあることを指摘した。だが日銀の6月の調査では製造業・大企業の業況判断指数は3月より改善したもののマイナス48。金融危機の最中だった1999年春ごろと同じ低水準だ。
市場経済を守るために政府や日銀が経済への関与を強める。そんな皮肉な状況は続く。次期政権は今春に続くもう一段の経済対策を念頭に置かざるを得ないだろう。
それも急場をしのぐ需要追加だけでなく、成長戦略を立てて各種改革をも進める必要がある。
カネがカネを生む金融資本主義には限界が見えた。だが従来型の工業重視、もの作り信仰だけでは新興国の追い上げが激しい。米欧は環境・情報技術を軸とした産業革新を目指している。リーマン・ショック後のこの潮流をどう受け止めて成長戦略を練り直すのか。
このあたり、自民党政権も民主党もはっきりしない面がある。
温暖化対策で日本は太陽光発電や蓄電池など優れた技術を持つ。各国が温暖化ガスの厳しい排出削減で合意できれば日本の技を大いにいかせる。だが麻生政権は電力、鉄鋼などの産業に配慮し目標設定の主導権を握るのを避けている印象だ。
その点、民主党は意欲的な削減目標とその実現に向けた排出量取引の導入を提唱する。ところがガソリン税や軽油引取税の大幅軽減もうたう。温暖化ガスの削減と矛盾しないのだろうか。
再生医療などの医療技術でも日本は世界最先端を行く。患者救済だけでなく医療・医薬品産業の成長を望める。その障害は新薬や新技術に対する長期間の審査など様々な規制だ。麻生政権は規制の改善をうたうものの、目立った進展はない。
そもそも、政治家は民間の創意工夫をどこまで信頼しているのか疑いたくなる昨今である。
民主党は民営化した郵政事業について、政府保有株の売却凍結などを主張する。自民党内にもこれに賛同する声があるのは理解しがたい。
「官から民へ」の象徴である郵政民営化を後退させれば、特殊法人改革にも支障を来すのを含め影響は計り知れない。
また民主党は製造業派遣の大幅な制限を提案する。一部に過酷な労働実態があるとしても、正規社員との格差を縮めるのが筋。派遣制限は問題の解決にならない。民間の活力をそぐだけだ。
企業の力をいかすには国際的に高い法人税の軽減も要る。特に赤字繰越期間(7年、米国は20年)の延長は外国資本を呼び込むためにも欠かせないが、両党とも法人税減税には触れない。
目を海外に転じよう。企業の市場はアジアを中心に世界に広がる。そこで大事なのが通商自由化だが両党の関心は弱い。
日本は東南アジアの国々と自由貿易協定(FTA)を含む経済連携協定(EPA)を結んだが、関税の下げ幅は小幅で国内の製造業者らの不満は強い。大きな原因は日本が農業市場の開放を渋ったことにある。
その農業で民主党は小規模農家も保護する戸別所得補償を掲げる。自民党もこれに引きずられ生産性向上を狙う農地集約政策を半ば放棄した。
これでは、民間の技術力をいかして高齢化時代にも成長を続けるための道筋が全く見えない。
消費税避けるな
そんななか欧州連合(EU)と韓国は先週、FTA交渉で合意した。自動車や薄型テレビの関税が大幅に下がればEU市場で韓国製品が日本製品より有利になる。不況でも先を読んで着々と手を打つ国々もある。
一方、民主党は月2万6000円の「子ども手当」を売り物とするが、財源措置は必ずしも明確でない。消費税増税を4年間は議論しないのならば慎重すぎないか。
破綻に近い財政を積極活用するならば「帰り道」を示さないと、企業も個人も安心できず、財政活用の効果も限られよう。
両党とも内向きで口当たりの良い話ばかりだ。政権選択の選挙ならばこそ、長期を見据えた責任ある政策を聞きたい。
総選挙を経て新内閣ができるころ、リーマン・ショックから1年になる。その傷は実に深かった。
景気なお厳しく
政府は7月の月例経済報告で景気に持ち直しの動きがあることを指摘した。だが日銀の6月の調査では製造業・大企業の業況判断指数は3月より改善したもののマイナス48。金融危機の最中だった1999年春ごろと同じ低水準だ。
市場経済を守るために政府や日銀が経済への関与を強める。そんな皮肉な状況は続く。次期政権は今春に続くもう一段の経済対策を念頭に置かざるを得ないだろう。
それも急場をしのぐ需要追加だけでなく、成長戦略を立てて各種改革をも進める必要がある。
カネがカネを生む金融資本主義には限界が見えた。だが従来型の工業重視、もの作り信仰だけでは新興国の追い上げが激しい。米欧は環境・情報技術を軸とした産業革新を目指している。リーマン・ショック後のこの潮流をどう受け止めて成長戦略を練り直すのか。
このあたり、自民党政権も民主党もはっきりしない面がある。
温暖化対策で日本は太陽光発電や蓄電池など優れた技術を持つ。各国が温暖化ガスの厳しい排出削減で合意できれば日本の技を大いにいかせる。だが麻生政権は電力、鉄鋼などの産業に配慮し目標設定の主導権を握るのを避けている印象だ。
その点、民主党は意欲的な削減目標とその実現に向けた排出量取引の導入を提唱する。ところがガソリン税や軽油引取税の大幅軽減もうたう。温暖化ガスの削減と矛盾しないのだろうか。
再生医療などの医療技術でも日本は世界最先端を行く。患者救済だけでなく医療・医薬品産業の成長を望める。その障害は新薬や新技術に対する長期間の審査など様々な規制だ。麻生政権は規制の改善をうたうものの、目立った進展はない。
そもそも、政治家は民間の創意工夫をどこまで信頼しているのか疑いたくなる昨今である。
民主党は民営化した郵政事業について、政府保有株の売却凍結などを主張する。自民党内にもこれに賛同する声があるのは理解しがたい。
「官から民へ」の象徴である郵政民営化を後退させれば、特殊法人改革にも支障を来すのを含め影響は計り知れない。
また民主党は製造業派遣の大幅な制限を提案する。一部に過酷な労働実態があるとしても、正規社員との格差を縮めるのが筋。派遣制限は問題の解決にならない。民間の活力をそぐだけだ。
企業の力をいかすには国際的に高い法人税の軽減も要る。特に赤字繰越期間(7年、米国は20年)の延長は外国資本を呼び込むためにも欠かせないが、両党とも法人税減税には触れない。
目を海外に転じよう。企業の市場はアジアを中心に世界に広がる。そこで大事なのが通商自由化だが両党の関心は弱い。
日本は東南アジアの国々と自由貿易協定(FTA)を含む経済連携協定(EPA)を結んだが、関税の下げ幅は小幅で国内の製造業者らの不満は強い。大きな原因は日本が農業市場の開放を渋ったことにある。
その農業で民主党は小規模農家も保護する戸別所得補償を掲げる。自民党もこれに引きずられ生産性向上を狙う農地集約政策を半ば放棄した。
これでは、民間の技術力をいかして高齢化時代にも成長を続けるための道筋が全く見えない。
消費税避けるな
そんななか欧州連合(EU)と韓国は先週、FTA交渉で合意した。自動車や薄型テレビの関税が大幅に下がればEU市場で韓国製品が日本製品より有利になる。不況でも先を読んで着々と手を打つ国々もある。
一方、民主党は月2万6000円の「子ども手当」を売り物とするが、財源措置は必ずしも明確でない。消費税増税を4年間は議論しないのならば慎重すぎないか。
破綻に近い財政を積極活用するならば「帰り道」を示さないと、企業も個人も安心できず、財政活用の効果も限られよう。
両党とも内向きで口当たりの良い話ばかりだ。政権選択の選挙ならばこそ、長期を見据えた責任ある政策を聞きたい。
