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ひで坊な日々

主に私の仕事と信条に関わるメディアからの備忘録と私の日常生活から少し・・・                             
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:2011:05/25/09:08  ++  福島第1原発、想定できた炉心溶融、東電報告書裏付け、対応の遅れ検証へ。

東京電力福島第1原子力発電所では、1号機だけでなく2、3号機も原発事故で最悪とされる炉心溶融(メルトダウン)が起きていたことが24日、東電が公表した報告書でわかった。地震や津波の影響で電源を失った後は、各号機とも炉心が冷却できなくなって核燃料が溶け落ち、圧力容器を損傷するという、専門家からみると極めて「想定内」の経緯をたどった。
 原子炉内の核燃料は制御棒を入れて核分裂反応を止めても、しばらく大量の水で冷やし続けなければならない。崩壊熱が出続け原子炉内の水が蒸発し過ぎると、燃料を傷める恐れがあるからだ。
 報告書によると、1号機で燃料棒が露出し炉心損傷が始まったのは震災発生から約4時間たった3月11日午後7時ごろ。その約11時間後に炉心溶融、さらに10時間後の12日午後3時36分に水素爆発し、原子炉建屋の一部が吹き飛んだ。
 2号機、3号機はしばらく非常用装置で冷却ができ、炉心損傷の開始時刻は遅れた。炉心溶融、水素爆発までにかかった時間にも多少の違いはあるが、事態が刻々と悪化する経緯は1~3号機で共通していたことがわかった。
 専門家は「電源喪失によって想定されていた事象が、次々とシナリオ通りに起こっていった」とみる。
 1号機で最も早く炉心損傷が始まったのは、震災直後、津波が到達する前に作業員が緊急時の冷却に使う復水器を手動停止したことが一因とみられている。東電は「手引書通りの行動だった」と説明するが、適切な対応だったのかどうか今後の検証対象になりそう。
 東電は震災後しばらく、燃料棒が一時露出し、一部で損傷しているだけと述べるにとどめ、炉心溶融を否定してきた。1号機の炉心溶融を認めたのが今月15日。2、3号機でも炉心溶融が起きていることを公表するまでにさらに9日かかった。
 東電は過去に福島第1原発が電源喪失した場合にどうなるかをシミュレーションしている。また、今月17日に事故収束に向けた改訂版工程表で冷却方法を抜本的に変更した際、安定的に冷温停止させるまでの目標時期は変えなかった。事故当初から炉心溶融を想定していた公算が大きい。情報開示の仕方に改めて批判が出そうだ。
 政府と東電でつくる統合対策室の細野豪志首相補佐官は24日の記者会見で「事故に対する見込みの甘さがあったと反省している」と述べた。
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:2011:05/25/09:01  ++  韓国議員が北方領土訪問、竹島実効支配強化狙い視察。

【ソウル=山口真典】韓国野党民主党の国会議員3人が24日、北方領土の国後島を訪問した。日韓双方が領有権を主張する竹島(韓国名・独島)の実効支配を強化するため、日ロ間の領土問題である北方領土の状況を視察するのが狙いだ。
 松本剛明外相は記者会見で「大変遺憾だ」と表明。武藤正敏駐韓大使がソウルで韓国外交通商省の朴錫煥(パク・ソクファン)第1次官に抗議した。朴次官は「一部野党議員の行動であり、韓国政府とは関係がない」との立場を表明した。
 国後島を訪れたのは国会の独島領土守護対策特別委員会の姜昌一(カン・チャンイル)委員長と同委所属の2議員。韓国国会議員の北方領土訪問は初めてという。3人はロシアの査証を取得しており、訪問はロシアの北方領土管轄権を認めたことを意味する。日本政府が3月末、竹島問題を記述した中学社会科教科書検定結果を発表したときは韓国が強く抗議した。

:2011:05/25/08:54  ++  東北、供給網回復着実に、部品の中小、地域で連帯、福島、風評被害の懸念も。

東日本大震災で寸断されたサプライチェーン(供給網)が急速な勢いで復旧してきた。優れた技術で日本のものづくりを支えてきた東北地方の中小企業も生産態勢を立て直しつつある。原発事故による風評被害など不安を抱えながら、新たな一歩を踏み出している。
ライバルに金型
 津波で人口の5%、約750人が死亡・行方不明となった宮城県山元町。同町では自動車エンジンのアルミニウム部品を手がける岩機ダイカスト工業の本社工場も損傷。生産停止を余儀なくされ、ノウハウの詰まった金型と設計図の一部を、身を切るような思いで関東のライバルメーカーに渡した。
 斎藤吉雄社長は「日本の自動車生産を止めるわけにはいかなかった。部品の供給責任は何より重い」と苦渋の決断を振り返る。工場は4月半ばに操業を再開。現在の稼働率は震災前の5割程度だが、取引先からの信用は守った。生産に余裕がある分、品質の「カイゼン」活動に力を入れ、注文が戻るのを待つ。
 自動車や電機産業は完成品メーカーを頂点に1次、2次、3次と続く下請け企業群が生産を支える。東北は電子部品の集積度が高く、震災の被害が大きい岩手、宮城、福島、茨城4県の出荷額合計は全国の約1割を占める。寸断された部品供給の鎖が、予想を上回る速さでつながり始めた背景には地域の連帯がある。
 録画再生機などの信号読み取り部品で世界シェア30%を持つ堀尾製作所(宮城県石巻市)。震災で1000分の1ミリメートルの精度が必要な金型の設備が一時機能を失った。自らの操業も苦しい中、津波で工場を流された地元の下請け企業、雄勝無線に工場の空きスペースを提供。部品の検査装置を二人三脚でつくり上げた。
 震災後2カ月が過ぎ、雄勝無線は市内で空き工場を見つけ、独り立ちした。検査などに携わる従業員10人余りの解雇は避けられた。
 はからずも大震災が浮き彫りにした東北の底力。経済産業省がかつて表彰した「元気なモノ作り中小企業300社」でも、70社近くが被害の大きかった4県にある。
金融支援が急務
 工場の再稼働にこぎつけても試練は続く。一つは福島第1原発の事故による風評被害だ。
 トヨタ自動車の「プリウス」などハイブリッド車に使われる蓄電池。その検査装置をつくる東洋システムは福島県いわき市の本社工場が、唯一の生産拠点。中国、韓国の顧客からは「フクシマでつくっているのか」との問い合わせが増えてきた。リスク分散と業容拡大を兼ねて相模原市に新工場を確保し、6月に稼働させることを決めた。
 被災企業にとって新たな設備の導入は震災前の借入金と合わせ、二重の債務になるケースも多い。七十七銀行の氏家照彦頭取は「銀行が貸し出しを維持できるよう、国が債権を買い上げる支援が必要」と訴える。
 もう一つの試練はグローバル化の波だ。自動車・電機大手はコストの安い中国などへの生産シフトを進めている。震災を機に部品調達先を海外に変更する可能性もある。
 電子回路をつなぐコネクターを、世界の電機大手に供給するエフビー(岩手県山田町)。6億円を投じて1月に稼働させた金型加工の建屋は、室温も一定に保つクリーンルーム仕様。半導体工場を手本にした厳しい品質管理で不良品を抑える。
 免震工法を施した建屋は震災でもほとんど無傷だった。田鎖巌社長は「価格を含めて中国製品より圧倒的な優位性がなければ、こんなところまで買いに来てくれない」と話す。危機感をバネに懸命の自助努力を続ける企業の復興を、後押しする政策が必要だ。

:2011:05/25/08:49  ++  赤字国債法案高まる緊張、否決なら予算執行に支障、「不信任と同等」。

6月22日の今国会会期末まで1カ月を切り、2011年度予算を執行するために必要な赤字国債発行法案の行方が今後の政策と政局に直結する展開となってきた。自民党や公明党は「歳出の見直しが不十分だ」と反対の構えで、法案が否決されれば菅直人首相への「不信任」だとの受け止めもある。歳入の4割を担保できない異常事態に財政規律も絡み、市場も警戒し始めた。
 23日夜、民主党の玄葉光一郎政調会長は自民党の石破茂政調会長に会い、野党の出方を探った。首相は24日から約1週間、日本を離れる。この間に赤字国債法案のメドをつける狙いだ。
 民主党執行部はマニフェスト(政権公約)の目玉政策である子ども手当を、公明党が主張し、自民党も同調する「児童手当」案を事実上、受け入れて、赤字国債法案で公明党の協力を得る段取りを描く。
 公明党は強硬だ。19日、山口那津男代表らが出席した常任役員会では「菅政権は赤字国債をどうする気なのか」との声があがった。仮に民主党が子ども手当見直しで公明党案を「丸のみ」しても、公明党は他の歳出削減やマニフェスト大転換がなければ、賛成はできないと意思統一している。
 東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所の事故への対応で「菅内閣の不手際が次々に明らかになった」と自公両党は国会最終盤での対決に照準を定める。野党が劣勢の衆院で内閣不信任決議案を可決できる情勢にはない。代わって首相に退陣を迫る方策が、赤字国債法案の取り扱いだ。「内閣総辞職すれば、成立させる」との論法だ。
 財源を手当てできなければ震災の復興策、2次補正予算案から来年度予算の概算要求にまで影響する。財務省は各種の特別会計への一般会計からの繰り入れをできるだけ遅らせ、年間最大で20兆円の別枠がある政府短期証券(FB)を発行し、やりくりする計画を立てている。
 ただFBに年度末まで頼るわけにはいかない。政府・与党は当初、地方自治体へ渡す必要があるおカネのことも考慮すれば「6月には財源が枯渇する」としていたが、予算の執行を遅らせ、10年度と同じペースで使えば「9月、ギリギリで11月初めまではしのげる」との見方を示し始めた。
市場、徐々に警戒
 「6月末が期限」のまま赤字国債法案が成立しないと、政府機関の一時閉鎖(シャットダウン)になりかねない。その場合、政権と野党のどちらに不利に働くかは読み切れない。こうした政治的リスクを避けるのが、中央省庁の思惑でもある。
 秋までFBでつなぐ場合は、異常な財政運営に対する市場の不信が高まるのは避けられない。市場が「国の資金繰りが不安定」とみれば、長期金利の上昇(国債価格の下落)につながる可能性もある。
 政府高官は「赤字国債法案の不成立は、予算の不成立、政権不信任と同義語だ」と語る。これまでも、予算成立と引き換えの首相退陣の例はあった。日本の国家債務は、世界の関心事でもある。市場から政局まで、国会での赤字国債法案の折衝が左右する。(政府短期証券は3面「きょうのことば」参照)
 ▼赤字国債発行法案 国の歳入不足を補う国債は公共事業に使う建設国債が主で、使途を定めない赤字国債は財政法4条の特例となる。このため会計年度ごとに「公債発行の特例に関する法案」と呼ばれる赤字国債発行法案を国会に提出する必要がある。憲法で衆院の優越が認められている予算とは異なり、赤字国債法案は一般法案として成立させなければならない。1999年度当初予算で赤字国債への依存率が2割を超え、2003年度に3割、10年度には4割を超えた。