:2009:07/22/13:31 ++ 政権選択選挙の名に恥じぬ政策論争を(社説)
衆院が解散され、政府は次期衆院選の日程を「8月18日公示―30日投票」とすることを決めた。今回の衆院選は引き続き自民、公明両党に政権を委ねるのか、それとも民主党を中心とする政権に交代させるのかが最大の焦点となる。
政権選択選挙の名に恥じぬ政策論争を強く望みたい。二大政党の自民、民主両党は速やかにマニフェスト(政権公約)を公表し、有権者に判断材料を示す責任がある。
独自公約は許されない
衆院選は小泉自民党が圧勝した2005年9月の郵政選挙以来、ほぼ4年ぶりとなる。9月10日が衆院議員の任期切れになっており、事実上の任期満了選挙といえる。
この4年の間に小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎の4氏が首相を務めた。衆参ねじれ国会の影響もあって、安倍、福田両氏がともに1年間で政権を投げ出したことが、自民党の統治能力への疑問を強める結果になった。
昨年9月に「選挙の顔」として党内の圧倒的な支持で選ばれた麻生首相も、自らの発言のぶれや日本郵政社長人事などでの政権運営の迷走が相次ぎ、内閣支持率の大幅な低下を招いた。自民党にとってかつてない逆風の下での選挙戦となる。
12日の東京都議会議員選挙で大敗を喫した後の自民党の混乱は目をおおうばかりだった。首相は13日に自ら解散する意向を明らかにしたが、反麻生勢力が総裁選を前倒しするために両院議員総会の開催を求めるなど、深刻な党内対立が露呈した。
首相は21日の記者会見で自らの失言や党内の結束の乱れを陳謝した。そのうえで「景気の回復と安心社会の実現を約束する。総選挙は安心社会実現選挙であり、国民に問うのは政党の責任力だ」と強調した。
解散されたにもかかわらず、自民党は政権公約の骨格すら示していない。各党は事実上の選挙戦に突入したが、政権公約なしで、自民党候補は一体何を訴えるのだろうか。
首相は早急に政権公約をまとめなければならない。首相がこだわる将来の消費税率の引き上げを公約に盛り込むことには、党内に異論が残っている。年金や医療制度などの社会保障改革は待ったなしだ。政調各部会の要望を並べたような政権公約では、有権者の支持は得られまい。
首相に批判的な議員の間では、党とは異なる独自の政権公約を掲げて選挙を戦おうとする動きがある。これは政権公約と党首(首相候補)を比べて政権を選ぶという衆院選の趣旨に反する行為であり、容認することはできない。独自の政権公約を訴えるなら、潔く離党して新党をつくるのが筋である。
こうした動きが具体化したら、党執行部は公認取り消しなどの断固たる対応を取る必要がある。
都議選など一連の大型地方選で連勝を続ける民主党は、政権交代に向けて勢いづいている。だが政権交代は手段にすぎない。大事なことは政権交代後に何を実行するかだ。
民主党が候補者向けに配った主要政策のポイント解説集には、月額2万6000円の子ども手当、高校授業料の無償化、高速道路無料化、ガソリン税などの暫定税率廃止、農業の戸別所得補償制度の創設などの目玉施策が列挙されている。
これらの新規施策をすべて実施するのに必要な財源は16兆8000億円と見込み、無駄遣いの削減で9兆1000億円、埋蔵金の活用で4兆3000億円ひねり出すなどとしている。
ばらまき懸念ぬぐえず
しかし無駄遣いの削減などで本当に巨額の財源を生み出せるかは不透明なままだ。選挙目当てのばらまきとなる懸念はぬぐえない。
民主党は政権公約で財源の裏づけをくわしく説明する必要がある。子ども手当の創設に伴い、所得税の扶養控除や配偶者控除を見直す方針だが、増税などの負担増についても実のある論戦を期待したい。
民主党政権が実現した場合の大きな不安要素は、外交・安全保障政策だ。インド洋上での海上自衛隊の給油活動については、小沢一郎前代表当時に「憲法違反」と断じて反対した経緯がある。日米関係などに禍根を残す判断だった。
鳩山由紀夫代表は政権獲得後も即時撤退はしない考えを表明した。現実的な外交路線に修正する試みかどうかを注視したいが、社民党は反発し、波紋が広がっている。北朝鮮の核開発問題など選挙後に直面する外交課題は山積している。安定した政権を築くには、説得力のある外交・安保政策を示すことが不可欠だ。
民主党政権ができた場合、共産党は一致できる政策には是々非々の立場で協力する「建設的野党」を目指す方針を打ち出した。与党の公明党や、民主党の連立相手に想定される社民、国民新両党も党の姿勢を明確にして選挙に臨んでもらいたい。
政権選択選挙の名に恥じぬ政策論争を強く望みたい。二大政党の自民、民主両党は速やかにマニフェスト(政権公約)を公表し、有権者に判断材料を示す責任がある。
独自公約は許されない
衆院選は小泉自民党が圧勝した2005年9月の郵政選挙以来、ほぼ4年ぶりとなる。9月10日が衆院議員の任期切れになっており、事実上の任期満了選挙といえる。
この4年の間に小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎の4氏が首相を務めた。衆参ねじれ国会の影響もあって、安倍、福田両氏がともに1年間で政権を投げ出したことが、自民党の統治能力への疑問を強める結果になった。
昨年9月に「選挙の顔」として党内の圧倒的な支持で選ばれた麻生首相も、自らの発言のぶれや日本郵政社長人事などでの政権運営の迷走が相次ぎ、内閣支持率の大幅な低下を招いた。自民党にとってかつてない逆風の下での選挙戦となる。
12日の東京都議会議員選挙で大敗を喫した後の自民党の混乱は目をおおうばかりだった。首相は13日に自ら解散する意向を明らかにしたが、反麻生勢力が総裁選を前倒しするために両院議員総会の開催を求めるなど、深刻な党内対立が露呈した。
首相は21日の記者会見で自らの失言や党内の結束の乱れを陳謝した。そのうえで「景気の回復と安心社会の実現を約束する。総選挙は安心社会実現選挙であり、国民に問うのは政党の責任力だ」と強調した。
解散されたにもかかわらず、自民党は政権公約の骨格すら示していない。各党は事実上の選挙戦に突入したが、政権公約なしで、自民党候補は一体何を訴えるのだろうか。
首相は早急に政権公約をまとめなければならない。首相がこだわる将来の消費税率の引き上げを公約に盛り込むことには、党内に異論が残っている。年金や医療制度などの社会保障改革は待ったなしだ。政調各部会の要望を並べたような政権公約では、有権者の支持は得られまい。
首相に批判的な議員の間では、党とは異なる独自の政権公約を掲げて選挙を戦おうとする動きがある。これは政権公約と党首(首相候補)を比べて政権を選ぶという衆院選の趣旨に反する行為であり、容認することはできない。独自の政権公約を訴えるなら、潔く離党して新党をつくるのが筋である。
こうした動きが具体化したら、党執行部は公認取り消しなどの断固たる対応を取る必要がある。
都議選など一連の大型地方選で連勝を続ける民主党は、政権交代に向けて勢いづいている。だが政権交代は手段にすぎない。大事なことは政権交代後に何を実行するかだ。
民主党が候補者向けに配った主要政策のポイント解説集には、月額2万6000円の子ども手当、高校授業料の無償化、高速道路無料化、ガソリン税などの暫定税率廃止、農業の戸別所得補償制度の創設などの目玉施策が列挙されている。
これらの新規施策をすべて実施するのに必要な財源は16兆8000億円と見込み、無駄遣いの削減で9兆1000億円、埋蔵金の活用で4兆3000億円ひねり出すなどとしている。
ばらまき懸念ぬぐえず
しかし無駄遣いの削減などで本当に巨額の財源を生み出せるかは不透明なままだ。選挙目当てのばらまきとなる懸念はぬぐえない。
民主党は政権公約で財源の裏づけをくわしく説明する必要がある。子ども手当の創設に伴い、所得税の扶養控除や配偶者控除を見直す方針だが、増税などの負担増についても実のある論戦を期待したい。
民主党政権が実現した場合の大きな不安要素は、外交・安全保障政策だ。インド洋上での海上自衛隊の給油活動については、小沢一郎前代表当時に「憲法違反」と断じて反対した経緯がある。日米関係などに禍根を残す判断だった。
鳩山由紀夫代表は政権獲得後も即時撤退はしない考えを表明した。現実的な外交路線に修正する試みかどうかを注視したいが、社民党は反発し、波紋が広がっている。北朝鮮の核開発問題など選挙後に直面する外交課題は山積している。安定した政権を築くには、説得力のある外交・安保政策を示すことが不可欠だ。
民主党政権ができた場合、共産党は一致できる政策には是々非々の立場で協力する「建設的野党」を目指す方針を打ち出した。与党の公明党や、民主党の連立相手に想定される社民、国民新両党も党の姿勢を明確にして選挙に臨んでもらいたい。
:2009:07/15/09:57 ++ イラン混乱の余波(下)外国の「介入」徹底排除―中東全域の火種にも。
「外敵がイランに介入すればするほど、我々は強い決意で立ち向かう」。イランのアハマディネジャド大統領は7日、2期目の任期も対外関係に強硬路線で臨む姿勢を鮮明にした。
大統領選挙後、最高指導者ハメネイ師が欧米を名指しで批判したのをきっかけに同国政府は一斉に外国の「介入」を非難。騒乱を「外国の陰謀」として外国メディアの活動を制限し、英国外交官を追放した。
「主要国首脳はイラン大統領選挙後のぞっとする出来事と核拡散の危険に懸念を有している」。就任後、対話路線を打ち出したオバマ米大統領だったが、主要国首脳会議(ラクイラ・サミット)ではイラン批判を明言した。
中国は実利優先
もっともイランが一方的に孤立を深めているわけではない。対イラン制裁で動きが取れない西側企業と対照的に関係を密にしているのが中国企業だ。中国の5月のイランからの原油輸入量は309万トンと前年同月比88%増。イランは中国にとって最大の原油供給国となった。大統領選に際しても「イラン国民の選択を尊重する」(秦剛外務省副報道局長)と現政権への配慮を色濃く打ち出し、実利優先外交を展開している。
このほか天然ガスの約3分の1を隣国イランから輸入するトルコはアハマディネジャド大統領の再選に祝意を表明している。
国際社会のイランへの足並みがそろわない中、いらだちを強めている国がある。イランの核開発を「最大の脅威」(ネタニヤフ首相)とするイスラエルだ。先月は同国軍の潜水艦1隻、今月14日には水上艦艇2隻がエジプトのスエズ運河を通航し紅海側へ向かった。いずれもイランへの示威行動とみられている。
イラン核疑惑をめぐるイランと欧州との協議は昨年7月に開いて以降中断。イラン側はその後もウラン濃縮活動を継続。米研究機関はイランが2010年2月までに核爆弾2発をつくるのに必要な低濃縮ウランを確保すると見ている。
核開発にも懸念
今月上旬には、今後イスラエル軍がイランを空爆する際はサウジアラビアが領空通過を黙認することで両国の当局者が合意したと英紙が報道。イスラエル首相府は報道を否定するが、両国はイラン核開発を危惧する点では一致する。
アフガニスタンなどでの軍事作戦を抱えるオバマ米大統領は「9月のピッツバーグでのG20でイラン問題を取り上げ、強い制裁も検討する」と語り、当面は軍事的手段をとる考えはないことを間接的に示した。一方でバイデン副大統領は「他の主権国家の意思決定に口を挟めない」と言明。1981年にイスラエルが米国に事前通告せずにイラクの原発を空爆した事例を国際社会に想起させた。
アハマディネジャド大統領の支持基盤である革命防衛隊の影響力拡大も不安要因だ。イラクのイスラム教シーア派勢力やパレスチナなどへの支援は革命防衛隊が主力とされる。防衛隊が大統領の第2期政権下で存在感を増すことで介入が活発化する可能性もある。
大統領選後のイラン情勢の混乱は、中東全域を不安定にする危険もはらむ。
松尾博文、安部健太郎、大石格、岐部秀光、佐藤賢が担当しました。
大統領選挙後、最高指導者ハメネイ師が欧米を名指しで批判したのをきっかけに同国政府は一斉に外国の「介入」を非難。騒乱を「外国の陰謀」として外国メディアの活動を制限し、英国外交官を追放した。
「主要国首脳はイラン大統領選挙後のぞっとする出来事と核拡散の危険に懸念を有している」。就任後、対話路線を打ち出したオバマ米大統領だったが、主要国首脳会議(ラクイラ・サミット)ではイラン批判を明言した。
中国は実利優先
もっともイランが一方的に孤立を深めているわけではない。対イラン制裁で動きが取れない西側企業と対照的に関係を密にしているのが中国企業だ。中国の5月のイランからの原油輸入量は309万トンと前年同月比88%増。イランは中国にとって最大の原油供給国となった。大統領選に際しても「イラン国民の選択を尊重する」(秦剛外務省副報道局長)と現政権への配慮を色濃く打ち出し、実利優先外交を展開している。
このほか天然ガスの約3分の1を隣国イランから輸入するトルコはアハマディネジャド大統領の再選に祝意を表明している。
国際社会のイランへの足並みがそろわない中、いらだちを強めている国がある。イランの核開発を「最大の脅威」(ネタニヤフ首相)とするイスラエルだ。先月は同国軍の潜水艦1隻、今月14日には水上艦艇2隻がエジプトのスエズ運河を通航し紅海側へ向かった。いずれもイランへの示威行動とみられている。
イラン核疑惑をめぐるイランと欧州との協議は昨年7月に開いて以降中断。イラン側はその後もウラン濃縮活動を継続。米研究機関はイランが2010年2月までに核爆弾2発をつくるのに必要な低濃縮ウランを確保すると見ている。
核開発にも懸念
今月上旬には、今後イスラエル軍がイランを空爆する際はサウジアラビアが領空通過を黙認することで両国の当局者が合意したと英紙が報道。イスラエル首相府は報道を否定するが、両国はイラン核開発を危惧する点では一致する。
アフガニスタンなどでの軍事作戦を抱えるオバマ米大統領は「9月のピッツバーグでのG20でイラン問題を取り上げ、強い制裁も検討する」と語り、当面は軍事的手段をとる考えはないことを間接的に示した。一方でバイデン副大統領は「他の主権国家の意思決定に口を挟めない」と言明。1981年にイスラエルが米国に事前通告せずにイラクの原発を空爆した事例を国際社会に想起させた。
アハマディネジャド大統領の支持基盤である革命防衛隊の影響力拡大も不安要因だ。イラクのイスラム教シーア派勢力やパレスチナなどへの支援は革命防衛隊が主力とされる。防衛隊が大統領の第2期政権下で存在感を増すことで介入が活発化する可能性もある。
大統領選後のイラン情勢の混乱は、中東全域を不安定にする危険もはらむ。
松尾博文、安部健太郎、大石格、岐部秀光、佐藤賢が担当しました。
:2009:07/15/09:52 ++ 企業年金(きょうのことば)