:2011:05/20/09:28  ++  発送電分離、思惑が先行、値下げ促進か安定供給か、過去は頓挫、利用者不在。

政府・与党内で電力会社の発電部門と送電部門を分ける「発送電分離」論が焦点に急浮上してきた。「競争促進による値下げ効果」との利点の主張と「供給が不安定になる」との反論で長く対立してきた課題だ。今回は原発事故を起こした東京電力の体制を見直すべきだという政治的な思惑が出発点だが、企業や家庭など利用者の視点に立った議論が求められる。
 発送電分離案は菅直人首相が18日の記者会見で「地域独占ではない形の通信事業が生まれている。そういったあり方も含めて議論する段階は来るだろう」と議論を始めると明言した。19日には枝野幸男官房長官が「各国の例を踏まえて議論していく」と踏み込んだ。
 ■伸び悩む新規参入組
 日本の電力事業は地域ごとに独占を許された10社が発電から送電、小売りまで一括で担うのが基本。1990年代に始まった電力自由化で参入した新規事業者も既存電力会社の送電設備を使わざるを得ない。新規参入組が電力会社に払う送配電網の使用料(託送料)は新規組の販売電気料金の2割とされ、割高との見方もある。これがハードルとなり、新規組の販売電力量シェアは3%弱に伸び悩んでいる。
 発送電を分離すると、既存電力会社の送電設備を新規事業者は既存電力会社の発電部門と同条件で使える。競争が促され、国内の電気料金の低下につながると大企業などは期待している。電力コストが低下すれば企業の国際競争力は高まる。
 ■欧米が先行実施
 発送電の分離は欧米で先行している。例えば英国は1990年にサッチャー政権が国営の電力会社を発電3社と送電1社に分割・民営化。分離後5年程度で、電気料金が実質11%程度低下したとの報告もある。
 欧州では発送電分離がドイツやフランスにも拡大した。ただ、両国は分離後も、送電会社が発電会社の系列にとどまっており、完全に切り離されたわけではない。分離のあり方もさまざまだ。米国では一部の州で発送電を分離している。
 分離論に電力会社側は「発電と送電が一体になっているからこそ安定供給ができる」(東電の藤本孝副社長)と抵抗。発送電分離などの電力自由化を進めた米カリフォルニア州で2001年に大規模停電が発生。その後、日本で「分離論」がしぼんだ経緯がある。
 電力会社は価格競争を避けたい事情もある。「国策民営」でリスクが高い原子力発電事業を抱えながら送電事業が分離されれば、「新規参入者にコスト面では勝てない」(電力大手幹部)という本音もちらつく。
 日本でこれまでに発送電分離論議が盛り上がったのは00年代前半。当時の村田成二経済産業省事務次官が主導したが、電力会社の巻き返しにあい、頓挫した。
 今回は業界トップの東電が政府の管理下に置かれた状態で、発送電分離論が盛り上がった。東電の弱体化で、政府と電力業界の力関係に変化が起きれば、風穴が開く可能性もある。

:2011:05/20/09:18  ++  首相、サミット前退陣を、西岡参院議長、会見で。

西岡武夫参院議長は19日の記者会見で「きちんと日本の状況とこれからの方針を語れる首相にサミットに行ってもらいたい」と述べ、26日から仏ドービルで開く主要国首脳会議(サミット)の前に菅直人首相は退陣すべきだとの認識を示した。
 西岡議長はこれまでの会見でも繰り返し退陣論に言及している。衛藤征士郎衆院副議長は19日、記者団に「首相か西岡議長のどちらかが辞めるしかない。私は西岡議長と行動を共にする」と述べた。

:2011:05/20/09:12  ++  東電、最終赤字1兆円、前期、事業会社で最大、資産売却6000億円に。

東京電力が2011年3月期連結決算で約1兆円の最終赤字を計上する見通しになった。福島第1原子力発電所の事故に伴う特別損失が膨らみ、繰り延べ税金資産の取り崩しも赤字要因になる。損害賠償(補償)の支払いを円滑に進めるため、資産売却を6000億円規模に積み増すなどの追加リストラを検討する。
 20日に前期決算とリストラ計画を発表する。最終赤字は09年3月期以来。赤字幅は1兆数百億円程度で最終的な集計を進めている。金融機関を除く日本企業の最終赤字額としては、NTTが02年3月期に計上した8346億円を上回り、過去最大となる。
 東電は福島第1原発の1~4号機について廃炉費用を特別損失に計上。使用できなくなった燃料棒の処理や、火力発電所の復旧費用もかさむ。事故対応などの特損は8000億円規模となる見込みだ。将来、安定して利益を出せるという前提で積んでいた繰り延べ税金資産(約4800億円)も取り崩す。10年4~12月期に2786億円の経常利益を確保しているが、損失を補えない。
 赤字決算に伴い、自己資本は10年12月末時点の2兆9377億円から大きく目減りする。前期末の普通株配当を見送り、12年3月期以降も中・長期的に配当を停止する。
 12年3月期は燃料費の増加が避けられない。補償金の支払いも業績を大きく圧迫する。
 東電は社員の年収2割カットや代表取締役の報酬返上などを決めている。ただ政府内からは不十分との批判が強く、追加リストラ策としてグループ会社を含めた人員削減を検討。福利厚生も見直し、約30カ所の社員向け厚生施設を全廃する。
 資産売却は当初の2000億円規模から6000億円程度に増やす見通し。KDDIなど保有株式や不動産の売却、電力供給に関わらない事業の整理で資金を捻出する。

:2011:05/20/09:07  ++  第2部企業再興難局バネに(4)競争が磨く「公益」(新しい日本へ)

東日本大震災発生1カ月前の2月上旬。東京電力とソニーの間で進んでいた構想が頓挫した。
幻の「第2東電」
 共同出資の新会社を設立し、バイオマス発電による二酸化炭素(CO2)ゼロのグリーン電力をソニー本社に送る――。狙ったのは特定顧客のために電力を販売する「第2東電」の創設だった。
 構想浮上は2009年秋。内向きの企業体質改善を狙ったつもりが「東電社内の調整は難航を極めた」と関係者は証言する。子会社がつくる電力とはいえ、大口顧客による東電本体との契約解除は認められないなどと一部の部署が反発。時間の空費で福島県のバイオマス発電所を取得する計画自体が立ち消えになり、構想は幻に。ソニーは環境重視の姿勢を世界に訴える機会を逃した。
 発電所の出力は1万1500キロワット。仮に実現していても電力不足解消への寄与は限られた。大きいのは、せっかく生まれた顧客志向の芽を自ら摘んでしまったことだ。
 公益企業の東電。公益とは「国家または社会公共の利益。広く世人を益すること」(広辞苑)。本来は顧客の利益と相反しないはずだ。
 ただ東電は通信、鉄道など他の公益企業に比べて独占の度合いが強い。「競争相手の不在で、経営判断の遅れに対する危機感に欠けていた」と一橋大大学院教授の山内弘隆(55)はいう。東電特有の時間の流れの中で変化の機会を逸した。
 「もう1日か2日は前倒しできた」。ヤマト運輸の親会社、ヤマトホールディングス社長の木川真(61)は悔しそうに振り返る。被災した東北での宅配便集配再開は震災2週間後の3月25日。その1日前に佐川急便が復旧を果たしていた。
 佐川専務の近藤宣晃(55)は「荷物を届けるのが我々の使命。一刻も早く」と訴え続けた。「被災地でも競争か」と冷めた見方もある。しかし両社がしのぎを削る中から新しいサービスが次々と生まれた。他社に先駆け営業店での受け渡しを始めた佐川には「避難所の両親に防寒着を送れた」などと感謝する電話やメールが相次いだ。
 ヤマトは今期、宅配便1個につき10円を寄付する。計130億円前後の減益要因。業績見通し発表後に株価が下げ、市場には戸惑いもある。
 寄付金の多くは津波で漁船を流されるなど甚大な被害を受けた農水産業の支援に使う。「クール宅急便」などの利用を通じヤマトを育てた顧客だ。復興なしに同社の成長はない。より多くの寄付金を。その思いが次の競争へと背中を押す。
分権型と集権型
 交通網も情報網も寸断された状況で、とにかく早く商品を届ける。コンビニエンスストア各社が知恵を振り絞る。
 仮設プレハブや移動式。「全国同じ」の常識を覆す店舗を開設するローソン。本社規格のコメが届かず、独自の地元調達でおにぎりを調理する店舗の様子に社長の新浪剛史(52)は表情を緩めた。「現場の判断力と行動力が根付いた証しだ」。全国7支社に商品企画や店舗開発の権限を与える分権型経営。震災を経て機動力をもっと高める。「76支店へ権限委譲を加速する」と意気込む。
 セブンイレブン、イトーヨーカ堂などを傘下に持つセブン&アイ・ホールディングスは商品調達の交渉窓口をグループで一元化する取り組みを強化した。会長の鈴木敏文(78)は「他社より円滑に商品を供給できた」と集権型の強みを説く。
 顧客も企業も被災した今回の震災。企業は苦闘しながら一人ひとりの顧客の利益に真剣に向き合った。その経験こそが企業をより強くする出発点になる。