▽…民間企業が設定している年金制度。日本の年金は制度上、3層構造になっており、国が全国民に提供する国民年金が「1階部分」、報酬に比例して支給される厚生年金保険などが「2階部分」とされ、これら公的年金にさらに上乗せする企業年金は「3階部分」にあたっている。
▽…企業年金は受け取る金額を決めた上で拠出額を設定する「確定給付企業年金」と、掛け金を決め運用実績によって受け取る額が変わる「確定拠出年金(日本版401k)」などに区分される。年金財政の悪化をうけ、企業側の負担が限定的な確定拠出年金に移行する動きがある。
▽…企業年金は受け取る金額を決めた上で拠出額を設定する「確定給付企業年金」と、掛け金を決め運用実績によって受け取る額が変わる「確定拠出年金(日本版401k)」などに区分される。年金財政の悪化をうけ、企業側の負担が限定的な確定拠出年金に移行する動きがある。
:2009:07/15/09:45 ++ 自民、進む「麻生離れ」、古賀選対委員長が辞意、中川秀氏、面前で退陣要求。
自民党では野党が提出した麻生内閣不信任決議案を造反なしで否決したのとは裏腹に、反麻生勢力だけでなく、執行部にも遠心力が働いてきた。党4役の一人である古賀誠選挙対策委員長が突然、辞意を表明。中川秀直元幹事長は首相の面前で退陣を要求した。衆院解散が秒読みに入り「麻生降ろし」は広がりを欠く一方で、「政権との距離の遠さ」をアピールするような動きが相次いだ。(1面参照)
「表紙を変えなければ選挙に勝てない」「最近の地方選惨敗の責任を感じていないのか」。14日の党総務会では、中堅・若手から首相批判が噴出。ベテランの加藤紘一元幹事長も「都議選敗退の責任は誰にあるのか」と執行部を追及した。
これを受け、司会役の笹川尭総務会長は「選挙の責任者は古賀さんだ」と発言。さらに古賀氏が主導した宮崎県の東国原英夫知事の衆院選擁立工作を批判する声があがると、古賀氏は「私は辞任する。あとは党が一致結束してやってくれ」と吐き捨てて退席した。
国政選挙直前に選対トップが辞任すれば極めて異例。古賀氏は「都議選敗退や東国原知事の擁立不調」を理由に挙げた。だが福田内閣時に自らの希望で選対委員長に就き、党4役に格上げして幹事長業務だった選挙統括を担ってきただけに、党内からは「自分の選挙のために首相と距離を置いただけだ」(幹部)との批判も出ている。東国原知事の衆院選出馬も立ち消えになる方向だ。
首相が出席した党代議士会は選挙戦への「結束」の場には程遠かった。首相は「反省しなければならない点もある。批判を謙虚に受け止め総括して対応する」と理解を求めたが、中川氏は「首相が発表した解散のあり方には大いに異論がある。人心一新が必要だ」と改めて退陣を迫った。
造反議員はゼロ
中川、加藤両氏や塩崎恭久元官房長官、川崎二郎元厚生労働相らベテラン・中堅議員8人は14日夜、都内のホテルに集まり、党の両院議員総会の週内開催を求める署名を15日中に集める方針を確認した。地方選連敗の責任を総括するのが開催目的としているが、党執行部は「反麻生陣営が総裁選前倒しを求める動議を出すなど、不測の事態もあり得る」と警戒する。
ただ反麻生勢力の首相批判は威勢がよい半面、本気で倒閣や離党まで突き進むつもりなのかいぶかる声もある。内閣不信任案の採決でも反麻生勢力で賛成票を投じたり欠席したりする議員はいなかった。中川氏らが両院議員総会の開催請求に必要な党所属国会議員の3分の1(128人)以上の署名を短期間で集められるかは不透明だ。
「みんな麻生批判で世論のポイントを稼ぐのに必死になっている。情けない限りだわね」。青木幹雄前参院議員会長は側近にこうつぶやいた。
「表紙を変えなければ選挙に勝てない」「最近の地方選惨敗の責任を感じていないのか」。14日の党総務会では、中堅・若手から首相批判が噴出。ベテランの加藤紘一元幹事長も「都議選敗退の責任は誰にあるのか」と執行部を追及した。
これを受け、司会役の笹川尭総務会長は「選挙の責任者は古賀さんだ」と発言。さらに古賀氏が主導した宮崎県の東国原英夫知事の衆院選擁立工作を批判する声があがると、古賀氏は「私は辞任する。あとは党が一致結束してやってくれ」と吐き捨てて退席した。
国政選挙直前に選対トップが辞任すれば極めて異例。古賀氏は「都議選敗退や東国原知事の擁立不調」を理由に挙げた。だが福田内閣時に自らの希望で選対委員長に就き、党4役に格上げして幹事長業務だった選挙統括を担ってきただけに、党内からは「自分の選挙のために首相と距離を置いただけだ」(幹部)との批判も出ている。東国原知事の衆院選出馬も立ち消えになる方向だ。
首相が出席した党代議士会は選挙戦への「結束」の場には程遠かった。首相は「反省しなければならない点もある。批判を謙虚に受け止め総括して対応する」と理解を求めたが、中川氏は「首相が発表した解散のあり方には大いに異論がある。人心一新が必要だ」と改めて退陣を迫った。
造反議員はゼロ
中川、加藤両氏や塩崎恭久元官房長官、川崎二郎元厚生労働相らベテラン・中堅議員8人は14日夜、都内のホテルに集まり、党の両院議員総会の週内開催を求める署名を15日中に集める方針を確認した。地方選連敗の責任を総括するのが開催目的としているが、党執行部は「反麻生陣営が総裁選前倒しを求める動議を出すなど、不測の事態もあり得る」と警戒する。
ただ反麻生勢力の首相批判は威勢がよい半面、本気で倒閣や離党まで突き進むつもりなのかいぶかる声もある。内閣不信任案の採決でも反麻生勢力で賛成票を投じたり欠席したりする議員はいなかった。中川氏らが両院議員総会の開催請求に必要な党所属国会議員の3分の1(128人)以上の署名を短期間で集められるかは不透明だ。
「みんな麻生批判で世論のポイントを稼ぐのに必死になっている。情けない限りだわね」。青木幹雄前参院議員会長は側近にこうつぶやいた。
:2009:07/15/09:41 ++ 中小「景気悪化」41%、「改善」を上回る、大手より回復遅れ、本社調査。
日本経済新聞社が14日まとめた「中小企業経営者調査」によると、国内景気が半年前に比べ「悪化」または「悪化の兆しがある」と答えた企業が計41%に達し、「改善」(26%)を上回った。大手企業が改善傾向にあるのに比べ、中小は依然厳しい状況が続いている。一方、2009年度の研究開発費は31%が「増やす」と回答。逆風下でも将来の成長に向け環境分野などで技術開発に取り組む姿勢を強めている。(関連記事11面に)
5回目となる調査は全国500社の中小企業の経営者を対象に実施。6月30日に調査票を送付し、7月10日までに263人から回答を得た。
今回初めて半年前の国内景気との比較を聞いたところ、34%が「悪くなった」と回答。「悪化の兆しが見える」(7%)を合わせ41%になった。「良くなった」は1社(0・4%)で「改善の兆しが見える」も26%にとどまった。
本社が大手企業を対象に6月末にまとめた「社長100人アンケート」では「改善」(49%)が「悪化」(33%)を上回っており、減産緩和などに動き出した大手に比べ中小の景況感は上向いていない。
中小企業調査では、09年度の設備投資について56%が「減らすか投資しない」とした。一方、31%が研究開発費を前年度より「増やす」と回答。中長期の競争力強化につながる新技術開発に経営資源を集中する動きが広がっている。
5回目となる調査は全国500社の中小企業の経営者を対象に実施。6月30日に調査票を送付し、7月10日までに263人から回答を得た。