:2011:05/18/10:04  ++  第2部企業再興難局バネに(2)電力危機が生む市場(新しい日本へ)

「かつては東京電力で話題にするだけで露骨に嫌な顔をされた」。電源装置メーカーの幹部は苦笑する。情報技術を使い地域全体で電力を効率的に使うスマートグリッド(次世代送電網)のことだ。電力供給の主導権を渡したくない東電は導入に背を向けていた。
 その東電が巨大地震と原発事故で供給責任を果たせなくなった。状況は一変。電力危機に直面する需要家側が動く。
人工知能を応用
 6月末、第一生命保険で「疑似スマートグリッド」が稼働する。対象は電力使用量が多い関東や東北の保有ビル約100棟。電気の流れをリアルタイムで把握し、使用量が膨らむと必要性の低い順に供給を止める。空調や照明を短時間停止してでも、コンピューターの電源を落とさないといった管理が可能。複数のビルの連携で東電管内の節電目標15%をクリアするような設定もできる。
 人工知能技術を応用してシステムを開発したベンチャー企業、エービル(東京・新宿)社長の水谷義和(41)は「従来の発想を超えた節電を実現する」と新市場づくりを狙う。横浜市も同様のシステムの導入を決めた。
 省エネ先進国の日本。技術は至る所に散らばっている。「夏までに何とかならないか」。ガス自家発電設備を生産するIHIに問い合わせが相次ぐ。発電タービンには航空機エンジン部品の低燃費技術を活用する。社長の釜和明(62)は「発電効率の高さは世界最高水準」と胸を張る。
 日本の課題解決に役立つだけではない。電力需要増に供給が追い付かない新興国はいずれ日本の課題を追体験する。富士通社長の山本正已(57)は「節電型の町づくりを輸出産業に」と説く。
 震災後、日本の輸出は急減した。3月は貿易黒字が前年比8割近く減り、4月は20日までの貿易赤字が7868億円。自動車や電子部品の生産停滞が直撃した。震災は世界で稼げる分野が一部の業種に偏っている実態を浮き彫りにした。
 1970年代の石油危機を機に、日本の産業のリード役は大量に燃料を使う鉄鋼、化学などから自動車や電機に移った。世界市場を切り開き輸出立国を支えたが、これらの分野では新興国企業との競争が激しい。新興国市場の伸びを日本の経済成長に取り込む新しい産業モデルが必要だ。
 省エネ、創エネ産業は発電機器や電池、制御技術など裾野が広い。その輸出拡大は「脱自動車」「脱電機」ではない。むしろ輸出産業の創出に今の日本の強みを生かす発想が求められる。
 トヨタ自動車のハイブリッド車の電池は被災地で携帯電話の充電に使われた。社長の豊田章男(55)は「本格的な給電機能を追加できないか検討している」と話す。家庭向け蓄電池は容量2・5キロワット時で180万円前後とまだ高額だ。ほぼ10倍の容量の電池を積む日産自動車の電気自動車は補助金を使うと299万円。量産技術に優れる自動車との連携でスマートグリッドの初期投資を減らせる余地が生まれる。
世界標準狙う
 パナソニックは家庭の配線システムで世界標準を狙う。太陽光発電が生む電気は直流。現在はいったん交流に変換、再び直流に戻して使っている。新型配線は直流をそのまま流せ、最大3割とされる変換ロスが消える。スマートグリッドとの接続実験を繰り返す。
 企業に比べ遅れる家庭の節電。「災害や環境問題に対応できる生活を提案したい」と社長の大坪文雄(65)。配線技術を持つパナソニック電工との合併を検討する。
 敗戦、石油危機と逆境のたびに新産業を育ててきた日本。次の芽はある。様々な業種で培った技術と知恵を結集し国際競争力を高める。産業構造の転換が空洞化を防ぎ、雇用を守る。=敬称略
(「新しい日本へ」取材班)
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:2011:05/16/10:09  ++  電力効率化へ抜本改革ぜひ―産業競争力そぐ値上げ(核心)

アルミニウムの精錬には大量の電気を使う。石油危機で電気代が上がったため国内で一貫生産を手掛ける企業の大半は消えた。静岡県内に自前の水力発電施設を持つ日本軽金属が細々と続けている程度だ。
 福島の原子力発電所事故や浜岡原発の停止で、夏場の電力不足が心配されている。今後は電気の値上がりによる産業競争力への影響も大いに懸念される。
 第二、第三のアルミ産業が出ては困る。電力供給の効率を高め、電源の分散をも促すような抜本改革が
賠償支援策の次の課題だ。
 とにかく電気代の値上げ要因は目白押しだ。
 原発賠償の枠組みでは、東京電力による賠償金の支払いを国や電力各社の資金で後押しする。「電気料金への転嫁は極力、抑える」と海江田万里経産相はいうが、東電の負担に上限がないうえ、国の財政も厳しく、結局は値上げで賄う部分も多いとみられる。
 東電は原発から火力発電への切り替えで燃料費が年1兆円増えるため、1割以上値上げする見通し。原発の廃炉でも1兆円超の費用がかかる。さらに温暖化対策で高コストの風力・太陽光発電の活用を迫られる。
 日本の電気料金は韓国や中国の2倍以上(図)と高い。企業は国境を越えて生産拠点を選べる時代。アタマが痛いのはそこだ。
 東レは今年初め、韓国に炭素繊維の量産工場を作ると発表した。炭素繊維の製造では多くの電気を使う。その電気代の安さは、韓国内の需要の増加などに加えて大きな魅力だという。
 中国は6月に14基目の原発を稼働させる。2020年までに8600万キロワット(100万キロワット級で86基分)に増やす予定。政府の力が強いから実現しやすく、電気代はさらに下がる。
 「日本は資源多消費の産業に頼らず、産業を高度化すべし」という野口悠紀雄氏らの議論は長期的には正しい。だが、大勢の人が働く工場などをいま手放してよいはずはない。電気の値上げ幅を抑える手立てが何としても必要だ。
 金融機関の貸し手責任を問うだけでなく、社債保有者や株主も応分の負担を分かち合うべきだという声がある。もし金融市場を混乱させずに済む方法があるなら検討課題だろう。
 ただし賠償などは長期に及ぶ。それだけに電力供給を効率化して、コストの増加をなるべく吸収するための構造改革が欠かせない。
 日本の電力業界はいまだに地域独占で「競争を通じた効率化」という市場経済の原理が働かない。
 これまでの電力自由化で発電事業への新規参入、工場や商店への小売り解禁などが実現し、電力会社の送配電網を使い小売りなどを手掛ける特定規模電気事業者(PPS)といった新規事業者が誕生した。
 ところが、仏造って魂入れずで、10電力の支配はほとんど変わらない。電力の全販売量のうち新規事業者が担うのは3%弱。送配電網の使用料(託送料)が高く、新規事業者の販売価格の2割を占めるという。
 「電力会社と同じ条件で電気を仕入れ、送配電も使いやすくなれば、販管費が低い我々は電気を確実に安く販売できる」と新規参入組のエネット(東京・港)の武井務社長は語る。
 大手電力会社間の競争もないに等しい。小欄で2年前、広島のジャスコ宇品店が2005年から地元の中国電力ではなく九州電力の電気を買っている事実を紹介した。こうした域外供給は全国で1例だけだったが今でも同じ。驚くべき“相互不可侵”の実態だ。
 競争を促すカギは送配電網を多くの事業者が使いやすくすること。切り札は電力会社の発電部門と送配電部門を分ける発送電分離。 経産省は10年ほど前、これを目指したが、電力会社の猛反対で断念した。
 英国はサッチャー政権が1990年に、イングランド・ウェールズ地域の国営電力を3つの発電会社と1つの送電会社に分割・民営化し発電を自由化した。小売りでは12の配電局を民営にし新規参入も認めた。
 「サッチャー回顧録」には同首相が閣僚を使い、国営電力を追い詰めていく、迫力に満ちた改革劇が描かれている。
 日本で発送電を分離すれば、東電などの収益減につながり、損害賠償にも支障を来すという見方がある。そうだろうか?
 例えば、発電は切り離して自由化するが、送電網は分割すると非効率だから、英国と同様、政府の監視を前提に独占的企業とする。そこに賠償義務を引き継がせることができれば、賠償は進むのではないか。
 これは一案で、ほかにもやりようはあろう。電気代の半分を占める発電部門で競争が進めば、コスト削減の効果は大きい。
 また政府監視の下で送配電網の利用を促し、小売りも完全に自由化して、新規事業者が伸びれば、電気の値上げをさらに抑えやすい。発電に参入する企業が増えれば、大手が事故の時にも停電を避けられる。
 風力・太陽光発電も、送配電網を安く使えるようになれば利用しやすくなる。 だが政府は「発送電分離は将来の課題」(海江田氏)と先送りする構えだ。
 菅直人首相は「東電に効率化の努力を促す」と強調する。内閣の力を過信してはいないか。競争原理の働く市場を作るほうが、はるかに確実に効率化は進む。

:2011:05/13/09:19  ++  太陽電池材料、トクヤマが増産、能力倍増、国内外で1100億円投資。

トクヤマは12日、半導体シリコンウエハーや太陽電池の材料となる多結晶シリコンの生産能力を国内外で増強すると発表した。総額1110億円を投じ、2015年の生産能力を13年計画比の2倍に引き上げる。トクヤマは同製品の世界大手だが、太陽電池用の需要拡大をにらんで競合他社の増産が相次ぐ。トクヤマは投資を上積みして世界市場での優位を確保する。
 マレーシアではサラワク州の工場に約1000億円を投じ、第2プラントを新設する。12年4月に着工し、15年1月の稼働を目指す。年間生産能力は1万3800トン。太陽電池向けに出荷する。13年秋の稼働を目指して年産6200トンの第1プラントを今年2月に着工したばかりだが、いち早く増設を決めた。
 徳山製造所(山口県周南市)では約110億円を投じてプラントなどを増設。13年春の年産能力を現在より約2割多い1万1000トンに引き上げる。一連の増強で総生産能力は従来計画の約2倍となる3万1000トンに高まる見通しだ。
 多結晶シリコンは太陽電池向けの需要が15年までに年率20%前後のペースで拡大するとの試算がある。大手メーカーの増産や新規参入が相次いでおり、トクヤマも大型投資に踏み切る。

:2011:05/13/09:04  ++  エネルギー安定供給、課題山積――太陽光・風力、普及に遅れ。

東京電力福島第1原子力発電所の事故をふまえ、経済産業省は12日、エネルギー政策のあり方を検討する有識者会議である「エネルギー政策賢人会議」の初会合を開いた。原発の安全性や化石燃料の問題点、再生可能エネルギーの安定性などを幅広く議論することを確認。7月をメドに考え方をまとめる方針だ。安定供給に向けてエネルギー間のバランスをどうするかが焦点だが、課題は山積している。
 会議の冒頭、海江田万里経産相は「エネルギーの問題は日本の国の形を決める大変大きな仕事だ」と意欲を示した。
 政府は昨年6月に閣議決定したエネルギー基本計画で、総発電量に占める原発の比率を2030年に5割(09年度は3割)まで高める目標を掲げた。現在は54基ある原発を14基増設し、稼働率を90%(同66%)に引き上げるとしていた。
 だが、原発事故を受けて全国的に原発への不安が高まっており、菅直人首相は10日、エネルギー基本計画について「白紙に戻して議論する必要がある」と表明した。
 有識者会議で検討する論点は2つある。第1は太陽光など再生エネルギーの利用拡大だ。現行では再生エネルギーの比率を1割から2割にする計画だが、これを高められるかがポイントとなる。
 日本では太陽光や風力発電は多額のコストがかかるうえ、出力が天候に左右されるためにあまり普及してこなかった。政府は再生エネルギーを普及させようと、発電した人から電力会社が全量を買い取る制度を12年度に導入する方針だが、効果には疑問の声も出ている。会議では委員から「地熱発電の可能性は一考の価値がある」との指摘があった。
 第2は地球温暖化への対応策。電力各社は足元では液化天然ガス(LNG)による火力発電の稼働率を高めているが、LNGは割高なうえ、温暖化ガスの排出が増えるとの問題がある。
 環境省の試算では20年までの新設を断念し、停止中の原発14基を再開せずに火力発電で補った場合、二酸化炭素(CO2)排出量は1990年比で10%増える。石炭火力ではCO2の地下貯蔵(CCS)の実験が進むが、実用化は遅れている。
 委員の間からは温暖化問題の国際交渉をにらんで「日本の高効率な石炭火力発電技術を生かして、世界に貢献していくべきではないか」との提案があった。
 安全性を高めたうえで原発の稼働継続をどう探るかも課題。米仏などの主要国だけでなく、中東なども原発を推進するなか、日本が原子力技術を放棄するのは難しいとの指摘も出された。

:2011:05/13/08:49  ++  視界不良の日本経済(下)「新しい普通」――不安で広がる堅実消費。

東日本大震災から2カ月。震災直後の自粛ムードはやや薄らいできたが、売れ筋には消費者のココロが浮かび上がる。
 大手スーパーのイトーヨーカ堂。首都圏を中心に子供用の水筒が売れている。売り上げは震災前の2割増。「子供に生水を飲ませたくない親が買っている」(売り場担当者)。ブラジャーカップのついた薄手のキャミソールなどは4割増。「夜中の急な避難に備えて着る女性が多い」(同)。地震など「有事」への備えは日常になった。
 節電や暑さへの意識も高まる。家電量販店では、エアコンの売れ筋が省エネ性能の高い大型の機種に変わった。ネット通販大手のケンコーコムによると、肌に貼る冷たいシートや氷枕など猛暑に備えた商品の売り上げは「すでに例年の数十倍」という。
高額品不振続く
 水、電気、安全な食品――。そこにあるのが当たり前という生活の常識は崩れた。コメや水などのまとめ買いは一巡して「ほぼ平常に戻った」(日本チェーンストア協会)。だが暮らしの前提が変わり、家計が快適さや安心を得るには新たなコスト負担がかかる。消費者は身構えざるを得ない。
 百貨店大手、三越の日本橋本店(東京・中央)。ゴールデンウイーク商戦では前年並みの売上高を確保したが、高額品は不振が続く。4月の海外ブランド品の売り上げは前年同月に比べ17%減。高島屋でも宝飾品の売り上げが7%減と沈んだ。原因は高額消費の主役である高齢者層の「巣ごもり」だ。
 「余震で交通機関が止まることへの心配が高齢者では根強い」(高島屋)。家やモノが一瞬にしてがれきとなり、人生が突然、暗転する現実を目の当たりにした日本人。浪費をやめ、生活スタイルの「新しい普通」を探す気分が広がる。
 会員制で自動車を共同で使うカーシェアリング。駐車場大手、パーク24傘下のタイムズ24が運営する「タイムズプラス」では震災後、利用件数が1割程度増えた。3月末の会員数は約4万人。コストをかけず、気軽にクルマを楽しめるサービスが受け、1年で6倍に膨らんだ。
 「ひとりで持つ」から「みんなで使う」へ。若者や女性の間で震災前から芽生えていた「持たない消費」への共感が広がれば、新車や住宅など大型消費の回復は勢いを欠く可能性がある。物価や所得環境も向かい風だ。
 日本経済新聞社が消費関連企業に聞いた「日経消費DI」によると、消費者の支出意欲を示す指数は震災後の4月、マイナス66と前回1月調査から一気に50ポイント悪化した。震災が主因とみられるが「家計はガソリンなど物価高による実質所得の目減りを震災前から警戒していた」(内閣府)。
ボーナスに影
 「震災後の景気停滞で今冬のボーナスの減少は避けられない」(第一生命経済研究所)。所得不安が垂れ込める一方、電気料金の引き上げは避けられそうにない。政府・民主党内では復興財源として、歳出の抜本見直しより先に、所得税や消費税の増税など復興税の導入論が浮上している。
 震災で壊れた家電の買い替えなど、東日本を中心に潜在需要はある。外国人客の減少で稼働率が下がった都内のホテルも値下げなどで客足が戻りつつある。だが「むしろ西日本の方が自粛ムードが強い」(セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長)。
 堅実志向を強める家計。内需の柱である消費の喚起には、政府が復興への道筋を示し、将来不安を和らげる必要がある。
(景気動向研究班)

:2011:05/12/13:59  ++  夏の電力、LNGで代替、電力・商社、500万トン確保――15%節電の前提整う。

原子力発電所の相次ぐ停止を受け、電力各社や商社は夏場に追加で必要となる液化天然ガス(LNG)500万トンの調達にめどをつけた。年間では1000万トンの追加が必要とされ、確保を急ぐ。三菱重工業など重工各社は中長期でガス火力発電の増加をにらみ、大型ガスタービンを増産する。原発の新設や再稼働が困難な中、安定調達が可能で石炭や石油に比べ二酸化炭素(CO2)排出量が少ないLNGを軸にエネルギーの代替が加速する。(液化天然ガスは3面「きょうのことば」参照)
=関連記事11面に
 東京電力福島第1原子力発電所など震災後の原発停止に伴うガス火力発電の増加で、今年度は東電、東北電力を中心に合計で620万~860万トン、中部電力は浜岡原発の停止で320万トンのLNGの追加調達が必要になる見通し。日本は年間7000万トンのLNGを購入する世界最大の輸入国だが、14%にあたる同1000万トンを追加調達する必要がある。
 電力需要がピークを迎える夏場、東電管内では企業などが15%節電を実施してもなお、5500万キロワットの電力が必要とされる。関係者によると、東電はこれまでに5500万キロワットを供給するのに必要な200万~300万トンのLNGを確保したもよう。
 東北電も100万トン規模のLNGを確保したとみられ、中部電はカタールのエネルギー相らから「(LNG供給で)最大限協力する」との言質を取り付けた。他の電力各社も含め全体では500万トンは確保したとみられる。
 夏場に万一、電力が不足した場合や次のピークである冬場に備え、年間ではさらに500万トンが必要。三菱商事はマレーシアやインドネシア、三井物産はロシア・サハリンやカタールなど出資参画するプロジェクトから追加調達に動き、不足分はナイジェリアやアラブ首長国連邦(UAE)などからのスポット取引で確保する。
 原発停止分をすべて火力発電で代替すると、今年度の電力各社の燃料コスト(石油とLNG合計)は最大1兆1500億円程度増える見込み。しかし、LNG火力の発電単価は石油より低く、安定調達が見込めることから、電力各社は原発の代替として、ガス火力発電の増設や稼働率の引き上げを急ぐ。これをにらみ重工各社はLNGを燃料に使う発電設備であるガスタービンを大幅に増産する。
 三菱重は高砂製作所(兵庫県高砂市)のガスタービン生産能力を今年度中に年間20台から36台に引き上げ、東電など国内向けを優先的に供給する。12年には米国のガスタービン組み立て工場が稼働。日米で年50台以上の生産体制を敷く。IHIは呉工場(広島県呉市)のガスタービン生産を年10台から20台へ引き上げる。約1年かかる納期も工程見直しで短くする。
 1基4000億円前後の建設費と7年前後の建設期間を要する原子力発電設備に比べ、ガスタービンは数十億から数百億円で新設でき建設期間も数カ月から1年と短い。