今回初めて半年前の国内景気との比較を聞いたところ、34%が「悪くなった」と回答。「悪化の兆しが見える」(7%)を合わせ41%になった。「良くなった」は1社(0・4%)で「改善の兆しが見える」も26%にとどまった。
本社が大手企業を対象に6月末にまとめた「社長100人アンケート」では「改善」(49%)が「悪化」(33%)を上回っており、減産緩和などに動き出した大手に比べ中小の景況感は上向いていない。
中小企業調査では、09年度の設備投資について56%が「減らすか投資しない」とした。一方、31%が研究開発費を前年度より「増やす」と回答。中長期の競争力強化につながる新技術開発に経営資源を集中する動きが広がっている。
:2009:07/14/10:58 ++ 次期「オフィス」無料提供へ MS、オンラインで
ソフトウエア最大手、米マイクロソフト(MS)は13日、表計算などを組み込んだ統合ソフト「オフィス」の全面改良版について、オンラインで利用できる無料版の提供を始めると発表した。米インターネット検索大手、グーグルがネット上で表計算ソフトなどを無料で提供しているのに対抗する。
全面改良版は「オフィス2010」で、来年前半から提供する。無料版は主に個人向けで、世界で4億人に達するMSのオンラインサービス登録者が対象。オフィスは表計算やワープロ機能などを備える人気ソフトで、MSは無料提供で利用者を引き付け、広告収入を柱とするオンライン事業の拡大を狙うとみられる。
より機能を充実させたオンライン版や従来のオフィスと同様のパッケージ版も、主に企業向けに有料提供する。
:2009:07/14/10:34 ++ イラン混乱の余波(上)深まる不信体制に亀裂―政権、防衛隊頼み強く。
革命後最大級の混乱に発展したイラン大統領選挙から12日で1カ月。改革派の抗議行動は力でほぼ抑え込まれた。しかし保守強硬派のアハマディネジャド大統領再選は政府への根深い不信を残し、革命体制中枢の対立を露呈した。イランを取り巻く国際環境も一段と厳しさを増した。イランの危機は街頭での騒乱から、目に見えぬ亀裂がイスラム革命体制の土台を脅かす段階に移行しつつある。
市民に無力感
「二度と選挙には行かない」。首都テヘラン在住のある中高年女性は無力感にさいなまれている。これまで大統領選には行ったことがない彼女が6月の選挙で改革派のムサビ元首相に1票を投じたのは「大統領が代わるなら誰でもよかった」からだ。大統領の強硬姿勢はイランの国際的孤立を深め、地方や貧困層優先のばらまき政策は物価高となって都市住民に跳ね返った。変化を求める都市住民や若年層らの前に登場したのが、対外融和を掲げるムサビ氏だった。
しかし1979年の革命後最大級の盛り上がりを見せた抗議行動は政府の圧倒的な警察力の前に一体感を失いつつある。治安当局は抗議参加者ら1000人以上を拘束。3分の2を釈放したとしているが、アブタヒ元副大統領ら要人らは訴追の対象になっている。
ムサビ氏は政党活動への転換で運動の持続を模索する一方で、ネット上には同氏の意向とは離れたデモや集会の呼びかけが載る。人々の不満は行き場を失い、連帯を確認する「神は偉大なり」という叫びだけが今も夜のテヘランに響く。
今回の選挙は保守派対改革派という構図とは別の対立軸が混乱を複雑にした。イスラム聖職者を中心とする革命の第1世代と、革命直後の混乱期に戦争の前線に立った大統領ら革命第2世代による保守派内部の世代間闘争が加わった。
第1世代の象徴的な存在がラフサンジャニ元大統領だ。革命の功労者である元大統領は選挙戦でムサビ氏を支援したとされる。これに対し、最高指導者ハメネイ師が大統領支持を明確にしたことで革命体制の深奥部での対立も表面化した。
ハメネイ師は革命の指導者故ホメイニ師に比べてカリスマ性に欠けるとされてきた。権力基盤の安定に大統領と革命防衛隊を頼りにした結果、公正な調停者であるはずの最高指導者の威信に自ら傷をつけた。
国会運営が難航
代償は小さくない。混乱の収拾を通じ存在感を増した革命防衛隊や民兵組織バシジ(人民動員軍)などの勢力が政治の表舞台に出てくる可能性がある。現実的とされるラフサンジャニ元大統領は最後の瞬間でハメネイ師との決定的な決裂を避け、影響力を残した。大統領や革命防衛隊が今後も第1世代の追い落としに動けば権力闘争が激化する可能性がある。
攻防は既に始まっている。「ばらまき予算の温存は認めない」。国会は6月下旬、経済改革に必要な財源を、国会や政府組織の予算削減で確保する政府案を否決した。アハマディネジャド大統領にとって経済改善は国民の信用を取り戻す緊急課題。一方で、地方のインフラ整備など大統領を支えてきた大衆迎合的な開発政策をやめるわけにはいかない。国会を舞台に保守派内部の対立が強まり、8月中旬までに提出する新内閣の承認も難航必至だ。
「若者の感情を尊重することは大切だ」。大統領は7日の演説で再選の正統性を強調する一方、批判の存在に言及して次期政権での改革を約束した。不満のエネルギーが社会全体に充満する中で力頼みの政権2期目の前途は安泰ではない。
市民に無力感
「二度と選挙には行かない」。首都テヘラン在住のある中高年女性は無力感にさいなまれている。これまで大統領選には行ったことがない彼女が6月の選挙で改革派のムサビ元首相に1票を投じたのは「大統領が代わるなら誰でもよかった」からだ。大統領の強硬姿勢はイランの国際的孤立を深め、地方や貧困層優先のばらまき政策は物価高となって都市住民に跳ね返った。変化を求める都市住民や若年層らの前に登場したのが、対外融和を掲げるムサビ氏だった。
しかし1979年の革命後最大級の盛り上がりを見せた抗議行動は政府の圧倒的な警察力の前に一体感を失いつつある。治安当局は抗議参加者ら1000人以上を拘束。3分の2を釈放したとしているが、アブタヒ元副大統領ら要人らは訴追の対象になっている。
ムサビ氏は政党活動への転換で運動の持続を模索する一方で、ネット上には同氏の意向とは離れたデモや集会の呼びかけが載る。人々の不満は行き場を失い、連帯を確認する「神は偉大なり」という叫びだけが今も夜のテヘランに響く。
今回の選挙は保守派対改革派という構図とは別の対立軸が混乱を複雑にした。イスラム聖職者を中心とする革命の第1世代と、革命直後の混乱期に戦争の前線に立った大統領ら革命第2世代による保守派内部の世代間闘争が加わった。
第1世代の象徴的な存在がラフサンジャニ元大統領だ。革命の功労者である元大統領は選挙戦でムサビ氏を支援したとされる。これに対し、最高指導者ハメネイ師が大統領支持を明確にしたことで革命体制の深奥部での対立も表面化した。
ハメネイ師は革命の指導者故ホメイニ師に比べてカリスマ性に欠けるとされてきた。権力基盤の安定に大統領と革命防衛隊を頼りにした結果、公正な調停者であるはずの最高指導者の威信に自ら傷をつけた。
国会運営が難航
代償は小さくない。混乱の収拾を通じ存在感を増した革命防衛隊や民兵組織バシジ(人民動員軍)などの勢力が政治の表舞台に出てくる可能性がある。現実的とされるラフサンジャニ元大統領は最後の瞬間でハメネイ師との決定的な決裂を避け、影響力を残した。大統領や革命防衛隊が今後も第1世代の追い落としに動けば権力闘争が激化する可能性がある。
攻防は既に始まっている。「ばらまき予算の温存は認めない」。国会は6月下旬、経済改革に必要な財源を、国会や政府組織の予算削減で確保する政府案を否決した。アハマディネジャド大統領にとって経済改善は国民の信用を取り戻す緊急課題。一方で、地方のインフラ整備など大統領を支えてきた大衆迎合的な開発政策をやめるわけにはいかない。国会を舞台に保守派内部の対立が強まり、8月中旬までに提出する新内閣の承認も難航必至だ。
「若者の感情を尊重することは大切だ」。大統領は7日の演説で再選の正統性を強調する一方、批判の存在に言及して次期政権での改革を約束した。不満のエネルギーが社会全体に充満する中で力頼みの政権2期目の前途は安泰ではない。
:2009:07/14/10:27 ++ 選択09衆院選都議選ショック(上)「勝てる解散」好機来ず、首相、追い込まれ決断。
麻生太郎首相にとっては就任以来、衆院選の好機を探り続けた10カ月だった。決断を先延ばしした末にたどり着いた「8月30日投開票」は、9月10日の衆院議員任期満了に近い事実上の追い込まれ解散だ。高揚感はなく、与党内には沈痛な空気すら漂っている。
「4年の任期も余すところ60日だ。21日に始まる週に信を問いたい」。首相は13日昼の政府・与党連絡会議の席上、淡々と解散日程に触れた。入念な根回しが功を奏してか、居並ぶ党幹部や閣僚から異論は出なかった。
色あせる「宝刀」
「伝家の宝刀」と呼ばれる首相の解散権も、内閣支持率の低迷や近づく任期満了ですっかり色あせている。本来なら一番の見せ場となるはずの衆院選日程の決定さえ、首相は妥協を余儀なくされた。
首相の頭にあったのは「13日の週に衆院解散、8月8日か9日に投開票」というシナリオだった。しかし7月5日の静岡県知事選の敗北に加え、12日の東京都議選での予想以上の大敗ぶりが選択肢をさらに狭めた。
「自らの手で何としても解散」と意気込む首相を、多くの自民党幹部が「何のために選挙を急ぐのか。党分裂を誘発しかねない」といさめた。
与党内に充満する厭戦(えんせん)気分、「麻生降ろし」のうごめき、野党が突きつけた内閣不信任案――。変数を考え抜いて出した答えが、解散から公示日まで1カ月近く離すという異例の選挙日程だった。
憲法は解散から投票日までを「40日以内」と規定している。しかし政治空白を避けるため通常は1カ月程度に収めるケースが多い。与党と合意した「21日にも解散、8月18日公示―同30日投開票」という日程は、その通りなら現行憲法下では最長となる。
閣僚の一人は、首相が自らの手による解散にこだわる理由について「世界的な経済危機に自分なりに全力を尽くしてきたとの自負がある」と解説する。
一度は決断した昨年中の解散を首相が先送りしたことには、今も批判がくすぶっている。だが結果的に衆院の3分の2の勢力を温存したからこそ、事業費で130兆円を超える緊急対策を実行できたという側面があるのは事実だろう。
党内抗争の色彩
むしろ首相がここまで追い込まれた最大の原因は、当面の危機対応以外にリーダーシップがほとんど見えず、政権運営の混乱ぶりばかりに焦点が当たったという現実がある。
首相は選挙情勢を横にらみしながら「勝てる時期」をひたすら探ってきた。一方、自民党内では支持率が低迷すると手のひらを返すように退陣を求める動きが表面化した。内向きの党内抗争の色彩を帯びるにつれて、麻生政権は袋小路に入り込んでしまった。
「数々の地方選の結果を踏まえてどこを猛省し、訂正し、立て直していくかは最も大事な点だ」。首相は13日夜、苦戦が予想される衆院選への取り組みを聞かれて記者団に強調した。
しかし大詰めとなった衆院選のマニフェスト(政権公約)づくりで、首相が発した明確なメッセージは「冊子の表紙から自分の顔写真を外せ」という指示ぐらいというのでは、迫力不足の感は否めない。
8月末まで期せずして先送りされた衆院選。残された時間をどう使うかは、麻生政権だけでなく自民党の命運も握っている。
「4年の任期も余すところ60日だ。21日に始まる週に信を問いたい」。首相は13日昼の政府・与党連絡会議の席上、淡々と解散日程に触れた。入念な根回しが功を奏してか、居並ぶ党幹部や閣僚から異論は出なかった。
色あせる「宝刀」
「伝家の宝刀」と呼ばれる首相の解散権も、内閣支持率の低迷や近づく任期満了ですっかり色あせている。本来なら一番の見せ場となるはずの衆院選日程の決定さえ、首相は妥協を余儀なくされた。
首相の頭にあったのは「13日の週に衆院解散、8月8日か9日に投開票」というシナリオだった。しかし7月5日の静岡県知事選の敗北に加え、12日の東京都議選での予想以上の大敗ぶりが選択肢をさらに狭めた。
「自らの手で何としても解散」と意気込む首相を、多くの自民党幹部が「何のために選挙を急ぐのか。党分裂を誘発しかねない」といさめた。
与党内に充満する厭戦(えんせん)気分、「麻生降ろし」のうごめき、野党が突きつけた内閣不信任案――。変数を考え抜いて出した答えが、解散から公示日まで1カ月近く離すという異例の選挙日程だった。
憲法は解散から投票日までを「40日以内」と規定している。しかし政治空白を避けるため通常は1カ月程度に収めるケースが多い。与党と合意した「21日にも解散、8月18日公示―同30日投開票」という日程は、その通りなら現行憲法下では最長となる。
閣僚の一人は、首相が自らの手による解散にこだわる理由について「世界的な経済危機に自分なりに全力を尽くしてきたとの自負がある」と解説する。
一度は決断した昨年中の解散を首相が先送りしたことには、今も批判がくすぶっている。だが結果的に衆院の3分の2の勢力を温存したからこそ、事業費で130兆円を超える緊急対策を実行できたという側面があるのは事実だろう。
党内抗争の色彩
むしろ首相がここまで追い込まれた最大の原因は、当面の危機対応以外にリーダーシップがほとんど見えず、政権運営の混乱ぶりばかりに焦点が当たったという現実がある。
首相は選挙情勢を横にらみしながら「勝てる時期」をひたすら探ってきた。一方、自民党内では支持率が低迷すると手のひらを返すように退陣を求める動きが表面化した。内向きの党内抗争の色彩を帯びるにつれて、麻生政権は袋小路に入り込んでしまった。
「数々の地方選の結果を踏まえてどこを猛省し、訂正し、立て直していくかは最も大事な点だ」。首相は13日夜、苦戦が予想される衆院選への取り組みを聞かれて記者団に強調した。
しかし大詰めとなった衆院選のマニフェスト(政権公約)づくりで、首相が発した明確なメッセージは「冊子の表紙から自分の顔写真を外せ」という指示ぐらいというのでは、迫力不足の感は否めない。
8月末まで期せずして先送りされた衆院選。残された時間をどう使うかは、麻生政権だけでなく自民党の命運も握っている。
:2009:07/13/12:14 ++ 鴻毛のごとく軽い総理の座―支えるシステムが必要(核心)
テレビのニュースが首相と首相番記者のやりとりを伝えていた。
記者「自民党に麻生降ろしの動きが広がっているようですね」
首相「知っています」
国家運営の最高責任者と記者たちの間で、このような会話が日常的に交わされている国は日本以外にはない。
まるで庭掃除をしている隣のおじさんに話しかけるようにして、気軽に首相退陣を話題にする。当然の義務であるかのごとくそれに答える首相。これは遠慮なく権力者に斬(き)り込んでゆくわが国のメディアの水準の高さなどという話では決してない。一国の首相を侮辱するような質問をすることがジャーナリズムだと錯覚しているだけのことだ。何の緊張感もなくこのような質問が発せられ、ゆがんだ表情で答える一国の政治指導者の姿が、映像で世界に発信される。