:2011:05/11/10:01  ++  「国の借金」924兆円、昨年度41兆円増、最悪に。

財務省は10日、国債や借入金などを合わせた2010年度末の「国の借金」の残高が924兆3596億円に達したと発表した。09年度末に比べて41兆4361億円増え、過去最悪を更新した。日銀統計によると、家計の金融資産と負債の差額は1100兆円程度。東日本大震災の復興事業で多額の国債の発行が見込まれており、数年以内に政府の債務残高が家計の純資産残高を上回る可能性がある。
 「国の借金」は国債、借入金、政府短期証券の総額で、財務省が四半期ごとに公表している。財投債(118兆円)は含み、地方の長期債務(約200兆円)は含まない。10年度末残高の内訳は国債が758兆5690億円、借入金が55兆58億円、政府短期証券が110兆7847億円だった。
 借金残高は5年間で約100兆円増えた。今年4月時点の推計人口(概算値)で計算すると、1人あたりの借金は約722万円となる。
 11年度第1次補正予算後の財務省見通しでは、11年度末には1002兆円になる。
 借金がここまで膨らんだのは、毎年の政策経費を税収だけで賄えず、新規国債の発行に歯止めがかからないためだ。国債は09年度末に比べて約38兆円増えた。

:2011:05/11/09:57  ++  変わる日常311(5)「つぶやき」がつなぐ―問題意識共有、速く深く(終)

宮城県石巻市の中心部から車で30分余り。釣石神社にある「落ちそうで落ちない石」が、ミニブログ「ツイッター」で話題になっている。
 東日本大震災で周辺の住居は多くが倒壊した。斜面に突き刺さったこの石は一見すると不安定だが、揺れに耐えて崩落を免れた。
 「受験のパワースポットとして町の復興につながるだろうから、若い人に知らせて」。この町に住むおばあちゃんが孫に頼み、ツイッターで情報を発信。全国から「落ち着いたら行きます」との返答が相次いだ。
酒蔵の訴え浸透
 震災をきっかけに、ツイッターなどソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の存在感が高まっている。震災当日は安否確認などでツイート(つぶやき)数が通常の1・8倍に増えた。無責任なデマが混乱を招く恐れはある。だが新たな情報インフラは地域再生の道具となり得る。
 「東北のお酒を飲んでください。それが酒蔵を救います」。岩手県二戸市の酒蔵「南部美人」は4月、ツイッターで呼びかけた。震災後は宴会などの自粛で大幅に売り上げが減った。だが呼びかけ後は「日本酒に興味が無かった人まであっという間に広がった」(久慈浩介専務)。
 情報通信政策研究所によると、SNSの市場規模は2010年度で717億円。震災を契機に市場の拡大ペースが加速するのは確実だろう。被災地の「つぶやき」が新たなビジネスを生み出すかもしれない。
個人と国を結ぶ
 税制優遇特区を早急につくったらどうか――。東京財団の佐藤孝弘さんらが立ちあげたサイト「復興のタネ」。ツイッターを介して市民から幅広いアイデアが届く。
 集めた意見は佐藤さんらが具体的な政策にまとめて政府に届ける。SNSがスピードを生かして個人と国を結ぶ。「いろいろなところに分散しているアイデアを吸い上げたい」(佐藤さん)。8月には1回目の復興ビジョンをまとめる。
 震災を機に人と人の「つながり」の大切さに思い至った人も多いだろう。ネットだけではない。昔ながらの「人付き合い」も再評価されている。
 仙台市で生命保険会社の営業職員として働く結城家壽子さん(57)。震災の翌日、顧客の男性から電話を受けた。「被災して動けない。子どもを学校に迎えに行ってくれないか」。結城さんは自宅で3日間、この男性の子ども2人を預かった。
 結城さんと男性は9年前に知り合って以来、毎月のように顔を合わせる。長く築いた信頼関係はビジネスの枠を超え、人と人の絆をさらに深める。関係が薄れつつあった地域社会が、再び共同体としてつながる。
 復興の道のりは決して平たんではない。だが3月11日を境に過去の常識を見直し、新しい日常をつくり直す動きが全国で始まっている。
(おわり)

:2011:05/11/09:52  ++  電力融通にハードル、停止原発再開、地元は難色―浜岡対応で態度硬化。

中部電力浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の停止が決まったことを受け、政府は定期検査で停止中の原発の運転再開を急ぐ。中部電が東京電力向け電力融通の取りやめを決め、関西電力などから「玉突き」で電力融通するためにも、早期再開が欠かせないからだ。海江田万里経済産業相は地元への説明に自ら乗り出す構え。だが、地元の反発は根強く、再開に向けてのハードルは高い。
 海江田経産相は10日、「地元からの要請があれば、私が行って話をしてきたい」と述べ、浜岡以外の原発の安全性に問題がないことを自ら説明する意向を示した。定期検査のために停止している原発の運転再開に道筋をつける狙いだが、難題がある。
 カギを握るのは、地元の理解。原発の運転停止や再開を決める権限は基本的に電力会社にあるが、福島第1原発事故や浜岡原発の停止要請を受けて、原発のある地元自治体には不信感と戸惑いが広がっている。
 九州電力玄海原発が立地する佐賀県玄海町は以前は運転再開に前向きだったが、浜岡原発停止を受けて態度を硬化。玄海町の岸本英雄町長は「国の説明を十分に聞き、町議会と相談しながら考えたい」と慎重になった。
 佐賀県の古川康知事も「浜岡原発と玄海原発の安全性の違いについて、より詳しい説明を求めたい」との立場だ。
 関電美浜原発(福井県美浜町)などが立地する福井県の西川一誠知事も「全国の原発についての基本的な姿勢を示さないまま、部分的に対応していることは到底、県民、国民の理解を得られない」とし、再稼働は認められないとの見解を示している。
 原発の運転再開に向けたハードルが高くなる一方で、浜岡停止に伴う今夏の電力供給確保策としての重要度は増している。中部電は浜岡原発停止に伴い、東電向け電力融通75万キロワットを停止すると発表。電力の周波数が違う西日本から東日本に融通できる100万キロワットの4分の3を中部電に依存しているだけに、東電の今夏の電力供給への影響も大きい。
 ここで浮上したのが、関電など西日本から中部電を経由して東電に電力を送る「玉突き」融通の拡大。ただ関電では美浜原発1号機など3基が運転を停止中で、運転再開しなければ東電向けの供給余力は乏しいとみられる。
 定期検査中の原発の運転再開の遅れは、全国で電力需給に影響を与える。例えば九州電力。玄海原発2、3号機が再開できなければ、電力需給が逼迫する。志賀原発2号機(石川県志賀町)が停止している北陸電力も同様の懸念を抱えている。
 10日は大村秀章・愛知県知事や石原茂雄・御前崎市長が相次いで海江田経産相を訪問。「コストと負担を愛知県や中部産業界がかぶるのはいかがなものか」(大村知事)など浜岡原発停止に伴う中部電のコスト増対策や地元の経済・雇用対策を要望するなどの意見が出た。
 浜岡停止の波紋は地元だけでなく、他の原発立地地域に波及。停止中の原発の運転再開に地元の理解を得る上でも、浜岡停止の要請に至った判断の根拠や経緯を十分に示す必要がある。

:2011:05/10/10:16  ++  定年60歳→65歳引き上げ提言、厚労省、13年度にも――年金支給開始に合わせ。

人件費増、企業側は反発も
 厚生労働省は9日、有識者による高齢者雇用の研究会を開き、法律で決めた定年を60歳から65歳に引き上げる提言を盛り込んだ報告書の素案をまとめた。厚生年金の支給開始年齢が引き上げられることに伴い、希望者は60歳を超えても全員引き続き会社で働けるようにするのが狙いだ。
 研究会は学者で構成していて、6月にも報告書をまとめる。これを受けて厚労省は今秋以降に労働政策審議会で労使双方の意見を聞く。定年延長は人件費の増加などで企業側から反発が予想されるほか、若年雇用に悪影響が出る可能性もある。厚労省は早ければ来年の国会に高年齢者雇用安定法の改正案を出し、2013年度にも新制度を導入する考えだが、難航する可能性が大きい。
 現在の法律では定年は60歳以上としなければならず、さらに65歳までは再雇用などで働ける制度を導入しないといけない。ただ労使協定を結べば継続的に雇う高齢者に「勤務評定が一定以上」などの条件を付けられる。10年6月の時点で「希望者が皆65歳までか、それ以上まで働ける企業」は46・2%にとどまるなど、高齢者の雇用拡大は進んでいない。
 一方で、厚生年金の支給開始年齢は現在、男女ともに定額部分の引き上げが進んでおり、さらに男性は13年度以降、女性は18年度以降、報酬比例部分も段階的に60歳から65歳に上がる。
 平均的な報酬が月36万円などと仮定して計算すると、受け取れる年金の定額部分は月額約6万5千円、報酬比例部分は同10万円ほどになる。仮に60歳以降も会社で働けないと、給与も年金も受け取れない高齢者が今後出てくる。
 研究会では(1)厚生年金の定額部分で支給開始年齢が65歳に引き上げられる13年度に定年を65歳にする(2)定年の年齢を年金の報酬比例部分の引き上げに沿って段階的に65歳に上げる――などの素案を示した。仮に定年を引き上げない場合も、希望者は全員65歳まで働けるような制度をつくるべきだとの考え方を示した。