内閣総理大臣の座が、鴻(こう)毛のごとく軽くなっていることだけは間違いない。「総理の座」を軽くしてしまったのは、マスメディアばかりではもちろんない。毎年交代する首相自身と、その人物をリーダーに選んだ政党の責任も大きい。昨年9月の総裁選で自民党の衆参国会議員386人のうち56%の217人が「麻生太郎」に投票している。もし麻生首相で総選挙が戦えないといまになっていうのなら、指導力の欠如を見抜けなかった組織としての不明を恥じるべきである。
テレビが政治に影響を与える「テレポリティクスの時代」にわが国も突入したといわれて久しいが、ここにきて衆愚政治極まれりの感がある。政党はどうすれば選挙に勝てるかだけを基準にすべてを考える。だれならば人気を呼びそうか、票を獲得できそうか、だけの単純な価値観で動いている。「政権交代」を唯一最大の目標に掲げる民主党に対抗するため、自民党はいかにすれば政権を失わずに済むかだけで右往左往する。
民主主義の時代なのだから、だれが首相をめざそうと勝手だ。しかしながら、総理大臣をめざしていい人と、めざすべきではない人がおのずといるはずである。わらをもつかむ思いで出馬要請をしたのだろうが、それを逆手にとられ、総裁候補うんぬんという話をされてしまう。まだ国会議員でも自民党員でもない人物に「私を総裁候補にする覚悟があるか」などと居直られるのは、明らかに足元を見られたためだ。
いかなる職業やポストにも積み重ねた経験や見識が必要だ。知事を1年半つとめたばかりの人に国政転出を政党が勧めるのはどういう了見か。麻生首相では衆院総選挙は戦えない、という声は一段と強まるだろう。ならば、だれならば戦えるのか。顔を変えれば、まだ多くの人々が自民党を支持してくれるとでも考えているのだろうか。多くの国民は、“4番打者”ばかり並べて負け込んだ一時の巨人軍のような自民党の体質そのものに抵抗を感じているのである。
国民の政治を見る目は、それほど複雑ではない。ただ一点、政党や政治家の言動がうそ臭いかどうかを見つめているのである。顔の売れている人物を党の顔にする。これほどうそ臭いものはない。どの政党が政権の座に就くか、というのは政治家が考えるほど国民は意識していない。ほんとうの政治、国民のためになりそうな政治をするかどうかを見ているのである。
政治指導者の資質や、メディアとの関係、あるいは国民との距離などという問題は、先進諸国に共通したもののようである。国内政治が国内にとどまらず、限りなくグローバル化する中での民主主義の限界、政治情報が公開される度合いが強ければ強いほど、政治への不信感が拡大するという傾向。そうしたなかでいま必要なのは、国家運営の最高責任者を支えるしっかりとしたシステムをつくることだ。いかに優れた人物でも、裸同然でメディアの監視にさらされたら、ひとたまりもない。
政治指導者が決断をためらったり、右往左往している姿が外から見えてしまうのがわが国の現状である。まわりが支える態勢になっていればまだしも、足の引っ張り合いでは国家の運営などおぼつかない。指導者にもっとも必要なのは、自分よりもすぐれた人材をまわりに配する事だといわれる。大事なことは指導者個人だけではなく、そのシステムそのものなのである。
そこを考えないと、民主党政権ができてもまたぞろ1年ごとに首相が変わるということの繰り返しになる。立派な政治家はなぜ出てこないのか、などとないものねだりをするよりも、凡庸な人物でもつとまるような国家運営のシステムをつくるべきである。「裸の王様」の政治指導者に衣服を着せなければならない。
記者「自民党に麻生降ろしの動きが広がっているようですね」
首相「知っています」
国家運営の最高責任者と記者たちの間で、このような会話が日常的に交わされている国は日本以外にはない。
まるで庭掃除をしている隣のおじさんに話しかけるようにして、気軽に首相退陣を話題にする。当然の義務であるかのごとくそれに答える首相。これは遠慮なく権力者に斬(き)り込んでゆくわが国のメディアの水準の高さなどという話では決してない。一国の首相を侮辱するような質問をすることがジャーナリズムだと錯覚しているだけのことだ。何の緊張感もなくこのような質問が発せられ、ゆがんだ表情で答える一国の政治指導者の姿が、映像で世界に発信される。
内閣総理大臣の座が、鴻(こう)毛のごとく軽くなっていることだけは間違いない。「総理の座」を軽くしてしまったのは、マスメディアばかりではもちろんない。毎年交代する首相自身と、その人物をリーダーに選んだ政党の責任も大きい。昨年9月の総裁選で自民党の衆参国会議員386人のうち56%の217人が「麻生太郎」に投票している。もし麻生首相で総選挙が戦えないといまになっていうのなら、指導力の欠如を見抜けなかった組織としての不明を恥じるべきである。
テレビが政治に影響を与える「テレポリティクスの時代」にわが国も突入したといわれて久しいが、ここにきて衆愚政治極まれりの感がある。政党はどうすれば選挙に勝てるかだけを基準にすべてを考える。だれならば人気を呼びそうか、票を獲得できそうか、だけの単純な価値観で動いている。「政権交代」を唯一最大の目標に掲げる民主党に対抗するため、自民党はいかにすれば政権を失わずに済むかだけで右往左往する。
民主主義の時代なのだから、だれが首相をめざそうと勝手だ。しかしながら、総理大臣をめざしていい人と、めざすべきではない人がおのずといるはずである。わらをもつかむ思いで出馬要請をしたのだろうが、それを逆手にとられ、総裁候補うんぬんという話をされてしまう。まだ国会議員でも自民党員でもない人物に「私を総裁候補にする覚悟があるか」などと居直られるのは、明らかに足元を見られたためだ。
いかなる職業やポストにも積み重ねた経験や見識が必要だ。知事を1年半つとめたばかりの人に国政転出を政党が勧めるのはどういう了見か。麻生首相では衆院総選挙は戦えない、という声は一段と強まるだろう。ならば、だれならば戦えるのか。顔を変えれば、まだ多くの人々が自民党を支持してくれるとでも考えているのだろうか。多くの国民は、“4番打者”ばかり並べて負け込んだ一時の巨人軍のような自民党の体質そのものに抵抗を感じているのである。
国民の政治を見る目は、それほど複雑ではない。ただ一点、政党や政治家の言動がうそ臭いかどうかを見つめているのである。顔の売れている人物を党の顔にする。これほどうそ臭いものはない。どの政党が政権の座に就くか、というのは政治家が考えるほど国民は意識していない。ほんとうの政治、国民のためになりそうな政治をするかどうかを見ているのである。
政治指導者の資質や、メディアとの関係、あるいは国民との距離などという問題は、先進諸国に共通したもののようである。国内政治が国内にとどまらず、限りなくグローバル化する中での民主主義の限界、政治情報が公開される度合いが強ければ強いほど、政治への不信感が拡大するという傾向。そうしたなかでいま必要なのは、国家運営の最高責任者を支えるしっかりとしたシステムをつくることだ。いかに優れた人物でも、裸同然でメディアの監視にさらされたら、ひとたまりもない。
政治指導者が決断をためらったり、右往左往している姿が外から見えてしまうのがわが国の現状である。まわりが支える態勢になっていればまだしも、足の引っ張り合いでは国家の運営などおぼつかない。指導者にもっとも必要なのは、自分よりもすぐれた人材をまわりに配する事だといわれる。大事なことは指導者個人だけではなく、そのシステムそのものなのである。
そこを考えないと、民主党政権ができてもまたぞろ1年ごとに首相が変わるということの繰り返しになる。立派な政治家はなぜ出てこないのか、などとないものねだりをするよりも、凡庸な人物でもつとまるような国家運営のシステムをつくるべきである。「裸の王様」の政治指導者に衣服を着せなければならない。
:2009:07/13/12:03 ++ キリン、サントリー経営統合へ、持ち株会社統合で交渉、売上高3.8兆円に。
酒類・飲料で世界最大級
食品最大手のキリンホールディングスと2位のサントリーホールディングスが経営統合の交渉を進めていることが明らかになった。両社持ち株会社の統合案を軸に最終調整、年内の合意を目指す。実現すればビールと清涼飲料で国内首位に浮上。世界でも最大級の酒類・飲料メーカーとなる。統合で国内市場の収益基盤を強化、成長が見込まれる海外市場を共同開拓し、世界的な勝ち残りを目指す。(関連記事3面に)
内需の有力企業同士が手を組み、グローバルでの成長を追う形での再編が今後、加速しそうだ。
昨年末にキリンの加藤壹康社長とサントリーの佐治信忠社長が会談し、水面下で統合交渉を進めてきた。サントリーは少人数からなる専門チームを設け、キリンもM&Aを専門に手掛ける部署を中心に両社で調整を進めている。7月上旬までに統合交渉に入ったことを両社長から関係役員にも伝えた。
複数の関係者によると、両社の持ち株会社を統合し、傘下にキリンとサントリーの各事業を置く案が有力。その後、段階的に酒類や清涼飲料など各事業を一本化する案が浮上している。
両社の2008年12月期の連結売上高の合計は約3兆8200億円。酒類・飲料メーカーではビール世界首位のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)や米コカ・コーラを上回り、飲料事業最大手の米ペプシコや総合食品大手の米クラフト・フーズに肩を並べる規模になる。
両社はともに08年12月期決算で最高益となったが、景気悪化による急激な消費の冷え込みに危機感を強めていた。国内では少子高齢化が進み、今後も売り上げの大幅な伸びは見込みにくい。両社は豪州地域の飲料事業などを相次ぎ買収するなど成長戦略の軸足を海外にシフトしつつある。世界的な総合食品メーカーに脱皮するためにも、経営統合で国内の収益基盤を強化する必要があると判断した。
国内では食品3位のアサヒビールの売上高の2・6倍となり、ライバルを大きく突き放す。キリンとサントリーのビール系飲料シェア(08年通年)はそれぞれ2位と3位で、統合後は49・6%と首位のアサヒ(37・8%)を上回る。清涼飲料でも3位と2位で合計は31・4%と首位のコカ・コーラグループ(29・4%、日経推定)を抜く。戦後長く続いたキリン、アサヒ、サントリー、サッポロビールの大手4社体制が崩れ、アサヒとサッポロの動向が次の再編の焦点になりそうだ。
キリンホールディングス 国内食品最大手、東証1部上場。本社は東京・中央区。1907年の創業。傘下に国内でビール系飲料2位のキリンビール、清涼飲料3位のキリンビバレッジやワイン最大手のメルシャン、医薬品の協和発酵キリンを抱える。代表商品は「ラガー」「一番搾り」「午後の紅茶」など。08年12月期連結の売上高は2兆3035億円、経常利益は1030億円。連結従業員は約3万6500人(08年末)
サントリーホールディングス 国内食品2位、非上場。本社は大阪市。1899年の創業。創業家の資産管理会社、寿不動産(大阪市)が89・3%の株式を持つ。国内でシェア2位の清涼飲料が最大の事業。酒類はビール系飲料3位、ウイスキーが首位。「ザ・プレミアム・モルツ」「山崎」「ボス」などが代表商品。08年12月期連結の売上高は1兆5129億円、経常利益は792億円。連結従業員数は約2万1000人(08年末)
食品最大手のキリンホールディングスと2位のサントリーホールディングスが経営統合の交渉を進めていることが明らかになった。両社持ち株会社の統合案を軸に最終調整、年内の合意を目指す。実現すればビールと清涼飲料で国内首位に浮上。世界でも最大級の酒類・飲料メーカーとなる。統合で国内市場の収益基盤を強化、成長が見込まれる海外市場を共同開拓し、世界的な勝ち残りを目指す。(関連記事3面に)
内需の有力企業同士が手を組み、グローバルでの成長を追う形での再編が今後、加速しそうだ。
昨年末にキリンの加藤壹康社長とサントリーの佐治信忠社長が会談し、水面下で統合交渉を進めてきた。サントリーは少人数からなる専門チームを設け、キリンもM&Aを専門に手掛ける部署を中心に両社で調整を進めている。7月上旬までに統合交渉に入ったことを両社長から関係役員にも伝えた。
複数の関係者によると、両社の持ち株会社を統合し、傘下にキリンとサントリーの各事業を置く案が有力。その後、段階的に酒類や清涼飲料など各事業を一本化する案が浮上している。
両社の2008年12月期の連結売上高の合計は約3兆8200億円。酒類・飲料メーカーではビール世界首位のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)や米コカ・コーラを上回り、飲料事業最大手の米ペプシコや総合食品大手の米クラフト・フーズに肩を並べる規模になる。
両社はともに08年12月期決算で最高益となったが、景気悪化による急激な消費の冷え込みに危機感を強めていた。国内では少子高齢化が進み、今後も売り上げの大幅な伸びは見込みにくい。両社は豪州地域の飲料事業などを相次ぎ買収するなど成長戦略の軸足を海外にシフトしつつある。世界的な総合食品メーカーに脱皮するためにも、経営統合で国内の収益基盤を強化する必要があると判断した。
国内では食品3位のアサヒビールの売上高の2・6倍となり、ライバルを大きく突き放す。キリンとサントリーのビール系飲料シェア(08年通年)はそれぞれ2位と3位で、統合後は49・6%と首位のアサヒ(37・8%)を上回る。清涼飲料でも3位と2位で合計は31・4%と首位のコカ・コーラグループ(29・4%、日経推定)を抜く。戦後長く続いたキリン、アサヒ、サントリー、サッポロビールの大手4社体制が崩れ、アサヒとサッポロの動向が次の再編の焦点になりそうだ。
キリンホールディングス 国内食品最大手、東証1部上場。本社は東京・中央区。1907年の創業。傘下に国内でビール系飲料2位のキリンビール、清涼飲料3位のキリンビバレッジやワイン最大手のメルシャン、医薬品の協和発酵キリンを抱える。代表商品は「ラガー」「一番搾り」「午後の紅茶」など。08年12月期連結の売上高は2兆3035億円、経常利益は1030億円。連結従業員は約3万6500人(08年末)
サントリーホールディングス 国内食品2位、非上場。本社は大阪市。1899年の創業。創業家の資産管理会社、寿不動産(大阪市)が89・3%の株式を持つ。国内でシェア2位の清涼飲料が最大の事業。酒類はビール系飲料3位、ウイスキーが首位。「ザ・プレミアム・モルツ」「山崎」「ボス」などが代表商品。08年12月期連結の売上高は1兆5129億円、経常利益は792億円。連結従業員数は約2万1000人(08年末)