:2011:05/10/09:52  ++  浜岡原発、数日で停止、中部電、首相要請を受諾―東電への融通中止。

中部電力は9日に開いた臨時取締役会で、菅直人首相による浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の停止要請を受け入れることを決めた。稼働中の4~5号機は数日中に運転をやめ、津波対策の防潮堤などが完成するまで2年程度停止する。東京電力管内に続き、トヨタ自動車など製造業の主力工場が集積する中部地区でも夏の電力供給が制約を受ける異例の事態となる。(原発の稼働停止は3面「きょうのことば」参照)=関連記事3、9面、社会面に
 中部電力の水野明久社長は同日夕、名古屋市内で記者会見し、浜岡原発の全面停止を決めたことについて「首相の要請は極めて重い。原発への不安が高まり、安全最優先の基本を貫くべきだと判断した」と述べた。
 数日中に制御棒を燃料棒の間に差し込んで、停止操作を始める。原子炉は1日程度で安全な「冷温停止」状態になる。
 首相の要請を受け入れるにあたっては海江田万里経済産業相との間で(1)防潮堤など安全強化策が原子力安全・保安院の評価を得たときは、速やかに運転を再開できる(2)原発停止に伴う追加費用の負担軽減(3)電力安定供給への支援――など5項目を確認。「最大限の支援をする」(海江田経産相)との確約を得たことを明らかにした。
 浜岡原発の総出力は361万7000キロワットで、中部電力の発電電力に占める比率は約15%。中部電力は東電への電力融通をとりやめるほか、武豊火力発電所(愛知県武豊町)など休止中の設備を稼働させる方針。
 それでも夏の電力のピーク需要に対する供給力の余裕は適正水準とされる8~10%を大きく下回り、2%程度に低下する見通し。「極めて厳しい状況が続く」(水野社長)ため関西電力などから電力融通を求めるほか、企業や家庭に節電を呼び掛ける。
 原発停止分をすべて火力発電で代替すると2012年3月期の燃料コストは最大2500億円増加すると試算。4月28日に公表した業績予想(1300億円の営業黒字)を撤回した。新たな予想は示さず、水野社長は「(営業)赤字になる可能性は否定できない」と述べた。電力料金の引き上げについては「現時点では考えていない」と語った。
 浜岡原発は東海地震の震源域に立地。国の耐震安全基準などはクリアしているが、福島第1原子力発電所の事故をきっかけに津波対策への懸念が浮上。菅直人首相が6日夜、「東海地震に十分耐えられる防潮堤の設置など、中長期の対策を確実に実施することが必要」とし、全面停止を中部電力に要請していた。
 ▼浜岡原子力発電所 静岡県御前崎市にある中部電力で唯一の原子力発電所。東海地震の想定震源域のほぼ中央に位置する。1号機は1976年に営業運転を始め、最新の5号機は2005年に稼働。1、2号機は08年12月に廃炉を決定、09年1月に運転を終えた。現在は3号機が定期検査のため停止中で稼働しているのは4、5号機の2基。3~5号機の総出力は361万7000キロワット。

:2011:05/09/10:01  ++  震災にみる日本の技術観―「最悪の想定」は背徳的か(経営の視点)

ルイ・ヴィトンやカルティエなど首都圏にある外国高級ブランド店は、震災の直後に一斉に休業した。百貨店内の売り場も閉めた。
 他の小売店や飲食業が頑張って営業を続ける中で、照明を落とし、真っ暗になったブランド店の光景は、多くの日本人の目に無情と映ったのではないか。
 「フランス企業は真っ先に日本から逃げた」。そんな批判も出たが、危機への対応で多くの欧米企業の意思決定が、日本企業より素早かったのは事実だ。
 早さには理由がある。フォール駐日仏大使は、こう解説する。「慌てて会議を開いて決めたわけではない。手順は前から定められていた。それを忠実に実行しただけだ」
 制御不能になった原子炉への対応で、東京電力の右往左往が続く。「最悪の事態」を想定せず、ことが起きてから考えるから時間がかかり、失敗もする。ベント(排気)や廃炉の決断の遅れが、悔やまれる。
 たとえば、福島第1原子力発電所では、津波の高さを最大5・7メートルと想定していたという。現実には14メートル以上に襲われ、冷却装置が動かなくなった。
 では、なぜ東電は設計の際に5・7メートルで線を引いたのか。原子力部門の技術陣が「たとえ5メートルの大波が来ても大丈夫です」と説明したときに、「ならば10メートルならどうする?」と、専門家ではない客観的な立場から問い返すのが、経営トップの役目であるはずだ。
 監督官庁である経済産業省の幹部の弁明はこうだ。「当事者が最悪の事態を想定すること自体が、背徳的とみなされる。そんな可能性まで頭に描いているのかと逆に糾弾されてしまう」
 トヨタ自動車のリコール問題にも共通の根があった。技術に自負がある技術部門が、社内で対米交渉部門への情報開示を渋り、米国との関係が決定的にこじれてしまった。情報漏洩を起こしたソニーも、保安技術への過信がなかったか。
 フォール仏大使によると仏原子力庁と政府傘下のアレバ社は、全仏各地の原発について、炉心溶融やテロ攻撃、核攻撃、放射性物質の大量放出など考えられる限りの「最悪の事態」を想定し、2005年から模擬実験を繰り返してきた。
 農業への影響の予測も徹底している。牛乳、小麦、ホウレンソウなどの品目ごとの安全基準。1日、1週間、1カ月、1年など時間経過に沿った対応策。出荷停止や廃棄、農家への補償など、原発からの距離に応じた行動計画が、あらかじめ練られているという。
 放射能汚染の可能性がある日本の農産物や製品の輸入について、検査方法や基準をいち早く打ち出したのは米国だった。9・11事件以来、テロに備えた対応策を作ってあったからだ。
 マニュアルがあれば、あとは実行するだけ。対日支援で米仏の行動が早かったのは、意思決定の速度だけでなく、視野に入れている危機の範囲の広さにある。
 仏政府は原発危機の対応マニュアルを一般に公開していない。米国も輸入品の検査基準を、事前には明らかにしていない。だが起きてはならない「最悪の事態」を、悪魔の心で計算していた。日本が西欧から学びそこねた技術文明の一つの側面がここにある。

:2011:05/09/09:49  ++  国策民営でゆがむ安全―原発の法規制見直しの時(核心)

発電機がひとつだけ生き残った。
 東京電力の福島第1原子力発電所には13台の非常用発電機があった。12台が海水をかぶって壊れた。運よく冠水を免れていたとしても、発電機を冷やす海水をくみ上げるポンプが津波で流されていたので、発電機はすぐに過熱し動かせなかっただろう。
 生き残った発電機は海水冷却が不要な空冷式だった。この1台は6号機の原子炉建屋内にあって水もかぶらず、すぐに使えた。おかげで5、6号機は急場の冷却を続けられた。もしこの1台も水冷式だったら、6基すべての原子炉が冷やせず現状を上回る深刻な事態に陥っていた。
 空冷式が存在したのは偶然ではない。原子炉の生命線ともいえる冷却機能がいっぺんに失われる事態を考え設備を改造した結果だ。しかし改造は徹底したものではなかった。
 核燃料棒が壊れ高濃度の放射性物質が原子炉から漏れるような事態を、原子力の世界では「過酷事故」と呼ぶ。
 1986年の旧ソ連・チェルノブイリ事故を契機に過酷事故への備えの重要性が認識され、欧州の原発は対策を講じた。放射性物質を取り除くフィルター付きの圧力逃がし弁は一例だ。
 原子炉格納容器の中の圧力が異常に高まった時、容器が壊れるのを防ぐために圧力を抜く。この操作(ベント)をする際に内部の蒸気がフィルターを通って流れ出るように改造した。周辺に放射性物質をばらまく心配が減り、ためらいなくベントができる。
 日本では原子力安全委員会が92年に過酷事故に備えるよう勧告を出した。しかし法令による強制的な改造などは求めず、規制当局の行政指導や事業者の自主対策にゆだねた。「第一義的には事業者の責任で」というわけだ。
 このため日本の原子力安全規制は、過酷事故に対応する明確な法規制がない世界でも特異な形になった。国際原子力機関(IAEA)は改善を求めていた。
 なぜそうなったのか。直接的には立地対策が理由だ。炉心溶融などの過酷事故は起きないと地元に説明してきた手前、おおっぴらには対策を施せない。原子力に反対する勢力からつけこまれるのでやりにくい。電力会社や政府が口にした「安全神話」が、必要な対策に取り組む意欲をそぐ自縄自縛があった。
 過酷事故だけではない。活断層を探して耐震安全性を高める安全審査も、立地の決定的な妨げにならない水準にとどまった。
 これらが事業者と政府の規制当局の談合の結果だと断じる証拠は持ち合わせていない。しかし結果として存在する規制体系をみると、立地の許認可にかかわる規制や審査のハードルは事業者が飛び越えられる高さにとどめ、その上に事業者の自主努力で対策を積み増す形が定着してきた。
 空冷式発電機もそんな「積み増し」の一部だ。過酷事故は起きないと言いつつ、各原発には過酷事故対応のマニュアルがちゃんとあるが、それは法によらず行政指導に事業者がこたえた結果だ。
 世の中には過度の規制を遠ざけ事業者の裁量を重んじることが望ましい場合も多いが、原子力安全にはあてはまらない。「第一義的に事業者の責任」とした不徹底が危機を招いた。
 事業者と規制当局のもたれあい的体質は、「石油危機後に原子力を国策民営で強力に推進し始めてからだ」と一橋大学の橘川武郎教授は言う。
 脱石油を目指し、国をあげて原発の新増設を進めた。立地難を解消するため、電源開発促進税法など電源3法の交付金で制度的に原発周辺自治体にお金が流れるようにした。
 電力自由化をめぐり政府と電力業界が対立したときも、原子力は産官一体だった。むしろ原子力の一体推進ゆえに自由化論議の矛先が鈍った感すらある。
 国策民営である限り、原子力安全・保安院を経済産業省から分離し天下りをなくしても、もたれあいはなくならないだろう。
 既成概念にとらわれない幅広い議論が、原発とエネルギー供給体制をめぐりこれから必要になる。「例えば各電力会社から原発を切り離し、原子力専業の日本原子力発電(本社東京)の下で全原発を運営する体制なら、9電力と政府は緊張感のある健全な関係に戻れる」と橘川教授は提案する。
 積年のゆがみを正すのに、ここは大事な時だ。
 菅直人首相は中部電力に対し浜岡原発の全面停止を求めた。東海地震の震源域に立地するリスクを重視したのはわかる。しかし反論を恐れたかのような独断専行は合点が行かない。正々堂々と議論を詰めて判断を下すべきだった。
 2年後に防潮堤が完成すれば安心なのか。東海地震に比べて確率が低いものの、活断層に近い他の原発をどう扱うのか。「想定外」に備えるには多重で多様な対策が要るが、リスクはなくならない。ゼロリスクでないと受け入れないというなら、それは安全神話の裏返しにすぎない。
 豊かで安定した電力と引き換えの原発リスク。福島第1原発の事故は、すべての日本人が直視しなければならない深いジレンマをあらわにした。過度の感情論も神話も排した冷静な議論がいま必要だ。

:2011:05/09/09:23  ++  国民年金納付率、最低の公算、10年度、公的年金の未納広がる。

厚労省、給付制限を検討 少子高齢化で改革急務
 公的年金の保険料を納めない個人や企業が増えている。2010年度の国民年金の納付率は2月末までの累計で58・2%にとどまり、過去最低の更新は確実。会社員が加入する厚生年金では未納額が過去最大になる見通しだ。厚生労働省は滞納事業主の年金給付を制限するなど対策の検討に入ったが、年金制度の維持には抜本改革が避けて通れない。
低所得も理由
 国民年金の保険料納付率は09年度に60・0%と過去最低を更新した。10年度は今年2月末までの累計で58・2%と前年同期を0・8ポイント下回って推移。3月を加えた年度全体でも09年度を下回る公算が大きい。
 専業主婦の年金を巡る国の対応も「負担の空洞化」を加速させた。会社員や公務員を夫に持つ専業主婦は「第3号被保険者」となり、国民年金の保険料を支払わなくても満額で月額約6・5万円の基礎年金をもらえる。
 夫が退職したり、自ら仕事を始めたりした主婦は「第3号被保険者」ではなくなり、保険料を納める必要があるが、手続きを忘れて保険料が未納状態の主婦が推計で47万人いる。
 低所得を理由に保険料納付を免除される人も増えている。国民年金だけに加入する第1号被保険者のうち、保険料を全額免除されている人の割合は2月末で28・3%。過去最高だった09年度を上回るペースで、8年連続の増加になりそうだ。
 納付率は免除者が増えるとかさ上げされることがある。このため厚労省は納付実態をより的確に示す指標として、免除分を分母に加えた「実質納付率」を毎年1回算出している。実質納付率は06年度に50%を割ってから下がり続け、09年度に43・4%まで低下した。10年度は40%の大台割れも視野に入ってきた。
 負担の空洞化は会社員が加入する厚生年金でも進んでいる。厚生年金は企業が従業員の保険料と事業主負担分を一括納付するが、世界同時不況があった08年度から納付率はじわじわ低下。10年度の納付率は1月末時点で97・1%と1966年度(96・9%)以来の低水準になっている。
背景に制度不信
 未納分の総額は5442億円と4年連続の増加が確実。日本年金機構は「年度末に駆け込みで納める企業も多い」と説明するが、未納額は過去最大だった01年度(4330億円)を1000億円強も上回る。
 未納が増えると年金財政が悪化し、将来的には給付水準の低下や、保険料率の引き上げにもつながりかねない。
 このため厚労省は悪質な事業主を対象に、保険料を滞納した期間に応じて年金給付を制限したり、事業所名を公表したりすることを検討する。国民年金でも財産を差し押さえる強制徴収を強化する方針だ。
 また政府が6月末までに成案をまとめる社会保障と税の一体改革では、厚生年金加入を義務付ける非正規労働者の対象を今よりも拡大することで、若い世代の納付率引き上げを図る方向だ。
 ただこうした対策でも抜本的な解決にはつながらない懸念がある。現役世代の保険料で高齢者の年金を支給する今の年金制度では、高齢化が進むほど現役1人あたりの負担は重くなる。若年層の未納の背景にはこうした今の年金制度に対する不信があるからだ。
 基礎年金の財源を全額税金で賄う方式に移行するなど、現役世代の負担をやわらげて少子高齢化に耐える制度に改革しなければ、未納問題の解決は難しい

:2011:05/02/13:13  ++  新しい日本を創る(3)経営も産業構造も次の成長モデルに(社説)

大震災と福島第1原子力発電所の事故は、日本の産業が抱える構造的な問題を浮かび上がらせた。
 ひとつは震災後の輸出が自動車や電子部品の落ち込みで急減したように、稼げる分野がこれら特定の業種に偏っている点だ。もうひとつは日本の製造業が大量の電力を消費し、いまだにエネルギー多消費型から抜け出せていないことである。
自動車依存から脱却を
 戦後の日本を支えてきた自動車や電機分野に依存した産業構造をいよいよ転換する必要がある。原発の新増設が難しくなれば電力の供給不足は長期化する恐れがあり、限られたエネルギーで成長できる経営モデルをつくり上げることも欠かせない。
 サプライチェーン(供給体制)の寸断の影響はとりわけ自動車産業で大きい。トヨタ自動車など完成車メーカーでは向こう6~8カ月間も止まる生産ラインがある。3次、4次の部品メーカーまでは目配りできていなかったためだ。サプライチェーンのすべてで部品の流れをつかむ仕組みをつくる必要がある。
 同時に重要なのは、経済の成長をけん引する分野をいくつもそろえた多軸型に産業構造を改めることだ。
 日本の産業の主役は1970年代初めの石油ショックを境に、鉄鋼など燃料を大量に使う産業から自動車や電機に移った。日本の自動車、電機メーカーは生産技術や品質管理力を磨いて製品を世界に供給し、国際競争力を高めた。
 21世紀に入ると自動車メーカーがものづくりの技術を支えに世界で生産拡大。2010年の対米輸出額は自動車・部品が3分の1を占める。
 だが近年は新興国市場が急伸し、鉄道や水道などのインフラ需要が旺盛だ。自動車産業の重要性は今後も変わらないが、自動車に依存した産業構造のままでは新興国の伸びを日本経済の成長に十分生かせない。
 経済産業省が昨年まとめた産業構造ビジョンはインフラ輸出、環境、医療などを「戦略5分野」に挙げ、これらの生産額を20年に07年比で約150兆円増やすとした。企業は事業再編や新事業の開発に力を入れ、多様な分野を育ててほしい。
 大震災では宅配便のヤマト運輸が被災地での物資輸送で活躍した。海外では消費者の利便性を高めるサービスも需要増が期待できよう。
 電力不足はむしろ経営戦略の転換の呼び水ととらえる発想が要る。製品、サービスも生産設備も省電力型への切り替えを進める必要がある。
 電力を効率的に使う次世代送電網用の蓄電池や、省エネ型の家電、産業用モーターなど、節電効果の高い製品の市場は一段と有望になる。ビルの空調や照明の電力消費を抑えられるよう機器を遠隔制御するなどのサービスも需要増が見込める。できるだけ少ない工程で生産するなどで設備稼働に使う電力を減らせば、企業のコスト競争力も高まる。
 海外でも原発の新増設に慎重になる国・地域は電力の効率利用を迫られる。省電力型の製品や設備の供給を増やしていくことが国内の空洞化防止と雇用の確保にもつながる。
 個人消費も省エネ・省資源型に変わり始めた。過剰にモノを買い込まず、簡素な生活のなかで人や社会とのつながりを確認し、安心も手に入れる。近年、主に若者や女性の間で芽生えていたそうした生活様式が、震災を機に共感を広げそうだ。
個人消費の変化も加速
 石油危機は「無印良品」という世界ブランドを生んだ。企業にとって今の消費者の変化は成長の種だ。
 モノを持たず、利用だけを楽しみたい人に向けた新サービスが伸び、会員制で自動車を共有する「カーシェア」利用者は1年間で4倍に増えた。居間や食堂を他人と共有する「シェアハウス」は5年間で10倍に拡大した。出費は減り、高級車や高機能家電を使え、単身女性は安心、子育て夫婦は互助も得られる。
 昨年、ネット企業などを通じて中古品売買を経験した20代、30代は7割を超えた。消費者は売却や交換を前提に、長く使え、高く売れるモノを選ぶようになりつつある。新興国と競合しない高付加価値商品を拡販する好機でもある。
 首都圏では「消費を通じ積極的に社会に貢献したい」人が震災を挟み4割から7割へと急増した。被災した県の食品を進んで買う人も多い。環境保護や産地・職人の維持などに配慮する買い物を欧米ではエシカル(倫理的・道徳的)消費と呼び、新たな社会参加と位置づけられる。
 震災で多くの人が地域や郷土、人との絆の価値を再発見し、生活に本当に必要なものは何かを問い直した。一家に1台から1人1台へ、安く大量に、といった戦後の市場戦略の転換も企業は求められている。

:2011:05/02/13:07  ++  新しい日本を創る(2)経済の活力高め、次世代に豊かさ継承を(社説)

経済の停滞が続き、高齢化はいや応なく進む。このままで大丈夫か。何度も繰り返されてきた問いに答えを出せないまま、日本はいたずらに時を過ごしてきた。
 課題が語られる一方で、それでも何とかなるのでは、という幻想が心のどこかにひそんでいなかっただろうか。敗戦に続く第2の国難といえる東日本大震災はそんな甘い気持ちを吹き飛ばした。問題の先送りは衰退への道である。被災地の復興とともに、日本全体に活力を取り戻すための行動を起こすときだ。
古い枠組み脱ぎ捨てよ
 高度成長期が終わり、冷戦終了で厳しいグローバル競争の時代を迎えても、日本はそれまでの経済や社会構造を大きく変えようとせず、古い仕組みを半ば温存してきた。
 勤労者の人口や所得が大きく伸びるのを前提につくられた手厚い社会保障制度は、高齢化が急速に進んでいるのに十分に見直されずにきた。既得権益層のカベに阻まれて、成長を促す規制改革も進まなかった。金融市場や港湾の国際競争力向上といった目標は掛け声倒れに終わり、アジアの中での存在感も薄れている。
 現状追認と無策は日本から活力をそぎ、生活水準にもじわりと影響を及ぼしている。国民1人当たり所得は一時の世界2位から20位以下に転落。財政赤字は膨らみ続け、国内総生産(GDP)に対する公的債務残高の比率は世界最悪となった。
 未曽有の震災を前にわれわれがやるべきことはまず被災者の支援と被災地の復興であるのは間違いない。同時に震災の前から日本の前に立ちはだかってきた課題にもひるまず立ち向かっていかなければならない。その際には「災前」の古い慣行や枠組みを思い切って脱ぎ捨てる覚悟がいる。被災地の復興も日本全体の活性化と結びつける視点が不可欠だ。
 何をすべきなのか。まず強調したいのは、経済の活力を高めることの重要性である。震災や原子力発電所の事故をきっかけに、電気の浪費につながるような経済成長志向から脱すべきだという声も聞こえてくる。
 だが、成長によって企業が利益を出さなければ雇用は生まれず、若者の就職難も解決しない。高齢者や弱者を支える社会保障制度も企業や勤労者が成長で所得を増やし、保険料を払わなければ維持不能になる。
 もちろん、成長だけ追求すればいいわけではないが、それを軽視すれば社会は不安定になり、人々の心のゆとりもなくなる。
 経済に活力をもたらし、成長を促すにはどうすればいいのか。成長をうみだす主役はあくまで民間であり、政府の役割は民間が力を発揮しやすい環境を整えることである。
 人口減少が進む中で、経済を伸ばしていくには世界から成長の果実を取り込むことが不可欠だ。世界各国は自由貿易協定(FTA)などを通じて輸出や投資を活発にしたり、海外から企業や人を受け入れたりしている。日本はこうした動きに立ち遅れており、環太平洋経済連携協定(TPP)の加盟交渉への参加など「開国」姿勢を強めるべきだ。
 高齢化への対応や新エネルギーの開発など新時代にあった需要に応えるには、企業の参入や技術革新を後押しすることが重要だ。競争を促し、規制改革を進めることで民間の力を引き出すべきだ。制度を見直して地方の自立や起業を促すのも重要だ。政府は成長戦略を描くだけでなく、改革を望まない勢力の説得など指導力も発揮しなければならない。
財政への信頼取り戻せ
 技術環境の激変などに応じて企業が変革をとげるには、それに見合った人材を育てることも不可欠だ。人々が再就職したり、新しい技能を得たりするのを支える新しい安全網もつくっていかなければならない。失業給付を核とした旧来の安全網は長期雇用を前提とした仕組みであり、時代にそぐわなくなっている。
 どうしても避けて通れないのは財政の悪化に歯止めをかけることだ。過去に繰り返してきた景気対策や社会保障予算の拡大で財政赤字は膨らむ一方だ。震災対策で国債発行はさらに増える。「国債を買っているのはほとんど日本人だから大丈夫」という論は高齢化で貯蓄の取り崩しが進めば成り立たなくなる。年金や医療の制度改革と一体になった税制改革で日本の財政への信頼を確保することは待ったなしの課題である。
 日本は戦後の成長で大きな富を蓄え、社会は少々の打撃では揺らがない強じんさを残している。だがこのままの状況が続けば資産は食い尽くされ、負の遺産だけが残ることになりかねない。責任ある行動を取ることで次の世代に豊かで暮らしやすい社会を残す義務がわれわれにはある。震災を覚醒のきっかけにしたい。

:2011:05/02/13:03  ++  新しい日本を創る(1)成長と連帯の旗を高く掲げよう(社説)

3月11日の東日本大震災で、日本の風景はがらりとかわった。戦後、われわれの祖父母や父母たちが営々として築きあげてきたものが、あっという間にこわされた。なおつづくフクシマへの対応で、日本の安全神話もあっけなく消しとんだ。
 いまを生きるわれわれにとって、3・11は戦前と戦後をわける8・15に相当する歴史的な転換点だ。現在を「ポスト戦後」ととらえ、新しい日本を創るきっかけにすることが求められているのではないだろうか。日本創生への道筋を考えてみたい。
オールジャパンで再生
 歴史をふりかえってみよう。1868年の明治維新から1945年の敗戦まで77年間におよんだ明治国家の目標とは、世界の列強に肩をならべることだった。富国強兵、殖産興業の旗のもと「坂の上の雲」をめざしてひたすら登っていった。
 日清、日露、第1次大戦をへて、世界の一等国になる夢はかなえられた。ところが、そこから「坂の下の沼」に向けて真っ逆さまにころがりおちてゆき、8・15をむかえた。
 戦後とは何だったのか。焼け跡闇市からぬけ出し、全国津々浦々まで、みんな等しく豊かになるのが国家の目標だった。
 軽武装で経済重視の政策により高度成長を達成、一億総中流といわれる社会が実現した。公共事業と補助金による中央から地方への所得再分配を通じ、みんなで豊かになる政治をおしすすめたのが自民党だった。
 ところが、米ソ冷戦構造がこわれ、経済がグローバル化していく中で、バブルが崩壊、「失われた10年」はいつのまにか「失われた20年」になってしまった。そして3・11をむかえた。1945年から66年目である。戦後にピリオドを打ち、新たな時代を切りひらくときだ。
 被災地の復旧・復興にあたるのはもちろんだが、それにとどまらず、ここを新しい日本を築き上げていくチャンスと考えたい。増改築でなく、国の新築である。崩壊・破壊からの創造だ。新たな国家の目標は、日本再生となる。
 そのためには、経済の成長が欠かせない。エネルギー政策を転換し、成長にこだわらない考え方もある。はたして、それでいいのだろうか。いまさら昭和20年代や30年代の生活にはもどれない。
 1億2000万人の日本人がこの国で生活し、われわれの子や孫までが豊かで自由な国で生きていくためには、いま一度、成長の旗を高く掲げる必要があるだろう。大震災を踏まえた新たな成長戦略をおし進めなければならない。キーワードは成長である。
 その場合、大事なことは国をあげてオールジャパンで取り組むことだ。古いことばでいえば、挙国一致である。政治が思惑優先で、駆け引きに明け暮れるのは、百害あって一利なしだ。与野党とも今回の大震災を国難というのなら、復旧・復興を急ぐため、これまでの政党の枠組みを超えた態勢をととのえるのは当たり前だろう。
 政治家は官僚をうまく使わなければならない。政治主導の考え方は間違っていなかったとしても、官僚を排除し、官の力を動員できなくなったのは、民主党政権の運営の失敗である。
公助だけには頼れない
 オールジャパンの体制づくりに向け、大震災で高まってきた新たな機運がある。経済社会のプレーヤーとしての個人の意識の変化だ。キーワードは連帯である。
 自分の責任で自分自身でする自助、回りや地域が協力する共助、公的な機関が支援する公助――。この3助のうち、今回、共助の精神がいかんなく発揮された。困ったときにはお互い助け合い、困難を乗り切ろうとする連帯の精神である。
 これまで、明治国家からつづく社会意識の根っこにあるのは、お上と下々の感覚だ。横並びで、もたれ合い、自立する精神の希薄さでもある。だから何かあれば、すぐに公助を求めてきた。もちろん公助も必要だが、いつまでも官に頼ってばかりではいられない。共助は、これからさらに進む少子高齢化社会を乗りきる切り札になる可能性もひめている。
 明治も戦後も、国を開くきっかけとなったのは、外圧だった。こんどもまた、地震・津波という外からの入力である。内向きになるのではなく、世界の中の日本を改めて確認する必要がある。
 ここで新しい日本を創ることができなければ、開国・維新で日本の独立を守り、敗戦で国破れた中からこの国をよみがえらせてきた先人たちの労苦に報いることができないばかりか、次の世代へのバトンタッチもかなわないだろう。